はじめはフリーターからリクルートの契約社員になった石倉秀明氏
入山章栄氏(以下、入山):では、ここからはまさに『Forbes JAPAN』の5月号のテーマでもある、「最愛の仕事の見つけ方」というテーマでお話をうかがっていこうと思います。まず石倉さんから、ご自身のキャリアはどうですか。
石倉秀明氏(以下、石倉):いやぁ、偶然の積み重ねだと思うんですよね。リクルートに入ったのも、フリーターでテレアポのバイトをしている時に、10年ぐらいバイトしている先輩がいたんですよね。インセンティブも入るから800万円や1,000万円も稼いじゃっていて、「今さら就職できない」という先輩の話を聞いて、「あ、これは早く就職しないと、俺もずっとフリーターになるな」と思いました。
焦って『フロムエー』を買いに行ったらリクルートHRマーケティングの募集があって、3年限定の契約社員だと。当時、契約社員と正社員の違いもわからなかったんですけど、「3年間働いたら卒業支援金で200万円もらえる」と書いてあったんです。
「働いて200万円をもらえるのか。ラッキー」と思って受けたら受かって、なんの仕事をするかもまったくわからずに入ったところ、『フロムエー』や『タウンワーク』の営業だったんですね。
入山:それでその後DeNAに行って、キャスターに行ったと。つまりどっちかというと、石倉さんの場合は、なにか理想を求めてやっていたというよりは、目の前を生き抜くためというか。
石倉:そうです。リクルート時代もそうだし、それ以外のキャリアも、どっちかというと「自分のキャリアをどう困らなくするか」ばかり考えていました。なので圧倒的に自分中心で考えて、会社を選んできた感じです。
入山:山田進太郎D&I財団はどうですか。今日のテーマは「最愛の仕事の見つけ方」なんですけど、これはまさに最愛の仕事だと思われているんですか?
石倉:どうなんですかね? 最愛かどうか……わからない。
入山:え、違うの!?
田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):(笑)。
ある意味究極の「行き当たりばったり」なキャリア
石倉:いや、最愛かどうかはわからないですけど。「このテーマをやりたい」と思ってキャリアを選んだのは、今回が初なんですよ。
入山:あ、今までは違うんだ。
石倉:違います。もちろん、キャスターも働き方として「こっちのほうがいいよね」とは思っていましたけど。社員が増えてきて「こういう課題があるんだなぁ」「もっとこれを広めるべきだな」とあとから思うことも多くて。
入山:ある意味生きていくために、その場の事情で移っていったということですが、振り幅と結果の出し方がすごい。山田進太郎D&I財団は、初めてやりたいことから入ったんですね。
石倉:そうなんです。前のキャスターを経営していた時も、創業当時からずっと全員がリモートで働いていて、応募に来る人も働いている人も9割以上は女性でした。リモートじゃないと自分の望むキャリアを歩めない人は、圧倒的に女性なんですよ。例えば時短だったり、地方にいたりという事情なわけです。
僕も「その構造を作ってきた側にいたんだな。気づいたのに変えないのはダサいな」と思って。だとしたら、自分が起業して「ジェンダーギャップを解消するD&Iの領域をやろう」と思って、起業することを前提にキャスターを退任したんですよ。
でも「これは営利企業だけだと厳しいかもしれん。非営利の可能性もあるかなぁ」と考えている時に、たまたま縁があってD&I財団がCOOを募集していたので、今のキャリアになったという感じですね。
入山:なるほど。山田さんはどうだったんですか。石倉さんは、ある意味究極の行き当たりばったりな感じなんですけど。
山田尚史氏(以下、山田):そうですね。でも僕が松尾研に行った理由も、SFの物語が好きで「機械学習、人工知能とかおもしろそう」と思って選んだんです。当時ディープラーニングという技術が出てきて、これはすごいらしいと。この技術は世の中を変えるんじゃないかなと思った時に、ちょうど先輩の上野山さんが「何か始めようか」と……。
入山:それでPKSHA Technologyを設立したと。その後マネックスに移られて、次は作家なんですけど。推理小説家にはいつぐらいからなりたいと思われていたんですか。
山田:本当にちっちゃい頃から、漠然と(作家に)なりたいとは(思っていました)。
一同:へぇ~。
多くの人が「嫌い」で「苦手」な仕事をやっている
入山:ちっちゃい頃の夢を叶えたんですね。じゃあ、今日のテーマである「最愛の仕事の見つけ方」という意味では、山田さんはある意味昔から見つかっていた。「可能性があるかも」と踏み出して、本当にそれを実現しちゃったという。
山田:はい、そうです。
入山:お二人が対照的でおもしろいですね。石倉さんは、正直最愛の仕事ややりたいことはなかったというと失礼ですけど……。
石倉:もともとどっちでもいいと思っているタイプですね。例えばやりたいことがあるとするじゃないですか。やりたいことがあって、その仕事をやってみました。でも1年間で結果が出なかったら、メンタルが崩壊する自信があるんですよ。
「こんなにやりたかったことができないなんて」と思うんですよね。それよりは、「自分ができることを最大に活かせる場所はどこか」と掛け算で考えています。
入山:「やりたい」より「できる」で考える。
石倉:できることと、それが活きる場所はどこか。僕は場所のほうがよっぽど重要だと思っています。
入山:逆に、今の山田さんの話を聞いてどうですか?
