完璧主義がもたらす人間関係のストレス

島名祐紀氏(以下、島名):では、ここから事前にいただいた質問にもお答えしながら、トークを進めていきます。みなさんもぜひ、何かご質問があれば「Q&A」からお願いいたします。

それでは、事前にいただいている質問を1つピックアップしました。「がんばっている自分が報われていない感じがする。また、やらない人を見ると腹が立つが、放っておけない」。あとは、「アドバイスをするが、嫌味に取られるので余計にこじれてしまう。自分の言い方の問題であるとわかっているが、改善が難しい」というお悩みですが、いかがでしょうか。

古川武士氏(以下、古川):そうですね。これもすごくあるあるなのが、自分に厳しい完璧主義の人は、他人にもそれを要求するんですよね。悪気があるわけじゃないんですけど、部下の立場からすると、「なんでそんなに細かいことを言うの? 本質からズレてるだろ」みたいな。本人にとってはそうじゃないんだけど、部下はそう思っている。

そうすると、だんだん部下が辞めていったり、上司側もイライラして言い過ぎてこじれる。こういうのが、完璧主義がもたらす人間関係のストレスです。

島名:「がんばっている」という基準が、部下と上司で違うんでしょうか? 

古川:そうそう。だから例えば上司がめっちゃがんばって資料を作ったとしても、あんまり結果につながらなければ、「そもそも資料を作ることはあんまり大事ではないのでは? そこに時間をかけるべきじゃないのかも」と部下は思う。

「むしろ資料がないほうが、話が盛り上がって次につながるんじゃないでしょうか?」と部下が言っても、「いや、ちゃんと作らないと」みたいな。目的・ゴール思考ではなくプロセス思考で発想するので、比較的部下が最善主義だったりすると、「もう付いていけない」ってなることはあると思いますね。

「0か100か」という思考を変えるには

島名:これはどうしたらいいんでしょうかね? 

古川:まずは、自分が最善主義思考に変わること。さっき言ったような、「目的・ゴールから考えた時にはこうだよね」と言えばすぐに納得できるんですけど。ひたすらプロセスの積み上げをしても、「それって結果につながるのかな?」となると、相手も受け取らないことはけっこうあると思います。

だから、まずは段階を踏んでちょっとずつブラッシュアップさせていく。いきなり0点が100点になることはありませんので、部下に対してもちょっとずつ成長させるとか。「0か100か」という思考から、20点、30点、40点、50点と段階を踏んでいくのは、すごく重要なんじゃないかなと思います。

島名:そうですね。頭ではわかっても、できるようになるのは難しいですよね。

古川:そうなんです。最初は相手がいいかげんにしか見えないと思うので。例えば「社内での確認事項だから、誤字脱字があってもいいじゃないですか」みたいなのを見ると、イラッときたり。

島名:ああ。でもそういう部下はいますよね。私もそういうタイプです。

古川:だけど、「社内のことにめちゃめちゃ時間をかけるぐらいだったら、社外のいろんな関係性のところに時間をかけたほうが、営業的にいいですよね」って言われると、「そうだよな」となりますよね。

「100点を取れないものに向き合いたくない」と思ってしまう

島名:確かに。次の事前の質問にいきますね。「完璧にやりたいと思ってしまい、結局手を付けるのが遅くなり、先延ばしばかり。どうしたら改善できるでしょうか。仕事そのものが嫌になりつつあります」。

古川:そうですね。完璧主義のデメリットとして、100点主義を掲げ過ぎて、過剰な不安やストレスを感じてしまうことがけっこうあります。いきなり完璧なものを自分の中で課して、それができない限りは0点と思ってしまう。そうすると、100点を取れないものに向き合いたくないという感じになると思いますね。

なので、さっきもやったようなかたちで、段階を踏む。「翌日に出します」「今日の夜までに見せます」とか、まずはたたき台を作って人に見せることをすれば、前に進みますよね。あとは、完璧にできないならやらないというのは、0点・100点の考え方なんです。

例えばジョギングで言うと、「1時間走らないと運動ではない」と考えると「今日はできない」となるけど、「5分だけでも歩く」みたいな発想があれば、「5分歩く」から「30分走る」とつながっていきます。やはり仕掛り中にやらないとできないことはあると思うんですね。

