「急なトラブル対応」をなくすための策
——第1回では、マネージャーの罰ゲーム化の現状を変えるための「チームレジリエンス」の考え方を教えていただきました。ここからは、マネージャーの大きな負担にもなっている「急なトラブル対応」をなくすための具体的な策をうかがいたく思います。まずは、トラブルを未然に防ぐためにチームでどういったことをやっていけばいいのか、お伺いできますでしょうか?
池田めぐみ氏(以下、池田):トラブルを未然に防ぐには、「チーム基礎力」を高めておくことが大事だと思っています。困難が起きた時、あるいはすごく大変な状況が続いていて、冷静に問題に対処しなきゃいけない時には、そもそものチームの状況が、ある程度良好じゃなきゃいけないんですね。
私はテニスをやっていたんですが、試合ではそもそも基礎体力がないと、途中で体力が尽きてしまって、相手に勝つ以前の問題になってしまうんです。一方で、ふだんから基礎体力があれば、試合でちゃんと相手と戦える。それと同じように、チームの基礎的な状況、チーム基礎力を整えることが、トラブルを防いだり、トラブルに強いチームになるために必要なのかなと思います。
そのチーム基礎力が、ここに挙げた5つです。まず1つ目は、チームが一体感を持つことです。ただけっこう多いのが、チームとは名ばかりで、職場でなんとなく集まってるみたいな状況。これに対して、「自分たちが何を目標としてるのか」が、個々に腹落ちしている状況を作ります。
さらに、感情の共有。さっきの会議の話もそうですけど、個々人がどんな時にどう思ってるのか。あるいは「チームの目標を達成できなくて悔しい」とみんなで共感できるような一体感を、ふだんから意識して作ることが大事です。
「チーム基礎力」を上げるために必要な要素
池田:あとは心理的安全性ですよね。困難の種を見つけて先に摘んでおくと、管理職の仕事にプラスして(トラブルに)対応しなくちゃいけない事態を防ぐことができます。トラブルを防ごうと思った時に、今のチームの悪い点を共有しなくてはいけません。
例えば自分の作った書類でミスがあった時に、「大事に発展しそうだけど、リーダーが怖くて言い出せない」という場合。結局さらに大事になって、火消しにすごく体力を使って、管理職が大変になってしまう。
そういう事態を防ぐためにも、日頃から安心して、自分が間違ったことを言ったら指摘されたり、あるいは誰かが間違っていることを指摘できるような、心理的安全性を作るのが大事です。
あとは、困難を乗り越えるという点で言えば、適度に自信を持つこと。「自分たちなんかどうせダメだ」みたいな空気がチームに蔓延してると、がんばって戦うことができません。他のチームがうまく乗り越えた事例を聞きながら、「自分たちのチームもうまくやっていけるんだ」って気持ちを持つ。
あとは、状況に適応する力。要は一人ひとりがリーダーに依存せず、うまく動くことが大事になってきます。いざ大変な時に「勝手に動いてね」と言っても、急にはできないと思うので、ふだんからみんなが自律的に動けるように、適応する力を育てることが大事です。
最後にポジティブ風土も大切です。そもそもマネージャーが大変でチームの業績も不安定で、嫌なことが連続していたりすると、ストレスや不安が伝染します。みんなが一緒に落ち込んでがんばれない、「もうしんどい」みたいな状況にならないように、ポジティブな風土を作っていく。これってリーダーだけじゃなくて、例えばすごく明るいメンバーの意見に対して「そういうことを言うの、いいね」って褒めてあげる。
大変な時に「でもこれって、○○に比べれば大丈夫ですよね!」とか言ったとしたら、「○○くん、いいね!」みたいに褒めて、ポジティブな空気を伝染させて風土を作っていく。トラブルになる状況を未然に防ぐために、こういった風土を日頃から育てることが大事だと思っています。
犯人探しで重たい空気…トラブルが起きた時の話し合いのコツ
——チーム基礎力の5つの要素を鍛えておくことで、トラブルを未然に防げるんですね。先ほど「ポジティブな風土を作る」とおっしゃっていましたが、困難にぶつかった時に、チームに嫌な空気が流れたり、犯人探しに陥ってしまったり、話し合いで誰も発言しない状況もあると思います。そうした際の対処法はありますでしょうか。