石倉:自分があまりやりたいことがないんで、やりたいことがある人は、けっこううらやましい。
入山:山田さんは、今の石倉さんの話はどうですか。
山田:自分にとって苦でもないことが、ほかの人にとっては努力ということもあるじゃないですか。
石倉:それが一番の強みですよね。わかります。
山田:はい。それが発揮できるところで、さらに感情的にも好きが乗っかると最愛になるのかなぁと思っていて。今は(石倉さんは)最愛の仕事をされているのかなと横で勝手に思っていました。
入山:僕もそれにはすごく興味があって、ちょっと前にその議論をしたことがあったんです。「得意」と「苦手」という軸と、「好き」と「嫌い」という軸があると思うんですよ。好きで得意な仕事が一番いいですよね。だけど、実は多くの人が嫌いで苦手な仕事をやっている。そう考えると、少なくとも長い間、石倉さんは、得意で好きでもない仕事をやってきたのかもしれない。
石倉:たぶんその軸でいうと、僕は自分から見た得意・不得意と、人から見た得意・不得意という2軸で考えているんです。
入山:なるほど。だから両方取れれば得意だと考えるんですね。
「最愛の仕事」を見つける上で一番チャンスがある領域
石倉:僕から見ても得意、人から見ても得意は得意じゃないですか。一番チャンスだと思っているのは、僕は得意と思っていないけど、他人は僕が得意だと思っている領域。自分的には息を吸うようにできることが、なぜか周りはできないというのは、たぶん得意なはず。
じゃあ、最も得意なものが「活きる場所はどこですか」と常に考えています。僕は誰も選ばなそうな場所、一番ハマる場所をけっこう選んでいるんですね。
入山:おもしろい。山田さんはどうですか。さっきの得意軸と好き軸でいくと、作家のお仕事は好きですもんね。
山田:もう大好きですね。これから得意になっていくのかなぁって。
入山:いやぁ、でも大賞を取っていますからね。でも、まだ得意かどうかはわからない感じなんですね。
山田:僕の定義だとそうですね。やっぱり小説はものすごく時間を投下するんですよね。 ほかの人からすると「落選したら今まで書いた何百時間が全部パーになるのに、誰にも頼まれていないそんなことを、なんでやってるの」と、ある種変な目で見られたりするんです。
ただ僕は書くのが大好きですし。当然つらい時もありますけど、相対的に見たらすごく好きなので。そういう意味では、得意はライトナウ(今すぐ)の能力ではなくて、「それをどれだけ努力と思わないか」という適性だと思いますね。
仕事は「生活の手段」だからこそ、楽しいほうがいい
入山:石倉さんは、どうですか。
石倉:やっぱりやりたいことがあるのは、うらやましいですよね。これは『Forbes JAPAN』の中でも言っているんですけど、「仕事とはなんですか」と聞かれたら、僕は「生活の手段です」と答えているんですよ。
でも、せっかくやらなきゃいけないんだったら、楽しかったり意味があるほうがいい。たかが仕事だから、最大限楽しんでやろうという感じなんです。
入山:山田さん、今の石倉さんの発言はどうですか。
山田:まっとうな、「そりゃそうだよな」という感じですね。
入山:おもしろいな。山田さんは少なくとも作家の仕事が心底好きなわけじゃないですか。
山田:はい、そうですね。
入山:だから、とんでもない時間を投下できるんですよね。一方で石倉さんは、基本あんまり好きじゃないんだけど、やるからには自分が盛り上がれるものを選んで、自分の力が発揮できるところでやりたいという。
でもこれさ、『浜カフェ』リスナーが聞いたら、たぶん「(自分は)どっちタイプだろう?」と考えるよね?
田ケ原:絶対に考えますね。8割の人はどちらかには当てはまりそうな。
入山:もちろん現状は違うかもしれないけど、お二人のうち「どっちになりたいな」とは思うんじゃないですかね。
入山:石倉さん、山田さん、ありがとうございました。タガエミちゃん、お二人の話はむちゃくちゃおもしろかったね。
田ケ原:はい。特に山田さんの小学校の頃の夢を叶えたところ、逆に石倉さんは好きなこと、やりたいことはなかったけれども、やれることを最大限やってきたところの対照がおもしろかったですね。
入山:本当にお二人とも対照的というか真逆で、でも今、結果的に2人とも最愛の仕事ができていることには示唆があるというか。いろいろな人が「自分はどっちタイプなんだろう?」と考えたらいいのかもしれないよね。
田ケ原:いいきっかけになりそうですよね。