社内ルールやレガシーが多すぎる、大企業特有の非効率さ

菅沼真弘氏(以下、菅沼):では次は、50代から60代の女性の方。「大企業特有の非効率をどう突破すればいいのかを教えてほしい。社内ルールやレガシーが多すぎて、中途採用組には何がどうなっているのかわからない。スタッフの中にはお役所気質が残り、新しいことへの対応に異様に時間がかかったり、問い合わせがたらい回しになったりする。

こういったところで効率的にジョブを動かし、組織を効率的にシェイプアップするにはどうしたらいいでしょうか」と。これは古巣の方からのご質問じゃないですよね(笑)。

五十嵐剛氏(以下、五十嵐):リーダーがもっとこういう意見を取りあげてくれればいいんですけども、難しいですねぇ。リーダーの話とはちょっとずれるかもしれないですけど、私も非常に苦しんだプロジェクトの中で、ボトムアップのマネジメントがすごく大事なんだと気づきました。

やはりリーダーが変わらないといけないということを、一プロジェクトじゃなくて全社に広げようと思って、NECの中のコーポレート部門に行ったんです。

その頃、私の活動を認めてくれる人はそんなにいたわけじゃないんですね。ちょっと根性論になっちゃうかもしれませんけど、粘り強く人を巻き込んで、「こういう活動は大事だよね」とコツコツ伝えていったんです。

敵の敵の敵は味方になる

五十嵐:この質問をしてきてくれた方は、「なんでこんな無駄なことをやってるの」「こんなのやめればいいのに」と、本当に歯がゆい思いをしていると思うんですよ。

でも、やはり人は何かを変えることに対して、すごく抵抗感があるわけです。よっぽど今危機感があって、何かしないと自分たちが食っていけなくなっちゃう状況に追い込まれたら変わることもできるのかもしれないけども。

「別に今これでなんとかやってんだから、変えなくてもいいじゃん」と、みんなチャレンジとか口では言うけど、自分が変わることに関しては恐怖心を持っている。でもこの方が言うように、本当に無駄な作業はたくさんあるんですよね。私がちょっと思っているのは、敵の敵の敵は味方になるっていう理論です(笑)。

変えたくない人たちとは別に、別の目的かもしれないけど「なんとか変えたい」って思っている人たちは社内にもいると思うんですよ。

今、中途採用のキャリア組でやられているかもしれないですけど、別の組織も巻き込む。「ここを変えてみましょうよ」って、仲間を増やしていく手はあるんじゃないかなと思います。

リーダーとしての振る舞いに会社の規模は関係ない

菅沼:わかりました。次は「小規模から中堅の企業における人材育成につながるチームづくりを教えてください」。さっきは大企業でしたので、今度は中小企業でということですね。

五十嵐:私の本はキャッチコピーとかで「1,000人規模の大型プロジェクトを何度も率いた経験から」と書いてあります。1,000人規模っていうと、うちのカミさんも「じゃあ私、関係ないよね」とか言っちゃうんですけど。書いてある内容を読んでもらったらわかりますが、規模は関係ないと思っています。

基本ここに書いてある内容は「リーダーとしてどういう振る舞いをしたらいいか」なので、中規模・大規模・小規模関係なく使えるかなと思っています。極端なことを言うと、家庭の中でも、例えば、子どもからしてみたらお父さんとお母さんって絶対的なリーダーで逆らえないわけです。

お父さん・お母さんが子どもとどう接して、「勉強しなさい」と言わなくても勉強する気になるように、いかにボトムアップさせていくか。これには通じるものがあると思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

どんなにAIが進化しても必要なリーダーの要素

菅沼:はい。わかりました。40代から50代の男性です。「リーダーシップのスタイルは支配型からサーバント型に移り変わってきましたが、昨今の生成AIの普及により、また新たな型に変わっていくのではないかと考えています。

この先、AIが爆発的に普及した社会におけるリーダーシップとはどのようなもので、リーダーが磨くべきスキルは何なのか。先生のお考えがございましたら、うかがいたく存じます」と。

五十嵐:これも本当に難しいなと思います。ただ、私がちょうど大学生の頃や就職する頃は、NECのPC-88とかPC-98が世の中で出始めて、すごく人気でした。「いつかコンピューターに仕事を全部奪われるんじゃないか」という話がありましたけど、決して今、そうはなっていないんですよね。

AIは、私ももっと勉強しないといけないところはありますけども、経験値というよりも過去知から吸い上げてきている。大規模なクラウドから持ってきているので、AIにできないことは「事前に課題を見つけること」だと言われています。

