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新たな事業が生まれ続ける組織のつくり方(全7記事)

自分より優秀な人を採用できないスタートアップの経営者 aba宇井吉美氏の周囲を味方につける「巻き込み力」の秘訣

新規事業施策をリードする担当者や経営者に向けて開催された本イベントでは、「新たな事業が生まれ続ける組織づくり」をテーマに、新規事業家の守屋実氏、株式会社aba代表取締役CEOの宇井吉美氏がゲスト登壇。アイデアが育まれやすい環境を、組織の中でいかにデザインするかについて語られました。本記事では、宇井氏が人を巻き込む時に大事にしている哲学を明かします。

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新規事業で欠かせない「巻き込み力」

小田裕和氏(以下、小田):まずは宇井さん、(スライドの6つの問いを)ぱっと見てどのあたりが気になりますか?

宇井吉美氏(以下、宇井):そうですね。きっと経験豊富な話は守屋さんがしてくださるかなと思うので、私は右上の「人々を巻き込む上で宇井が大切にしていること」から。

小田:実は宇井さんは、博士論文も最初は「巻き込み力」を研究しようとしていて。

宇井:あー、そういえば、最初のテーマはそうでしたね(笑)。

小田:むちゃくちゃ苦戦するという。ずっと「巻き込み力とは何か?」というディスカッションをしていたかなと思うんですけど。

宇井:(笑)。テーマが難しい。

小田:今は(スタッフは)何人ぐらいなんですか?

宇井:今は役員と社員を入れて20名ぐらいと、業務委託の人を入れると30~40名ぐらいですかね。

小田:それこそ大学の同級生のエンジニアを巻き込んでいったりね。実は宇井さんは大学に入る時、先生を決めて入ってきているんですよね。

宇井:そうですね。

小田:千葉工大の通称「ドクターT」という富山(健)先生なんですけど。そこに行くって決めて入って、気がついたら富山先生もだいぶ巻き込まれていたんじゃないかなと。例えば事業を作っていく上で、大企業でも既存事業部の人を巻き込むのは当然大事になってきます。(今日の会場の)SHIBUYA QWSはけっこう巻き込まれたい人の集まりなので、どんどん巻き込まれていく節もあるんですけど。

「無自覚なブルドーザー」で人を巻き込む宇井氏

小田:どうしたらいろいろな人々を巻き込んでいけるのか。宇井さんの中で、あらためて今、大切にしてきたなと感じていることはありますか?

宇井:今回の登壇もそうですし、最近いろいろなところで「どうやったらそんなに人を巻き込めるんですか?」と聞かれるんですね。私はあんまり自覚がない、気づいたらみんながめっちゃ手伝ってくれているみたいな。

小田:無自覚なブルドーザーだったんですね。

宇井:そうなんです(笑)。無自覚なので、「え? なんでだろうね」と最初はそこから始まったんですけど。ただ最近ふと思い出したことがあって。

うちのCTOの谷本(和城)がジョインする時のことなんです。ちょうど年越しの時に、私は彼に電話をかけたんですね。本当は彼は大手電機メーカーで華々しい電子回路エンジニアとしての内定が決まっていたんですけど、1時間ぐらいかけて内定を蹴ってもらって(笑)。

彼がabaにジョインすると言わない限り、私はずっと電話を切らない……。年越しですよ? 大みそかにそれをやって、(彼も)根負けして「うーん、わかった。じゃあ、ちょっと聞いてみる」と1年間入社を遅らせてもらったんです。でも結局今、ゼロが1個増えて、10年以上一緒にやっているという(笑)。

小田:そうですよね。

宇井:彼は一番私に巻き込まれた方です。彼を口説く1週間ぐらい前に、当時仲良くしていた起業家に、「あなたは人を誘う時に、その人の人生を狂わせる覚悟を持っているのか?」とめっちゃ言われて、「確かにそこまでの覚悟は持ってなかったかもしれない」と思ったんですよね。

共同創業者を探しているのに、「その人の人生を狂わせたら悪いかな」という気持ちがどこかに残って「そういうことがあったら、絶対に人を誘えないんだ」と(その起業家に)言われて「確かに」と。

その人の人生を狂わせる覚悟を持っているか

宇井:ちなみに私はアホなほど純粋なんです。純粋というか、素直というか。その時「確かに」と思ったので、谷本を口説く時は「彼の人生を狂わせよう」と(笑)。

小田:あ、そっちへ行ったんですね。「狂わせてはいけない」ではなく。

宇井:あ、違うかな。「狂わせても幸せにしよう」と思って。

小田:なるほど。

宇井:謎の覚悟を持って彼に電話した感じですね。谷本にもたまに媒体などのインタビューが入るんですけど、「なんで宇井さんとずっと一緒にやっているんですか?」と聞かれると、「いやー、なんかわかんないけど、この熱に巻き込まれて、気づいたら10年経っていた」と言っていました。

小田:確かに、みんな「気がついたら」という人が多いですものね。

宇井:そう、「気がついたら」という。なので、あえて言語化するなら、「その人の人生を狂わせる気、ありますか?」。それに「イエス」と言わなきゃいけないんだなと思っています。

実は2023年に新しいプロジェクトを発足したんですけど、空間設計から場所の貸し出しまでは、CRAZY WEDDING(株式会社クレイジー)さんにお願いしたんですね。結婚式や企業の催事イベントをやってきたCRAZYさんにとっても、初めての試みだったので、本当に試行錯誤だったのですが、だんだんCRAZYさんも乗ってきてくれて。

