PR2025.11.27
数理最適化のエキスパートが断言「AIブームで見落とされがちな重要技術」 1,300社が導入した「演繹的AI」が意思決定を変える
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新規事業施策をリードする担当者や経営者に向けて開催された本イベントでは、「新たな事業が生まれ続ける組織づくり」をテーマに、新規事業家の守屋実氏、株式会社aba代表取締役CEOの宇井吉美氏がゲスト登壇。アイデアが育まれやすい環境を、組織の中でいかにデザインするかについて語られました。本記事では、「三方よし」な事業を実現するヒントや、新規事業の評価者やクリエイターを現場に連れて行くことの重要性についてお話しします。
小田裕和氏(以下、小田):あっという間に時間が迫ってきてしまいました。みなさんからの質問もあとで拾おうと思いつつ、宇井さんが僕に注文をつけるとするなら、「もっとここをがんばれ」というメッセージはありますか?(笑)。
宇井吉美氏(以下、宇井):え、そんな(笑)。
小田:あるいは、宇井さんがこれからスタートアップの環境を耕していくために、どんなことができるかという話も、ぜひ聞ければと思います。
宇井:それで言うと、一緒にやりたいなと思ったのが、(スライドの写真を指しながら)これは昨年度から経産省さんが始めた「介護を『個人の課題』から『みんなの話題へ』」という「OPEN CARE PROJECT」です。

普通、介護は厚労省さんの分野なんですけど、最近「ビジネスケアラー」と呼ばれる仕事をしながら介護している方もすごく増えてきているので、経産省さんも動き始めているんですね。
そのアワードに応募したのが「介護の願い」で「ねかいごと」というプロジェクトです。これは「ねがいごと」じゃなくて「ねかいごと」という、真ん中が「かいご」になっているんです。介護に関わってる人たちから、介護の願いを集めて叶えていこうというプロジェクトです。
なんでこれをやり始めたかというと、まさに今日ご紹介したHelppadが、「おむつを開けずに中が見たい」という介護職さんの願いから生まれた製品で、「ねかいごと」プロダクトだと思ったからなんです。
宇井:今日の話にもつながるかもしれないですけど、原体験や人の確かなニーズや願いから始まっていないプロダクトやサービスや事業が、すごく多いなという気がしています。
正確に言えば(原体験や確かな願いから)始まっているのかもしれないけど、それが見えない。「誰のためにやっているんだろう」というのが見えない、顔が見えないものが多い。ましてや人が人を支える分野に投入されるプロダクトやサービスや事業が、それじゃダメだろうというのが、私の中にはずっとあります。
介護の願いを叶えるプロダクトは、別にうちだけじゃないんですよ。Helppad以外にもいくつもあって、何社か私も大好きなプロダクトがあります。その人たちにも集まってもらって、Helppadを入れた全6社で去年展示会をやらせてもらったんですけど、それが受賞したんです。
去年の時点でいっぱい「ねかいごと」が集まって、今年もまたどんどん集めようと思っているんですけど、集めたものをどうやってサステナブルに叶えていくのか。あとは拾えなかったけど、「ねかいごと」が花開くための土壌になった「ねかいごと」たちをどうしていくのか。
今、けっこう問われているので、そのあたりはめっちゃ専門領域なのかなと思っています(笑)。これをがんばれというよりは、ちょっと力を貸してほしい。
小田:もちろんです。
宇井:またこうやって人を巻き込んで、「もうみんなも見ているし、やってください」という(笑)。
小田:(笑)。まずはみんなで語れるかが、すごく大事だなと思います。ちょうど質問がきたんですけど、「社会課題の解決を図ろうとするとステークホルダーが多様に存在し、『誰にとっての価値か』をとらえるのがすごく難しい瞬間がある」と。
