従業員のモチベーションを上げ続けることに限界を感じていた

——永松さんの起業や経営の考え方についても、おうかがいしたいと思っています。『あなたの一生を1時間で変える本『あなたの一生を1時間で変える本『感動の条件ー誰かのために生きるということ』を拝読し、従業員の帰属意識やエンゲージメントの高さがすごく印象的でした。こういったところに課題感をお持ちの経営者の方は多いんじゃないかなと思うのですが、解決策がありましたら教えていただきたいです。

永松茂久氏(以下、永松):これはぶっちゃけた話なんですが、僕は全員が個人事業主になればいいんじゃないかなと考えているんです。実際にそんなことができるはずはないとは思うのですが、やはり働いていく上で、所得を上げることは、人にとっての逆らいがたい大きなモチベーションだと僕は思っているんです。

経営者として人材育成に携わっている中で、「稼げるようになりますよ」という未来のゴールはすごく大事だと思っているんですよね。企業の講演などで話をしていても、「今の組織の中で、どういうふうに(社員の)モチベーションを上げていけばいいのか?」と、よく経営者の方がおっしゃいます。

でもそれって、どこかで「とりあえずの間、やる気になってくれればいい」と、どこかだましだましやっているような気がするんですね。

一時的にモチベーションを上げて、「今日もがんばったな。やはり精神的充実感っていいよな」とか言いながら、モチベーション体験をさせていくやり方に、僕は飲食でも限界を感じていたんです。もちろん精神的充実の面で、できることはいっぱいやってきました。

ただ、「いつまでモチベーションが上がった、下がったをやり続けるのかな?」「こんなのずっとは続かないよな」と思っていたので、スタッフたちに「全員社長になれ」と言っていました。

従業員に「全員独立しろ」と言う理由

——社長になってもっと稼ぐことを、社員のモチベーションの源泉にしたんですね。

永松:そうです。結局、一番モチベーションが高い人って、個人事業主か経営者、もしくは大企業ですごくお金を稼いでいる経営幹部とかだと思うんですよ。「所得が入ってくることは、1つの絶対的なベースになる」と思うんです。一応これはお伝えしておきますけど、お金だけが全部ではないです。ただ、必要不可欠な条件の1つではあるかなと。

自分の飲食店の従業員たちが店長としてずっと働いていたとしても、九州という地方都市で(月額)50万円を渡すのは、仕組み的に無理なんですよ。でも、この子たちが独立して自分で店を持って一生懸命働けば、月に100万円でも200万円でも稼げるようになる。

僕は自分の仮説と検証も含めて、スタッフたちに「全員独立しろ」と言って、今その体制でやっています。「がんばっていい会社にしようぜ」というモチベーションは、働く側からしたら不安定すぎると思います。

——なるほど。ここまで、今までの起業や経営に関するご質問をさせていただきました。では、この先の10年後はどんなふうになっていたいとお考えですか?

永松:僕はあと半年で50歳になるんですが、そこからは本格的にいろんな人材育成の講座などを始めようと思っています。今軸にしていることは2つあります。

1つがコミュニケーション講師の育成。もう1つが、出版業界で新人著者を支援して世の中に出していくことです。僕自身も新しく『拝啓、諭吉様。』という本を執筆中で、これからも本は書いていきますけど、実はプロデュースだけでも最近100冊を超えたんです。自分だけでなく、多くのコンテンツを本にし、世の中にいい著者を増やしていきたくて、最近出版講座をコソッと開講しました。

出版業界も不安定なので、10年後もどうなっているかはよくわかりません。ただ、「本の力で日本を元気にする」というのが、僕の今のところのコンセプトです。今後はひょっとしたら建設屋をやっているかもしれないし、美容室をやっているかもしれませんが、10年後も相変わらず出版事業には携わっていたいと思っています。

やりたいことがない人のための「展開型の生き方」のススメ

永松:最後に、絶対にお伝えさせていただきたいと思っていたことがあります。先ほども少し触れましたが、例えば、「夢を持ってそれを叶えていく」という生き方はすばらしいことだと思っています。

ですから今の時点で明確な夢を持っている人は、そのまま進んでほしいと思います。でも、夢が持てない、今何をやりたいかわからない人向けに、僕はずっとメッセージを送っています。それが「for you」を軸とした「展開型の生き方」なんですよね。

「先のことはよくわからないけど、今、目の前にいてくれる人、今、目の前にある仕事に対して全力を尽くす。「相手がどうしたら喜んでくれるかな?」と考えながら向き合っていくと、「せっかくなら、あの人に頼もうよ」と、必ず何らかの誘いがかかるようになります。

僕の場合、たこ焼き屋になるまでは「夢型の生き方」でしたが、その後は、完全に「展開型の生き方」に切り替わったんです。「for you」の生き方をしようと決めて、スタッフたちを笑顔にしたいとでかい店を作ったものの、これからどうしようと追い詰められた結果、たまたまやったバースデー祝いに火が付いて、依頼がどんどん来るようになった。

そのうち、お客さんに頼まれて、ウエディングの事業をやることになるんです。「陽なた家でウエディングをやりたい」というお客さまの声があって、ウエディングやバースデーを一生懸命にやっていたら、出版社の編集長が新婦のおじさんとして参列されたのです。

ウエディング終了後、その方から、「君、本を書かないか?」と声をかけていただき、店の端っこで本を書き始めたのが、僕の出版業のスタートだったんです。ちょうどそれと同時期に、斎藤一人さんと出会い、いろんなことを教えてもらうようになり、出版し、それを読んでくださった方々から今度は講演が来るようになった。

そして、この講演をやっているうちに、全国にコミュニティができていった。その後は母の病気で事業を出版一本に絞り、母の遺言で東京に行った。そして、出版営業の原口大輔さんから頼まれて、『人は話し方が9割』を書いたという流れです。

目の前の人を大事にすることで道は開ける

永松:簡単に言えば、僕はたこ焼き屋になること以外、自分で決めたことはないんです。出会った人から「これをやらない?」「これを頼みたい」と言われたことをただひたすらやってきたら、今ここに辿り着けたんです。

ですからこれからの若い人たちに、「夢を持ってそのとおりに進む生き方」もいいけど、「先のことはわからないけど、今日この人が喜んでくれるように」と、目の前の人を大事にする展開型の生き方もあるよと、お伝えしたいんです。

——ありがとうございます。展開型の生き方は、「今後自分のキャリアをどうしていこうか?」と悩んでいる方にとっても、大きなヒントになると思います。

永松:ただ、それには絶対条件があります。人生がどういうふうに展開するかは、今の自分に懸かっていると思うんです。「面倒くさいから適当にやっておこう」と仕事をするのか。「先のことはよくわからないけど、今、このクライアントにどう喜んでもらえるか」と思いながら仕事をするのか。

(後者を選べば)間違いなく頼まれごとが増えます。それが来ないようだったら、独立はまだしない方がいいと思います。

その力がないまま起業をすると、大変なことになります。もし会社に属して働いているとすれば、たとえ問題を起こしたとしても、それはまだ社内のことで済みますが、自分で始めた商売で人が喜んでくれないと、致命傷なんですよ。

だから、今目の前のやっていることに対して、「本当にこれは喜んでもらえるんだろうか?」と考えながら仕事をする。そしてその方向性がうまくいっているかどうかは「頼まれごとが増えるかどうか」にあると僕は思います。

——夢がある人も、見つからなくて悩んでいる人も、まずは目の前の人を喜ばせることが大切ですね。永松さん、ありがとうございました。