営業を難しくさせているのは、実は営業自身?

笹田裕嗣氏:少し中身に入っていきます。「ナーチャリングの真実」と書かせてもらいましたが、「見込み客の育成」という言葉をナーチャリングと表現するケースがあります。

お客さまとの関係を前進させていこうと思った時に、よくあるマーケ施策でいくと、まずはリスト集めて、Facebookで広告を出して、Googleで広告を出して、展示会に出る。

いろんなかたちでメアドを集めてメルマガを送って、ウェビナーを開いて、ホワイトペーパーができたら送って、やっと話を聞いてもらってプレゼンテーションを行って、受注にならなかったらコンテンツを送る。

さまざまなかたちで相手に有益であろう情報を送ることによって、「お客さまとうちの関係は良化する、ポジティブに捉えてくれるはずだ」と思ってがんばってる営業は世の中にたくさんいますよね。ただ残念なことに、それで本当に育成できてるのかどうか? ということです。

(お客さんが)メルマガを開封して読んでくれた、ウェビナーに参加してくれた、ホワイトペーパーをダウンロードしてくれた、電話でちょっとプレゼンができた。コンテンツもいつも見てくれていて、Googleアナリティクスでデータを見て、「このドメインはCookie情報で見てる」みたいなことがわかったとします。

ただ、「このお客さんはいつもたくさんコンテンツに触れているから、うちの会社に興味を持ってくれてるはずだ。よし、電話をかけてアポイントもらおう」「間に合ってるんで大丈夫です」と、ガチャ切りされちゃうこともぜんぜん起こりうるんですよ。営業を難しくさせているのは、実は営業じゃないですか? という問題を意識していただきたいなと思います。

“営業の王道のやり方”が遠回りになっているケースも

世の中の営業の王道や、マーケティングの王道をコツコツがんばったから本当に成果につながるのかというと、意外と遠回りしてしまっているケースがあります。

リアルな研修やイベントでもお話しさせていただいた内容なんですが、みなさん想像してください。(今回のイベントは)120人近くにご応募いただいていて、67人の方にご参加いただいているので、この後またさらにご参加いただけるのかなと思います。

こんな夜ですし、自宅なので息子がピーピー言っている中で偉そうにお話しをさせていただいています。私はみなさんにこの本を通して何をしてもらいたいと思っているのか、さあ考えてください。察してください。……みたいなコミュニケーションってめんどくさいですよね。遠回りなんです。

じゃあ、私が何をしてほしいと思ってるのか。「みなさん、SNSで拡散してください」「Amazonのレビューを書いてください。お願いします」って言ったほうが、やってくれる人や動いてくれる人は多いんです。

「いろんなことやったら、お客さんが自分の言うこと聞いてくれるはずだ」というナーチャリングじゃなくて、やってほしいことをちゃんと伝えてお願いしたほうが、早く動いてくれる、理解してくれることってぜんぜんありますよね。

今回はナーチャリングの例でお話ししましたが、営業の難易度を自分で上げないでください。「しっかりとお願いをしたら動いてくれる人はいますよ」というのが、ここでお話をしたかったことです。

ムダな努力・がんばりを増やさないために

一方で、多くの営業が施策ありきで、何のためにやってるのかを忘れてしまってるケースってありませんか?

営業の求めているゴールって何なのかというと、例えばインサイドセールスの方であれば「アポイント」かもしれませんし、フィールドセールスの方であれば「受注」かもしれませんし、カスタマーサクセスの方であれば、継続していただく、もしくはアップセルできるといったゴールがあると思います。

当然、営業としてやらなければいけない目標はありますよね。会社に売上・お金をもたらすことができるのは社長と営業だけなので、みなさんは役割・期待が明確な仕事をしていただいている、もしくはそのマネジメントをしていただいている方々です。

営業という職種において、お客さまに求めていることは当然あるはずです。「自分がやってほしいこと」と「相手にやってほしいこと」の重なりを多くして、みんなが幸せになりましょうというのが営業の仕事です。

つまり、自分のやってほしいことから逆算する。「メルマガを送る」は手段なんです。例えばナーチャリングで言えば、自分に興味を持ってもらって、信頼を獲得するためには「何をすべきなのか」から考えるのではなくて、「誰に、どうなってほしくて、何をするのか」をしっかり考えていかなければ、営業ってムダながんばりが増えますよ。

「毎日メルマガを送ってるのにアポが増えない」「ホワイトペーパーをあれだけダウンロードしてもらったのに、ぜんぜん問い合わせが増えない」という人はけっこういます。

なぜかというと、ホワイトペーパーがただの営業資料なので、ぜんぜん興味を喚起されていない。「この会社すてき」ってならないようなコンテンツを送りつけたところで、ファンになるわけないんです。

自分が行っているアクションで興味や信頼を得たい、アポイントがほしいなら、そのために逆算をして、自分がやっているアクションが相手に貢献できてるかどうかをしっかり考えていかなければ、不毛な努力が増えてしまいますよね。ここがまず1つです。

令和の営業は“きれいさ”を求めすぎ?

一方で、令和のご時世の営業です。「令和観」と「昭和観」って、同じ「和」なんですよね。先日とある方とお食事をさせていただいたんですが、令和の営業と昭和の営業の話をしていた時に、「令和の営業って、きれいに営業することを考えすぎじゃないか。求めすぎじゃないか」という話をしたんですが、本当にそのとおりだなと思っています。

きれいな営業をすることが営業における目的なのか? ということから考えていけば、きれいな営業をすることよりも、お客さんの役に立って、自分たちの売上や粗利の利益の目標をしっかり達成したほうが、最後に「やっててよかった」ってなりませんか?

