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ハッシャダイソーシャル『人生は選べる』出版記念イベント(全5記事)

一度でも失敗すると“敗者復活”ができない日本社会の風潮 山口周氏×糸井重里氏らが投げかける、社会問題への問いと生き方のヒント

ハッシャダイソーシャル初のドキュメンタリー本 『人生は選べる』の出版を記念してイベントが開催されました。本書の帯文を担当した糸井重里氏と山口周氏をゲストに迎え、ハッシャダイソーシャル共同代表の三浦宗一郎氏とトークセッションを実施。本記事では、ソーシャルビジネスとクリティカル・ビジネスの違いや、不確実な時代を生きるためのヒントを語ります。

前回の記事はこちら

そもそも「ソーシャルビジネス」とは何なのか

三浦宗一郎氏(以下、三浦):じゃあ、最後にもう一方いきたいと思います。カメラの手前の方。

質問者3:今日は貴重なお話をありがとうございます。お二人におうかがいしたいんですが、山口さんは最近『クリティカル・ビジネス・パラダイム』という本を出版されましたが、今、解読してる最中です。

ハッシャダイソーシャルの活動はクリティカル・ビジネスなのか。お二人が考えるハッシャダイソーシャルは一言で言うとどんなビジネスなのか、またはビジネスじゃなければどんな活動だと受け止められているのか、ぜひ教えてください。

三浦:ぜひ教えてください(笑)。

山口周氏(以下、山口):じゃあ、前座で僕が先に答えちゃいますが、やはりクリティカル・ビジネスだと思いますよ。僕はソーシャルビジネスとクリティカル・ビジネスを分けて考えてるんです。

今、みんなソーシャルビジネスが大事だ大事だと言ってますが、みんなで大事なテーマだと思ってるから「ソーシャル」なんですよね。でも、それって最初からソーシャルだったのかっていう話なんですよ。

例えば今、環境問題がすごく重要視されていて、社会問題だと言われてますが、パタゴニアが1980年代に言い始めた時って「え、そんなの本当に重要なの?」みたいな。一部の人しか言ってなかったんですよ。すべてのソーシャルアジェンダは、最初に言われた時にはソーシャルじゃなかったんですよね。

誰かが言い始めて、少しずつ「それって大事だよね」と言う人たちが増えてきて、どこかでソーシャル認定されたわけです。

自分にとって重要なアジェンダがビジネスの種になる

山口:ソーシャルビジネスはもちろん大事なんだけれども、すでにソーシャルだと言われたことはもうみんなやってるから、ある意味やらなくてもいいというか。別に誰かがやらなくても、私自身がやらなくてもいい。

例えばSDGsってみんなソーシャルアジェンダで、「17個やってます」と言ってる会社が多いんですが、今大事なのって「18個目って何だと思います?」という話なんですよ。

あれは2040年がターゲットで17個が推進されるわけですが、じゃあその次のテーマって何だと思いますか? 今、それを世界中の人たちはみんな考えてるし、ある意味ではビジネスの種になっていくはずなので。

17個のテーマをやって、「うちもソーシャルやってます」じゃなくて、「あなたは18個目、19個目に何が大事だと思ってるんですか?」というか。「誰も大事だとは言ってないんだけど、これは絶対に自分にとっては大事だ」と思うものを探す。

ピーター・ティールがそういう質問をしてますよね。「誰もまだ重要だと言ってないんだけど、あなたにとってとっても重要なアジェンダって何? それがビジネスになる」と言ってるわけです。

ハッシャダイがやってることって、少なくともトータルの意味で言うとダイバーシティ&インクルージョンのイニシアチブなんですが、もっと個別にフォーカスが立っていますから、僕からするとクリティカル・ビジネスの1つかなと思ってます。これでご回答になってますか?

質問者3:ありがとうございます。

“敗者復活”ができない日本社会の風潮

質問者3:ちなみに批判とかはどこに向いているというふうに……?

山口:三浦くん、批判のところはどこに向かってるんですか?

三浦:そうですね……。でも、なんだかんだでいろんなことをいっぱい批判したくて。

山口:僕から言わせると、例えば「スタートポイントでエリートコースに残らなかった人は敗者だよね」「普通じゃない人生を歩んできてる人を採用するのはリスクがあるよね」「真っ当な大学を出てない人に、そんなちゃんとした仕事なんてできるの?」みたいな社会の風調は、やはりハッシャダイソーシャルの批判の対象になってると思うんですね。

人生はいくらでもやり直せるし、いくらでもリカバリーができる。例えばアメリカなんかだと、会社を潰しても何度も創業する人がいるのに対して、(日本の)「1回でも社会的な落伍者という烙印を押されてしまうと敗者復活ができない」という風潮には、ハッシャダイソーシャルが「そんなの嫌だ」と批判する。