あと、やはり感情・思い。先ほどから言ってますけど、感情・思いを抜きに仕事はできない。人間のリーダーじゃないと、そこは考えられないところですよね。

リーダーとして課題をどう見つけて事前に策を打つのか。いかに事前に課題を見つけてリスク回避をやるのかという部分と、「だって人間だもの」という思いや感情の部分をちゃんと把握して仕事に結びつけていくところ。これはどんなにAIが進化しても必要な、絶対になくならない部分だと感じています。

自分の仕事以外はやらない「線引き意識」が強い社員への対処法

菅沼:非常に参考になりました。では、次にいきます。40代から50代の女性の方。「自分の業務を線引きして『やれません』という社員がいるため、他の社員に負担がかかっている状態です。負担を負う社員の不満が高まりつつある状況で、どう対処したらよいでしょうか」という質問。ありがちですよね。

五十嵐:こういう人、たまに見かけますよね。最終的にチームにとって必要なゴールとか、「これをこのチームでやり遂げるんだ」というチームの一体感としてのゴールが示せずに、パーツパーツで仕事を与えちゃっているんじゃないかなって感じがするんですね。

線引きって、「あなたの仕事はここですよ」と最初に与えられちゃっているから、「じゃあなんでそれ以外のことをしなきゃいけないんですか?」ということなんですよね。

例えば、「私たちのチームは全員でこれをやり遂げるんですよ。なので、あなたの役割としてはこういう部分を担ってほしい」「メンバーとの調整役を担ってほしい」とか。最終的なゴールを共有するのは、いろんなものの解決になってくるので、すごく大事です。

そこができていると、「これを達成するためにこういうことが必要だよね。だったらやっていかなきゃいけないよね」と言えるんじゃないかなと。あと、本書の90ページにも書いているんですけども、やはり人は自分で決めたことでしか動かないので、その人がなんでそこで線を引いているのか、ちゃんと話をする。

その上で「私はこれ以上やりません」と言うんだったら、やはり「チームとしてあなたに期待している役割を、あなたは十分に果たしていないですね」と、評価なりにつながっていくしかないのかなと思います。ケースバイケースなんですけど、パーツの仕事じゃなくて、最初にチームとしてやり遂げるゴールや夢を全員とちゃんと握ることが、何事においても大事なのかなと思いますね。

JTCでボトムアップ型マネジメントを広めるには

菅沼:はい。わかりました。では次、40代から50代の男性の方。「五十嵐先生のリーダー像はすばらしいと思います。ただJTC(Japanese Traditional Company。伝統的な日本企業)ではそんなリーダーが少なく、イコール評価されることが少ないのではと感じています。

NECでそのようなリーダーが評価される土壌はどのようにして出来上がったのでしょうか」というお話です。

五十嵐:ありがとうございます。NECでも数値が最優先みたいな方はもちろんいます。NECの場合、「今日より明日、明日より明後日、改善していこう」という、当時「現場革新」と言われたものがありました。

それは改善が目的というよりも、ちゃんとメンバーの気持ちも考えて、現場に寄り添って動けるかというボトムアップさせるリーダーシップ力を目的にしてるところがあって、それをわかってくれている常務がいらしたんですね。NECの中に130人くらい事業部長がいるんですけど、私も事業部長全員に「こういうことが大事ですよね」という話をして回りました。

当時、メンバーと啓蒙活動をして回っていたんですが、今世の中でウェルビーイングも言われるようになってきて、NECは世間よりも先に理解していただけたのかなと感謝しています。

ジョブ型が浸透すると「線引き意識」が加速する?

菅沼:「ジョブ型が浸透すると“線引き意識”が加速するのではないでしょうか」という質問をいただいています。

五十嵐:もう増えざるを得ないなって感じがするので、結果的に増えていくでしょうね。日本の大企業では1980年代からISOの取得が必須になってきて、私はその推進役をやったことがあります。

例えば昔の日本の企業文化だと、隣の家の1尺はきれいにするみたいな。お互い隣同士でやるので、境目が一番きれいになっているみたいな文化があったんですけど、「契約なので、書いてあること以外やっちゃダメだ」という。

ISO取得の推進の時にもそういうことがあって、すごく危惧していたんですけど、さらにそれが進む可能性があるなと心配しています。答えになっているかな。

菅沼:時代の流れもあるかと思います。

五十嵐:逆にそうなってくると、まさに今私たちが進めているようなことがなおさら必要になってくるんだろうなと思います。今チャットで、「イギリスで、日本の働き方、メンバーシップ型がだいぶ評価されている感覚でした」と。良いところはやはり認めるべきですよね。ありがとうございます。

菅沼:お時間もありますので、これでいったん終了とさせていただきます。今日は本当にありがとうございました。