中小企業の経営者が抱える2025年問題

入山章栄氏(以下、入山):『ここからは「事業承継は今」というテーマでお送りしていこうと思います。とにかく今、日本中で同族経営の継承問題がとても重要です。ここでうまく若い世代が跡を継いでいけるか。

もともとご家業にはすばらしい技術や人材やブランド、社会的な貢献が埋まってるんですよね。ただ、それがもしかしたら、先代の中では十分に新しい力が芽生えないかもしれない。でも若い跡継ぎが入ってくると、化学反応が起きてどんどん変わってくるのを、僕も今日本中で見ています。なので、この「アトツギ甲子園」もベンチャー型事業承継も、本当に期待しています。

そのあたりの実情や現状について、まず山岸さんからおうかがいしてみたいと思うんですけど、この跡継ぎの現状はいかがですか。

山岸勇太氏(以下、山岸):入山先生には釈迦に説法ですけど、この事業承継には2025年問題というのがあります。これは何かと言うと、2025年になると、国内に330万事業所がある中で、70歳以上の中小企業の経営者が245万人です。なので70パーセント以上の経営者が70歳以上を迎えることになります。

そうすると、経営者が高齢化して、いよいよ残りの経済力がどれぐらいになるのかっていうところで、本当に経営者不足、後継者不足の問題が出てきます。

入山:2025年問題って言ってますけど、要するに来年ですからね。

山岸:確かにそうですね。そのうち、おおよそ半分ぐらいが後継者未定となっているので、課題のど真ん中になってきてるなと感じていますね。

事業承継の問題をどう解決するか

入山:山岸さん、どうすればいいと思います? もちろん事業承継者がいるところは「がんばって継いでください」ってことですけど、必ずしも承継者がいるところばかりでもないじゃないですか。

そういった会社を、例えば「残念ながら廃業をせざるを得ないよね」って考えなのか。それとも、最近はいわゆるM&Aって言いますけど、別の会社に買収してもらって、従業員の方にそこで働いてもらう考え方もありますし。どういうかたちでこの2025年問題を解決していけばいいと思われていますか。

山岸:後継者がいない会社が半分と言いましたけど、これはもっと深掘りをする必要があると思っています。例えば同族承継する相手がそもそもいない会社さんもいると思いますし。同族承継する息子・娘はいるんだけど、ぜんぜん切り出してないとか。「まだそういうつもりがない」みたいなところもたくさんあると思っています。

前者に対しては、さっき言ったM&Aとか第三者承継という別の事業承継の手段が取れると思うんですけど、この同族承継でまだ息子、娘がぜんぜんやる気になってないとか。そこに対して、打てる手段はたくさんあると思っています。

入山:例えば、比較的まだ古い考えの先代だと、息子さんには継がせたいけど、「娘にはこんなつらい経営なんかさせたくないから、お嫁に行ってくれ」みたいなパターン。

山岸:めちゃめちゃありますよね。

入山:そのへんの意識を変えてもらえれば、娘さんの中でも継ぎたい人はいるかもしれませんもんね。

家業を継ぎたいけど、親に反対されるパターンも

山岸:そうですね。我々も今、ベンチャー型事業承継の中で「アトツギファースト」という39歳以下の後継者のみなさんで勉強するコミュニティを運営しています。国内で450人ぐらいに入ってもらって、日々勉強してるんですけど。

最近は娘さんの跡継ぎで、「家業を継ぎたいけど親に反対されていて、どうしたらいいですか」って言われたり。お嫁さんで「継ぎたい」という人がたまに来ていたり。

入山:そういう時はどういうアドバイスをされるんですか。

山岸:我々はコンサルタントではないのですが、悩みを持つ若い後継者のみなさんの指導役になる、メンターの組織を持っています。国内で少しだけ先に事業承継を成功された、おおむね40代の先輩経営者のみなさんの母集団で、110名ぐらいにご協力をいただいています。

