日本では、理系分野に進む女性の進学率が19%と低い
入山章栄氏(以下、入山):今週もお客さまに公益財団法人山田進太郎D&I財団COO、石倉秀明さん。そしてマネックスグループ取締役兼執行役山田尚史さんをお迎えしました。石倉さん、山田さん、どうぞよろしくお願いします。
石倉秀明氏(以下、石倉):よろしくお願いします。
山田尚史氏(以下、山田):よろしくお願いいたします。
田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):石倉さんのプロフィールです。早稲田大学3年時に体調を崩し中退。フリーターを経て、株式会社リクルートHRマーケティングに3年限定の契約社員として入社。そこでMVPを獲得し、正社員になられます。そこから当時5人の株式会社リブセンスへ転職し、上場を経験。
さらにDeNAで営業責任者や人事責任者を務め、2016年より株式会社キャスター取締役に就任されました。創業時より全員がフルリモートワークで働いており、現在では1,500名以上の規模となっています。また、2024年2月より山田進太郎D&I財団のCOOに就任されています。
入山:もう先週もお話をうかがいましたが、ものすごく破天荒なキャリアで、ものすごい実績を上げられてきたわけですけど。今は山田進太郎D&I財団のCOO、いわゆるチーフ・オペレーティング・オフィサーで実質的な執行の責任者だと思うんですが。あらためて山田進太郎D&I財団はどういうことをやっているのか、教えていただけますか。
石倉:はい。もともとは3年前の2021年にメルカリ創業者の山田進太郎が立ち上げました。D&Iとついているので、もちろん世の中のダイバーシティやインクルージョンを推進するのが大きな目標としてあるんですけど。第1弾としてはSTEM領域で、2035年までに理系分野に進む女性の進学率を28パーセントにしようという目標を掲げて、奨学金の助成事業などをやっています。
今、日本は19パーセントぐらいで、OECD(世界協力開発機構)の中で安定の最下位。それをまずはOECDの平均までもっていこうと。
入山:OECDのほかの国はもっと高いんですね。
石倉:高いですね。OECDの平均が28パーセントなんですよ。「まず平均まではもっていきたいね」ということでやっています。
世界的に見ても学力のレベルが高い日本の女性
入山:日本では「女性は理系にいかない」という勝手なイメージがある気がしますが。これはわれわれの思い込みで、日本の社会の仕組みがそれを助長しているんでしょうか。
石倉:学力の話でいくと、日本の女性は世界的に見てもレベルが高いんですよ。男性との差もほとんどないんですね。だから「学力の問題で理系にいかない」というのはデータ的には正しくない。
入山:はっきり言うと、データとしてはほぼ迷信だと。
石倉:はい。どっちかというとジェンダーバイアスやジェンダーロールですよね。「女性はこうだよね」「理系にいくのは男子だよね」という。
あと文理選択でクラスが分かれるので、理系にいくと男子30対女子3みたいになるわけじゃないですか。「そこにいきたいですか」というと、よほど理系にいく意欲がなければいきづらいよなと。
入山:うん、なるほどね。
石倉:あと理系のお仕事だと、どんなイメージか。中学生・高校生ぐらいだと、思いつくのはお医者さんか薬剤師ぐらいしかないんですよ。別に「お医者さんや薬剤師になりたくないわけじゃないけど、まぁ文系かな」という選択をすることがあると思うんですよね。
入山:そのふわっとしてるところに、実はSTEM、理系の分野でも「こんな魅力的な仕事があって、こんなキラキラしてイケてるのがあるよ」と伝えれば、まったく違うってことですね。
石倉:そうなんです。ドイツだとガールズデーという、1日にSTEM系の会社が何百社も集まる仕事の展示会があるんです。去年財団でも青山学院大学さんにご協力いただいて、理系のキャンパスツアーをやったんですよ。
そしたら本人たちの意向もそうだし、親御さんのイメージがガラッと変わったんです。いろいろな論文でも実証されているように、たくさんの人のロールモデルに触れることはやはり有効なのかなと思います。
入山:なるほど。おもしろいですね。ぜひ、さらに浸透してほしいですよね。今日もよろしくお願いします。
石倉:お願いします。
「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した、マネックスグループ取締役の山田尚史氏
田ケ原:続いて山田さんのプロフィールです。開成中学校・高等学校を経て東京大学理科一類に進学し、工学部松尾研究室に所属。その後、2011年にソシデア知的財産事務所に入所されました。2012年には株式会社AppReSearch、現在の株式会社PKSHA Technologyを設立し、代表取締役に就任。
2021年よりマネックスグループ取締役、さらに2022年よりマネックスグループ取締役兼執行役に就任されています。
ビジネスに邁進される一方で、白川尚史のペンネームで執筆活動も行い、宝島社が運営する「第22回『このミステリーがすごい!』大賞」の大賞を受賞し、2024年1月に古代エジプトを舞台にミイラ消失事件の真相に挑むミステリー作品『ファラオの密室』を刊行しました。
入山:というわけで、今はマネックスグループの取締役兼執行役なわけですが、加えて、なんといっても推理小説作家としてデビューされまして。この『ファラオの密室』という作品が「第22回『このミステリーがすごい!』大賞」の大賞を受賞したわけですね。これが2024年1月に出版されたと。せっかくなので、あらためてこの本について簡単に教えていただけますか。
山田:はい。あらすじとしては、舞台が紀元前の古代エジプトでして。死んでミイラにされた主人公が、死んだ状態からよみがえるところからスタートします。自分の心臓が欠けていることに気づいた主人公が、心臓のかけらを探して期間限定で現世に舞い戻り、いろいろな人から話を聞いて自分の死の真相を突き止め、生前に犯してきた罪と向き合うお話です。
古代エジプトの宗教改革に着想を得た
入山:この着想はどこから来たんですか。
山田:小説だと「葛藤が大事」とよく言われています。つまり、何か対立する人や概念、心情が強くせめぎ合う状態にはドラマが生まれやすい。ある程度知名度がある場所で「そういう魅力的な葛藤がある場所はどこだろう?」と、世界地図を広げてざーっと見ていった時に、古代エジプトの宗教改革が目についたんです。
入山:古代エジプトの宗教改革には葛藤があったんですか?
山田:もう葛藤も葛藤ですね。
入山:そうなの!?
山田:それまで民衆が信じていたアメン・ラーという神さまがいるんです。
入山:あー、なんか途中で一度太陽信仰をやめるんですよね。
山田:そうです。アクエンアテン(アメンホテプ4世)というファラオが(太陽信仰をやめるんです)。通説によると、当時のアメン・ラーの神官たちが政治的にも力を持ちすぎてしまって、ファラオの権威が相対的に下がったことに危機感を覚えたと言われています。そこでアメン・ラーの信仰を完全に禁止して、宗教の排斥を行ったんですよね。
それまで信じていたことが否定されると困る人や、そういう状況をよく思わない人もいます。ファラオもファラオでいろいろな感情があるのではないかと。そこから僕は古代エジプトのことをすごく調べたんです。
入山:おもしろい。
田ケ原:そうなんですね。そして、こちらのお二人が3月25日発売のビジネス誌『Forbes JAPAN』2024年5月号の特集「『最愛の仕事』の見つけ方」に登場されます。
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