「不安」は次のステップへ行くためのエネルギー

大西拓馬氏(以下、大西):では、大変お待たせいたしました。このまま古屋さんにバトンタッチをさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

古屋星斗氏(以下、古屋):(キャリアを)不安に思ってない人って、率直にけっこうヤバいと思うんですよね。

(ミハイ・)チクセントミハイは「不安というのは次のステップに至る前の心理的準備段階だ」と言っていて、不安という心理状態がない人って次のステップに至れないんですよ。だから不安をガソリンにして、エネルギーにして、いろんなアクションにつながってるんじゃないかなと感じますよね。

不安というか、迷いみたいなものについて、最近おもしろい研究があって。筑波大の教授が『Nature』か何かで発表された論文なんですが、「迷って意思決定をした人のほうが、その意思決定を深く記憶に刻む」。当たり前じゃないかと思っちゃうかもしれませんが、それってすごくいい話だなと思って。

「えいや」って決めたことよりも、すごくいろんなことを悩んで決めたことのほうが、あとから学びがあると感じるってことなんですよね。だから、迷ってるとか、「自分は優柔不断だな」と思うことって、実はぜんぜん悪いことじゃないかもしれないということですよね。

(古屋氏の資料がうまく投影されず)……ちょっと話のネタがなくなったのでぜんぜん違う話をします(笑)。僕は秋葉原に住んでるんですが、「日本橋ってこんな素敵な街なんだな」と来て思いましたね。ここまではタクシーで来て、すごく入り組んでるめちゃくちゃ細い道なんですが、素敵なお店がたくさんあったりして。

職場が「きつくて辞める人」と「ゆるくて辞める人」

古屋:だからなんだって感じなんですが、ネタが切れてきました。なにか一言ありますか(笑)?

(会場笑)

参加者2:今の若者に関して、どの領域に一番興味・関心を持たれてるんですか?

古屋:今だと「辞めない理由」。

参加者2:「辞めない理由」ですか。

古屋:すごいメモられてる(笑)。次はそれを研究しようかなと思っていて。『ゆるい職場』という本を書いたんですが、これって「辞める理由」なんですよね。きつくて辞める人と、ゆるくて辞める人がいるよという発見をしているんです。

きつくて辞める人に対しては心理的安全性が効くわけですが、ゆるくて辞める人に対しては効果がないわけですよ。労働時間を削っても意味がないわけですよね。それって辞める理由じゃないですか。僕、最近は逆のほうに関心があって。

ほとんどネタバレというか、実は今日の結論だったりするんですが、質問内容がさすがですね。すごくドンピシャで僕の一番話したいところを突いてくる(笑)。

(会場笑)

参加者2:ちょうどスライドが映ったようですね(笑)。

古屋:本当に全部話しちゃうところでした(笑)。その流れで話しますが、「キャリア悩み入門」ということで、率直に言えば、そもそも結論があるわけでもなんでもないわけですよ。

僕自身もそうだし、そもそも僕って自分の人生経験を自分の研究にまったく反映していないんですよね。そんな乏しい人生経験なんて、反映してもしょうがないじゃないですか。そんなもの、なんの役にも立たないわけですよ。だからすべてデータで研究をしております。

そういった意味では自分自身も悩んでいますし、みなさんにも一層悩んでもらおうと。今日は悩む論点を列記していきますので、お付き合いいただければなと思っております。でも、最初に申し上げたとおり、本当に悩んだほうがいいと思うんですよね。悩んで決めたことのほうが、人生にとって絶対に価値があります。

20〜30代が抱える「2大アンビバレントな気持ち」

古屋:自己紹介は割愛させていただきますが、古屋と申します。昨年来(2023年)から本を3冊出しておりまして、人事図書館さんにも『ゆるい職場』という本が置いてありますね。もう1冊、ここにもありましたね。

大西:これ、私物です。

(会場笑)

古屋:私物(笑)。ここに『ゆるい職場』という本がありますね。ちょうど私の席の後ろにあってうれしいなと思ったんですが、さらにまだ2冊ありますので、ぜひ人事図書館さんに置いていただければなと思います。持ってきたりはしないんですが、買っていただければなと(笑)。

(会場笑)

古屋:オープニングトークでもありましたが、いろんな社会課題がある中で、それに対峙するいろんな概念を自身の研究に基づいて提唱してきました。例えば、先ほどお話しした「ゆるい職場」とか。

「ありのまま」と「何者か」という現代の社会人、特に20〜30代が抱える2大アンビバレントな気持ち。程度や比率とか、どっちが優先順位が高いとかもあると思うんですが、絶対にみなさんはこの2つの気持ちを持っていて。「職場のキャリア安全性」は、心理的安全性だけだとエンゲージメントがマックスにならないよということですね。

このへんからみなさんあまりご存知ないかもしれませんが、「ハイパーメンバーシップ型組織」。現代の「育てれば育てるほど辞める」という組織において、私が示している1つの解決策ですね。ちょっと詳細は申し上げられませんが、ググっていただければ出てきます。

あとは「労働供給制約社会」。キャリアや人事労務の世界の外側にある日本社会全体がどんな状態になるのかというと、構造的な人手不足になっているよという話です。その中で1つの解決策として「ワーキッシュアクト」を提唱したり、若手の研究ではない労働市場の研究として、今まさに「令和の転換点」を研究をしております。

