営業のプロが語る「若手をブレイクスルーさせる育て方」

高橋浩一氏:みなさん、こんにちは。TORiX株式会社の高橋浩一です。非常にお忙しいところ、ご参加いただきまして誠にありがとうございます。本日は「営業1万人に聞いた『若手をブレイクスルーさせる育て方』 ~『修羅場で人は育つ』に潜む誤解をファクトで解き明かす~」というテーマでお話をしていきたいと思います。

まずは、簡単な自己紹介をさせていただきます。営業の研修やコンサルティングを提供している、TORiX株式会社の代表を務めております、高橋浩一と申します。

私は、新卒から2年半ほど外資系のコンサルティング会社で働きまして、その後2003年、25歳の時に独立・起業しました。アルー株式会社という、人材企画のベンチャー企業ですね。こちらは3人のメンバーで(創業して)、私は会社のナンバー2という立場で事業や組織全体の統括をする役割なんですが、6年ほど役員を務めておりました。

6年経つと、3人のメンバーで始めた会社が70名ほどになりました。その中で、やはり一番力を入れていたのが「みんなが売れる営業の組織作り」というところです。新卒メンバーを毎年採用して、そして倍・倍のスピードで大きくしていく組織の中で、売上目標を達成していく。これが私の当時のミッションだったわけなんです。

その中で一番重要なポイントの1つは、営業の体系化にあるなということを感じまして、おかげさまで営業に関する本をいろいろと執筆させていただく機会に恵まれました。『無敗営業』が一番反響があった本ですが、最近出した(2024年)4月の『営業の科学』という本は、発売2週間で2万5,000部を超えるということで、非常に反響をいただいております。

上司のアドバイスを成長のきっかけと認識する営業の割合

では、これから中身に入っていきたいと思いますが、みなさんにこんな問いかけをさせていただきます。「上司のアドバイスによって成果を上げられるようになった」と言っている営業パーソンは、100人中何人ぐらいだと思いますか? よろしければチャットにお書きいただきたいと思います。

(コメントを見ながら)「5人ぐらい」という回答が続きましたね。ありがとうございます。だいたい10パーセントから15パーセントくらいが多いでしょうか。

実際は8.6パーセントです。上司のアドバイスを成長のきっかけとして認識する営業パーソンの割合ですが、こんなふうに「あなたが営業として『成果を上げられるようになった』『一皮むけた』きっかけは何ですか?」ということで、回答をいくつか並べています。

例えば、「お客さまから感謝の言葉をいただいた時」「お客さまからの本音を聞けた時」「大型案件を受注できた時」とか、このあたりが上位の回答ですね。「直属の上司からのアドバイス」というのは、比較的下から数えたほうが早いスコアです。

もしすでに部下やメンバーがいらっしゃる方は、これを見ると「えっ?」と、ショックを受けられるかもしれません。でも、ここは早とちりせず、ちょっと落ち着いていただきたいところでありまして、上司からの指導やアドバイスが意味がないということではないんですね。

営業1万人調査でわかった、組織としての課題点

今日ここで問題にしたいのは、「偶発的な成長」と「再現性のある成長」の違いです。どういうことかと言いますと、成長には理由があるということなんですね。そこで今回は「若手をブレイクスルーさせる育て方」ということで、3つのアジェンダでお話をしてまいりたいと思います。

1つ目は「科学的な成長のセオリーを押さえる」。2つ目は「『難易度』を調整して育成する」。3つ目は「経験学習サイクルを回す」です。

まずは「科学的な成長のセオリーを押さえる」からいきたいと思います。営業1万人調査の中で、こんな質問をしてみました。組織について5,073人に聞いた質問なんですが、「あなたの所属するチームが、組織として成果を上げていく上での『課題』は何だと思いますか?」と聞いているんですね。

そうすると、「トレーニングや教育によるスキルアップが課題である」という声はけっこう上位で、上から3番目ですね。一番上は「意欲や士気の高さ」、2番目が「営業を支援するツールの構築や展開」、3番目が「トレーニングや教育によるスキルアップ」ということです。

一方で「『強み』や『得意』とすることは何ですか?」と聞きました。項目は同じですが、「メンバーに対するトレーニングや教育によるスキルアップ」は下のほうに来ています。

これが意味するところは何かと言うと、「トレーニングや教育によるスキルアップ」が課題だと思っている度合いは強いけれども、実際にうまくできていると思えている人は少ない。こういう現状ですね。なぜこのような構造が生まれるんでしょうか? ちょっと考えてみたいと思います。

「営業なんて簡単だ」という世界が作られてしまう背景

これは『営業の科学』でも書いたことなんですが、営業組織のトップにいるような方って、基本的に壁を乗り越え続けた超人であることが多いですよね。

商材やビジネスモデルで差別化できなくても売ってしまうし、勝てる戦略がなくても売ってしまうし、営業のやり方を教えてくれなくても売る。そして、最初はなかなか結果が出なくても、へこたれずにがんばり続ける。

ここまでいくと、いわゆるハイパフォーマーとなるわけなんですが、全部の壁を乗り越えられる人はごくわずかなわけです。そうすると、超人の方はよく「営業なんて簡単だ」というふうにおっしゃるわけです。

