キャリアも“コスパ思考”な現代社会

大西拓馬氏(以下、大西):ここからは、参加いただいたみなさまと双方向に会話をしながら進めていきたいなと思っております。たくさん資料を投影されて、気になるところや聞かれたいことがみなさんいろいろとあると思います。古屋さんに聞いてみたいこと、感想でもかまいません。「私はこう感じました」とか、なにか共有いただければ。

(会場挙手)

参加者3:ありがとうございました。めちゃくちゃおもしろかったです。本も読んでいたので、めちゃくちゃ共感するところが多くて。

古屋星斗氏(以下、古屋):本当ですか、ありがとうございます。

参加者3:いくつか聞きたいことがあるので悩んだんですが、コスパとかタイパ思考で言うと、結局タイパにはなれないと思っていて。

さっき(専門性を習得するために必要な時間が)1万時間という話がありましたが、タイパ・コスパで次へ行きたいといっても、コストはかけないけどパフォーマンスも上げられないまま、ずっとぐるぐるしちゃうというパラドックスがあるなと思って。でも一方で、それを私たちの世代が言うのも、今度はハラスメントとかになる。

古屋:(笑)。

参加者3:Willもそうなんですが、内発的動機を求めすぎている。でも、外発的動機から作られるものもあるはずだから、それができなくなっちゃってるというか。タイパと言うからムダな仕事だとか言われるし、これがハラスメントだっていう、すごく悪循環というか。

今後、若手育成で最も課題になることとは

古屋:「君の求めてるものには答えはないよ」って言いたいけど、気づかせるのが難しい。難しい問いって、若者にどう啓蒙したらいいのかなと、最近頭で考えていて。

古屋:本当ですよね。結論から言えば、社内にはその解答や気づきはないですね。いろんな視点を得ることで、そういった気づきが得られる可能性が上がるじゃないですか。確率を上げようと思ったら、やはり1対1の関係ではなくて、まずは「多対多」の関係にしていくのもそうです。もっと言うと、社外に広げさせたほうが気づきは絶対に生まれますよね。

あと、今のご質問はすごく本質的な論点を含んでいて。本にも書いてますが、若手育成で今後最も課題なのは「本人の合意性を超えた機会提供」なんです。これは上の方もそうですし、みなさん自身も考えたほうがいいわけです。つまり、キャリア自律になればなるほど、人はめちゃくちゃ良い経験を「ムダだ」と切り捨てるんですよね。

だって、目標が明確になればなるほど、つまりWillが明確になればなるほど、人間はそのWillに向かって一直線で進もうとするじゃないですか。これは人間の性ですよね。だって、当然誰でも回り道したくないわけですから。

ですが、プランドハップンスタンス理論やいろんなもので言われるように、人間が振り返って良かったと思う経験って、8割が偶然なわけですよね。みなさん、そうじゃないですか? 「すごく良かった」と思う経験って、すごい偶然だったりするわけですよね。

でも、自律的になればなるほど、Willが明確になればなるほど、たぶんその8割を相当切り捨てちゃうんですよ。だから我々のキャリアは、「自分の合意性を超えた機会獲得、機会提供をどうするのか」という問題をすごくはらんでるんですよね。

古屋氏のおすすめはポートフォリオ作成

古屋:率直に言って解決策はないんですが、僕はポートフォリオを作ることをおすすめしています。つまりいろいろやるってことなんですが、本業のキャリアという場があれば、もちろんまずはそれが1つのポートフォリオ。

別のポートフォリオは、例えば本業で勉強会を主催するとかなんでもいいんですが、それが2つ目。3つ目のポートフォリオは、こういった勉強会に来るとか、そういったことを月に1回やるとか。

自分の100パーセントの中で、今はどれぐらいのミッションのポートフォリオ、時間のポートフォリオなのかを考えながら、それぞれの出会いを掛け合わせて、偶発性を起こしていくことしかないんじゃないかなと思ってるんです。

参加者3:ありがとうございます。昔はスティーブ・ジョブズの話が効いたんですが、最近の若い子はもうスティーブ・ジョブズと言っても「はぁ?」みたいな感じで。

(会場笑)