最終的にすごく気合を入れて取り組んでくれて。イベント当日、私は朝6時ぐらいに行ったんですよ。開場は9時だったので、朝6時ぐらいのけっこう早くに青山の会場に行ったんですけど、CRAZYさんは全員いたんです。朝6時の時点で全チームがいたので、「え? 何時に来たんですか?」と聞いたら、「いや、徹夜しました」と(笑)。

小田:(笑)。もう巻き込まれて、そうなっちゃったんですね。

宇井:前の日に(その会場で)結婚式をやっていたそうなんです。「深夜にその結婚式を全部撤収して、そのまま設置を始めたら気になっちゃって、気づいたら朝になっていました」という(笑)。

小田:CRAZY WEDDINGさんには、お願いしたわけじゃないですよね。

宇井:いや、お願いしていない。普通に「集合時間は朝6時」と言っていたんです。そうしたら(朝6時には)みんながいて、全部の設置が終わっていて。こういうことも含めると、けっこういろいろな人が巻き込まれているなと思います。

自分より優秀な人に「お願いします」と言いまくる

小田:実はちょうど今、「創業しているけれど、巻き込み力が弱くて結局1人でやっちゃう」という質問が来ています。

「大勢でワイワイやるより、1人で好きなことをやるほうが好き」と書かれていて、どうしたら巻き込み力を上げていけるのか。宇井さんは別に「みんなで集まってワイワイやろうぜ」というタイプではないですよね。

宇井:ではないです。どっちかと言うと、自分で何もできないから、自分よりも優秀な人に「お願いします」と拝み倒していたら、いっぱい周りに人がいる感じに(笑)。

小田:確かに。宇井さんは「お願いします」とむちゃくちゃ言いまくっていますよね。

宇井:めっちゃ「お願いします」と言っている(笑)。それこそうちの会社は最近、「ありがとうを増やして、ごめんなさいを減らそう」を標語に掲げたんです。私はふだんから「ごめんなさい」を言いすぎていて、人に頼みごとをしまくっているから大変なんですけど。

小田:なるほどね。

宇井:めっちゃいろいろな人に頼んでいるから、ちょっとした「ごめんなさい話」がいろいろと派生しちゃうんですね。よく社長さんで「会社が潰れちゃったら、うちの社員たちの生活が不安だ」とおっしゃるじゃないですか。それは至極まっとうな経営者の心配事だと思うんですけど。

でも私はみんなの生活をあまり心配していないんです。というのは、みんな、私よりすごく優秀なので「たぶんうちの会社が明日潰れても、みんなすぐ転職できるだろうな」と思っています。だから(人を)巻き込む時には、本当にその人の人生を狂わせようと思っています。

小田:そうですね。

宇井:狂わせる相手に「プロジェクトに入ってくれなきゃやだ」と、いつも告白している感じですね(笑)。

自分より優秀な人を採用できないスタートアップの経営者

小田:これ、けっこう重要だなと思うんです。スタートアップをやる人は「自分の力でなんとかしたい」という感覚がすごく強いし、採用する時も、なんとなく自分が意思決定したい、アカウンタビリティ(説明責任)を持ち続けたいと思っていることが多い。だから、自分より優秀な人を採れなくて、うまくいかないケースが多いと感じています。

宇井:確かに。

小田:だから自分が「この人、すごいな」と思える人に、「お願いします。助けてください」と伝えて、その人の心を動かすこと、告白をして巻き込んでいくことを、どれぐらい自然にできるかが、すごく大事なのかなとあらためて感じましたね。

宇井:うちの会社の株主のなかに孫泰蔵さんの会社があるんですけど、泰蔵さんにも「本当にアホほど素直だよね」と言われます(笑)。

小田:(笑)。

宇井:それはいい意味もあって。だってそもそも私が起業した理由だって、「このまま大学にいたら、論文は書けても製品化はできないな」と悟って、どうしたらいいかをいろいろな人に相談したんですね。

そしたら「いや、組んでくれる(事業を一緒にやってくれる)会社がないんだったら、自分で会社を作ったらいいじゃないか」と言われて。それで「確かに」と思って、学生の時に起業した感じなので。「それで『確かに』と普通は思わなくない?」みたいな。

小田:そうですよね。だから「確かに」と思って行動する力ですよね。だいたいアクションを起こせない。

データをとるために、自らおむつを履いて排泄

宇井:そう。でも行動することは、特殊技能はいらないじゃないですか。さっき小田さんが言っていた、おむつを履いて、Helppadの上で排泄をして、データを取るのも、別にやればいいと思っちゃうんですよね。でもたぶんそれが難しいことなんだろうと、だんだん最近わかってきたんですけど。

小田:だんだんわかってきたんだ(笑)。

宇井:そう、そこはぜひここの会場にいる人を含めて解明してほしいと思っています。「やればいいじゃん。おむつを履いて、排泄したら世界で一番になれたよ」みたいな。

小田:だって、その動画をプレゼンで流しているんですよね。

宇井:そうそう。「私は今から排泄します」という動画を、みんなが見ている。「これは笑っていいのかな? 大丈夫かな?」と、「……なんだ?」みたいな空気が流れる(笑)。

小田:いや、すごいですよね。

宇井:でもそこは、私もまだちょっと言語化できていないところですね。

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