営業改革をされる側・支援する側からの知見

浦野裕三氏(以下、浦野):よろしくお願いいたします。簡単に自己紹介をさせていただければと思います。ケンブリッジのコンサルタントの浦野と申します。今日はメインスピーカーでお話しします。

私はわりと営業改革、営業部門のご支援の経歴が長く、それに加えて、以前事業会社で私自身が営業マネージャーとして営業改革をされる側としてやってきましたので、今日は営業改革をされる側とご支援をする側の両方の立場からお話しできればと思います。

今日のセミナーは営業改革の理論編となりますが、ぜんぜん堅苦しいものじゃないので、気楽に聞いていただければと思います。では堀之内さん、よろしくお願いします。

堀之内幸氏(以下、堀之内):ケンブリッジの営業責任者の堀之内と申します。よろしくお願いいたします。私もケンブリッジにはけっこう長くおりまして、いろんなお客さまと仕事をしています。

特に営業系の改革の仕事もいくつかやっていますし、今日も触れますけど、我々ケンブリッジ自身が営業の改革をしてきたという体験も同時に語れるかなと思っています。今日はよろしくお願いいたします。

浦野:ありがとうございます。さっそく進めてまいりたいと思います。今日はコンテンツが盛りだくさんなので、時間いっぱいかかっちゃうと思うんですけれども。何か質問等ありましたら、チャットでどんどんいただければ、返せる部分はお話ししていきたいと思います。

高度化・複雑化している営業の仕事

浦野:今日の狙いは大きくこの3つです。いわゆる営業改革という取り組みがなんでうまくいかないのか。どう進めればいいのか。その上でどういう打ち手があるのか。そういったところをできるだけ具体的に、例を交えながらお伝えしていきたいと思います。

やり方に入る前に、営業や営業に関わる方がどういう課題感を持っているのかというところを、みなさんと認識合わせをしていきたいと思います。

営業の方がカバーする範囲は、最初に計画や戦略を立てるところから、提案して請求や回収をして、それからフォローするところまで。会社によってさまざまだと思うんですけれども、かなり幅広いと思うんですよね。

その上で最近は特に、会社が新規事業に参入して、どんどん新しい商材が増えてきたといったケースも多いと思います。あと、お客さまのご要望がどんどん高度になってきます。我々もそうなんですけれども、お客さまのご要望が高度になってきたり、複雑化していく。

そこに対応していかなくちゃいけないというところで、やはり営業の仕事ってどんどん複雑になって(量も)増えていっているんじゃないかなと。それはどの会社にも当てはまるかなと思っています。

仕事の中身はどうなのかということで、ボリュームで見てみます。これは時間を円グラフで表してみたんですが、本当に注力したいはずの提案活動や新規開拓がだいたい2割から3割くらい。

あとは自分の意思に関わらず、どちらかと言うと受身的な業務、ちょっと言い過ぎですけれども、やらされ仕事が多い状況かなと思います。

営業現場によく見られる「あるある」の課題

浦野:もう少し具体的な例をいくつか挙げていくと、やはり「SFA(営業支援ツール)を入れたけれども使われていない」という課題認識をよく伺います。「何のために入れているの?」といったところがいまいち伝わっていないので、現場からは「なんで?」「面倒くさい」という不満があったり。

上からは「いろいろやってるんだから(データが)見られるでしょ」と言われて、真ん中の中間管理職は板挟みになることがよくあるケースかなと聞いています。

あともう1つは、やはり御用聞き営業じゃなくて、攻めの営業にいきたいんだけれども、そんなこと言われたって、「ただでさえ忙しいのにそんなことできないよ!」「具体的に何するの?」というところがあってですね。実際は掛け声倒れになってしまっているケースもよく聞く話かなと思っています。

今の2つもけっこうあるあるだと思われるかもしれないんですけれども、そのほかにもたくさんあります。こちらは我々が今まで伺ってきたところを整理したものです。「うちの会社のことを言われているみたいだね」「全部当てはまるよ」と言う方がけっこういらっしゃるんですよね。

みなさんのところでもどれくらい当てはまるかをあとで手元で見ていただければと思っています。堀之内さん、実際営業をされていてお客さまの話を聞いていて、このあたりっていかがですか?