参加者3:もうスティーブ・ジョブズの「Connecting the dots」の話は威力がなさすぎて。20代前半とかになると、もうiPhone14なので。

古屋:もうiPhone6とかじゃないですもんね。

参加者3:「ジョブズだってね」「ジョブズ……?」ぐらいな感じになっちゃう。すみません、余計な話をして。

古屋:本当にそうですからね。越境学習とか、いろんなことが理論化されてますが。

参加者3:勉強になります。ありがとうございます。

古屋:ありがとうございます。

若者が「何者かになる」ことの難しさ

大西:はい、じゃあお願いします。

参加者4:お話ありがとうございました。めちゃくちゃいろいろ考えながら、質問がもう100個ぐらい浮かんでるんですが、厳選して2個にしたいなと思ってます。

古屋:「厳選して」(笑)。

参加者4:今日のタイトルを回収したいなと思っていて。結局、若者はどうやったらキャリアに悩まなくなるか、何者かになるかというのが聞きたいです。

まず1つ目は、何者かになるためにどうしたらいいのかという、若者への処方せんをお聞きしたいなと思っていて。さっき順番をおっしゃってたみたいに、やはり「ありのまま」よりも「何者かになる」が先かなと思っていて。

Canをどう獲得するのかというのが、時代とともに本当に難しくなってきたなと思っています。会社に行けば獲得できるものでもなくなってるし、いろんな意味で関係的にも得にくくなっている。

若者が何者かになるということが、自ら能動的にアクションしないとものすごく社会的なハードルが高くなっているこのご時世において、若者が何者かになるためにどういう示唆が必要かというのが1つ目の質問です。

2つ目は、タイパを究極的に考えた時に、例えば「じゃあ、1万時間を何者かになるために投下しないといけないです」となった初期値で、「俺、これに1万時間投下していいのかな?」と問いに迷いが出てしまうことで、1万時間を投下できないという壁にぶち当たるんじゃないかなと思っていて。

その初期値のプロットをより精度を上げるためには、社会的に何ができるのかというのが2個目の問いです。

古屋:社会的に、ですか。

参加者4:そうです。

「石の上にも3年」が通用しない時代

参加者4:今って「自己分析をします」「自分はこれがやりたいと思ってこの会社に入ります!」みたいな感じで初期値を選ぶんですが、それがだいぶズレている。ズレているがゆえに、自分が本来収束すべき点からすごく遠い所からキャリアをスタートするから、結局収束にすごく時間がかかって、タイパがめっちゃ悪いんじゃないかと思います。

そうなった時に、初期値の選択がもう少し精度が上がれば、もっと収束までの時間が短くなるんじゃないかと。ここが究極のタイパなんじゃないかと思っていて。

例えば今の新卒就活市場がより精度が高く、自分が本当になりたいもの、価値観、あり方、得意分野とのミスマッチを防ぐ社会的な仕組みがあれば、もっと若者が何者かになるものになるんじゃないかなと思ったので。そこに関して、何か示唆があればお願いしたいなというのが2点目です。

古屋:熱いご質問ですよ。もう、ずっと聞いてたい。ご質問をたくさん(笑)。

(会場笑)

古屋:結論から申し上げれば、「何者かになるためにどうすればいいのか」という最初の質問に対しては、「1万時間を獲得する」しかないわけですよね。ただ、やはり(これまでの時代とは)アプローチが違ってるわけです。

これまでだったら「石の上にも3年」というアプローチが有効でした。つまり、その会社で我慢して、土日も深夜もなく働いて、OJTでガンガン鍛えられれば、けっこう早い段階で何者かになれたかもしれないですが、今はゆるい職場ですから、それがないわけです。

まさにさっきのポートフォリオじゃないですが、それを自分で調達しなきゃいけないわけですよね。会社だけでは5割しか調達できないから、それをどこで獲得するのかを自分で考えないといけない、非常に残酷な時代ですよね。今後のキャリア形成って、本当にめちゃくちゃ差がつきますよ。

入社前の社会的経験が重要な理由

古屋:これまでは、ある種すごく平等だったわけです。会社に閉じ込められて、残業をたくさんするということは、どんな志向の若手であっても、どんな志向の社会人になっても、差があんまりつかなかったわけですよね。

今は自分で1万時間を獲得しなきゃいけないんですよ。獲得できるか・できないかが、その人にかかっているという、非常に大きな違いがありますよね。何者かになるためには、その場を獲得することしかないですよね。

2点目のご質問は何でしたっけ……ごめんなさい、僕も熱が入ってるから。

参加者4:新卒市場のマッチングの精度を高めるためには、良い方法がないか。

古屋:そうか、わかりました。「回り道になっちゃうんじゃないか」と思っちゃって、力が込められないことはあると思います。結論から言うと、ちょっとこれも残酷な話なんですが、入社前にやるしかないですよね。「入社前の社会的経験」と僕は呼んでますが、これは入社後のキャリア形成にめっちゃすごいインパクトがあるんですよ。

