新たな事業が生まれ続ける組織をつくるには

小田裕和氏(以下、小田):では、さっそく今日のイベントに入っていきたいと思います。まず、今日の登壇者のみなさんを簡単にご紹介させていただきます。(はじめに)2つ目のセッションで登壇していただく、新規事業家の守屋実さまです。本日はよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

小田:もう1人は株式会社abaの宇井吉美さんです。

宇井吉美氏(以下、宇井):よろしくお願いします。

(会場拍手)

小田:守屋さんとは本(『アイデアが実り続ける「場」のデザイン 新規事業が生まれる組織をつくる6つのアプローチ』)の1章の巻末で対談をさせていただいた関係でして。宇井さんとは同級生ということで、まさに同じ大学の同じ研究室にいた時期があるので、今回お声がけさせていただきました。

僕自身の紹介になりますが、「考えたり作りたくなったり、気持ちが孵化していく場や道具をどうやったらデザインできるか」を1つの探究テーマに掲げて、いろいろなことをやっています。どうしたらみんながもっと試行錯誤したくなるのかをベースに研究や実践をしている人間です。

前段として、今日の最初の問いを立てるというか、お二人にどういう話を聞いていくかがわかるように、本のご紹介をさせていただきます。こちらが本の章立てです。「どうしたら事業が実り続けるような土壌環境を実現できるのか」をベースに置いて、執筆させていただきました。1章では、やればやるほど事業が生まれなくなっていく「負のスパイラル」のモデルをご紹介させていただいています。

やればやるほど事業が生まれなくなっていく「負のスパイラル」

小田:どういうものかと言うと、まず「アイデアを自由に出せ」と言われて出すことがありますよね。でも評価する側のまなざしは、(今までと変わらず)変化しないままジャッジすることがけっこう多いと思うんです。みなさん、新規事業施策をやられていても、(実際)評価者は、なかなかプログラムに関与していかないと。

そういうことをやっていると、何かアイデアを出しても、結局今の評価軸で評価されちゃう、「既存事業の汚染」とか「サクセストラップ」という言い方もあります。このように新しいアイデアを出してもなかなか評価されない状況は、けっこうあるんじゃないかと考えています。

その上で「失敗を推奨する」ことは、どの企業もやっている。でもそのわりに失敗には関心がないですよね。失敗したはいいけど、「あとは自分で学んでね」という状況が広がってしまっています。

こうなると結局、「やっても意味がないんじゃないか」という「学習性無力感」が形成されていきます。あるいは「何か主体的に学べ」と言われても、関心を持ってくれないことが続くと、誰も学ぼうとしなくなっていく。そんな状況も生まれていくんじゃないかなと思います。

「熱量がない」「もっと気合いを入れてやれ」と、上は現場のメンバーにらく印を押す……。「うちの社員、アイデアをぜんぜんうまく出せないんですよね。なんかいい方法論はないですか?」と、このあたりで僕たちにご相談がきます。

「正解探しの病」にかかるとどうなるか

小田:こうやって正しいプロセスや再現性ばかりを重視していくとどうなるか。「正解探しの病」と呼んだりしますが、「どこに正解があるんだろう?」という姿勢が強化されていきます。プロセスがだいたい一緒だと、出てくるアイデアもあんまり変わらないので、結局価格や仕様の競争に陥ってしまうことも、よくあるのかなと考えています。

こんな中で、どんどん研修施策を入れていくと、もうアイデアに頼るしかない。しかも既存事業が忙しいところでやっているので、みんなもあまりやりたくないですよね。衝動が枯渇しちゃったり、組織間の対立が激化していったり。

これを積み重ねていくと、ゆくゆくは「どうせ、ここにいても事業を作れない」と、やる気がある人はどんどん抜けていく状況に陥ってしまう。これがぐるぐる回り続けると、事業は生まれなくなっていくんじゃないかなと考えています。

今日はこれを前提に置きつつ、スタートアップにおいても大企業においても、新たな事業が生まれ続けていく環境や土壌をどうやったら耕していけるのか。

僕らも組織を耕したいと思っていますし、当然組織の中にいる人たちも、組織を良くしていきたいと思っていらっしゃると思うんです。そういった耕し手がどう社会に求められていくのかを問いの入り口にしながら、お二人にお話を聞いていきたいと考えております。

排泄センサーを開発したabaの宇井吉美氏が登壇

小田:まず最初のゲストということで宇井さんにご登壇いただきたいと思います。では宇井さん、よろしくお願いいたします。

宇井:よろしくお願いします。

小田:拍手でお迎えください。

(会場拍手)

宇井:よろしくお願いします。

小田:では、まず簡単に自己紹介をお願いします。

宇井:わかりました。みなさん、はじめまして、abaの宇井と申します。よろしくお願いします。ふだんは「小田ちゃん」と呼んでいるのですが、もともと小田さんと同じ千葉工業大学で、介護ロボットの研究開発をしておりました。

