「これを言っとけば売れる」という魔法の言葉はない

笹田裕嗣氏:コミュニケーション・関係性のステップを出させてもらいました。

関係を前進させていくためには、警戒されているのであれば、まずは「敵ではない」ということをちゃんと証明しないと、こちらの言葉に耳を傾けてもらえることはありませんよね。

私はよく営業研修で「営業の基本ステップは4つです」とお話をします。ラポール(関係構築)、ヒアリング、プレゼン、クロージングの4つのステップです。よく聞きますよね。

なんでラポールが一番最初なのかなんですが、例えば「ヒアリングがうまくなりたいな」と思った時に、多くの営業は質問技術を上げる、もしくは質問トークを取りにいくんです。よくX(旧Twitter)やLINEで「こういう情報を聞きたいんですが、どんな質問をすればいいですか?」というご相談をいただくんですが、この質問自体がナンセンスなんですよね。

なぜかというと、営業に魔法の言葉はありません。「これを言っとけば売れる」という言葉があったら、みんな言うじゃないですか。そうすると差別化されないので選ばれなくなります。これは質問も同じです。じゃあどこで差別化すればいいのかというと、ラポール(関係構築)なんです。

今からみなさんにチャットに書いてほしい質問があります。今の銀行の貯金額をZoomのチャットに書いてください。絶対に書いてくださいね、お願いします。……本当は書かないでくださいね(笑)。書きたくないじゃないですか。なぜ書きたくないのかというと、そもそも私がその情報を得て、何にどう活用するのかがわからないからです。

営業の第1ステップがラポール(信頼構築)な理由

じゃあ、違った例で考えていきます。私がみなさんの担当の保険の営業マンで、お付き合いが5年あると思ってください。喫茶店で打ち合わせをしています。

保険の更新のタイミングがきて、家族の状況の変化もあったとして、「そろそろ保険の見直しが必要ですね。保険の見直しをするために、現状の貯金や資産額を教えてください」ということであれば、「教えようかな」という気持ちが生まれてくるはずです。

なぜかというと、私のやっていることが「保険の営業として、今のプランの見直しをするためにこの情報が必要なんだ」という関係性が成立しているからですね。関係性の成立というのは、相手に対してこちら側ができることをわかってくれていて、かつ信頼してくれてるからですよね。なのでラポールありきなんです。

こちら側のことをちゃんとわかってくれて、信頼されていなければ、質問に対して正しい回答、本音、事実を教えてくれない可能性が高いからです。

ラポールが最初のもう1つの理由は、プレゼンテーションです。こちらに対して興味や信頼、安心感がなければ話を聞いてもらえないんですね。どれだけいいことや偉そうなことを言ったとしても、その前提で会話ができないと、こちらの話をちゃんと聞いてもらえない。

こういうことが起こってしまうと、どんなにプレゼンが上手であったとしても、相手の心に届かないという問題が発生してしまうからです。なので、ラポール、関係構築はめちゃくちゃ大事です。

……言うのを忘れてましたが、こちらの画面はスクショで撮っていただいて、どこに発信していただいてもかまいません。社内のSlack、Chatwork、メール、SNS、どんどん拡散いただいてかまいませんので使ってください。

事例を伝えることと自慢話は違う

話を戻します。敵ではないことをちゃんと証明しましょう。「あなたのお金を搾取しに来た人ですよ」ということを伝えるのではなくて、「私はあなたのことを理解し、共感し、提案をしたいと思っている」ということをちゃんと伝えてください。

「価値を提供できます」と言う前に、「私はあなたの味方である。なんで味方であると言えるのかというと、あなたのことを理解し、心の中でも共感し、すばらしいと思っている。だから一緒に取り組みがしたい」(ということを伝える)。

ただ、これだけだと「私はあなたが好きだから付き合って」と言ってるだけなので、ビジネスパーソンとして「こういうことができるから一緒になる価値があるんです、意味があるんです。そして味方なんです」ということを、ちゃんと伝えていただきたいなと思います。