「営業なんて、そんな丁寧に教えてやらなくてもできるようになるだろう」と言われたら、ミドルマネージャーの方は「いやー、そうですよね。結局、基本的なことをちゃんとやるかどうかですよね」となり、そうすると心の中では「それで売れるようになるなら苦労はないんだけど、会社でトレーニングしてほしいとは言えないな」となるわけです。

なぜそうなるかと言うと、「基本的なことをやれば売れるでしょ?」と言われたら、「トレーニングしてほしい」と言っても、マネージャーの人の能力不足というふうに映ってしまうわけですね。「だって、それは君らの仕事でしょ?」みたいに言われてしまったら、何も言い返せないわけじゃないですか。

「営業ってそんな難しいことをやらなくても売れるじゃん。君らがちゃんとした基本を教えてあげればいいんだよ。よろしく」って言われたら、もうそこで終わってしまうわけです。

成長とは「連続」ではなく「断続」である

もし、「営業なんて簡単だ」という世界で組織が染まってしまうと、どういうふうになるか。それを考えていくにあたってよく言われるアドバイスなんですが、「目標達成を意識しなさい。お客さんと関係を構築しなさい。そして大量に行動せよ。そうすればいつか成果が上がるよ」と言われるわけです。

これは言っていることはぜんぜん間違っていないし、本当にそのとおりだと思うんです。ただ、もう少し具体的に成長するための助け舟を出したり支援をしたほうが、やはり成果は上がりやすいという現実があります。

「しかし、どういう支援をすると効果的なのか?」ということが、恐らくみなさんが知りたいことではないかと思いますので、今日の始めのパートでは「成長のセオリー」についてお話をしていきたいと思います。

まだチャットには書いていただかなくてかまわないですし、その場で想像いただければ十分なんですが、何かができるようになる時ってどんな上達曲線を描くと思いますか? 縦軸がレベル、いわゆる習熟度やスキルの度合いで、横軸は時間軸となっています。ここからスタートした人は、どんなふうにレベルアップしていくんでしょうか。

ここに1つのセオリーがありまして、こんな感じが理想の成長であると言われています。詳しくは『達人のサイエンス』という本に書いてあるので、興味のある方は読んでいただけたらと思います。

マスタリーの学習曲線というものがあって、マスタリーというのは「上達」で、上達の学習曲線があります。「成長は連続ではなく、断続である」ということなんですね。

どういうことかと言うと、最初は「停滞」から始まるわけです。いきなりは上達しないですよね。ある時、急に上がる。その反作用とも言えるわけなんですが、急に上がったら少し下がる。それで、また停滞が訪れるということです。すなわち大部分は停滞なんですよね。

ということは、上達がスムーズにいくようにするにはどうしたらいいのか。裏返すと、「行き詰まりやすいパターンを押さえて、手を打てばいいんじゃないか」という話になります。さあ、これをどういうふうに考えていきましょうか? というのが今日の話です。

上達の途中で行き詰まってしまう3つのタイプ

上達の途中で行き詰まってしまう、典型的な3つのタイプがあります。「ダブラー」、すなわち「飽きっぽい」というのは、一回停滞から上昇したら、なんとなく「わかったぞ」という気になってしまうわけです。そうすると、また停滞するのがちょっとあほらしくなってしまうというか。

半分希望的観測だと思うんですが、「だいたい自分はわかったんだ」というふうに思い込んで、「さらにそこから上達しよう」というよりは、「別の世界へ行こう」となるわけですね。だから、もう1回間を空けて、別の世界でもう1回チャレンジする。

よく「ジョブホッパー」という表現がありますが、「もうこの会社で学ぶべきことは学んだ」ということで、早期に転職を繰り返すような方はやはりいらっしゃいます。それが良い悪いとか、是非はいったん置いておいて、まず1つはダブラーという飽きっぽいタイプがあるということです。

2つ目のタイプは「オブセッシブ(せっかち)」で、いわゆるがんばり屋さんですね。猛烈にがんばってしまうわけです。ただ、猛烈にがんばる分は後でしわ寄せが来ます。ガタガタになってしまうんですね。

停滞のところで、本来は穏やかな状態であるところが、調子を崩してしまったり、体を壊してしまったりするわけです。いわゆるバーンアウトもここに含まれるのかもしれません。

3番目は「ハッカー」というタイプです。停滞、そしてスパート、ちょっと下降する。そしてまた停滞、スパート、ちょっと下降する。そして次に停滞したら、ずーっとその状態に慣れてしまうといいますか、これに対して違和感を抱かなくなってしまうことになります。

もしみなさんのチームのメンバーがこんな状況になったら、どうしていったらいいのか。

対処法としては、いわゆる飽きっぽい方に対しては、そのスキルの奥深さを伝える。せっかちな方に対しては、成長スピードの適切な時間軸を伝える。「人生はマラソンだよ」とよく言われますが、そんなに焦らずやっていこうよということですね。そしてハッカー(のんびり屋さん)に対しては、フィードバックと適度な失敗体験を盛り込むということになります。