今回の場合でいくと介護士さん、入居者本人、それから入居者の家族などいろいろな思いがあって、誰にとって何が良いか(が難しい)。「三方よし」とは簡単に言うけれども、そんな簡単には見つけられないじゃないですか。
そういう時に、自分の中で「どういう思いを大切にしたいか」を見つけていくこと。そういう複雑なステークホルダーの思いをどうやってひもといていくのかは、すごく大事になってくるかなと思います。まずは語っているかが、すごく大事ですよね。
宇井:そうですよね。ちゃんと誰の願いなのかを語ること。あと介護だと、少なくともご本人と介護者と、購入を決める意思決定者の三方よしは絶対に取らなきゃいけないと思っています。
当たり前ですけど、みんなご本人のためにやっているので、まずご本人にとって良いかどうかがあって。たぶん順番を間違えなければ、三方よしはいけるかなとは思うんです。

ただおっしゃるとおり、行間を含めてそこの解像度をあげるためには、まずは語ってもらわないとわからないから。私は起業したあとに3年ほど、土日だけですけど介護職をやっていました。
いくらヒアリングに行っても、何回ビジネスコンテストで優勝しても、1人の介護職さんにも「Helppadが欲しい」と言ってもらえなかったんです。これは私が行間を読めなさすぎるんだなと思って、行間を読むために自分が介護職になったんです。究極のユーザー体験をしたら、だいぶ「こういう意味で言っているんだな」とわかるようになった。
小田:自分でその状況に身を投じていったわけですもんね。
宇井:そうですね。そうしたら、まず信用してもらえるから、本音で語ってもらえるんですよね。だからまず「宇井さんだったら聞いてくれるな」という状況を作って、次に語ってもらったものをちゃんと受信できるか。
小田:そこですね。ちょうど今、その質問がきています。「聞いたふりをしちゃうよね」と、(本音を)聞いた気になっちゃう話。
宇井:あぁ、なるほどね。いや、そうなんですよね。
小田:もっと言うと、みんな、自分がどうしたいかもわかっていないじゃないですか。それを「わかっている」「潜在的にあるはずだ」という前提に立っているのが、そもそも間違っているんじゃないかという気がしていて。
宇井:なるほどね。
小田:みんな、どうやって生きていきたいかを、その瞬間その瞬間、自分なりに探究しているはずで。そこに一緒にひたって考えていくことをしないといけないし、それができる場がちゃんとあるのか。
それこそ次のセッションにもつながるんですけど、大企業だと、それを「1年単位でやれ」となりやすいじゃないですか。宇井さんでさえ3年以上かかっているわけですよ。(それでも)「まだわかってない」と思うし。
宇井:(笑)。うん、そうですね。
小田:単年度で施策をやっていても、やはり出てこないですよね。
宇井:難しいと思いますね。ただ、私は最近株式会社GOさんがやっている「THE CREATIVE ACADEMY(以下、TCA)」に、受講生として通っているんですよ。
小田:急にクリエイティブ界隈に宇井さんが出てきたと思いました(笑)。
宇井:(笑)。なんでかというと、自分の発注者としてのレベルが低すぎたからなんです。例えば小国さんと話していても、そりゃ小国さんはプロだから、私がどんだけふわふわしたことを話しても、最後はピシッとまとめて「コンセプトはこれだ」と導いてくれるんです。でもすごく時間がかかっちゃうんですよね。
私のクリエイティブのレベルがもっと上がったら、もっと早くコンセプトにたどり着けて、製作物にもっと時間をかけられるんじゃないかな、と思って(TCAに)行き始めたんですけど。発注者のレベルを上げないと、語ってもらうのも難しいなと思うようになりました。
小田:そう、そう。結局デザインのクリエイティブもそうなんですけど、感性の部分なんですよね。アウトプットじゃなくて、「何がしたいか」「自分がどう思っているか」「どう感じているか」にひたすら向き合えるかが、入口にあるはずです。
ちゃんとそれができる場を作らなきゃいけないのに、その場がないままに「アウトプットしろ」と求めている。しかもそれを行動主義的に評価していく世の中になっていると、けっこう厳しいだろうなという感覚はありますよね。
