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組織にルールって必要ですか?―制度設計と組織文化の幸せな関係とは(全5記事)

かえって非効率を生む“悪しき会社のルール”が残るパターン そもそも組織にルールは必要か?理想の制度設計とは

働く人と会社のつながりや、生きることと働くことのつながりについて考えるイベント「Lifestance EXPO」。本セッションは「組織にルールって必要ですか? 制度設計と組織文化の幸せな関係とは」と題し、唐澤俊輔氏、水野祐氏、中川淳氏の3名がトークセッションを行いました。本記事では、社内でルールを作る際のポイントについて語ります。

前回の記事はこちら

ルール作りと同様に“ルールを見直すこと”も大切

中川淳氏(以下、中川):ルールって、作る時はめっちゃ一生懸命考えるじゃないですか。でも、さっきルールをなくす話がありましたが、その後はあんまり考える機会がないじゃないですか。

水野祐氏(以下、水野):そうなんですよ。

中川:だからそれが思考停止でもあり、良くないルールが残り続けちゃうということにもなると思うんですが、それを防ぐための手法論というか考え方はあるんですか?

水野:ありがとうございます。それはまさに最近共著で出した『ルール?本 創造的に生きるためのデザイン』という本でも書いているところですが、ルールの中に「ルールを見直す」ためのルールをプリセットするのがめちゃくちゃ大事です。

中川:なるほどね。

水野:最近はそういう法律も出てきていて。例えば個人情報保護法とかは、3年ごとに見直すことが条文の中に明確に盛り込まれているんですよね。

中川:確かに。

水野:会社の中でもそういうことをやっていくことが、思考停止やルールの悪い部分を出さないために考えられる1つの手当てかなと思います。

中川:なるほど。今の話を、企業文化を作っていく、あるいは進化させていくという文脈に置き換えると、こういうものがイメージとしてあるなというものはありますか?

唐澤俊輔氏(以下、唐澤):ここはけっこう難しい論点で、まだ答えができていない論点なんです。

マクドナルド、メルカリ、行政を渡り歩いて気づいたこと

唐澤:僕の場合、まずはマクドナルドというマニュアルをすごく作る会社で働いた後、すごく自由・自律で「なんでも自分で考えろ」というメルカリという会社に行って、すごく逆を見たんですよ。

メルカリもいい会社だし、マックもいい会社だなと思っているんですが、「マクドナルドに戻ったらメルカリみたいな会社にしたいですか?」と言われたら、絶対にしないんですよ。

現場に自由を与えて、店長が「俺はトマトが好きだから、バーガーにトマトを挟む」とかをされたら困るわけじゃないですか。事業モデルがそうじゃないということですよね。なので、別にどっちがいいということじゃないんです。

事業のモデルによって違うとともに、他方、その後行政で働いてみて、規程でものを考える習慣がついているので、何か新しいことをやろうと言うと「それ、規程になんて書いてあるの?」から会話が始まるんですよ。

「オフィスで終業後に缶ビールを買って飲んでいいですか?」と聞くと、「会議室でアルコールを飲んでいいって規程に書いてある?」という話から始まるわけです。「それぐらい自分で判断しろよ」とか思う派なんですが、ルールを前提とした組織はそうなっていて、「それがないなら、まず規程を作ってからやりましょう」なんですね。

水野:「判例法」と「大陸法」で言うと、いわゆる大陸法の考え方ですよね。まずはきっちりルールを作った上で、できるだけいろんなものを想定してルールを作り込んだ上で進める。

唐澤:ですです。それが強いので、やっぱり僕も「ルールがないと動けない人を生むよね」という気持ちにはなります。

“ルールがまったくないこと”がいいとも限らない

唐澤:ただ、まったく(ルールが)ないのがいいのかというと、冒頭で「一定の線引きをしてあげることで、その先に自由がある」という話がありましたが、そこはあってもいいと思います。考えなくていいことを考えさせないために、仕組みやルールで切るところは切っちゃって、あとは自由にやる。このラインが大事なのかなと思いますね。

メルカリは本当に極端で、例えば採用で会食に行くお金を全部出していたんですよ。採用で(人材が)採れたらぜんぜんそのお金は安いので。そうすると、「いくらまで使っていいですか?」という話になるじゃないですか。

