「お客さまからのフィードバックを得やすい状態」を作るためには

高橋浩一氏:「お客さまからのフィードバックを得やすい状態」を作ると成長スピードは上がるんですが、なにも(「上司が教えない会社」で有名な)ネッツトヨタ南国さんをそのままマネするだけが道ではありません。いろんなやり方があります。

例えば「同行の際にヒアリング」。マネージャーが同行している商談で、「当社に対してポジティブに思った瞬間」をマネージャーからお客さまに聞くということです。平たく言うと、お客さまから褒めてもらうということですね。

ただ、メンバーが自分でお客さまに「うちのことを褒めてくれませんか?」なんて言えないですから、例えば日頃の仕事ぶりとか、お客さまに対して「当社がやっていることについて、どういうふうに感じられていますか?」みたいな話をマネージャーが振る。

「いやぁ、本当に御社はよくやってくれますよ」みたいな声が聞けたら、それって成長にとってはものすごくプラスだということですね。それを上司が助けてあげるということで、これは1つのお膳立てですね。

あるいは「単独商談の演出」ということで、良い状態にあるお客さまとの商談にて、「今日はお客さまからフィードバックをもらってきて」と指示を出す。商談に行く前に、あらかじめ良い感じの商談ということがわかっていたら、メンバーに対して指示を出すわけですね。

「今日は私は一緒に行かないけれども、お客さまからフィードバックをもらってきたら?」というのを指示として出すわけですね。良い状態にある商談ということは、当然お客さまからのお褒めの言葉があったりしますから、自信になったりします。これも1つのお膳立てですね。

若手育成のカギを握るのは「停滞」への対策

そして「お客さまとの10分電話商談」。私はこれを『営業の科学』やいろんな本でも解説しておりますが、10分電話商談をする前に、「お客さまがうちの会社に対してどういう印象をお持ちか聞いておいたほうがいいよ」と伝える。どういうことかと言うと、お客さまの印象や感想的なものを、電話の中で隙あらば尋ねるように仕向けるということです。

さらには「フィードバックの仕組み化」ということで、受注や失注の決定場面のヒアリングをルール化するということです。これも私はいろんなところで言っています。具体的にはこんな感じです。

当社の場合ですと、受注しましたとなったら、どの場面で受注が決定したのかを聞いて、みんなに共有することが報告のルールになっております。この時に、「タイミング」とか「受注要因」をけっこうつぶさに聞くんですね。ですので、メンバーはこれを通してスキルアップしていくという仕組みになっております。

ここまでのポイントを簡単にまとめさせていただきます。「成長のセオリーを押さえた育成のポイントは?」ということなんですが、成長というのは連続ではなく、断続で起こるんですね。ですので、「停滞」への対策が重要であるということです。大半は停滞です、ということをお伝えしました。

学習段階の途中で停滞が続きすぎないように、行動を促進する「報酬」が必要です。「きっかけ」「行動」「報酬」がつながると、メンバーは「もっとこの行動をしよう」というふうになります。

これがうまくつながるための報酬についてなんですが、「やりきった成功体験」というのは、もちろんある程度インパクトはあるんですが、「お客さまからのフィードバック」はものすごく即効性が強いということですね。

メンバーや部下がいらっしゃる方は、特にお客さまからのフィードバックをメンバーが得られるような環境作りをしていただくといいんじゃないかなというところです。

ニーズや課題を顧客がはぐらかす理由

続いては「若手をブレイクスルーさせる育て方」ということなんですが、難易度を調整して育成するということです。お客さまからのフィードバックまでたどり着かないメンバーっていますよね。そもそも独り立ちができていない、というシーンがあったりするわけじゃないですか。

さて、どうしたらいいでしょうか? そもそものことができなかったり、「お客さまと会話ができていないんじゃないか?」というシーンはありますよね。ここでは具体的な例を挙げて解説をしていきたいと思います。

例えば、お客さまからのヒアリングがうまくできないというメンバーがいます。ニーズや課題を聞かせていただけない。聞いても、表面的なところだけ聞いて終わってしまう。これは、一因としては「お客さまがはぐらかしてくる」ということもあります。

『営業の科学』の中でも書きましたが、ニーズや課題をお客さまがはぐらかしてくるのはなぜなのかということで聞いてみると、「強引に売り込まれるのを避けたいから」「あえてすべてを伝えず、営業担当者のお手並みを拝見したいから」というのがあります。

営業を始めたばっかりぐらいの人にとっては、これがなかなか高いハードルなんじゃないでしょうか。とはいえ、このままにしておくわけにはいきません。

もちろん、トレーニングで引き上げてあげることは必要になってくるわけなんですが、私はまず真っ先に、マネージャー側が「難易度調整」をしていただくことを強く推奨します。難易度の調整って、すごく大事なんですね。

どんなレベルの営業でも絶対にできるヒアリング方法

どういうことかと言いますと、例えば「課題が聞けない」というメンバーがいたとします。これは当社の営業資料なんですが、極端な話、これを読めばいいぐらいのレベルになっていますね。

