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HQ Unleash 2024~個の力を解き放つ経営~(全4記事)

外資系が「メジャーリーグ」なのに対し「ファーム」と呼ばれる日本の大手 採用の危機感を持ちづらい大企業の経営陣と現場の温度差

本イベントは、「多様性を事業の力に変える組織経営」をテーマに、組織経営に関わるビジネスパーソンに向けて開催されました。エール株式会社取締役の篠田真貴子氏とLINEヤフー株式会社上級執行役員CEO室長兼人事総務グループ長の稲垣あゆみ氏が登壇。本記事では、経営陣のマインドを変える方法など、多様性のある組織をつくるためのポイントを語りました。

前回の記事はこちら

多様性のある組織にするために、全員が変わる必要はない

篠田真貴子氏(以下、篠田):私もその変革(経営陣のマインドを変えること)のプロではぜんぜんないので、少ない経験だけでしかないんですけど。これはある経営者の方から経験則として教えていただいたことなんですが。会社の30パーセントから35パーセントぐらいが、こっちの考え(多様性を重視する考え方)になると、わりとみんな変わる。

だから、全員が変わる必要はないし、過半数である必要もないのがまず前提ですね。その上で、例えば②の経営陣のマインドについて、これまでうかがってきた事例でいくと……。やっぱりわかりやすいのが、トップの方が変わること。

例えば多様性でいくと、稲垣さんもそうでいらっしゃると思うんですけど、日本の企業でも、けっこう海外勤務が長い方だと、本当にいろんな方と仕事をされてきてるので。肌感覚として、この一様な感じがまずいと思われている。それを強く押し出されることで、経営チームがついてくるようなケースもあります。

あとここはエグゼクティブのみなさんばっかりだと思うので、はっきり言って、特にある階層から上はもう人を替える。

稲垣あゆみ氏(以下、稲垣):(笑)。

篠田:個人は変わらないから、チームのメンバーの入れ替えを一定しないと。でも繰り返しますが、全員を替える必要はなくて。10人のチームのうち3人がわりと多様性が強くなると、もうそれでけっこう雰囲気が変わります。なので全員を外せって話じゃないんですけど、やっぱり人を替える。

外資系が「メジャーリーグ」とすると、日本の大手は……

篠田:もう1個は強烈な経営上の危機感。IT業界、特にエンジニア人材って、優秀層はもう外資やLINEさんみたいな強いベンチャーにバンバン取られていく。日本の某通信系大手は、外資系がメジャーリーグだとすると、ファームとか呼ばれてるの知ってます?

要は、まず(大手が)若手を採用して、ちょっといい感じに育ったら、みんな外資系にいっちゃうと。人が採れないので、人材獲得競争に入ったら、もう経営が変わりますよ。あとはコンビニさんみたいなチェーンだと、本社はまだ日本人の方々ですけれども、フランチャイズオーナーの方々は(外国人の方を入れる)。

過去は個人商店の方々を転換したけど、もうそんな人がいないから、個人商店だった方も廃業しちゃうとなると、外国人の方々に向けた「日本で起業できますよ」ってオファーに変えて、チェーンの規模を維持拡大するように変える。こういう、リアルに人が足りないってことで、経営者のマインドはバチッと変わる。大きくこの2種類かなぁという感じがします。

人はどこかで変わるんですけど、「今このタイミングでこっちに変わってくれ」って言っても、絶対変わらないですから。これを踏まえると、今みたいなことになるのかなと思いました。

新卒で大企業に入る人材が変わってきている

稲垣:その論理だと、大企業が一番変わりづらいってことですよね。人が減ってると言えど、やっぱりそれなりに一定のいい人材が集まるので。スタートアップみたいな会社のほうが、この必然性というか。「こういうふうにやっていかないと、いい人材といいかたちで仕事ができない」ってリアリティが、やっぱり違いますよね。

篠田:そうなんですよ。時々現場の方のお悩みとしてお聞きするのは、特に採用に携わってる現場の方は、大企業といえどもこの変化を骨身に染みて感じていて。強烈な危機感をお持ちなんだけれども、役員室のみなさんは、40年前の自分たちの会社が超人気企業だったイメージをまだ持っちゃっている。

