起業で大事なのは「オリジナリティ」

岡田友和氏(以下、岡田):みなさんの中で、逆に聞いてみたいことはありますか?アカデミアとビジネスサイドで、いろいろ異なるところもあるのかなと思うのですが、いかがでしょうか?

若宮正子氏(以下、若宮)「オリジナリティ」とありましたが、何かオリジナリティがあれば、起業のネタになるわけですよね。みなさんがやっていることをベースにしただけでは、起業できないと思います。

今までやったことのないこと、流行ったことのないものを取り入れていかないと、起業に結びつかないと思うんです。ですので、少しでも人と交流しながら、人の反応も見ていくことがすごく大事なんじゃないかと思うんですね。

「こういう仕事を考えたんだけど、こういうものはどうだろう?」と。「そんなの無理だよ」と言われたら、「何が無理なのか」と。自分の考えを自分だけであたためるのではなく、人と交流したほうがいいと思うんです。

私は現役時代、銀行員だったのですが、ある時「インスタントラーメンを作って売ろうと思う」と言う人がいました。これが成功したら、「銀行でお金を貸してください」という話につながっていくと思うんですね。

そこにいた人はみんな、「ラーメンをインスタントに? そんなもの食べられるもんか。絶対に売れないだろう」と。結局、彼は成功しなかったのですが、今はみんな、「インスタントなんとか」の時代になっています。

だから、今までにないものを見つけて、起業に結びつけていく。オリジナリティを大事にしていくにはまず、子どもや若い人がそういうことを考えついた時に、否定だけはしないことが大事です。「それ、おもしろい。もっと研究してみたら? だけど、こういうところに気をつけたほうがいい」というやり方で、支えてあげることが大事なんじゃないかと思うんですね。

今までのように、お父さんやお母さん、学校の先生が、せっかくのアイデアをみんなで潰して、「先生の言うことや教科書のとおりに考えなさい」というのでは、スタートアップに結びつかないですよね。

東大の中でも「光っている」学生の特徴

岡田:ありがとうございます。そうですね。「オリジナリティ」というキーワードがかなり頻発しましたね。

僕個人を振り返ってみた時に、受験勉強して、いい学校に入って、いい会社に入るのがよしとされる時代が、ちょっとずつ変わってきているのかなと思っています。そこを目指して勉強していた人たちは、「オリジナリティ」と言われると、困ってしまうと思うんですよね。

まさに東京大学で学生の方と相対することが多い横山さんに、「このあたりは今どうなっているんですか?」と、現場の声をお聞きしたいです。

横山広美氏(以下、横山):ありがとうございます。本当に優秀な学生さんがたくさん入ってきてくださって、大学としてはとてもうれしいんです。でも、ある意味画一的に、同じような教育を受けて、同じように育った人たちばかりが来るのが、我々東京大学の悩みなんですね。

「ダイバーシティをもっと高めたい」ということで、新しいタイプの大学・学部を作る計画も持ってはいるのですが、教員から見て「この子は光っているな。おもしろいな」と思う子は、素地がちゃんとしているんですね。

しっかりと基礎的な学力はあるけど、どこか飛び抜けて、変にこだわり続けて、自分のおもしろいと思ったことをやり続ける。教員から見ると、そういう何かしらの力を持っている方が、とてもおもしろいなと思います。

「自分なりの問い」を見つけるには

横山:どうしてその方が、自分の問いを見つけられたのかというと、日々の生活に対して、感度がすごくいいからだと思うんですよね。「自分はこういう苦労をしてきた。本当はこれをやりたかったんだけど、今までできなかった。だけど今、これが可能になるかもしれない。それだったら、自分はそこに貢献したい」と。

自分の身の回りの世界にすごく感度がいい学生さんが、自分なりの問いを見つけて、そこで瞬発力を発揮できる。そういう社会人に育っていくのかなと楽しみに見ています。

でも、それは若い人だけではないんですね。経験を積んで、企業で長年働いてきて、私よりも年配になってから、「やっぱりこれはおかしいから、自分はこれを追求して社会に貢献したい」と、新しい問いを見つける。そのタイミングは、若い時とは限らないと思います。

私は東京大学で、所属が2つあります。数学・物理の研究所に本所属があると同時に、「情報学環」という、メディアとコミュニケーションの大学院にも所属していて、そこから学生さんを受け入れています。そちらは、社会人学生や留学生の方も、とても多いです。

大学院自体がダイバーシティな環境なので、学生間の学びもすごくよく回っているのですね。ですので、「東京大学自体がもっとダイバーシティに開いていかなきゃいけない」と思いますし、その中で学生同士の学びが深まるんじゃないかなと期待しているところです。