例えば入社前に「1ヶ月以上のロングインターンシップに行ってました」「半年間スタートアップ企業でインターンシップしてました」「起業の経験があります」「プロジェクトベースドラーニングで企業からお題をもらって研究してました」とか。

入社前の高校生・大学生の段階でビジネス的な経験があったり、社会人と一緒になにかをした経験がある方ほど、エンゲージメントが高かった。もっと言うと、ぶっちゃけた話パフォーマンスが高かったり、キャリアに対して自律的だったりするわけです。

しかも、この話って当たり前だと思われるかもしれませんが、ぜんぜん当たり前じゃなくて、10年前の新卒にはそれが見られなかったんですよね。つまり、昔は会社が白紙の若手をゼロからビシバシ鍛えられたから、そんなものはいらなかったわけですよ。

「白紙で来い」「そんな学生のお遊びなんて全部忘れてこい」と、今言えますか? 会社でビシバシ、本当にゼロから若手を鍛えられますか? いろんな意味で無理じゃないですか。

学校教育は「学力」ではなく「体験」を提供すべき

古屋:ちょっと厳しく言うとハラスメントになるし、そういった状況の中で労働時間も管理しなきゃいけない。だから、入社前の社会的経験が効いてきちゃってるんですよ。これは非常に残酷な事実なので、この場で申し上げるべきかどうかちょっと迷ったんですが。

つまり、早い段階からけっこう差がついちゃってるんですよね。だから私は、学校教育は「学力」じゃなくて「体験」を提供すべきだとずっと言っていて。体験や小さな行動が動機になるので、七夕の短冊で「将来どんな仕事がしたいですか」とか、2分の1成人式で「あなたの将来のお仕事のイメージを考えてみましょう」とか、そんなことをしてる場合じゃないです。

(会場笑)

古屋:だって、もっとすることがあるわけですよ。地域の企業を巻き込んでいろんな体験を提供するとか、これを学校ができる、もっと大切なことがあるんじゃないかなと思っています。いずれにせよ、ある種すごく残酷な時代ですよね。以上です。

参加者4:ありがとうございます。残酷ついでに、僕は労働法を改正してほしいなとずっと思ってるんです。

古屋:どっちですか?

参加者4:労働基準法です。

古屋:どっち方向に?

参加者4:さっきの話を聞いて思ったんですが、「なぜ辞めないのか」を選択するように、1年間の任期にしたらいいのに。要は、終身雇用という雇用契約は無期雇用じゃないですか。全員、契約を1年間にすればいいのにって話を聞いていて思って。

私は役員だったんですが、役員って1年任期なんですね。なので1年で絶対に契約が切れるので、続けるか辞めるかを毎年選択するんですよ。だから、みんなそれでいいじゃんってちょっと思ったんです。

古屋:そうですね、役員の方はそうやって思われるかもしれない(笑)。

(会場笑)

古屋:役員の方はサバンナのライオンみたいな生活をされていますから。僕も含めた普通の人は、それだといろんな意味でがんばれない人も多いんじゃないかなと思いますよね(笑)。

参加者4:(笑)。

古屋:だからやはり、いろんなキャリアの作り方があるということかもしれないですね。でも、そういう方は現代社会にすごく適応されてますよね。

現代社会のキャリアは“短距離走型”

古屋:さっき申し上げたとおり短距離走の時代になってますから、1年単位で自分のミッションを変えるとか、1年単位で自分のトラックレコードを増やすという感覚でいったほうが、キャリアは太くなりやすいのかもしれないですよね。ただ、やはりそういう話をすると炎上しますので。

(会場笑)

参加者4:(笑)。ありがとうございました。

大西:今のお話で、業界や職種にもよるのかなというのは個人的には感じました。例えば自分の(勤めている)鉄道会社だったら、いきなり中途入社でジョインされた方に、鉄道の安全の根幹やベースの管理を正直いきなりは渡せないなって思いましたし。

自分の会社はそういった契約をできるのか、やるならどの部署からなのかという、選択の時代になっていくのかもしれないなと感じましたね。ここらへん、ぐっちゃんは言いたいことがたくさんあるんじゃないかな? っていう顔を(笑)。

(会場笑)

大西:いかがですか?

山口裕也氏(以下、山口):機会提供の地域格差がすごいなと思います。

古屋:それもありますよね。でも、ネットもありますし、意外と地域の中小企業さんのほうがおもしろい経験できたりするのはある。