これをルールで「5,000円まで」と決めたら、みんな「4,990円飲み放題」で検索を始めるじゃないですか。これが思考を停止させているという話で、「この人を採るなら3万円でもいいよね」「この人だったら2,000円じゃない?」ということを自分で考えてくれという話なんです。

それは「考える」という習慣をつける上ではいいんですが、「本業ではないところ一生懸命時間を取っていていいのか?」という問いもあるので、考えなくていいところは切るということをやってもいい面もあるなというのは、そういう例です。

中川:「良識の範囲をもって判断する」と書くかどうか、ということですね。

唐澤:そうです。

水野:ちょっと余談なんですが、スタジオジブリのコンテンツ(作品の場面写真)では、鈴木敏夫さんの手書きで「常識の範囲内で自由にご利用ください」というふうにライセンスがなされているんです。

中川:へぇ、書いてあるんですね。

水野:「『常識の範囲内で』と『自由に』って、どういうことか?」という解釈を生むじゃないですか。要は、そのへんは自分で考えてうまく使ってねということなんです。

中川:なるほどね。「考えない」と「考える」だと、考えるほうがいいような気がするけど、「本業じゃないところで、そんな考える時間を作るなよ」っていう。

唐澤:そういうのもありですよね。

中川:常にバランスの中ですよね。さっきのお役所の話で言うと、行政府としては「税金を使う者としてそれぐらい決めておかないと、言い訳というか説明がつかない」みたいなビジネスモデルだから、そのぐらいやらなきゃいけないよねという話なわけですね。

唐澤:ですです。

中川:なるほど。だいぶ腑に落ちますね。

作って終わりではなく、常に変わり続ける必要がある

唐澤:もう1個の解決方法は、仕組みに落とせるかですかね。考えなくてもいいけど、仕組みで自ずとそういう行動を取らせることが可能なはずです。

さっきの飲みに行く金額の例で言うと、例えば行けるお店が決まっていて、「その中から選んでください」だったら考える時間が減るじゃないですか。それはもう仕組みになっちゃっているので、「(選択肢は)これかこれかこれ」ってなる。

ルールって(何かで)失敗をするとみんな作りにいくので、「誰の目線に一番合わせますか?」というと、一番失敗する人の目線に合わせますよね。

水野:性悪説というか、なんというか。

唐澤:「誰かがミスしました。じゃあダブルチェックしましょう」となると、1,000人のうちの1人のミスのおかげで1,000人全員がダブルチェックを始めるわけじゃないですか。逆にルールによって非効率の部分もあるので、ここはセットで考えなきゃいけない。

仕組みにするということは、「ダブルチェックをしなくてもいい仕組みをどう入れるか」が勝負なので、そこがポイントかなと思います。

中川:なるほどね。そう思うとルールメイクって、めちゃめちゃクリエイティブな作業ですよね。

水野:そう思いますね。ただ、ルールメイクと言った時に、みんなルールを作るところに力点を置きすぎだと思っていて。要は、作って、運用して、使って、見直して、それを更新していくというサイクルをちゃんと意識していくことが大事だと思っていて。最近出した『ルール?本』にもそのことを書いてます。

ルールメイキングは大事なんだけど、ルールメイクの「メイク」って、あらゆるサービスデザインもプロダクトデザインもそうなんですが、作って終わりじゃなくて、どんどん使って見直していく。それはルールも一緒なんだよということを、一番の主張として言っている本だったりしますね。

中川:そう思うと常に変わり続ける必要があるし、何が最適かというのは、もちろんビジネスモデルの変化もあるし、会社のフェーズにもよりますよね。

唐澤:フェーズもあります。

中川:そういうことを全部勘案して、常に微調整、微調整を繰り返していく。

Netflixには「ルールを作らない」というルールがある

水野:さっきNetflixの話が出ましたが、Netflixはルールを作らないと豪語しているんです。リード・ヘイスティングスが書いた『NO RULES』という本が数年前に話題になりましたが、あれって原題が『No Rules Rules』なんです。