堀之内:本当にあるあるですよね。いろんな分野もありますし、一番多いのは社内で情報共有ができていないという話とか、お客さまから聞いたことを共有できていない。やはり社内間の情報共有が多いかなと。

あとは管理者が、「結局営業は何やってるの?」ってよく聞きますよね。だから(SFAで現場を)見えるようにしたいという話は、管理者目線ではよく聞く話かなという気がしますね。

システムを入れても終わらないのが営業改革

浦野:そうですよね。そのへんの話はこのあともちょっと出てくると思いますが、だいたい(課題は)1つじゃない。やはりいくつかは当てはまったり、全部というケースもあったり。そうするといろいろ(な課題が)たくさんあります。

そういった課題にどう手をつけていけばいいのか。先ほどのSFAの話を1つとっても、入れれば解決するかというと決してそうじゃなくて、実際には活用できていない。これはちょっと古いデータですが、今も現状としてはあまり変わってないんじゃないかなと思っています。

営業改革の代名詞的なITでも、なかなか使いこなせていないケースが多い状況かなと思っています。なぜうまくいかないのかというと、よくある誤解は「システムを入れると楽になるんじゃないの?」「何かが楽になるんじゃないか」というところです。

わかっている方は、みなさんもう「当たり前だろう」と言うかもしれませんけれども、楽にはならないですね。もともと個人任せでやっていたことを見える化して、マネジメントレベルを上げようと。仕事のやり方のレベルを一段上げるための仕組みだと思うんですね。

見える化やプロセスの管理を今まで手作業でやっていたら、システム化や自動化されることで楽になると言えると思うんですが、そんなことはほとんどないと思います。なので、入れると楽になるつもりが、実は大変になることがよくあるんじゃないかなと思います。これが誤解の1つ目。

もう1つ、SFAやCRM(顧客関係管理)を入れても、それを必ず使わないといけないとか、使わないと売れないとはならないところが1つポイントかなと思います。基幹系のシステムだと、使わないと仕事が回らないことが多いですが、営業の仕事はSFAを入れなくても物は売れる場合が多いと思います。

そうすると「どう活用するか?」「どう定着させるか?」「それを使ってどうやって営業の行動を変えていくんだ?」というところまで、ある程度考えてやっていかないと、なかなか定着しない。結局、システムを入れてからがポイントというのが大きく違うところかなと思っています。

まずは「改革のゴール」を決めるところから

浦野:今SFAに特有のお話をしたんですけれども、それも含めて営業改革で成果を上げるために、ケンブリッジが考える3つの肝を挙げてみました。

まず1つ目は、経営陣から現場の担当まで、全員が「営業改革はこれだ」と同じゴールが見えるようにすることが1つ重要かなと思っています。そのあたりは、なぜ共通認識が持てていないのかというところも含めてお話をしていきたいです。

2つ目ですね。いくつか問題点があるというところで、IT導入以外の施策もやっていかなくちゃいけないと。そうすると、その中で優先順位を付けて、どういうシナリオでやっていくのかが重要かなと思うんですね。なので、そのシナリオを明確にしていくヒントにもこのあと触れたいと思います。

最後に、今申し上げたように、仕組みができてからが勝負という部分があると思います。使ってどうするか。やはりある程度の時間軸で考える必要があると思っています。

具体的なプロジェクトの進め方に入っていきたいと思います。当たり前なんですけれども、まずゴールを決める。ゴール設定をした上で現状を把握し、課題を特定して、それを潰すための施策を打っていく。そして実行していく。これは非常に正攻法の進め方です。

最初がなぜゴール設定なのかというところなんですけれども。「ゴールが売上を伸ばしていくことなのは明らかなんじゃないの」と思う会社もあるかと思います。

営業に関わる課題はいろいろな切り口があって、特にその人の立場によって課題の認識はぜんぜん違うんじゃないかなと思うんですね。やっぱり現場は、業務負荷を下げたいといった実務的な課題。経営陣やマネジメント層は、売上・利益増のためにもっと案件を見える化して管理を強化していきたいという感じになってくる。