変な話、そういう会社さんってやっぱり有名大学から採用されて、学校名だけ見てると、まだそんなに変わったように見えないと思うんですよね。

だけどどの大学でも、当時は大企業を選んでたようなタイプの若者は、今ベンチャーに行ったり自分で起業しちゃう。同じ大学名だとしても、だいぶ質が違う人たちが入ってきてることに、役員室のみなさんに危機感がないっていうのはよく(聞きます)。

稲垣:「今年も○人採れました」っていう数字じゃわからないですもんね。

篠田:まさに。これはけっこう大変だなとは思います。

女性比率をKPIに落とし込む時の罠

坂本祥二氏(以下、坂本):ダイバーシティもそうですけれども、組織経営全般で、女性比率とかをKPIにおくこともけっこう大事かなと私は思っています。でもそこだけを見ちゃうと、女性の社員比率が上がってたり育休取得比率が上がってるとか、変わっているように見える。そこらへんはどう注意していけばいいんでしょうか。

篠田:これも私の個人的な考えではあるんですけど、「率」っていうのは抽象度が2段上がってるんですよね。つまり、まずここにいらっしゃるお一人おひとりがいます。お名前があって、これまでの人生があって、今なさってる仕事があり、情熱があり。

まず1段目の抽象化は、女性が何人、男性が何人とか、何部に何人と、人数に捉えることなんですよ。パーセントはさらにその抽象度を上げてるじゃないですか。パーセントのみをKPIにするのは本当に罠だと思っていて、せめて絶対数。例えば女性管理職比率30パーセントっていうのは、政府は国だから30パーセントって言いますけども。我が社においてそれは100人を150人にする話なのかとか。

もうちょっと解像度を上げて、その年齢的に今28歳から35歳ぐらいまでの女性たちの中から、「この50人は」と、経営陣が見るKPIでも、これぐらい具体に落とすと、人の顔が浮かびやすくなってくる。それをやって、このパーセントを出すんだよねってところまで握ると。

「女性活躍推進」という言葉の違和感

坂本:もちろん一人ひとり違うんですけど、「こういう活躍を作っていきたいな」っていう解像度の肌感がないままやっちゃうと、比率は達成されてても、自分たちがいきたいところにはいかない。

篠田:いかないし、部下とか社員が「私をパーセントの数字として扱ってますよね」と感じますよ。なんかエラー率みたいな扱いをされてるなって。今、女性活躍って言い換えてるんですけど、昔は「女性活用」って言ってたのをご存じですか。本当、なんか遊休資産(事業用として資産を取得したものの、事業変更や稼働停止している資産)の活用みたいな感じ。

あんな失礼な話はないと個人的に思ってたら、社会的に発言力ある女性の先輩方が「失礼だ」って言ってくださった。それで途中で慌てて、女性活躍推進に言い換えたんですよ。活躍したいかどうかは、「私がどう生きたいか」ですから、女性活躍推進とかも相当失礼な話だと思いますけどね。

稲垣:あぁ、わかります(笑)。

篠田:他人が「活躍とはこれですよ」って勝手に定義づけして、「あなたが課長になることは活躍である」って、知らんがなって話じゃないですか。

(一同笑)

篠田:本当に、多様性ってそれぐらい繊細な話なんですよ。こういうことをわかった上で、そのKPIを作るのと、そのへんの解像度とか、個人の人生に関わる話だということを踏まえずに作るのでは、如実に差が出ると思うんですよね。

執行役員になった時に「最年少女性」のタグがついた

稲垣:活躍の定義がやっぱり違って、うちもDE&Iの社内調査をした時に「あなたにとっての活躍は何ですか」って聞いたんですよ。やっぱりそこでみなさんがイメージすることとして、「管理職になる」は活躍じゃないんですよね。自分らしさとか裁量を持って働くことが個々人の活躍で。

坂本:「ペルソナとしてそういうのを期待されてるなぁ」って感じることはありますか?

稲垣:とてもありますよ。執行役員になった時に「最年少女性」のタグがついたんで。取材を受けても、「やっぱり女性だからスタンプを作れたんですよね」みたいに言われて、「それ、何の話ですか」みたいな。やっぱり自分が目立てば目立つほど、「女性だから」っていう質問をすごく受けるようになりました。

普通に一般社員で働いている時よりも、こういう機会をいただくほうが、「あ、自分はやっぱり女性だから呼ばれてるんだなぁ」とか、「女性だからこの取材を受けてほしいって言われてるんだなぁ」と。

「同じ話を男性にも聞くんですか?」という感じでした。本当におもしろいくらい、「私が女性だからと言われてることを、男性に置き換えて想像してください」という部分が、年齢が上がってきたり、役職が上がると増えていく、この不思議さ(笑)。

坂本:女性社員から「稲垣さんがんばってください!」とか言われませんでした?