「どんな課題感を持たれていますか? ぜひお聞かせください」ということで、顧客の課題感を聞く時の資料です。①とか②とか、番号が付いているんですね。お客さまからすると、番号を答えていただけたら、ある程度は情報として課題を伝えることができます。

こんなバージョンのスライドもあります。「どの部分のKPIを強化したいですか?」ということですね。これは何かと言うと、難易度の調整をやっています。すなわち、こちらのスキルレベルが十分でなくとも、成果が出しやすいような環境を作っている。

これは具体的には営業ツールになるんですが、例えばメンバーが課題のヒアリングをする時に、「こういうふうに聞けばかなり良いヒアリングができる」というふうに作ってあります。

「御社の課題は、こちらのスライドの何番に近いですか?」というふうに尋ねることって、ある意味誰でもできますよね。そうしたら、「もう少し詳しく聞かせていただけますか?」「他にはいかがですか?」となる。これをやるだけでだいぶヒアリングができます。

もちろんヒアリングは奥が深いです。ですから、これを聞くというのは、ある意味で最低限の土台にはなります。もちろんもっともっと上はあります。ただ、そもそものところでつまずいている人には、このぐらい易しくしてあげることが必要じゃないでしょうか。

そうすると、こういう意見が出てきます。「高橋さん、あんまりこっちが助けてあげすぎると、メンバーの成長につながらないんじゃないですか?」。そこで、難易度についての考察を深めていきたいと思います。

挑戦意欲が一番そそられる成功確率は何パーセント?

実は、「どのくらいの難易度だと、みんなが取り組もうと思うのか」ということを実験した人がいます。ジョン・ウィリアム・アトキンソンさんという方ですね。子どもたちを集めて輪投げを使った研究なんですが、どのくらい遠くから投げるかは自分で決めていい。的に対して、近くから投げたほうが簡単で、遠くから投げると難しいわけです。

投げる前に、「あなたは投げるというトライに対して、確率としては何パーセントぐらい成功すると思っていますか?」と聞いて、それに答えてもらってから投げてもらいました。「成功確率20パーセントだけど、がんばります」という人はけっこう遠くから投げて、「成功確率80パーセントだと思います」という人はけっこう近くから投げるわけですよ。

(投げる位置を)選ばせた時に、子どもたちが一番多く選択したのは「50パーセントの確率で成功する」と思われる地点なんですね。すなわち、50パーセントの成功確率が一番挑戦意欲がそそられるということです。この「難易度の調整」というのはとても大事な概念です。

人が「ハマる」ための6要素

別の角度から、「人がハマるための6要素」と書いておりますが、よく人が没頭したり夢中になるものってありますよね。例えばスマホやSNSは、まさにそういうことが計算しつくされたプロダクトだと思うんですが、これが人のどんな心理に働きかけるのかということも、いろんな体系的な研究があるんです。

その中で、人がハマるためには6つの要素がありますのでご紹介していきます。まずは「目標」の設定。ちょっと手を伸ばせば届きそうな魅力的な目標があること。これ、さっきの話にかなり近くないですか? ちょっと伸ばせば届きそうな魅力的な目標、成功確率50パーセントですね。

そして「正のフィードバック」というのは、抵抗しづらく、また予測できないランダムな頻度で報われる感覚があること。毎回うまくいくというのでもダメなわけですね。うまくいくとわかっているチャレンジは、誰も燃えないということです。

そして「進歩の実感」は、やっていきながら段階的にレベルアップしていく感覚があること。「難易度のエスカレート」は、徐々に難易度が増していくタスクがあること。「クリフハンガー」は、解消したいが解消されていない緊張感があること。

このあたりを見ていくと、やはり難易度の調整ってすごく大事なんだなっていうことが、いろいろと見て取れるんじゃないでしょうか。「社会的相互作用」というのも、もちろん大事なポイントではあるんですが、6要素のうち5つの要素は難易度に関係していますね。

もう少し身近なところからいくと、藤井聡太さん。将棋の世界でなくても国民的大スターですから、知らない人はいないぐらいの有名人ですが、彼が若いうちに将棋をどんなふうに覚えたかということが、本の中で語られているものがあるんですね。最初はどんなふうに将棋を指していたかということで、おもしろいエピソードがあります。

最初はおばあちゃんが相手だったんですね。「祖母はルールもおぼつかないぐらいの初心者だったので、すぐに勝てるようになって、それでどんどん将棋がおもしろくなりました。勝つ楽しさをスタート段階で味わえたのが、モチベーションにつながって良かったのかもしれません」と。これは今の藤井聡太さんじゃなくて、本当に最初の覚えたての頃です。

だから、最初は同じぐらいの初心者を相手に将棋を指していたということですね。ただし、もちろんこれだけではすぐおもしろくなくなりますし、上達も途中で止まってしまいます。