入山:あ、そういうメンターみたいな、事業承継のメンターのグループがあるんですね。

山岸:そうです。なので、そのみなさんに「自分の時はこういうふうにして先代を説得したよ」とか「隣の経営者はこういうふうにやったよ」というたくさんの選択肢をお伝えすることを、我々は支援としてやっています。

入山:そんなの教科書に載ってないもんね。

田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):リアルな声を聞きたいですよね。

先代と向き合うきっかけがないと、すれ違いが起きやすい

入山:西野さんは今の2025年問題の現状をいかがお考えですか。

西野文貴氏(以下、西野):めちゃめちゃ課題だと思いますね。確かに、もっといろんなものを深掘りしないと見えてこない気がします。「跡継ぎがいない」と言ってる中で、それが第一次産業なのか、第二次産業、第三次産業なのか。やっぱり100年前ぐらいは第一次産業が7割を占めてたのが、今たぶん逆転してるような状態にあるので。

社会背景の中でどういうふうにそれを打破するのかは、たぶんその当事者だけではなく、みんなで考えないとなかなか解決できないだろうなって思いますね。

入山:なるほど。西野さんご自身はいかがですか。まさに最近代表になられたわけですけど、その前からも含めて、事業承継される時って、どのへんが難しいところだったんですか。

西野:単純に給与の面に関して言えば、僕がやっている今の仕事って、どちらかと言うと第一次産業に近くて。

入山:森林業ですからね。

西野:苗木を生産して販売するというのは、そんなに高付加価値がつけられないし、いわゆる林業に見られがちです。昔の林業って言うと、3Kで危険・汚い・きついみたいな。「いや、これはたぶん厳しいな」「これ自体が課題だな」って思ったんですけれども。

やっぱり「親父がやってたから自分もやらなきゃ」っていう使命感があって向き合ったんですけど。なかなかそこに向き合うきっかけがないと、けっこうすれ違いは起きやすいのかなって思ったりしますよね。

入山:お父さんのやってきたことに向き合わないと、うまくいかない。

西野:1回膝を突き合わせて、がっちり話をして、お互いが持っている強みと弱みをノートで書き出してみるとかすると、「そこを打破できるのであればやってみたい」って気持ちが、湧いてきたりすると思うんですよね。

いろんなことを話すとやる気も出てきて、「あ、そういう思いならやってみようかな」みたいな。

スタートアップにはない強み

入山:西野さんはグリーンエルムに入る前の「鎮守の森プロジェクト」に関わられていますが、大学生の時に、お父さまとそういう機会があったんですね。

西野:ありましたね。小学生ぐらいの時から植樹祭って呼ばれるお祭りに親父に連れてってもらったりしたことがちょいちょいあったので、僕はけっこうラッキーなほうだったと思ってます。自分の親父の職業を身近に感じていましたし、重要性も感じていましたね。

入山:「継ぐか継がないか」の前に、一度膝を突き合わせて、お父さまがやってきた思いとか考え方を聞いたわけじゃないですか。その時に西野さんとしては、「自分ならこうやって改善して変えられるかもしれない」とかをきっと感じられたから、跡を継いだわけですよね。

西野:おっしゃるとおりで、例えば僕らの話で言うと、けっこう商売的にファックスが多かったんですけど。

入山:林業はファックスが多い。

西野:他はわからないんですが、「これをインターネットに変えたら一気にできるんじゃないか」と。自分の中で頭の変換ができると、すごく楽しさが出てきました。

入山:おもしろい。これ、普通のスタートアップにはない考え方だよね。

田ケ原:そうですね。今の業務をどう改善できるかも、1つ切り口になるというか、強みになるわけですもんね。

入山:「俺の世代なら超えられるぜ」って思えると、だんだん自分もやる気が出てくる。

西野:本当にそうだと思います。なんでも物事はそうだと思うんですよ。「自分には無理だ」って言われてても、「こうやったらできるんじゃないか」って思った瞬間に、気持ちのスイッチが切り替わってやる気に変わってくる。