そこで研究開発していたものを製品化するために、学生の時に起業したのがもう13年前、2011年になります。今は、大学の時に研究開発していた排泄センサーを製品化して売っているという、一応起業家になります。

人間の鼻のように、においで排泄がわかるIoT製品

宇井:これがうちの製品です。この黒いベルトが中身の本体で、ここに「においセンサー」のチップが入っていて、ベッド上に置くと、においで排泄がわかるというものです。中身をくるんじゃうと、こんな感じになりますね。

そもそも何に使うものかというと、ベッド上で生活している高齢者・障がい者の方はおむつを履いて排泄をされています。これはまさに人間の鼻のように、においで排泄がわかるIoT製品です。「ベッドに敷くだけ」という手軽な部分も1つの特徴です。

どんなふうに通知をしてくれるかというと、ここにあるようにパソコンやスマートフォン、タブレットなどに通知が来て、(通知画面に)色がついていたらおむつ交換に行くべきで、色がついていなければ、まだ行かなくていいというかたちです。

実はスマホが普及している令和の時代でも、いまだにおむつ交換は、ひたすらおむつを開けてやっているんですね。開けて出ていたら換える、出てなかったら締めるという、超絶アナログな作業をやっています。

それがこの製品を使うと、「通知が来たら行く」をやればいい。言われてみれば当たり前なんですが、それが今までできなかったので、できるようにしたのがこの製品になります。

小田:ありがとうございます。僕がまだ学部生だった2011年に、宇井さんはこの製品を作られました。僕はデザイン科だったんですが、宇井さんは最初、未来ロボティクス学科というロボットのほうにいて、最後は僕の研究室に来て、博士課程の時に一緒だったと。

宇井:そうですね。

小田:その時は一緒に研究も見ながら、しかもお子さんも生まれるタイミングで。

宇井:そうそう(笑)。

小田:かつ事業も作っていたので、本当にとんでもないバイタリティだなと。ご自身で排泄されてテストしたりもしていて、みんなで驚愕していたんです。卒業してから5~6年ぐらいですよね。

宇井:もう5~6年ぐらいですね。

小田:2023年のIVSのLAUNCHPAD(スタートアップイベント)でも優勝されて、非常にご活躍されているということで。

宇井:いえいえ、ありがとうございます。

大学に通いながら介護現場で働いていた

小田:僕らの指導教官の長尾(徹)先生が見ているかどうかはわからないんですけど、今日はこうやってお話ができて、非常にうれしい瞬間だなと。さて今日はこういった問い(スライド)を用意してきております。6つの問いを考えてきたので、こちらをベースにしながらお話を聞いていこうかなと思います。

まず1つ目は、宇井さんの「なんとかしたい」という気持ちです。最初は大学に通いながら、実際に介護現場で働かれていたんですよね。

宇井:そうですね。

小田:そこまで「なんとかしたい」という思いで動いている。この心の動きはどこからくるのかという話ですね。

2つ目は、例えば今の介護現場にはいろいろな価値観があって、製品の価格にもいろいろあると思うんですけど、そこを問い直して乗り越えなきゃいけない。そういったところで、起業家として何をされてきたのか、何を大切にしてきたかということ。

ブルドーザーのような巻き込み力

小田:3つ目は、あとでちょっと話すんですけど、宇井さんといえば「巻き込む」ですね。言い方はあれですけど、いろいろな人をブルドーザーのように巻き込んでいくんですね。

宇井:けっこう、そうですね(笑)。

小田:本当に気がついたらみんなが巻き込まれていて、Helppadのロゴも、僕の同級生が最初は考えたり。

宇井:ああ、そうですね!

小田:事業を作っていく上で絶対に欠かせないとなった時に、どうやったら巻き込めるのか、何を大切にされているのかというところ。

4つ目が、スタートアップに関して。宇井さんもスタートアップ界隈だと本当に有名人になったわけですけど、やはりスタートアップの土壌も耕していかなきゃいけないとなった時に、どう耕していくのか、どんな土壌を作っていくべきなのかという観点。

5つ目が、問い直したいアントレプレナーシップ(世の中の課題に新しい解決策を打ち出し、リスクを恐れず立ち向かっていく精神)の常識。ちょっと派生するんですけど、アントレプレナーシップでもいろいろと大事だと言われているんですが、あらためて宇井さんの中で、「今はこういうことを大事にしたいんだよな」というところ。

アントレプレナーシップに向き合ってきたかどうかはわからないんですけど、「なんかちょっと違和感があるな」というのは、どういうところかという話。

最後は、ミノリバ(『アイデアが実り続ける「場」のデザイン』)という本についてですね。僕もフィードバックをたくさんいただきたいと思っているので、ぜひ現場の目線から、あえて注文をつけるとするならば……ということをお聞きしたいです。僕はまったく現場感がないままやっちゃっているところもあるので、ぜひ突っ込んでいただけたらなと思っています。

これらを聞いていきたいなと思いますが、「ぜひこの質問を聞いてほしい」というものがあれば、先ほどの右上、質問のQRコードからご投稿ください。こちらでも見ながらやっていきたいと思います。