大手企業では経験できない、地方の中小企業ならではの可能性

古屋星斗氏(以下、古屋):僕、最近「ルーキー・オブ・ザ・イヤー in LOCAL」というものの審査員をやっていて。2024年の1月ぐらいに第1回があって、2025年の1月が第2回なんですが、これは地方の中小企業の20代の若手社員の日本一を決めるという企画です。これ、すごいんですよ。

ご関心があれば、ぜひ第2回大会をご覧いただきたいと思うんですが、彼らは地域社会の中で、企業を超えためちゃくちゃ良い経験をしてます。

大手企業では分業化が進んでいてできないような経験を、彼らは企業横断で巻き込む経験ができている。2024年に優勝した方は、愛知県の雨がっぱ会社(船橋株式会社)の26歳だったかな? 

その方は、コロナの時に雨がっぱの技術を使って、医療用の防護ガウンを生産して。自分の会社の生産量だけじゃ足りなかったから、地域の13社を巻き込んで工場ラインを作った。それだけだと資金が足りなかったので、何が起こったかというと、トヨタさんの協力を自分で得て、生産量を100倍にした方なんですよ。ご本人は豊田章男さんと写真に写ったりしていて。

実は彼女はすごくいい大学を出ていらっしゃるんですよね。彼女が言っていたのは、同期はけっこう大企業に就職されているんですが、同期からは「なんでそんな、従業員が100人もいない会社に行くの?」と。同期は(従業員数)何万人という会社にいる。

だけど、その経験をSNSに投稿した瞬間に周りの目の色が変わって、見方が変わりましたと。もちろんこういう人が何人もエントリーしているんですが、なんか僕は勘違いしていたなと思って。

山口裕也氏(以下、山口):そういうバイアスがかかっていましたね。

古屋:ありますよね。

山口:情報をキャッチして行動したら、そういう機会があるっていうことですよね。

古屋:本当にびっくりしましたよ。

探究型の学習に特化した通信制高校も

古屋:だから、僕は最近野望があって。ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲った若手と、ONE JAPANのコンテスト(「CHANGE」)があるんですが、その優勝者を戦わせたいと思っているんですよ。めっちゃおもしろくないですか?

山口:おもしろい。

古屋:濱松誠さん(ONE JAPANの共同発起人・共同代表)に言ってみようかなと思っているんですが、絶対におもしろいと思うんです。どちらが勝ち負けとかじゃなくて、率直にみんながすごく「あぁ、今の日本のキャリア作りってこんなエキサイティングなことになっているんだな」って思うと思うんですよ。夢がありませんか?

山口:夢がありますね。

古屋:しかも、ぜんぜん余裕で行ったり来たりできるわけです。

山口:そういう場があるだけで価値になりますよね。

古屋:ですです。

山口:いいですね。それで言うと、自分は今、子どもが8歳なんですよ。

古屋:(自分の子どもと)同じぐらいです。

山口:本当ですか。これから進路を考えた時に、最近よく目につくのが、N高みたいなところだったり、明石だと青楓館高校があるんですよね。

古屋:青楓館さんね。

山口:はい。自分の価値観だったり、いろんな経験が積めて、それをやった先に何があるのかという探究型の学習に特化している通信制なんです。勉強は家でやって、学校では高校生がライフラインチャートを書いて対話したり、伊藤羊一先生が来たり、タナケン先生(田中研之輔氏)が来たり。

古屋:普通にすごい(笑)。

山口:一流に触れる、みたいな。それで起業したりとか。

子どものキャリアの選択肢を広げるためには

山口:じゃあ、そこから大学に行かないかと言われると、例えばAOのコースもあるし、海外に行ったりとか、いろんなキャリアの選択肢があって。自分が子どもに何かを押しつけるということはないんですが、選択肢としてそういう経験を教えてあげると、(キャリアの選択肢が)広がるのかなと思います。

親御さんがそういうことを知っているというのも、けっこう大きいのかなと思って。いい高校に行って、いい大学に行って、一流企業に就職するという価値観だけだと、どこかでエラーが起きると思います。今、若い子たちを見ていても感じますね。