イデオロギーの話じゃないですよね。右も左も、リベラルもコンサバティブもない。「そんなの嫌だ」「そんな社会は嫌だ」と言ってるわけです。そこは、やはりクリティカル・ビジネスの「クリティカル」の部分。

批判の対象になっているものは何かといったら、「やり直せない傾向が強い日本社会の風潮に対する批判」という側面を強く持ってるところは、1つあるかなと思いますけどね。

“強さを持っている組織”の可能性

三浦:最後に糸井さん。

糸井重里氏(以下、糸井):僕は別にクリティカル・ビジネスの本家じゃないので、山口さんの今の説明でもう終わりでいいんですが(笑)。

僕が見ていておもしろいのは、例えば昔々の静岡の清水次郎長という人は博徒の親分でした。浪曲になったりしていますが、何をしていたかというと博徒だったんですけど、自由民権運動のすごく大きな担い手だったわけですよね。

そういう人たちが同時に堅気になって塾を開いたり、荷役の業者になったり。何が志なのかわからないんだけれども、何かをできる強い力を持ってる人たちが集まっていることによって、次の何かを見つけた時に何かになることがとっても多くて。

さっき話に出た新選組も、思えば剣道のグループですよね。そんなふうに「何をしたいから集まる」と、目的を中心に集まるんじゃなくて、集まることそのものがどうしてできているんだろうって。その強さを持ってる組織が、次の場所にどう向かうかはとても興味のあることです。

ハッシャダイソーシャルは「何をするのか」で人が集まっているわけじゃないので。クリティカル・ビジネスという視点で言うと「これに対してこういう考え方だ」ってなるんだけど、たぶんもともとそんな考え方も持ってたとも思えないので、大元はスペイン巡礼と同じような発想だろう。

三浦:そうですね。地続き。

糸井:地続きですよね。それに人がちゃんと賛成したり、集まって「後ろを歩いていっていい?」と言ってることは、すごい可能性だなぁと思ってるので。

ビジネスという言葉で切った時にどうなるかは、僕には知るところではないので。もしかしたらどこかで野垂れ死にしそうになってたら、また誰かの野垂れ死にから次の何かが始まるんじゃないかなと思うので、その意味で見てたいなと思ってます。

質問者3:X(旧Twitter)の「みんなやろうぜ」みたいな事業を糸井さんなりに一言でまとめると、どんなものだと思いますか?

糸井:一言でまとめるの、お金取るんですよね……。

三浦:(笑)。

糸井:三浦さんみたいな人は歴史の中にいっぱいいるんじゃない? たぶん、あらゆることは人中心に始まると思うので、今の時代の「人中心に始まっていること」の1つがこれなんじゃないかと思います。

どう言っていいんだかわからないですけど、「いい仲間の可能性」というところから、次の言葉を見つけていくのが僕の仕事のやり方かな。答えは出ませんけど、そういうことをできそうな人だなと思ってます。

質問者3:ありがとうございます。

三浦:素敵な質問をありがとうございます。

(会場拍手)

自分を縛る“呪い”から自由になることが大事

三浦:だいぶ時間が押してしまった。非常に贅沢な時間ではあったんですが、最後に一言ずつ周さんと糸井さんからコメントをいただいて、「『人生は選べる』って何だ」というセッションを締めたいと思います。周さんから。

山口:そうですね……ちょっと意表を突かれて何を言おうかなと思ってますが(笑)。繰り返しになりますけれども、呪いから自由になってほしいなということですかね。今、そういう条件がすごく整ってきてると思うんですよ。

例えば、僕はちょうど10年前に神奈川の葉山に移り住んでるんですが、たぶんみなさんの職場でもリモートワークって相当導入されてると思うんですよね。

会社のポリシーによってもいろいろありますが、複数の仕事に同時に関わるとか、ある所に住んで遠くの場所の仕事に関わるとか、働き方や生き方のオプションが急激に増えた5年だったと思うんですね。でも、オプションが増えるって本当に良いことなのか。

オプションが増えると、「すごく良いオプションを取れる人」と「オプションが選べない人」との間で変な開きが出てきちゃったりもする。だから、オプションが増えるのは確実に良いことだと言うつもりはないんですが、今はそういう世の中になってきちゃっているので。だとすると、やはり「自分を縛ってるものからどれぐらい自由になれるか」がすごく大事だと思います。

「こうしなくちゃいけない」「こうするのが普通」「誰かの期待を裏切っちゃいけない」「あの人が悲しむかもしれない」「あの人が怒るかもしれない」……いろんなものが頭の中にモヤモヤ出てくると思うんですが、みなさんの人生ですから、自分の人生の責任者はみなさんしかいない。