敵ではないということをちゃんとわかってもらえなければ、その先のステップに進むことはないんだと、ぜひ意識していただきたいなと思います。ただ、警戒心をある程度は払拭できたとしても、「本当に役に立つのかな?」とわかってもらえないケースがあります。じゃあどうすればいいのかというと、信じられる根拠をちゃんと伝えていきましょう。

信じられる根拠として一番伝えてほしいことは「事例」です。「これまで取り組んできた事例の中で、こういうことをやりました」とか。事例の伝え方は自慢話じゃなくて、事例なのでビフォーアフターです。「こんなことに悩んでいたお客さまが、我々のサービスや支援を通してこうなれました」と伝えてください。

『劇的ビフォーアフター』が盛り上がって、番組として成立して多くのファンがいたのは、ビフォーがあるからなんです。アフターだけを言っていたらただの自慢話なので、「こう変わりましたよ」ということと、自分たちの介在している価値や「何をしたのか」を伝えていただきたいなと思います。

プレゼンは「商品説明」ではなく「提案」

疑いの心も晴れたけど、「生理的に受け付けない」みたいな状態にならないように(するためのポイントです)。ビジネスなので、仲良くなるというのは「友だち作りをしましょう」ということでは当然ありません。「この人と話したい」という、一定の会話がしたくなる気持ちをちゃんと作らなければ、関係は前進しません。停滞していきます。

ただ、がんばってここまで積み上げてきたとしても、失う時は一瞬です。信用を失う言動をしない。一番わかりやすい部分でいうと「遅刻しない」「嘘をつかない」。当たり前のことをしっかりやりましょう。

そして最後が「信頼」なので、「お願いしたい」をちゃんと作っていきましょう。「この人に時間、お金、気持ちを預けたら返してくれる」と思える提案ができていますか?

自分が提案・プレゼンを行っている方は、自分に時間を投資してくれている。お金を払ってくれたり、気持ちを費やしてくれた時に、そのぶんのお返しって何ができますか? ということをちゃんと伝えていただきたいなと思います。

だからこそ今の営業に言いたいことは、ちゃんとプレゼンしましょう。プレゼンなので「提案」であって、「説明」じゃないですよ。商品説明をしてもしょうがないんです。

「弊社の商品・サービスはこのような機能がありまして、こんな成分でできておりまして、こういうバックボーンがあって出来上がりました」という(商品・サービスが)できた話や、なぜここにあるのかの話じゃなくて、「これを使ってあなたはどうなれます」をちゃんと伝えていただきたいなと思います。

プレゼンの成功パターン・失敗パターン

提案をして依頼・承諾を受けてもらうために、大事なポイントは3つのバランスです。期待されて、想像させて、それに対して必要なコストを示してください。

詳しくお話しします。まず前提として「期待されましょう」というところなんですが、「うわ、おもしろそう」「すごそう」「良さそう」と思える期待をちゃんと持ってもらう。

その中で、商品・サービスに期待を持ってもらうのはもちろんありなんですが、それって別に商品・サービスが良ければ売れるわけじゃないですか。そうすると、インターネットで広告を流しとけばOK、で終わりなんです。そうじゃなくて、「私」が営業として関わる価値がここでやっと出てきます。

「この人なら大丈夫」と思ってもらえる営業・提案をしていきましょう。成功する営業は、ベネフィット、そこから得られる価値をちゃんと伝えていきます。

一方で失敗するパターンとして、「これだけの機能がありまして、業界ナンバー1、初の取り組みなんです。利用者数は云々」みたいなプレゼンテーションです。相手が最後に安心して納得できるように、材料でお渡しするのはもちろん悪くはないです。

ただ、まずプレゼンすべきは「あなたはビフォーアフターでこうなれますよ。変われますよ。今はこれが現状の問題・課題ですよね。これを解決できたら素敵じゃないですか? だから私にやらせてください」。(こういった提案をすると)「いいね、素敵だね、おもしろいね」となる。

「けど、本当にこんな新鋭の会社で大丈夫? まだ7期目の会社でしょう」「営業ハックさん大丈夫?」と思われた時に、「信じてください。これまで300社以上のご支援もしてきました。S-1グランプリで優勝もしました。今、うちのメンバーは50人を超えています。そのメンバーたちが、月間で毎月1,000件以上のリードを作ってるんです」と、実績を示す。