中川:そうなんですか。

水野:実は「ルールを作らない」というルールなんです。その本に書いてあるすごく印象的なフレーズで、「コントロールではなくて、コンテクストによるマネジメント」という言い方をしていて。

唐澤:言っていますね。

水野:最終的には、どんどんルールを抜いていく。スーパースターを集めてきて、いい人材を集めてきて、どんどんルールをなくしていくことを目指している。どの会社にも使える話ではないんですが。

変化の大きい時代において、コンテクストによるマネジメントで最終的にルールを抜いていく方向を志向するというのは、メルカリもそうだと思いますし、これから求められる流れになっているのかなとは思いますね。

中川:難しいですね。

水野:さっきから、この話を全部……。

中川:自社に置き換えている。

水野:置き換えてる(笑)。悩みが深い。

中川:そうですね。

水野:「あいつらは簡単に言うけど」みたいな。

中川:いやいや。そこに時間をどこまで使うかってことですよね。最初の頃は時間を使えないよなと思うけど、今のうちの規模ぐらいでこういう感じになるかなと思うと、もうちょっとやらなきゃっていう感じはありますね。

経営者だけでなく、メンバーを巻き込んだルール作りがカギ

中川:最後の問い(「組織文化を浸透させるためにルールはどのように設計すべきですか?」)です。これは最後の「作る」「浸透」というフェーズだと思うんですが、それこそ今はミッション・ビジョン・パーパスブームだし、バリューもみなさん定めると思います。

ここでは「ルール」と書いていますが、ルール以外にも浸透させるというフェーズになった時に、うまく浸透しないことが多いじゃないですか。ルール以外の観点からも、そのへんのコツや勘所が何かあれば。

唐澤:浸透しないと絵に描いた餅状態となるので、浸透してなんぼなんですが、実は作る段階で勝負が決まっていることが多くて。まず経営側から見たら、「作るメンバーをどれだけ巻き込めるか」ですね。

「自分も参画している」という感覚で見るのと、「誰かが作ったものが降ってきた」という感覚はまったく違うので、「よし、作ったものを浸透させるために浸透チームを作ろう」とか言われても、ぽかーんってなるので。

最後に決めるのはトップでいいと思うんですが、「一緒に作ろうぜ」というといろんな意見が出るので、そこにどれだけ巻き込めるかで、実は大方決まってくるんじゃないかなと思っています。

中川:なるほど。水野さんはどうでしょうか?

水野:先生に「廊下を走るな」って言われるのと、自分たちで「走らないことに決めよう」というのとでは、だいぶ主体性の度合いが変わります。

唐澤:そうです。

制度・ルールの浸透にも影響するネーミングの重要性

水野:私がルールでもう1つおもしろいなと思ってるのは、みんなでルール作りをやると、なんか議論が盛り上がるんですよね。「その場所が自分の場所だ」というふうに思ってもらうツールとしても、その作業自体がすごく有効です。「それが自分たちのルールだ」と思える場所にいるというのは、主体性を生むすごく有効なツールでもあるなと感じるのが1つ。

あと、社内のルールや制度を浸透させようと考えたときに、ネーミングはすごく大事ですよね。なんでネーミングにこだわるかというと、社員に知ってもらったり、制度やルールをつかってもらうことを考えたときに、良いネーミングというのはそのルールの浸透具合、あるいはそのカルチャーの浸透具合にすごく影響するからです。

中川:確かに。昔のオリエンタルランドの「SCSE」でしたっけ? ああいうのもネーミングというか語呂合わせをうまく作ったり、そういうことですよね。

水野:例えば、ですが。

中川:浸透ってなると、そういう細部のところが成否を分けたりするのはあるんでしょうね。

唐澤:細部だと思いますね。言葉そのものを浸透させること自体を目的にしがちなんですが、それがけっこう難しいんです。浸透自体を目的にした活動を新たに始めると、また仕事が増えるとか、「浸透するためのワークショップのために時間を取らなきゃ」ということになるんです。

日々の経営や普通の会議であったり、日々の行動・言動・仕事の中に入れ込んでいくことが本来はよくて。そこの接点に常に触れるようにしていくことができると、自ずと浸透していくと思っていますね。「1個1個が全部バリューで判断されている」ということを社員が感じるということです。

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