今の世の中は「選択の回数」が増えている

古屋:本日のテーマは、みなさんのキャリアのお悩みポイントを増やします。お悩みポイントを増やすというか、可視化するということですね。何が一番みなさんの心に引っかかってるのかということを、ぜひ考えていただきたい。

「なんかモヤモヤ悩んでる」「何に自分は悩んでるのかな?」というのが一番気持ち悪いじゃないですか。このうちのどれかに当てはまらないかもしれませんが、「これはけっこう優先順位が高いな」というものがあると思うんですよね。そういったものをいくつか挙げるので、ご自身じゃなくても部下とかの視点で、ちょっと考えてみていただきたいです。

先に大前提を申し上げますが、私がずっと申し上げているのは「選択の回数が増える世の中になっているよ」ということですね。リンダ・グラットンが2016年に出した『LIFE SHIFT』という本は、みなさんよくご存知なので詳細は申し上げませんが、1枚の絵にまとめたものがこれなんですよね。

学校を卒業したら仕事をして、仕事を引退したら引退する「3ステージ人生」だとリンダ・グラットンさんは言ってるんですが、3ステージ人生って構造的に矢印が2つしかないんですよね。3ステージ人生は、僕の目線で言うと2ステップ人生なんですよ。

つまり、選択の回数が2回しかなかったわけですから、この2回をがっつり決めれば勝ち組になれたわけですよ。10年ぐらい前の日本では「勝ち組」という言葉がはやってましたが、就活する時にでかくて有名な会社に入れば、親もハッピー、自分もハッピー、もう全員ハッピー、みたいな。

30歳の年収はこれぐらいで、40歳になったら年収はこれぐらいで、主任になって課長になって、社会的地位がこれぐらい……というのが明確に見通せたわけですよね。キャリア安全性があった。ですよね?

大西:そうですね。私は2015年に入りましたが、辞めるなんて1ミリも思ってなかったなと。

古屋:2015年入社だと(当時は)ちょっと思ってる? 思ってない(笑)?

大西:いや、本当に思ってなかったですね(笑)。

古屋:思ってなかった(笑)。そういうことにしておきましょう。

大西:(笑)。

29歳までに54パーセントの人が転職経験あり

古屋:(かつての日本では)そういうステップだったわけですが、統計的に、現代社会では29歳までに転職経験がある方は54パーセントいらっしゃるんですよね。大手企業の入社者でも、29歳までに40パーセント辞めているわけですよ。

逆に言うと、今は大手企業の入社者でも3年で26パーセント辞めていますから、統計的に相当早いタイミングで1回目の選択がくるわけですよ。

今、学び直しも希望者がめちゃくちゃ多いわけですよね。4割近くいます。オンラインラーニングだけじゃなくて、大学や専門学校等での体系的な学び直しを希望しているわけです。そうすると、人生における選択のタイミングは2回とかじゃなくて、以前と比べてとんでもない数になる。

仕事をしたあとに別の仕事をするかもしれないし、統計的には29歳までに54パーセントが転職している。仕事をした後に学校に行って学び直すかもしれないし、リスキリングで仕事をしながら学校に行くかもしれないですよね。もうみなさんもされてるかもしれませんが、仕事をしながら別の仕事をするかもしれない。複業・兼業ですよね。

しかも、男女問わず、この絵にはないようなライフイベントがあるわけです。20年前、25年前の日本社会は、そもそも性別役割分業だったために、男性の正社員が仕事を担った時に、働いている人にとってライフイベントの影響がほとんどなかったわけですよね。それは、女性がそういったことを担ってくれてたからだったわけです。

ただ、現代の日本は、男女の区別なく、またシニアにも外国人にも活躍してもらわないと、もう人手が足りなくて回らない世の中になっています。さまざまな方が参加するために育休制度が整備されて、男性もしっかり参加するようになると、全員にライフイベントが組み合わされるわけです。それが、いつ起きるかはわからない。

キャリアにおいてもコスパ重視にならざるを得ない理由

古屋:それが、いつ起きるかはわからない。第1子が生まれるとか、第2子が生まれるとかだけじゃなくて、親の介護とか、こういったイベントが(起きるタイミングが)早くなっていく。もともと2回目のステップは55歳とかだったかもしれないですが、今は20代のうちに1回目がある可能性が過半数を占めていて、30代になった時にはまた何かあるかもしれない。

判断のタイミング、選択のタイミングが多く、そして早くなっているために、キャリアにおいては「コスパ」が重要視されざるを得ないわけです。

コスパ思考は、別に「若者だから」とかじゃなくて、選択のタイミングが早く来るわけですから、そのタイミングまでに自分ならではの経験、自分が職務経歴書にバチッとかける何かが、良い転職をするためには必要じゃないですか。そうじゃないですか?

大西:間違いないです。

古屋:そうですよね。大西さんも最近、転職されて……。

大西:実は明日、退職あいさつをします(笑)。

(会場笑)

大西:来週から新天地です(笑)。現職には9年お世話になりました。

古屋:現職ではすごくいい経験をされたと思うので、たぶんそれを職務経歴書にバシっと書いてアピールしたと思うんですが、そういう経験が必要だということです。キャリアにおいては「効率よく対価を得る」とか、そういうことが若い人ほど高くなっていることになります。