「リード、アポイント、資料送付、ウェビナー送客、すべて含めて1,000件の見込み客を集める取り組みをさせてもらってるので、大丈夫ですよね。逆に不安なことはありますか?」ぐらいのことを言ってほしいんです。言葉と態度でちゃんと示すことがとても大事だなと思っています。

「想像できる材料」と「想像したいというマインド」の重要性

そしてもう1つ。「私の1番はこれです」ということをちゃんと伝えていただきたいなと思います。うちの会社もそうなんですが、「営業代行、他社さんとの違いは何ですか?」と聞かれます。ただ、営業代行ってそんなに差別化するポイントがないはずなんですよ。

なぜならば、「世の中の営業マンがやっていることを、うちの組織が代わりにしますよ」というだけなので、私はよく「違いはそんなにありません」と言っちゃっています。

「ただ、御社の商品が一番好きな営業がやったほうが売れると思いませんか?」「売れると思います」「ですよね。私が今回打ち合わせをさせてもらってるのは、御社の商品が大好きで、代わりに売る自信があるからです」と伝える。

営業の仕組みややり方云々じゃなくて、気持ちを込めることが一番売れる営業だと思うので、「その気持ちが他社よりもあるのがうちだと思います」とよく言ってます。なので、何が1番なのか、自分で自信を持って言えるものを1つ持っておいていただきたいなと思います。それが、相手から期待がしやすい環境を作っていくという部分です。

もう1つが「イメージ」なんです。人は想像できないものを買いません。なので想像できる状態を作っていただきたいんですが、営業でやりがちな失敗は何かというと、想像できる情報だけをがんばって伝えようとすることです。

1つの観点が抜けてるんです。「想像したい」という気持ちを作るコミュニケーションは取れていますか? 想像するという状態は、「想像できる材料」と「想像したいというマインド」が2つ揃って初めて想像されます。イメージが持たれるということですね。

もう1つ、「想像できる」が大事なポイントとして、ポジティブな想像じゃなきゃいけないんですよね。想像したという状態は良かったとしても、話をすればするほど「いや、この会社はダメそうだな」というネガティブな想像をされてしまうと訴求の失敗なんですよ。

ポジティブな、素敵な未来をイメージできるような情報提供やコミュニケーションができるプレゼンターでなければいけないということをお忘れなく。

最も変えやすいコストは「心理的なコスト」

ここまでがんばってる営業は世の中にいっぱいいます。一生懸命伝えて信じてもらえてるんだけど、最後に手のひらを返したように「やっぱりやめとくわ」と言われてしまう営業が世の中にはいるんです。しんどいですよね。もったいないんです。

なんでなのかというと、そこに対するコストを伝えてないんですよ。コストとはお金だけじゃなくて、時間もそうですし、心理的なストレスもそうです。成果・ベネフィットを得るために費やしたものすべてがコストなんです。

その中で、一番ひっくり返りやすいコストは心理的なコストなんですよ。「やっぱり面倒くさいな」という気持ちが生まれないように、何をすべきなのかをしっかりイメージしておく。準備しておかなければ、最後に手のひらを返したように「やっぱりやめとくわ」「稟議が通らなかった」「上からNOって言われてしまった」みたいなことが起こってしまいます。

ベネフィットは、「めちゃくちゃ良いもの得られますよ」だけではなくて、「これだけの工数や手間はかかりますが、そのぶんこれだけの見返りをお届けすることができますし、一緒に伴走していくのでやらせてください。お願いします」と、ちゃんと伝えたほうが結果的に楽です。成果に向けて最短のルートでがんばる時に、わざわざ遠回りしないでくださいね。

繰り返しになりますが、商談の意図というところで、受注をいただくにあたっては期待とコストのバランスです。どんなに良い期待があったとしても、それ以上のコストを感じていたり、負担を感じているのであれば相手は買ってくれない。意思決定してくれませんよということを、ぜひ意識していただきたいなと思います。