稲垣:言われます。だから執行役員とか上級執行役員になって、思ってるよりも周りの社員のみなさんから、「会社があゆみさんを上級執行役員にしたことを、私は誇りに思います」とか言われて。「あ、それ複雑」みたいな(笑)。

それは同じ男性の上級執行役員たちは絶対に言われない言葉なんですよね。「あ、そういうふうにみんな思うんだ」と。自分が上に上がれば上がるほど、そういう女性タグがついてることを晒されていく感じはある(笑)。

篠田:それはありますね。私ももう56歳なので、だいぶ年上だし、私が働き始めた頃とか、子どもを出産した頃とは、それこそ企業の制度が違いますよね。このジェンダー周りで話をすると、若い方から「篠田さんのような先輩が道を切り開いてくださったから」みたいなことを言われて。「うーん、そうとも言えるが、なんだろうなぁ」みたいな、「道を切り開いたパイオニアラベル」が最近つきます。

稲垣:わかる。そうですね。

世界的なサービスを生んだLINEの組織風土

坂本:だからこそ2人にはがんばっていただきたいなというか、こういうのもわかった上で、それを背負ってやっていただくと、この4つが全部揃ったような、より本質的な力に変わるサステナブルなムーブメントになるんじゃないかと思っております。

人事のエクゼクティブのみなさんに来ていただいてますので、みなさまに向けたメッセージというところで、お二人から一言ずついただければと思っております。じゃあ、稲垣さんからいいですか。

稲垣:はい。今日はありがとうございました。篠田さんのいろんなご発言を踏まえて、私はお伝えするというよりは、聞いてる側の立場で。(会社に)帰ってこの制度のあり方と、今の四象限の話をみんなで確認しながら、本質的な変化として「何が個々人にとっていいのかな」っていうのを、あらためて考える機会になったなと思いました。ありがとうございました。

坂本:ありがとうございます。

(会場拍手)

篠田:稲垣さんのお話の中で、LINEさんには、ことさら特別な女性活躍という制度はないんだけれども、女性管理職比率はほぼ30パーセントであったというお話が、極めて示唆的だなと思いました。サービス立ち上げのお話を聞いても、男女っていうよりも、おそらくまず国籍の多様性がすごくある職場で育ってこられた。

稲垣:男女は本当に気にしたことなかったんですよ。

篠田:結果として女性も含めて、それぞれがそれぞれのやり方で力を発揮された結果、世界的なサービスが生まれて、急成長もされたわけだし。稲垣さんを始めとして、稲垣さんだけじゃなくて、本当にたくさんの女性リーダーが活躍される職場になってるんですよね。

社内で無意識に共有している価値観を見つめ直す

これが極めて重要な例で、やっぱりその組織風土を分解すると、暗黙のうちに共有されている人間観、職業観、組織観がある。これをここにいらっしゃるみなさまが言語化して、「今こうなんだけど、どこをアップデートするんだっけ」ってところをまず押さえる。

その上でいろんな制度を使っていく順番が望ましいのかなとあらためて思いました。これはそれぞれの会社さんで無意識に共有されているので、社内で話し合ってもたぶん出てこない。

稲垣:自覚しないですよね。

篠田:絶対自覚しないんです。だって同じものを共有しちゃってるから。魚が水から出て、「うわ、苦しい」ってなって初めて気がつくみたいな話なので。

今日みたいな場でいろんな会社の方々とつながりを持っていただいて、他社さんの制度の運用のお話を聞くとか。「え、なんでそんなことをやってるんですか」ってお互いに聞き合うことで、ご自身たちが無意識に持っている特徴を感じられると思うので、本当にこの場はすばらしいなと。

こういう機会があってこそ、今私が申し上げたことが一歩実現に近づくのかなと思いました。今日はこの場所に呼んでいただいて、ご一緒できてうれしかったです。ありがとうございます。

(会場拍手)

坂本:稲垣さん、篠田さん、ありがとうございます。

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