日本で4人目のプロファイラー浅井隆志氏

浅井隆志氏:株式会社PDCAの学校、代表取締役の浅井隆志でございます。

私は前職で営業マンをしていた時、会社ではあまり教育や研修がなかったので、本を読んだり、いろんなセミナーに参加したり、自分で勉強していました。

営業やプレゼンテーション、傾聴やヒアリング、それから心理学もけっこうたくさん勉強しました。相手の使う言葉から行動特性を分析するプロファイリングの資格も持っています。あまり表に出していませんが、実は日本で4人目のプロファイラーなんです(笑)。

心理学や、人間がどういう時にどのような行動をとるのかといった学問を勉強して、営業やマーケティングに活かしたり、最終的には営業マネージャーとして、部下の育成や指導にも活かしました。

もちろん、人と接しているとイラっとすることやモチベーションが下がることもありましたが、それを乗り越えてきました。心理学や脳機能など、さまざまなことを勉強して、その中で多くの学びを得ました。

今日はアンガーマネージメントについてお話ししたいと思います。「アンガー」は「怒り」のことです。アンガーマネージメントは7~8年前にかなり流行りました。書籍もたくさん出ています。

しかし、一般的なアンガーマネージメントについて語るだけでは物足りません。せっかくこのウェビナーにご参加いただいているみなさんには、浅井流のアンガーマネージメントについて、一般的にはあまり知られていない角度からお話ししたいと思います。

怒りに接した際に人が示す2つの反応

よく「感情的になってはいけない」と言われます。負の感情や怒りの感情はあまり表現すべきではありませんが、「残念だな」とか「悔しいな」、逆に「うれしいな」「楽しいね」という感情は共有すればするほど、チームは作りやすくなります。チームビルディングの初期段階では、「感情の共有」は非常に重要ですので、感情の出し方についてもお話ししたいと思います。

心理学的な視点から見ると、怒りを相手にぶつけると相手の反応は大きく2つに分かれると言われています。まず、怒りをぶつけると相手は「萎縮」します。簡単に言うと、相手がビビる状況です。

例えば、みなさんが飲食店のスタッフだとして、お客さまから理不尽なクレームを受けた場合を考えてみましょう。最近、カスタマーハラスメント、いわゆる理不尽な要求やハラスメントに対する法整備の話が出ています。「おい、どうなってんだ! この野郎」といきなり言われると、「うわ、こわっ」と感じますよね。それがトラウマになって出勤できなくなったり、精神疾患を引き起こすこともあります。

ですので、怒りなどの感情をぶつけられた相手の反応のパターンの1つは萎縮です。相手の心にネガティブに響く傾向があります。

もう1つ、「反発」も起きます。

例えば、みなさんが非常に強いメンタルを持っているとしましょう(笑)。お客さまから理不尽なハラスメントを受けたらどう思いますか? メンタルが強ければ「この野郎」と思いますよね。相手がお客さまであれば、面と向かって「お前ふざけんなよ」とは言いませんが、「申し訳ありません」と言いながらも、心の中では「うわ、最悪な客が来た」と思ってしまうわけです。

これを社内に置き換えてみると、上司から理不尽なパワハラ的な叱責を受けた場合も同様です。「うるせぇよ」とか「お前が自分でやれよ」とは言えないので、「自分の意識が足りませんでした。申し訳ありません」と謝ります。しかし、心の中では「うっせぇな、なんでそんなこと言われなきゃいけないんだ」と反発が芽生えるのです。

怖いと思うか反発するかのどちらかですが、いずれも離職や退職といった弊害につながります。

一般的なアンガーマネージメントの限界

一般的なアンガーマネージメントについてお話しします。代表的なのが「6秒ルール」です。人間の怒りは瞬間的なものなので、1、2、3……と6秒間とにかく言葉を出さずに待ちます。イラっとして口に出すと、とんでもないことを言ってしまいます。なので、一呼吸置いてから行動するという「6秒ルール」があります。

2つ目は「スコア法」です。スコア法とは、「前回イラっとしたのは何点、今回は何点。前回と比べたらまだ点数が低いから、今回は言わなくていいかな」というように、怒りの度合いを点数で評価する方法です。

一番現実的なのは、3つ目の「離れる」ことです。夫婦関係でも、ちょっと喧嘩したら1回距離を置くのは有効かもしれませんね(笑)。これは一番実践しやすい方法だと思います。

4つ目は「捨てる」。「怒りの感情を捨てましょう」と言われますね。

でも、どうでしょうか? イラっとして6秒我慢できるかどうか、冷静に点数をつけられるかどうか。イラっとした時はその場を離れるのが一番良いと思いますが、感情的になっている時に自分からその場を離れるという選択肢はなかなか出ません。「怒りの気持ちを捨てる」と言われても……。

なので、私は一般的なアンガーマネージメントに対してはかなり批判的です。「それができたら苦労しないよ」というのが本音だと思いますが、どうでしょうか? 6秒我慢できないから問題なんです。冷静に点数をつけられないから問題なんです。その場を離れられないし、怒りの感情を捨てられないから問題なんです。