宇井:そうですよね。TCAに通い始めて思ったのが、講師の人たちは、ふだんからものすごく世の中や人を観察していて。めちゃめちゃいろいろなことに気づき続けているんですよね。だからパンッて発注された時に、すぐアウトプットができるんだなと気づけたというか。

「なんでこんな短期間に、こんなにおびただしいプロジェクト数ができるんだろう」とすごく疑問だったんですよ。私は1個のテーマを15年やっているから「すごすぎる」と思ったんですけど。(そういう人は)観察をし続けている。
(例えば)スクランブル交差点(が見える場所)に座って、「今通った人の人生ってどんなのだろう」「さっきこんなふうに携帯をいじっていたから、実はこういう人なんじゃないか」とかを想像して、めちゃめちゃ考え続けていると言っていました。
宇井:あと新規事業のみなさんは発注をすることもあると思うんですけど、(クリエイターの方を)「どれだけ早く現場に連れて行ってあげるか」もめちゃめちゃ重要だなと思いましたね。
私は今後もクリエイターの方に発注する時は、とにかくプロジェクトのキックオフは介護現場に集合にしようかなと。変に資料を用意したり、Web会議で自己紹介している時間があったら、「とりあえず今日はここの施設に集合してください」のほうがいい。
小田:それ、すごくわかります。
宇井:(介護現場に)連れていって、職員さんとしゃべってもらう。しかもどっちかというと、自分たちが目指したい介護現場を体現している所に連れていって、「ここと同じことを、ほかのところでもできるようにしたいんだ」と。原風景・原体験を早々と渡してあげることが、クリエイターの人たちにできる唯一のことなのかなと(思います)。
小田:まさに。ジャッジする人も現場に早く連れていけばいいんですよね。ホンダさんには三現主義(現場・現物・現実)がありますけど、やはり現場にどれだけ触れられるかはすごく大事。
当たり前のようにわかっていても、(実際)「評価する人が現場に行っているのか」という話は、けっこう抜けている視点な気がしています。
宇井:あぁー……それはそうだね。
小田:本田宗一郎さんは自分で行くじゃないですか(笑)。最初は絶対にそうしたほうがいいですよね。
宇井:やったほうがいいと思います。私もTCAの課題が2週間に1回ガンガン出てくるんですけど、やはり現場に行ききれないんですよね。
小田:だってそんなに忙しいのに、なんで行けるんだろうなと思って(笑)。
宇井:(笑)。現場にぜんぜん行けなくて、ネットで知り合いの人にちょっと聞くぐらいで課題を出すんです。最後の最後まで顧客の顔が見えないまま課題を出すような感じで、すっごく気持ち悪いんですよね。だからほかの人はリサーチ力も含めてすごいなと思うんです。
だから、まずみなさんが当事者で、作る側だったら現場に行くし、誰かに作るのをお願いするんだったら現場に連れていく。それをどれだけ早く、回数を多く、深くできるかが重要。
宇井:結局スタートアップの土壌の耕し方も同じ気がしています。ここ(SHIBUYA) QWSさんは何も悪くないんですけど(笑)、ここに、もしケアテックスタートアップがいたら、ちょっと怒るかもしれない。毎日ここにいるんじゃなくて、「だったら介護現場に行こうよ」と。
小田:ここで介護していたらまた別ですよね。ここを現場にしちゃう。
宇井:そう、それはそれですごいので(笑)。例えばここに介護職さんに来てもらって話しているとかだったら、ぜんぜんいいんです。私も時々、気づいたら家から出ずに1日中Web会議で埋まっちゃったりするんですけど。そうじゃなくて、やはり現場に行かなきゃダメだなとは、すごく思っています。
小田:「そろそろお時間です」という指示がきていますので、セッション1ということで宇井さんでした。ありがとうございました。
宇井:ありがとうございました。
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