人間関係に不安や恐怖を感じるという声も

島名:ありがとうございます。Q&Aが1つ来ているので、回答させていただきたいと思います。「仕事は最善主義で考えられるのに、プライベートは完璧主義で考えてしまう。

頭ではわかっているのに、心はこだわりを手放せなくて、人間関係にオーバーストレスや過剰な不安を感じてしまいます。仕事はなくても死なないと考えられるけど、人間関係は本能的に不安や恐怖を感じます。これも性格よりは思考の習慣なんですかね?」というご質問です。

古川:なるほど。まずは、「仕事はなくても死なない」って考えられるのは気が楽ですよね。

島名:確かに、すごいですよね。

古川:いいことだね。この方の場合で言うと、たぶん人間関係で嫌われたくないってことですかね? だから理想主義というよりは、相手の反応が気になったり、「見放されたくない」とか、人間関係の恐れが隠れているのかな。ちょっとこの文脈だけだとパッと出てきませんが、祐さんはどうですか?

島名:今日は「思考の習慣」というところだけをやっているんですが、実は私たちが「習慣化の学校」のプログラムの中でやっている、「ビリーフ」という思い込みが絶対に関係していると思うんですよね。

自分の本質を、エニアグラムとかいろいろ使って見るんですけど、そういうのを知っていったら少し楽になるんじゃないかな。思考習慣だけを扱っても、なかなか変わっていかないんじゃないかなと感じました。

「それをやる前に戻れるとしたら、どうするか?」を考える

古川:すばらしい。そうなんですよね。だから例えば、理想主義で完璧な作品を作ることにすごくこだわりがある人は、どちらかと言うと仕事のほうにストレスを感じると思うんですけど。

この方の場合で言えば、人間関係でがっかりされたくないとか嫌われたくないという思いが大きい。他人から評価されたいというのもそうですね。

僕はどちらかと言うと、本を書く時の超理想があって、そこに届かないから、ずっとストレスを感じて作業をし続けてしまう完璧主義なんです。だから完璧主義でも、理想主義系と、他人の否定の恐怖系と、0-100系とがあるんです。やはり自分の本質的な性格のクセを知っていくのはすごく重要なんですが、これも習慣で変えられます。

島名:そうですね。この後に紹介する予定のスライドでも、このへんは確かに関わってくるかなと思いました。ではQ&Aの1番にいきたいと思います。「何でも全力でがんばりすぎて、力尽きてしまうことが多いです。過去に『要領が悪い』と言われて傷ついたこともあります。がんばりすぎに気づくためのポイントや、どうしたらがんばりすぎずに済むかを知りたいです」というご質問です。

古川:もしコツを言うならば、たった1つだけ。やったことはもう戻らないんですよね。先ほどの、例えば田中さんのケースみたいなことが起きると。それは経験としてはいいと思うんですよ。問題は、次も同じ失敗をしたら、やはり上司の評価も得られないし、自分から自分への評価も上がらないと思うんです。

だから大事なことは、「それをやる前に戻れるとしたら、どうするか?」と、もう1回ゼロベースで思考する。目的・ゴールから考えて、「こういう確認をしておけばよかった」「段階を追って、中間納期を設定してやればよかった」「強弱をつけるんだったら、ここだった」と。

こういうのをちゃんと計算して改善する力があれば、「次はもっとうまくいくな」と希望が持てるんですけど。その改善力とか、改善の思考習慣が自分の中にないと、堂々巡りしちゃうんじゃないかなと思います。それが続くと、けっこうしんどくなるループになるんじゃないかなと思いました。

同じ失敗を繰り返し、自己否定のループにはまらないために

島名:確かに。古川さん、やはり言語化するとか見える化するって大事なんじゃないかなと思ったんですが、いかがでしょうか。

古川:そうですね。これは我々が習慣化のところで大切にしていることなんですけど、結局これは全部つながっています。例えばマイナスに考えたり0-100で考えると、不安や恐れの感情が生まれる。要するにプレッシャーが大きいとか、人に否定されるかもしれないとか、「こんなんで出すんじゃねぇ」って上司から言われるかもしれないと思う。