そうすると一口に営業改革といっても、「何がどうなれば良いのか」というイメージはけっこうバラついちゃいますよね。なので、ちゃんとみんなの目線を合わせることは必要なのかなと思います。

「他人ごと」のままのゴールや施策は、正しくても定着しない

浦野:じゃあどうするかというと、私たちケンブリッジでは、プロジェクトの最初に経営層から現場のメンバーまでを巻き込んで、徹底的に議論する場を作ります。コンセンサスを作り上げていく場を設けます。

いろんな視点を持つ人の意見をまとめるので、当然難易度はちょっと高くなるんですけれども。誰かが作ったゴールや施策は、やはり正しいことであってもどうしても他人ごとになってしまいます。

なので、自分が意見を言ったり意思決定に関わることで、当事者意識を持ってもらうために、コンセプトフレーミングを重視しています。そこで納得を醸成していくということだと思います。

失礼を承知で言えば、やはり営業という人種には特に必要なことなんだろうなと思っています。人が作ったきれいなコンセプトよりも、やはり自分たちの言葉が反映されたものであることが、すごく定着しやすいポイントなのかなと思います。

なので、まず目線合わせをしていくことが1つのポイントだと考えています。これが先ほどの1つ目の肝です。

課題を特定する時は「8割押さえましょう」

浦野:次に、課題を特定する調査なんですけれども。システムを作る時の調査というと、業務フロー図みたいなものを作ったりしますが、我々はあまり細かい調査はいらないのかなと考えています。

まずは全体像の中で問題がどこにあるのか、どれくらい大きいのかというところをざっくり幅広く押さえるというところです。我々はよく「8割押さえましょう」と言っています。

そのためによくある調査を3つ挙げると、1つは業務MAPと言われるところです。フロー図形式で押さえるのではなくて、ざっくりとした流れに沿って、業務の種類を洗い出していくというところですね。

これを作る目的は大きく2つです。1つは今後の話をする時に、「今どこの話をしているのか」が空中戦にならないようにすることが1つ。

もう1つは、このプロジェクトで話すのはここだよねというふうにスコープを明確にすることです。こっちは営業の仕事じゃないからいいよね、というようなことをしていくのが業務MAPです。

2つ目は、ざっくり営業の工数調査、時間、ボリューム感を押さえるということです。目的の1つは「どのくらい大変なのか」という、課題の大きさの裏を取ることです。

あとは、最終的に定量的な改善目標を定める時に、そのベースラインが現状どうなのかを把握するところには使えるかなと思っています。これもまずはざっくりと、円グラフで何人かの人に書いてもらうくらいのやり方でもいいのかなと思います。

3つ目はヒアリングですよね。やはり定量調査だけではわからないような定性的なところもちゃんと押さえていきたいと。数字だけではわからない、営業の本音みたいなところを引き出す。

そういった定性的なファクトを押さえる調査も必要かなと思いますので、各組織や役割のキーパーソンに業務や体制についてのモヤモヤを聞いていくのが、よくある3つの調査かなと思っています。

その上で、例えば先ほどの業務MAPの上に課題をマッピングしていく。このあたりにこんな課題があるよねという感じで整理していくことで、課題や優先順位について議論できるようになります。

王道施策をピックアップ

浦野:課題の洗い出しができたら、いよいよ何をどうすべきかというところに入っていくんですけれども。その施策について、いくつかピックアップしていきます。

解決策となる施策をゼロから考えるのではなく、私たちがこれまでやってきたプロジェクトの中での施策の例があります。今日は、この中でさらに一部を掘り下げてご紹介していくかたちを取りたいと思います。

ちなみにこれらの施策がどうつながっているのかをざっと理解していただくために、この図を使ってご説明できればと思っています。線の下が分母と分子になっていると見ていただくと、営業の業務時間や工数が分母で、それに対するアウトプットが売上や利益。言ってみれば、これが営業の生産性という表現の仕方もできるのかなと思います。