普通なら言わないような嫌みったらしい言い方をしてしまうのは、なかなか改善できないからです。これら(4つの策)はそもそも冷静だからできることで、私はできないと思っています。

「6秒ルールは大事だ!」と思っている方には申し訳ありません。「6秒ルール」を否定するというより、私はできないと思っています。「私は」できないのです。

期待と第一感情・第二感情の関係

私が常に心がけていることがあり、今日はそれをお話ししたいと思います。前提として、心理学の要素が含まれますが、人間の感情は第一感情と第二感情に分けられるという理論を用いて説明します。

まず、第一感情と第二感情の切り分け方についてです。怒りの感情は特殊で、第二感情とされています。喜怒哀楽の中で、怒りを除く「喜・哀・楽」の感情は第一感情です。

怒りの前には「期待」があると考えます。期待が裏切られた時に「残念」という第一感情が生まれ、それが第二感情として表に出るのが、怒りのメカニズムだと思います。

期待がなければ第一感情も第二感情も生まれないのです。例えば、奮発して1泊10万円の高級温泉旅館に泊まりに行ったとしましょう。食事は遅くおいしくない、あまりないと思いますが部屋が散らかっている(笑)、接客態度がいまいちだったとしたら、どう感じますか?

「ふざけんなよ」「悪い口コミを書いてやれ」と怒りが出ますよね。でも、その手前には「残念」という第一感情があり、そのさらに前には「きっとすばらしいおもてなしで、すばらしい思い出ができるだろう」という期待があります。このように、期待が裏切られた結果として残念という第一感情が生まれ、それが怒りという第二感情につながるのです。

ということは、期待がなければ第一感情は生まれないし、第二感情も生まれない。だからといって、部下に対する期待を捨てましょう……というわけではないんですよ(笑)。そうではなくて。

ちなみに私が世界一好きな食べ物、死ぬ前に食べたい食べ物、1日3食を1週間続けても飽きない大好物は、吉野家の牛丼です(笑)。

よく吉野家に行きますが、店員さんがオーダーを取りに来るのが遅いとか、お水を持ってくるのが遅いとか、混んでいて提供が遅いとか、接客態度がいまいちとかでも、イラっとしません。なぜなら、そんなことは期待していないからです。期待しているのは、「吉野家のおいしい牛丼を食べたい」ということだけです(笑)。

でも、10万円払って温泉旅館に行って、女将さんやスタッフの接客態度がいまいちだったら、たぶんイラっとします。期待しているからです。

人間は期待があり、その期待が裏切られると第一感情の「残念だな」とか「悔しいな」が生まれ、それが怒りという第二感情につながるのです。怒りが強いために、その手前にあった期待や第一感情を忘れてしまい、怒りだけが表に出てしまう。そして、怒りをドーンと出すと、先ほど言ったように、相手は萎縮するか反発するかのどちらかです。

部下のやる気とパフォーマンスを引き出す上司の接し方

では、部下に対して怒りをドーンとぶつけ、きつく叱るという状態はどうでしょうか。「わかってほしいから、きつく厳しいことを言う」というのは、はっきり言って逆効果です。萎縮を生み、萎縮すると緊張状態で言葉が出てこず、体も動かなくなってしまいます。

余談ですが、スポーツ選手などが「ゾーン」という言葉を使います。非常にパフォーマンスが良い状態を指しますね。これは緊張状態ですが、適度な緊張状態です。交感神経と副交感神経が同時に働いている状態で、適度な緊張が体のパフォーマンスを最大限に引き出すと言われています。しかし、緊張状態が過度になると体が固まり、パフォーマンスが落ちます。

ですから、部下に恐怖政治的に厳しく指導し管理すると、部下のパフォーマンスは著しく低下します。この現実を理解していただきたいと思います。

では、最良の感情表現は何でしょうか。感情表現は大事です。相手のモチベーションややる気を引き出すためには、期待と第一感情をしっかり伝えることが重要です。そして、第二感情は伝えないことです。第二感情を伝えると、離職やパフォーマンスの低下、生産性の低下、業績の低下という損失が生じます。損得でアンガーマネージメントを考えるほうが、最良の結果をもたらすと考えます(笑)。

重ねてお伝えしますが、チームは「やったね」とか「うれしいね」とか「楽しいね」、あるいは「今回はすっごく悔しいよね、みんながんばったのにさ」といった感情の共有が重要です。

例えば、甲子園の球児たちが1回戦や2回戦で敗退して優勝できずに泣いている時、「とても残念だけど、いい思い出ができた。みんなよくがんばった」と伝えることで、結束が深まります。これは、感情を共有しているからこそ生まれる絆です。

仕事では「感情を抜きに」とか「ドライに」と言われることもありますが、それがその会社のスタイルであればそれで良いでしょう。しかし、私はチームビルディングにおいては感情の共有が必要だと考えています。常に期待を伝えるマネージメント、常に第一感情を共有するマネージメントが非常に大事です。

感情を共有することで、チームの結束力やモチベーションが高まり、結果的にパフォーマンスも向上します。ですから、部下やチームメンバーに対しては、期待や第一感情をしっかり伝え、感情を共有することを心がけてください。これが、私の考える最良のマネージメント方法です。