事業承継の現場で見られる、先代と跡継ぎの関係性の根深さ

入山:山岸さん、今のお話はいかがですか。

山岸:これはもうめちゃめちゃ跡継ぎあるあるだと思いましたね。

入山:そうなんだ。「どういう跡継ぎだとうまくいくか・いかないか」って質問を山岸さんにしようと思ってたんですけど、先代ときちんと向き合えるかが大事だと。山岸さんはいろんな人の事業承継を見られてると思うんですけど、まずは先代から逃げないというか、きちんと向き合える人が強いってことなんですかね。

山岸:そうですね。向き合えって言っても、跡継ぎど真ん中の人で「本当に親が嫌いだ」っていう方もたくさんいるんです。もともと先代が経営してるところに「自分は10年後の社長です」って入って来るという、上下を完全に越えられない段階で、そりゃまともに話なんてできない。服従関係しかできないですよねと。

とはいえ跡継ぎはやっぱり時代(の変化)を感じているし、既存の家業のビジネスモデルじゃ10年後に食っていけないって肌感覚でわかってる。それで先代に歯向かうと、先代は気に食わないから喧嘩が起こるっていう。これが国内で起こっているたくさんの事業承継の現場だと思います。

入山:西野さんの場合は、お父さまとの関係はどうだったんですか。

西野:僕がそこを打破するきっかけとしては、すごく話したのもあるんですけど、その話すきっかけとして、親父が書いた文章を読んだ時に、「あ、話したほうがいいな」と思いました。

というのも、頼まれて森関係の記事を書いたものなんですけど、熱意とか書いてあって、「あぁ、こういうことを思ってるんだ」ってすごく感じたんですよね。話すとどうしても感情論になったりするので、文章で読んだのが、ある意味最初の入口のコツだったのかなって思いますね。

入山:夫婦関係がそうだもん。口でしゃべると喧嘩になるんですよ。

田ケ原:まあそうですよね。

入山:だけどLINEとかメッセンジャーでやり取りすると、普通にお互い理解して交流できるんですよ。

田ケ原:確かに。

入山:対面で会った瞬間、やたらお互いに感情的になるんだよね。それの親子版ですね。

先代を理解するための3つの方法

西野:いや本当にそうですね。僕の中では理解する方法は3つあると思っていて、1つは「なるほど、こう思ってたんだ」と頭で理解する。(2つ目は)自分で実際に働いて植物を育ててみて、体で理解していく。最後、これが今でもなかなか難しいんですけど、心で理解する。創業者である親父がどう思ってやってきたのかを、今ちょっと消化しているところですね。

入山:タガエミちゃん、お二人に何かありますか。

田ケ原:やっぱり感覚でやってる経営者もまだまだ多いのかなと思った時に、テキストで残っていることってなかなかないですよね。そのあたりをどうここから打破していくのかが気になります。

入山:山岸さん、西野さん、いかがですか。

山岸:これは西野さんに聞いてみたいですね。

西野:正直に言って、僕は好き勝手させていただいたプレイヤーとしては、もう10年ぐらいになるんですけども、コーチの仕事としては、正直まだまだ初心者でして。まだ自分が経験してないことを迎え打つ時に、親父がアドバイスとしてくれることもあるんです。でも実際は社会ってそんなに甘くなくて、今の時代ならではの新しい問題が出てくるので。その波を乗りこなすにはセンスも必要かなって、今感じてますね。

入山:うーん。山岸さん、いかがですか。

山岸:ベンチャー型事業承継のミッションとしては、事業承継の感情の部分を科学するところがキーワードだったりします。感情以外の変数の部分をどう解き明かしていくのか。今みたいに「心で伝えると良いのか」みたいなこととか、そこの手段は、先代だと手紙とかかもしれないけど。

今の世代の西野さんが30年後に事業承継をするんだったら、PodcastとかSNSかもしれないですよね。このあたりは、これからもっと研究していきたいなというのが、今の正直な意見ですね。

