一定以上のお金持ちに共通するもの
ナレーター:転職や起業が注目されていますが、多くの人が自立を考える時、意外なワナに気がついていないのだそうです。
立川談慶氏(以下、立川):初めて藤野さんに会った時に、すごくいい言葉をおっしゃっていました。富裕層というか、ある一定の水準のお金を持っている方たちは、自立している。
例えば軽自動車に乗っている人を見ても、「この人は車にお金をかけない人だ」。ユニクロを着ていても、「着るものにお金をかけない人だ」と。
自立した人たちというのは、そういう見方をしていると聞いて、この本(『落語で資本論 世知辛い資本主義社会のいなし方』)を書いている最中にも、「自立」という言葉がずっと浮かんでいたというか。結局、「人に仕えるな」というのは、自立しろってことですよね。
自立していないから搾取されちゃうわけだし、自立していれば疎外されることもないし、取り込まれることもない。このキーワードが「自立」でまとまった感じがするんですよ。
地方の落語会でうちの師匠の談志が言ったことを、私は前座で覚えているんですけど。稲刈りとかで本当にお客さんが少なかった時に、うちの師匠は「見てろ。来なかったやつが、悔しくなることをやってやるからな」と言ったんですよ。
今の話につながりますよね。制約みたいに考えてしまうような、「人数が少ないからダメだ」という発想じゃないんですよ。「もともとこうだから」じゃなくて、違うところから攻めていくから、うちの師匠は天下を取れたんだなと、つながったんですよね。
スタンフォード大学教授が行った“2日でお金を稼ぐ”授業
藤野英人氏(以下、藤野):別の話を思い出したんですけれども。アメリカの非常に有名な、ティナ・シーリグさんという女性のベンチャーキャピタルの先生がいます。この人が(スタンフォード大学で)ベンチャーの授業をする時に、チームごとに2日間でお金を稼がせるんです。
立川:おもしろいですね。
藤野:その時に、「お金は使っちゃいけませんよ。徒手空拳(物事を始める時に頼りになるものが何もなく、身一つであること)で、2日間で稼ぎなさい」と言って、5名ぐらいのチームでビジネスプランを考えさせるんですよ。そしていざ当日という時に封筒を渡して、「これは使っていいです」と。封筒を開けると5ドルが入っているんです。
立川:へえ。
藤野:2日間やるんですけど、そこで成功した人たちは、5ドルを使わなかった人たちなんです。でも5ドルがあった時に、「この5ドルで粉を買って、ピザを作って売ろう」とか考える人が多いわけです。
立川:普通はそうですね。
藤野:「この5ドルをどう使って、何をしようか?」と考えるんだけれども、結局5ドルが制約になっています。ワナだったんですよ。
立川:ひっかけなんだ。
藤野:渡した瞬間に、そのチームが5ドル、今だとたった700円ぐらいに思考を限定させちゃうんですね。
立川:要するに、そこの回路にはまっちゃって、それを超える発想をしなくなるわけですね。
藤野:そうなんですよ。それで例えば、毎年毎年違うんですけど、ある勝ったチームでは、スタンフォード大学の中で、自転車の空気入れをタダで10個ぐらい借りた。
スタンフォード大学ってけっこう広いから、自転車で往復する人が多い。そこで入り口のところに「free(タダ)」と、「ボランティアで空気を入れるよ」ってやると、ほぼ百発百中止まってくれるんです。その後「ドネーションプリーズ」って書くと、空気を入れてくれたから、3ドルとか5ドルとかくれるんです。
立川:いい意味で、足元を見るみたいな感じですね。
(会場笑)
学歴やお金や見た目は「制約」になる
藤野:そう、足元を見る(笑)。それで結局、(5ドルを)使わなかった人が勝てた。でも、実はティナ・シーリグは、もっとさらに深いことを教えようとしているんですよ。何かっていうと、「あなたが持っている学歴や、いろいろなものは全部制約だ」と言っているんですよね。それよりも、お客さまとか世の中を見ろと。
最近、実家が太い「太親」って言葉があって、「あいつが成功したのは『太親』なんだ」とか。
立川:親ガチャみたいな感じで。
藤野:「それがすべてだ」みたいなね。僕も実は大学時代に、「もっとイケメンだったらな」とか「もっと実家が太かったらな」とか思ったことはあるんですけど、それは全部制約なんですよね。要は、例えば「僕は偏差値70で、俺はお前より頭がいい」とかいうのは、ビジネスで何の役にも立たない。
立川:かえって恨まれたりなんかして、ロクなことないですよね。「制約」という発想はないですね。すごいな。
藤野:そうなんです。金がないとか美人じゃないとか、実家がどうとかは、実は全部制約。だから、ティナ・シーリグさんの教育はものすごく良い。
立川:ハートに火を付けるということね。
藤野:ハートに火を付けたわけです。でも、そもそも人類は、江戸時代とかは、ほぼ全員自立していたと思うんですね。会社や役所が出てきて、そこに勤めることになってから、むしろ「自立」という言葉がなくなってきたと思うので。
人はそもそも、何十年、何百年、何千万年と自立していたと思うんですよ。今日何が起きるかわからない。ひょっとしたら野生動物に食われるかもしれないというような、緊張感の中で僕らは生きてきた。
それを生き延びてきて、「今日は生き延びられたね。良かったね」と毎日を過ごしてきたのが、長い人類の歴史だと思うんです。だから、人間の僕ら一人ひとりの中に、自立は埋め込まれているんだと。
ビジネスが成功するかどうかの分かれ道
立川:(内側にすでに)あるはずなのに、外に求めちゃう。だから、「学歴をつければ生きていけるだろう」とか、「一生懸命勉強すれば、もっと楽に世の中を渡っていけるだろう」と思っちゃうんですかね。人類の長い歴史において、学歴社会なんてわずかなものじゃないですか。
藤野:そうですね。
立川:それなのに、そっちにこだわっちゃっている。会社もそうじゃないですか。「会社に入っていれば大丈夫だ」と、どこかで切り替わっている。今おっしゃったように、もともと自立できる要素を持ってこの世に生を受けたのに、自らを制限しちゃっている。
藤野:お金もまさにそうです。別にお金と信頼や信用は、必ずしも結びついているわけじゃない。結局人の価値は何かというと、その人が周りの人にどういう影響を与えていくかという、人と人のつながり。
また、実はお金についても、最終的に重要なのは、どうやってつながりや縁を作っていくのか。それを一番した人が勝つという話なわけですよね。イケメンとか偏差値とかは、あまり関係ないということです。
結局、ビジネスで成功する人は、サラリーマンであれ起業家であれ、自分の周りの人をどれだけたくさん喜ばせたかという、総量で決まるわけです。これはきれいごとじゃありません。もともと人は、お金や組織とは関係なく、1人で自立して生きることが標準になっている。お金においては、仲間をどう作っていくのかに懸かっているんじゃないかなと思いますね。
立川:なるほど。もうすでに、自立という概念が自分の中に実装されているわけですよね。「いい会社やいい大学を出れば大丈夫だ」みたいな神話を持っちゃっているから、おかしくなっている感じはしますけどね。
藤野:そうですね。