古屋:子どもにも向き不向きがありますよね。動機探索型というか、行動型が向いている方もいれば、「与えられたものをしっかりこなすことからやりたい」という方もいらっしゃると思います。あとはグローバル経験とか、基本的には3択ですよね。グローバル経験系、偏差値系、そして体験系。

山口:そうですね。

古屋:そういう意味では、ちょっと前までは偏差値系しかなかったんです。

山口:そうなんですよ。「そんな世界があるんだ」って、最近知ったので。

古屋:今、本当に多いですよね。

山口:多いですよね。

行動を起こせない若手には「言い訳」を提供する

大西拓馬氏(以下、大西):時間的に、もう1つか2つご質問を受け付けたいなと思っております。ぜひ、みんなの前でシェアしていただきたいなと思っておりますが、いかがでしょうか?

質問者5:ありがとうございました。今回のキャリアというテーマのところと、若手のところで1つ。もしかしたら今回はターゲットじゃないかもしれないんですが、よく人事なんかだと「262の法則」という表現があるかと思うんですが、その真ん中のところについてご質問したいと思います。

私もいろんな人事のコミュニティのところで話をする時に、新卒や若手の方って、初めは希望を持って入ってきたけれども、会社にいると「なんか、ちょっと違うな」みたいに、少しずつ目の色が変わってくるというか。

古屋:(笑)。

質問者5:こういうキャリアの場合には、どうしても活躍している若手といいますか、262で言うと2の方にフォーカスが当たりがちというのが、実感としてもあるんです。

若手の中でもすごく差も開いてきているなという時に、通常の6割の方に対して、どういうメッセージを出していけるんだろう? 人事はどういう支援をしていけるんだろう? というのは、若手のキャリアというテーマでもいつもギャップで悩んだりするところなんです。お考えがあれば、お聞きできればなと思っています。

古屋:ありがとうございます。私はよく「言い訳を提供するのがすごく大事だ」というふうに申し上げているんですよね。6割の方って、「なにか行動を起こしたいんだけど、行動を起こせていない」という状況じゃないですか。

アンダー2割の方々は、たぶん不安をまったく感じていないし、行動を起こそうと思っていない方々なんです。ただ、さっきの行動と情報のモデルもそうなんですが、6割の方って「情報は持っていて、モヤモヤしているんだけど、行動を起こせていない」という方々なわけですよね。行動を起こすための言い訳が必要だと思うんですよ。

言い訳があると行動のハードルが一気に下がる

古屋:つまり、キャリア自律。「あなたは何がやりたいの? Willは?」ということにすごくフィーチャーされているために、すごく見過ごされちゃうんですが。本人の気持ちとか、本人が手を挙げるとか、本人が希望するというのは、やはり相当ハードルが高いものなんですよね。ですが、言い訳があると行動のハードルが一気に下がるんです。

例えば「上司に言われました」「うちの上司が頭おかしくて、『誕生日が3の倍数の人たちは、今日はこの勉強会に行ってきなさい』と言っている」とかね。

(会場笑)

古屋:実はこれって、本当にすごく助かるんですよ、あと、周りがみんなやっているとか、仲のいい友人が「行こう」と言っているとか。こういった言い訳によって、実はスモールステップのハードルがめちゃくちゃ下がるんですよね。

体験ってオンかオフかで違うわけですよ。つまり、気持ちと違って、やったかどうかっていうのは、「やった(オン)」か「やっていない(オフ)」か、なんです。つまり、どんな動機で来たのか、どんな背景で来たのかというのは関係なく、「やったか、やっていないか」というのが体験として残るわけですよね。

ですから、それをオンにするための理由はなんでもいい。言い訳を提供するということが、組織もしくは上司ができる働きかけなんですよね。人事って、それを制度的に与えられるわけです。例えば研修で、強制的に若手をベンチャー企業に1ヶ月いきなり出向させるとか。これ、実際にやっている会社があるわけですよ。(人事だと)こういうのもできちゃいます。

はたまたオンラインラーニングのプログラムを必修として、「これを1年間やってください」という中に、すごくいろんな第一人者の話を組み込んじゃうとか、そういったことまでできちゃう。「言い訳を与える」というのが、6割を動かすために大きなポイントだろうなと思っていますね。