今は自分たち自身の単色化した東京大学、たぶんみなさんから見えている東京大学を、いかに壊しながら、新しくしていくかに挑戦したくて。みなさん、ぜひ来ていただけるとうれしく思いますので、よろしくお願いします(笑)。

岡田:年齢制限もないですものね。

横山:はい。年齢制限もぜんぜんありませんので、ぜひよろしくお願いします。

AIに比べて省エネな人間の脳

岡田:時間も差し迫っているのですが、八尾さんにお聞きしたかったことがあります。お子さんが3名いらっしゃるということですが、「お子さんにはこういう学びの方針を示している」といったものがあれば、ぜひお聞きしたいのですが、いかがですか?

八尾麻理氏(以下、八尾):私は、学びについては個人に任せているような、ちょっと放任主義な母親かもしれません(笑)。それがいいかどうかは実験中で、まだ答えは出ていません。しかし私個人が考えることは、今、横山さんのお話にあったように、「感度の高い学生はどこから生まれるのか」で、そこがすごく気になるんですね。

人間は、本当にいろんな感覚器官を持っていて、外的な情報から得ているものがすごく多いと思うんです。AIはものすごく電力を消費することで知られていますが、人間の脳は、1日使っても20ワットくらい、LED電球1個くらい(しか消費しない)と言われているんですね。「こんな省エネのものを、なぜみなさん使わないの?」ということなんですよ。

ですので、私は子どもたちが小さい時から、エジプトやミャンマーやカンボジアなど、そこら中に連れ回していました。そこで子どもが何を学んでいたかはさっぱりわかりませんが、「いろんなところに行ったよね」という記憶は、小さい時からあります。

私自身は現代アートがすごく好きで、建築も大好きなんです。そういったところで、いろんな物の見方があることを自分自身が体験して、体感して、それを新たな学びにつなげていきたい、アウトプットしていきたいという気持ちが強いです。

岡田:ありがとうございます。ものすごくおもしろいですね。何が学びになるかもわからない。それこそ、正解なんて1回取っ払って、自分が楽しいものとか、自分の感度をちゃんと尖らせていくことが大事なのかなと思いました。

生きていることは、学んでいること

岡田:お時間が来てしまいました。結論を言うと、自分が興味関心を持って、能動的に学ぶことが重要です。「おもしろがり屋」「ワクワク」というキーワードもありましたが、「学ぶことは楽しい」ということだと思います。

最後に、今日来てくださったみなさんに一言ずついただいて、この会を締めたいと思います。八尾さんから、横山さん、若宮さんの順番で、オーディエンスのみなさんに一言ずつお願いします。

八尾:今日はお会いできて、本当にうれしいです。先ほどもお話ししたとおり、学びはみなさん自身の、今後100年時代のウェルネスにつながると思います。ぜひ、生涯の学びを身につけてください。

(会場拍手)

岡田:ありがとうございます。では、横山さん、お願いします。

横山:生きているということは、日々新しいことに出会って、それを解決したり、自分なりに処理したりしなければならないことが、次々起こることだと思います。それ自体が、まさに学びです。

生きていることは、学んでいることだと思っています。きっとみなさんも、今現在すでにいろんな学びをされていると思います。ですので、一緒に学び続けて、この社会をよくしていけたらと願っています。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

「学ぶことができるのは幸せ」

岡田:ありがとうございます。では若宮さんお願いします。

若宮:学ぶことができるのは幸せだと思うんですよね。私たちが子どもの時は、学校で授業をやっていませんでした。私たちは学童疎開をしていましたし、私の兄の世代の人たちは工場で働かされていたから、学校に行けませんでした。もっと上の世代は、応召して外国に行って戦争していたので、やはり勉強ができませんでした。

でも今は、勉強ができる時代になってきました。昔は夜間大学に行っていた人も多かったのですが、今はインターネット上でもずいぶん勉強できます。やろうと思えばいつでも勉強できるのは、やっぱりすばらしいことだと思うんです。ですので、こういう時代に1つでも2つでも、ぜひ何かを学んでください。がんばってください。

(会場拍手)

岡田:ありがとうございます(笑)。みなさんと前室で話していた時も、「学ばなきゃいけないことはない」というワードが出てきて、まさにそうだなと思いました。「こうじゃなきゃ正しくない」ということは一切ないと、我々も思っていますし、たぶんみなさんもそう思っている。それを見つけていくのが楽しさであり、学びなのかなと思いました。

あと何十年もあります。みなさん「若手」ですので、今日の話を踏まえて、学びを再考していただければいいのかなと思いました。以上とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

(会場拍手)