池田:本当に困難にぶつかった時って、「誰のせいなのか」ということを明確にしようとするあまり、チームで誰かを攻め合うことが、増えてしまうんですね。ただ本来、チームでやってるんだったら、例えばAさんのミスがクリティカルに失敗につながったとしても、上長も確認する必要があったかもしれない。あるいは他のメンバーの人も、ダブルチェックをすべきだったり。
たぶん1人でする仕事ってほとんどないので、他の人にもある程度は責任があるはずなんです。でもみんな自分のせいになるのが嫌だから、誰かのせいにして終わらせがちです。
犯人探しを避けるコツは、目的をしっかり提示してあげること。「この振り返りの場は、こういう場です」という定義をせずに、「次のために何かしら振り返ろう」みたいな感じで適当に始めると、「あいつのせいだ」とか「あそこが良くなかった」みたいに言って終わることが多くなりがちです。
そうじゃなくて、まずリーダーや場をファシリテートする人が、「次に似たようなことがあった時に、より良く対応するヒントを得るために、この振り返りの場を設けていますよ」と言った上で、振り返りやミーティングをすることが大事です。
そうは言っても、すごく大変(なトラブルがあった時)だと「あれがいけなかった」とか言いがちなんですけど。とにかくこの目的を大きくホワイトボードに書いたり、あるいはZoomで映しながらやっていく。
誰かを責め始めたら「いや、今のはちょっと良くないですね」「今回は次に活かすためにやってるので、対策の提案もお願いします」という感じで軌道修正していくのが大事だと思います。
「仲が良いチーム」の落とし穴
池田:これとは対照的ですが、そういうのを嫌がるあまりに、大変な状況が過ぎたら「お疲れ~、大変だったね! 飲みに行って終わりにしよ!」とか。何も反省せず打ち上げして終わり、みたいなケースも実は問題です。
——チームの仲が良すぎると、「空気を悪くしたくない」となってしまうんでしょうか。
池田:まさにそうだと思います。仲が良すぎたり、空気を壊したくない人たちは、やっぱりすごく多いと思うんですよね。特に若い子たちは「人間関係を崩したくない」って思ってるというデータもあります。
仲のいいチームだと、チームレジリエンス(チームが逆境に適応し、回復や成長をしていく力)が低いと自覚していなかったり、「仲がいいから大丈夫だろう」って思いがちなんですけど。困難に直面してる時やその後は仲がいいだけじゃダメで、ちゃんと困難から教訓を得ること。振り返って、「次に何ができたのかを考えていこう」って示してあげることも大事だと思います。
チームの「持病」を特定する
——困難に場当たり的に対処してしまったり、次も同じことが起きるループに陥らないために、こうした振り返りが重要だということですね。
池田:そうですね。チームってそれぞれ「持病」を持ってるんじゃないのかなと思います。 まずは自分たちが陥りやすい困難を振り返って、年に1回ぐらいは「自分たちの持病は何か」を考えることが大事だと思います。
例えば年に1回、「今年パフォーマンスが落ちた時はいつだっけ」とか、「その時どんな被害が生じたか」「二度と経験したくない困難は何か」を振り返る。「うちのチームって、3月は締め切り間近で大変になるよね」とわかったら、「どうすれば来年は解決できるか」を考えることができます。
「次はどうしていくのか」を考える時は、マニュアルを作るだけじゃなくて、ルールや役割に落とすと定着しやすいと思います。
例えば炎上を繰り返してしまう広報チームの場合。マニュアルに書いても担当者が変わったら読まないこともあると思うので、「SNSに投稿する時は、担当者3人で確認しましょう」といったルールを作ると、1人の判断に任せずやっていける。自然と炎上が防げる仕組みができていきます。
あるいは、そもそもそういったトラブルを起こしやすい人もいると思うんですよ。さっき「犯人探しはしないほうがいい」って話をしたんですが、とはいえ向き不向きで困難の種をまいてしまう人もいると思うんですね。
あんまり言葉にセンシティブじゃない人だと、特に悪気はないんだけど、SNSで炎上しやすいとか。そういった場合は、そもそも担当を変えると事故を防げたりするので、自分たちの持病を特定した上で、単にマニュアルを作るだけじゃなくて、役割分担やルールに落としていく。それを活きた教訓にしてあげると、困難のループから抜けられるのかなと思いますね。