そうすると、「途中で確認する」という行動ができないんじゃないかなと。上司に見せたら「なんで途中でもっと確認しないんだ」とか「ぜんぜん違う。俺がやり直すから」と言われてしまう。

それで「こんなにがんばっているのに報われない」と思うと、しんどくなる。「なんでだろう?」というのがわからないと同じ失敗を繰り返すので、「自分は仕事ができないんだ」と思ってしまう。そこで思考がぐるぐる回って、「どうせできないんだ」という思い込みが強化されるループになる。

だからどうすればいいかと言うと、さっきのような最善主義のトレーニングを思考習慣としてやる。そうすると、「まず当日に上司に1回確認すれば、ズレていても修正できるんだ」と最善主義で考えて行動できる。

「ここはなくていいよ」とか「この程度でいいよ」「ありがとう。(提出が)早いね」みたいに評価されると、「いけるな」という感覚がつかめると思うんですよね。失敗することはあると思うんですが、同じ失敗をしないためには、どうやって振り返りや改善をしていくか。最初はここの言語化をやっていくと、自然と頭の中でできるようになるので、思考習慣をつけることです。

私も完璧主義になってしまうケースがいっぱいあるわけですが、失敗した時に頭の中で、さーっと振り返りができれば、楽に生きられるんじゃないかなと思います。

完璧主義は悪いことではない

島名:ありがとうございます。これは習慣化の学校とどうつながっていくのかも、ぜひ教えてください。

古川:先ほど祐さんも言ったように、思考の習慣もあるんですけど、やはり感情から我々の思考は作られていくので、性格によって違うところもある。だから自分の性質は否定せず、どちらかと言うと、それによって起きる不都合を修正していけばいいんです。

行動と思考と感情と、我々が持っているビリーフとか本質とか環境というすべてが、大きな習慣というメカニズムになって、ぐるぐるした思考に入ることって誰でもあるんですよ。私もあります。でもその中で、どこを変えれば良い思考が回っていくのかという、ボトルネックを探ることが一番重要なんですよね。

島名:「今日のテーマは『思考』だから、思考だけを変えていけばいいんだ」という訳でもないんですね。

古川:そうなんですね。「完璧主義が直れば」と思うんですけど、完璧主義は悪いことじゃないので、それをいい面で使っていく。負の側面をケアする方法さえちゃんと覚えてしまえば、それでいいってことです。

島名:これは知っただけではできないと思うんですが、どうしていったらいいんですかね?

古川:そうですね。2つ必要なものがあって、まず気づきです。具体的な行動変容をするための習慣のトレーニングは必要になってくるので。日常生活の中での気づきを書いて、改善のフィードバックをもらったりしながら回していくと、どんどん良くなっていきますね。じゃあ、まずここまでの気づきはどうですかね? みなさん。

島名:「無理と感じたり、気持ちを下げることが悪循環をもたらすと、はっきり理解できました」。感情も大事ですよね。「完璧主義の自分を認めてあげる」「思考のクセをなかなか直せないんですが、習慣化のトレーニングは興味があります」「『自分の性質を否定しない』というのは救いでもあり、現実でもあると思いました」。

完璧主義を活かしながら、自分を変えていく

古川:そうですね。だから理想主義とか、他人から評価を得たいとかはぜんぜん悪いことじゃないので。「それを活かしながら、自分がどう変わっていくのか」が一番のポイントになりますね。

なので、まずは完璧主義から最善主義になったら、「人生はどう変わっていくんだろう?」と考える。例えば管理職になった時に、(完璧主義のままで)「部下に同じことをさせるのはしんどいな」とか、「もしかしたら自分がメンタル的に潰れるかもしれないな」とか、いろんなことがあると思うんです。

うちの「習慣化の学校」でも、完璧主義で自分を追い込んで昇進できなかった人が、2階級上がって課長になりました。しかも副業もやっていて、仕事でも成果が出ていて、奥さんにも認められるようになったんですよね。

最初に気づきは重要なんですが、やはり気づきとやる気はすぐ消えてしまうので。それを実際、変容につなげていくためにはどうすればいいのかということで、我々は「習慣化の学校」というのをやっています。今回はここまでです。ありがとうございました。