自分という船の船長はみなさんなんですね。「海図にこう書いてあるから」「外からアドバイスあったのはこうだから」といっても、最終的に行きつく先はみなさんで、キャプテンの自分になるので。

それは恐ろしいことでもあるんですが、一方で、大海原に漕ぎだすワクワクする感覚を持ってもらえるといいんじゃないかな。ということで、私のメッセージとさせていただきます。

(会場拍手)

三浦:ありがとうございます。

「孤立無援になっていて強い人なんかいない」

三浦:では糸井さん、よろしくお願いします。

糸井:今日のまとめではないんですが、たぶんみなさんは1人の意思でここにおいでになっていると思うんですよ。「誰かに誘われたから」「一緒に行こうぜ」というよりは、1人で考える時間を持ってる人たちが、自分の考えの出会う先としてここを選んでくれたんだと思うんですね。

ただ、1人で考える時間を想像できない人もいるんですよ。ずっと(誰かと)つるんでたり、1人でいる時には受信だけしていて、「何かおもしろいことないかな」って言ってるみたいな。その意味では、ここにいらっしゃる方々はみんな1人でいる時間にものを考えてる人なので、すっごく大事なことが半分できてる人だと思う。

同時に、1人じゃできないことってものすごく多くて。今の時代だと、何かを1人でやろうとするには誰かが作った舞台に乗っかるとか、誰かが作ったコースを歩いたりしなきゃいけないので。「誰か」という関係でやれることがどんどん多くなってるので、その意味では1人じゃできないことがものすごくある。

仲間に対して「喜ばれたい」「貢献したい」「手伝いたい」とか、自分1人じゃできないことに対するもう1つの強い欲望みたいなものがあるので、両方できている人にとっては今の時代はものすごくおもしろいんですよね。

苦しんでるというか、ひねくれちゃってる人ってだいたい1人なんですよね。孤立無援になっていて強い人なんかいないので。1人で考える時間があって、みんなで考える時間がある。1人でやれることをやっていて、みんなでやれることをやっている。この行ったり来たりが気持ちよくできると、ちっちゃいことでもおもしろいんですよ。

同時に、すごく大きいことにもつながるんですよね。僕は長くいろんなことをやってきて、そういうことをしてるんだなと思うと、つながれることのおもしろさをみなさんに味わってほしいなと思います。

三浦:ありがとうございます、拍手をお願いします。

(会場拍手)

実は重要な「遊びのセンス」

三浦:ということで、本当に90分お話をしていただきましたが、セッションは以上で終了にしたいと思います。大きなキーワードとしてあったのは、「システムからの逸脱」、そして「確実性の低い荒野に出ていく」ということかなと思っていて。

意図的に荒野に出ていくこともあれば、荒野に放り出されてしまうこともある。ただ、その時に「俺たちはちゃんと選べるんだ」というのが、すごく人間的に備わっている気がして。意図的に出ていくことと、出ちゃった時にちゃんと選んでいくことを、1人でやらずにみんなでやっていくことができるといいなと、今日はすごく感じた90分でした。

山口:あのね、気がついた。遊びを作ることを考えた時に、不確実性がない遊びってないんですよ。すべての遊びには不確実性がある。だから、おもしろい遊びを作れるようにして、何かを立ち上げられるときっといいんでしょうね。

三浦:みんなで遊んだりとか。

山口:遊びのセンスってすごくある。つまんないことばっかり出してくる、遊びのセンスがない人っているでしょう。遊びのセンスはけっこう大事で、「それおもしろいね、やろう」と言って集まって、「楽しかったね」と言ってまた別れる。

それで、またおもしろい企画を考えて集まる。それを繰り返していけたら、最後に「ああ、おもしろかった」と言って終われていいんじゃないですかね。

三浦:まさに。便器に横に座るのも遊びの1つかもしれないですね。

山口:ですね。日常生活に潜む違和感を見つけてこいと言った時に、重里さんの便器に横に座ってみたっていう話みたいに「負けた! そうきたか」「それか!」みたいな(笑)。「つり革を押してみた」とかも、「なぬ!?」みたいな。それもゲームですよね。

三浦:ありがとうございます。まさにそれも含めて、システムからの逸脱をしていこうと。それをみんなでやれると、恐れずにいけそうだよなという話ができました。

ハッシャダイソーシャルはその真ん中にいて、いろんな人たちの一歩を応援しつつ、いつでもつかめる距離にいたいなとすごく思っているので、引き続き一緒におもしろいことをしてもらえたらうれしいなと思います。

そしてぜんぜん時間が足りなかったので、また何かでご一緒できたらうれしいなと思います。あらためて、お二人に拍手をお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)

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