質問者5:「言い訳」ですね。ありがとうございます。

日本社会は「言い訳」がなくなってきている

質問者5:今、ちょっと自分の中で引っ掛かったのが、制度的なところとして人事ができる仕掛けがあると思うんですが、難しいなと思うのは、「必須」ってある意味キャリア自律的な考え方と馴染まないというか。

弊社の中でも(研修を)提供する時に、「必須eラーニング的なのをすべてやめる」みたいに、けっこう極論から極論に走ったというか。

自律性に任せると、当然、学ぶ方と学ばない方の格差ができる。単純に「選択肢」と「自律」をやるだけだと、やはりそれはそれでうまくいかない。一定は「必須」みたいなものはいるなと思って。そう言いつつ、ポリシー的なところに浸透しちゃうと難しさを感じたりとか、どういうバランスがあるかなと考えています。

古屋:インセンティブ設計の話を組み合わせるんです。要するに、やったことを見える化するとか、より多く学んだ方に対して共有する場を設けるとか、学んでいない方も含めて「どんなことを学びました」ということをいろんな方にアピールする場を設けるとか、そういうインセンティブ設計と言い訳を組み合わせていくことだと思います。

質問者5:インセンティブと組み合わせる。ありがとうございます。

古屋:でも、日本社会は言い訳が本当になくなってきている。言い訳がまったくない状態で、「あなたは何がやりたいの?」ということに対して、自分が何をやりたいかを言わなきゃいけない。「それを言ったから、お前やれよな」ってなるわけですよね。これは言い訳がまったくできないわけですよ。

これまでだったら、「会社が、上司がこういうことを言ったからやっています」と言えたことによって、実は自分の合理性を超えたすごくいい機会提供があったかもしれない。新たな言い訳のあり方が必要になってきているんじゃないかなと思うので、いい言い訳をぜひ考えてみてください。

質問者5:すごくいい、考えがいのあるテーマだなと思いますね。

古屋:(笑)。

人事図書館スタッフ:すごくたまたまですが、こちらの本(『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』)の229ページ以降に言い訳の話が載っていますので。

古屋:229ページ(笑)。

人事図書館スタッフ:たまたまですね。

(会場笑)

人事図書館スタッフ:今、聞いていて、古屋さんがおっしゃっていることと同じだなと思ったので。

古屋:ありがとうございます。まさに「262(の法則)」の話が書いてありますね。

人事図書館スタッフ:そうですね、まさに書いてあります。

古屋:ありがとうございます。ぜひご参考までに(笑)。

古屋氏が注目する「ワーキッシュアクト」の事例

大西:(次の質問者の方)お願いします。

質問者6:ありがとうございます。お久しぶりです。

古屋:お久しぶりです。

質問者6:最近転職して、本当は広報を希望していたんですが、なぜか人事に配属されて、あんまりエンゲージメントが高くないんです。

(会場笑)

質問者6:ちょっと勉強会に行ったほうがいいなと思って来ました。最近、古屋先生が見つけた「このワーキッシュアクト、おもしろいわ」みたいなものがあれば教えていただきたくて。あんまり講演会とか本に書けないようなやつが知りたいなと思うんですが、ここだけのやつを教えていただければ。

古屋:本当にハードルが高い。

(会場笑)

古屋:ワーキッシュアクトとは何かから申し上げると、例えばジムのルームランナーで走っている人がいるじゃないですか。これに、ある種のプラットフォームというか仕組みをくっつけることによって、誰かを助けるということがあり得るわけですよ。

具体的に言うと、パトランというNPOがあって。何をやっているかというと、走るのが趣味、健康のために走っている方々に、「パトラン」って書かれた派手なTシャツを着てもらって、「一緒に走りませんか?」というコミュニティを全国各地に作っているんですよね。

何が起こるかというと、2人とか3人で外を走ると、徘徊されているご老人の方とか、迷子の子どもを発見することがけっこうあるんですよ。見守りになっている。すると、警察署が「それはめちゃくちゃありがたい」ということで、その方々を表彰したり、市長さんが「この人を表彰したいから」と言って、市の広報誌に載ったりとか。

そういうふうに、実は警察官や自治体の職員の方々の仕事を代替しているけれども、やっている方々は別に代替しているとはまったく思っていなくて、単に仲間と一緒に走っているだけで、ジョギング仲間もできる。運動という意味では、ルームランナーで走るのとまったくやっていることは同じなわけですから。というのがワーキッシュアクトです。