先代の友だちと飲みに行く

入山:それこそメディアをうまく使うとか。例えば地方のラジオ局とか、地方のコミュニティなんちゃら新聞とかあるじゃないですか。ああいうところで先代に取材してもらって、「どういう思いで会社を継いできたのか」を聞く。そういう仕事の人たちって聞き出すのがうまいし、お父さんとお母さんもメディアの前だと当然一生懸命話すから、そういうのを使うのもありかもしれないですね。

山岸:めっちゃおもしろい。

西野:うーん、確かにね。

山岸:あとはこれもよく聞くのは、大阪の僕たちのメンターの人は、親父の友だちから親父の情報をいろいろ聞くと。

入山:ふだん息子のことをボロクソ言ってるけど、陰で「あいつは意外と見込みがある」って言ったりするわけですよね。

山岸:そうです。仲のいいゴルフ仲間のおじさんと一緒に飲みに行って、親父の情報を聞いたり、逆にお父さんに伝えたいことを、その仲のいい人とコミュニケーションをとって(伝える)みたいなこともよく聞きますね。

入山:これはベンチャー型事業承継の顧問としての僕の提案ですけど、ベンチャー型事業承継って、メディアをやればいいんじゃないの。

田ケ原:オウンドメディアをやるとか。

入山:つまり、継ぐほうにフォーカスを当てるけど、継がせるほうとの関係が当然重要。かつ、今、西野さんがおっしゃったように、継がせるほうと向き合わないと継げないと。その時に直接向き合うと感情論になるから、文字とか、何か別の媒介があったほうがいい。

その媒介を、ベンチャー型事業承継がやったほうがいいんじゃないですか? 「お父さまはどういう気持ちで、20~30年この会社をやってこられたんですか」とか。

田ケ原:「どうやって乗り越えたんですか」ってね。

入山:その人も先代から継いでる3代目、4代目かもしれないから。

山岸:そうなんですよ。

“経営者のバトン”はいきなりもらえない

入山:「どういう思いで継いできたんですか。30年間どうやってきたんですか」「一番大事にしてることはなんですか」みたいなことを、取材風にインタビューする。それを「Webサイトにぜひ掲載させてください」って言って、一応一般にも公開するんだけど、実質跡を継ぐ人に見せるわけです。こういうのはどうですか。

山岸:いや、めちゃめちゃやりたい。おもしろそうですね。今の入山先生のご提案に僕もアイデアを足すと、今回の西野さんのように2代目の人は、渡すほうも受け取るほうも初めてっていう状態ですけど。3代目以降になると、受け取るのと渡すのって1回すでにサイクルとしてやってるわけじゃないですか。ただ2代目も、やっぱり30年前に受け取った時の気持ちを忘れている。

入山:あー、そうね。その時は同じ思いをしてるんだよね。

山岸:それを掘り起こして……。

入山:「当時の気持ちを思い出せ」と。

(一同笑)

入山:今息子は(当時の自分と)同じ気持ちなんだぞと。

山岸:「お前も先代(のやることを)を嫌だと思ってただろう。一緒のことをやってるぞ」と。

入山:いやぁ、おもしろい。西野さん、今の山岸さんと僕のアイデアはどうですか。

西野:(笑)。いいと思いますね。やっぱり渡す側はなかなか言いづらいことがあったりするので。それを違う媒体で言いやすいようにしたり、マニュアルみたいなのを作って、「ここにとりあえず記入してください」とか、何かしら違うポイントで渡すのがいいんじゃないかと思います。でも一気に渡せるもんじゃないっていうのは、今正直すごく感じました。

やっぱり親が30年間ぐらいずっと経営してきたものを、今マラソンのバトンゾーンでちょうど渡してもらってる時だと思うんですよね。

そのバトンの重みが、30年経営したものの歴史や伝統とかやり方。いきなりバトンをもらえるかって言うと、実はぜんぜんもらえなくて。やっぱり一緒に並走する期間がすごく大事だなと思っています。前の社長が言いづらいことを、違う媒体で発信するのはいいなって思いました。