そうすると前のページで挙げていた施策が、分母を小さくするための施策なのか、営業の工数を減らしていく効率化に近い施策になるのか。それとも分子のアウトプットを大きくしていくような施策になるのか、その両方を基盤として支えるような施策になるのか。大きくそういう見方ができるのかなと思います。

なので、自社で優先順位が高いのは、分母を小さくするのか、分子を大きくするのか、それともその全体を支える仕組みなのかと。それをどういう順番で打っていくのかを検討することが必要なのかなと思っています。

その上で先ほどバーっと並んでいた施策の中で、さらに厳選したものを王道施策というかたちで銘打ってピックアップしてみました。

この最初の3つが、すべての施策の前提となるような「必修科目」と言うべきものかなと思っています。その下は、会社ごとの課題感に応じて、ある程度の重み付けをして進めていくところになります。

今日は特に、この①・②・③と④・⑤・⑥のマネジメント強化を中心にお話をしていきたいなと思っています。やはり(お客さまと)お話をしていると、このあたりの課題感が非常に大きいという方が多いです。堀之内さん、お客さまからほかにも伺うことは何かあります?

堀之内:やはり、下から入っちゃって目的を見失うようなケースがよくあって(笑)。例えば「組織だけ先に作りました」という話が先行したり、「本来業務と非本来業務を分けました」と言って、組織を作ってしまうような話があります。やはり上にある①・②・③がないと、どんな施策を打っても有効な打ち手にならない気がする時はありますね。

「営業って何をする人?」の認識合わせの大切さ

浦野:なるほど、そうですね。改めて、この①・②・③が重要だということかなと思いましたので、さっそく話に入っていこうと思います。まず最初の「ミッション・ビジョン・責任範囲の明確化」は、「営業って何をする人なんだっけ?」ということなんですね。

商品やサービスを売る人だというのは当たり前なんですけれども。「じゃあ本来業務って何なの?」「顧客満足度を上げるのと営業、どっちを大事にするんだっけ?」とか。「見積もり作るのは俺たちの仕事?」「販促活動どうするの?」「目標って売上と利益のどっちだろう」「マーケと営業ってどうなの?」とか。

そういうところが少し具体的になってくると、人によって答えがばらついてくるケースがわりとよくあります。「営業の本来のミッションって何なの?」というところが決まってないと、実はその上に乗る具体的なところがグラグラしちゃうんじゃないかなと思っています。

じゃあどうするかというと、「営業って何をする人なの?」「ミッションって何?」という議論をしっかりしていきましょうというところなんですね。その上で、「それを踏まえると、注力すべき業務って何なの?」「減らすべき業務って何?」という流れで認識を合わせていきます。

そのために、今営業がやっている仕事の全体像や時間配分がわかっていると、空中戦にならなくて議論がしやすくなります。先ほど冒頭でお話しした調査結果をうまく使いながら、「じゃあこの部分の話ですね」ということをやっていく。我々はそういう準備をしながらやったりします。

最初の「ミッションって何?」という議論はちょっと抽象度が高いので、事前に意見をある程度考えておいてもらいます。その上で「なんでそう考えたんですか?」と、回答を掘り下げていきます。「今の意見について、ほかの方はどう思いますか」と聞いてみて、同じ意見・違う意見を引き出していって、その論点を整理していく感じで進めることが多いです。

これがまとまったら次の議論として、「この業務は営業でないとできないか、営業でなくてもできる業務か」というところと「付加価値が高いかどうか」という、2軸のマトリクスでマッピングして整理します。

何をもって「営業でないとできない」「付加価値が高い」というかは、いろんな議論がありますが、判断軸は、最初に決めた営業のミッションに照らして決めていけばいいかなと思います。そのためにも「営業って何をする人?」を最初に決めるということです。

この整理ができると、「この業務を強化していこう」「営業でなくてもできて、付加価値が小さい業務はちょっと減らしていこう」「自動化していこう」という方向性はすんなり決まるんじゃないかなと思ってます。