人手不足だからこそ生まれた新たなイノベーション

古屋:Workishは「work」に「ish」で、「ish」は「なんとかっぽい」。社会に対して機能しているっぽいアクトやさまざまな活動が、実は今、日本の中ですごくいろんなアイデアが出始めていますよね。

現場が人手不足なので、それを代替するためのアイデアやイノベーションが実はめちゃくちゃ起こっていて。そういったところから、世界を変えるアイデアが出る可能性があると思っているという話を、僕が一番最近出した本(『「働き手不足1100万人」の衝撃』)で……。

人事図書館スタッフ:たまたまですね、こちらに……。

古屋:たまたま(笑)。

(会場笑)

人事図書館スタッフ:174ページにあります。

古屋:ありがとうございます。たまたま用意してくださった。

人事図書館スタッフ:たまたまです。

古屋:すごいですね。

人事図書館スタッフ:付箋を貼って……。

古屋:たまたまなんだけど、付箋が貼られているという。

人事図書館スタッフ:たまたまなんですが、付箋が貼られています。

キャンプ場の「草刈り体験付きプラン」が売れる理由

古屋:ワーキッシュアクトで最近おもしろかったのは、例えばキャンプ場さん。キャンプ場さんは、オープンする前の4月とか5月に草刈りが必要じゃないですか。でも、人手が足りなくて草刈りができない。

どうしたかというと、そのキャンプ場さんは半分だけ自力でなんとか刈って、そのままオープンした。残り半分はどうしたのかというと、そのまま予約を開始したんです。つまり、プランを「草刈り体験付きプラン」に変えて、キャンプ場の予約を受け付けた。

すると、来た人は草刈り体験で草を刈ってくれるんですよ。だって、人が足りないだけで草刈り機はあるわけですから。それは三重のキャンプ場なんですが、名古屋の方や都会の人って草刈りをしたことないんです。みなさん、ありますか? 僕は田舎出身なので草刈りをしたことがあるんですが、けっこうつらいんですよ。

だけど、やったことない人にとっては、なんか楽しそうじゃないですか。回っているやつをウィーンウィンウィンってやると、ビュッと刈れるんですよ。やってみたいじゃない。ということで、みんな通常より高いお金を払って、草刈りをして、キャンプをしている。ワーキッシュアクトですね。

(会場笑)

古屋:これが、最近おもしろかったワーキッシュアクト。エンゲージメントはあんまり関係ないですね。

(会場笑)

質問者2:関係ない話もすごく聞きたいなと思って。

古屋:そうですか。今の話は、もうエンゲージメントとぜんぜん関係ないですね。

(会場笑)

古屋:「実は楽しく誰かの手助けをしていた」っていう話ですね。

質問者2:ありがとうございます。

古屋:すみません、ありがとうございます。

小さな行動の積み重ねがキャリアにつながる

大西:では、お時間になりましたので、イベントはこちらで終了とさせていただきたいなと思います。今日の話にあった、Willのありなし、動機に基づいた行動とか、そうじゃないパターンの方も当然いらっしゃる。みなさんの周りにいらっしゃったり、もしかしたらご本人かもしれません。

1つの答えとして、スモールステップや小さな行動の積み重ねがなにかしら自分の気づきになったり、大きな話で言うとそれが周りの方の勇気になったり、気づきになっていくんじゃないかなと思っています。

今日も本当に、私が「こういう場を作ってみたいな。やったことはないけどやってみよう」という、1人のわがままからこうやってご快諾いただいて、25名もの方に来ていただいて、1が25になる場だったかなと思っております。

今日来ていただいたみなさんが、理由はどうであれまた同じように行動して、それがどんどん掛け算になっていって、25×25で次は525になにかしらの価値が渡っていって、どんどん大きな数字になっていく。「エンゲージメントが低い、どうしよう」「日本ヤバい」みたいに言われていることが、本当に大きく変わる流れになっていくんじゃないかなと思っております。

今日は、一人ひとりいろんな気づきやそれぞれ違うものを受け取られていると思うんですが、ぜひ次は525になれるように一緒にやっていければなと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。平日の夜のお忙しい時間に来ていただきまして、ありがとうございました。

(会場拍手)