スマートな営業って何なの? きれいな営業って何なのか? と考えた時に、若手の方にいろいろと聞くと、「お願いをしない」とか「こちらの意思表示をしない」。なので、「ご検討お願いいたします」「いかがですか。どうですか?」と、決断を促さないんですよ。

普通に考えてください。相手からすれば、知らない人から電話がかかってきて、「突然のお電話、失礼いたします。よろしければぜひお打ち合わせのお時間を」「よろしくないんで大丈夫です」って言っちゃうじゃないですか。

「ご検討いただけますか?」と聞かれたら、「わかりました。じゃあ、検討して必要があればご連絡します」と言えますよね。「ご検討いただけますか?」と聞かれて、「検討しました。ぜひ欲しいと思います」という回答なんか来ないんです。

お客さまが言ってくれた言葉は、こちらの営業側が引き出した言葉であるということをちゃんと認識しなきゃいけないんです。なので、あらためて自分がやっているアクションが遠回りしないように、「ちゃんとお願いするのってぜんぜんありだよね」と認識する。

コンテンツのみのやり取りには限界がある

「ナーチャリングの真実」と書きましたが、コンテンツのみのやり取りや、お願いをしない営業には限界があります。

警戒、疑心、親和、信用、信頼のステップをしっかり積み上げていきたいなと思った時に、遠回しに「これだけのことやってあげてるんだから察してよ、仲良くなってよ」と(いう営業をする人がいる)。

こういった時に若手の営業は、「単純接触効果」とか「接触回数を増やしているから仲良くなれているはずです」みたいにやりがちなんですが、そんなのは(直接)聞いてしまえと。お客さまとちゃんと会話をして、コミュニケーションを取ってやりとりをしていったほうが、最終的に仲良くなれる可能性がありますよね。

きれいな営業がWeb上で完結させる営業なのかといった時に、今のご時世だと「飛び込み営業ってナンセンス。古い」とか、テレアポも同じく「そんな営業、まだやってるの?」って思われるケースもぜんぜんあります。

ただ、テレアポや飛び込みのほうがお客さまが動いてくれるケース、商材、業界が、まだ世の中には一定数あるんだということです。もちろん首都圏で、ITで、みんながリモートワークで働いている企業規模群にアプローチをするのであれば、リモートワークなので飛び込みしたところで(お客さまは)いません。

営業ハックでお手伝いさせていただいてる会社さんは、失礼かもしれませんが地方の会社さんもいくつかあります。地方の会社さんにはリモートの前提があまりなかったりするので、飛び込みやテレアポをしたほうが早いケースもあります。

この「早さ」というのは、営業する側が成果に反映がしやすいからいいという話だけではないです。これだけ情報が多くて変化が激しい時代ですので、各企業ごとにもスピード感が求められています。

「お願いする=古い営業」というのは誤解

世の中の顧客のニーズがコロコロ変わる中で、事業として、ビジネスとしてやらなければいけないことは、「いかに早く時代に適応して、顧客のニーズに適応した変化が作れるか」です。なので、遠回りをした分お客さまに損をさせている可能性もゼロじゃないですよね。それだけの自信を持って営業していきましょうよ、ということです。

私は営業活動すべてがナーチャリングだと思ってます。コンテンツを通して自社のことをわかってもらうことも、もちろん1つの方法です。ウェビナー、ホワイトペーパー、ブログの記事、YouTubeの動画とか、すべてを含めてコンテンツですが、ナーチャリングとはそれだけじゃなくて。

直接話したらどうなのか。また、実際に御社のことをお話しさせてもらった時に「こんなことやりたいんです。一度話聞いてもらえませんか?」と、簡易でもいいのでプレゼンしたほうが、相手の心に刺さったり、動いてくれる可能性ってありませんか?

「お願いする=古い営業」なのかと言うと違います。人を一番動かすコミュニケーションは、コンテンツコミュニケーションやプレゼンを組み合わせながら、しっかりお願いすることです。プレゼンだけでなんとかしようとするとか、どれかだけにしてしまうからハードルが高いんです。

「アポをくれ」というプレゼンは、テレアポだけだからつらい。だけど、コンテンツ×プレゼンのテレアポだったらどうなのかというと、「先日送らせていただいたコンテンツの件、ぜひご意見もいただきたく、ディスカッションもさせていただきたいので、お打ち合わせのお時間をください。よろしくお願いします」となる。これがコンテンツ×プレゼンテーションです。

コミュニケーションを継続的に取っていく中で、「ここまでいろいろとお話をうかがって、やはりお力になりたいので打ち合わせをさせてください」と、コミュニケーションの継続がアポを取りやすくすることもあると思います。このように、いろんな組み合わせがあります。

「価値」とは、結局は相手の決めつけ

選択肢が多い時代なので、いろんな技を組み合わせながら相手を動かしていく。営業は人を動かしてなんぼなんです。今のご時世、便利な時代じゃないですか。我々の提案なんかなくても、生活も仕事もすべてがなんとかなっているんです。

だけど我々が提案していくのは、目の前で会話をしているお客さまをより良くすること。ビジネスで言えば、売上が上がるのか、コストが下がるのか、ミッション・ビジョンの実現に貢献できるのかなど、さまざまな観点があると思います。

自社の商品・サービスが、どうお客さまの役に立てるのかをしっかり理解してもらうために、「何をやらなきゃいけないか」をぜひ考えていただきたいなと思います。

あらためて、こういったコミュニケーションを通して営業が意識しなければいけないことは、「介在価値を高めましょう」という部分です。

営業をわざわざやっていますが、なくても売れるじゃないですか。今回の『営業がしんどい』もAmazonで出ているので、私が営業しなくてもAmazonで買ってくれる人はたくさんいらっしゃるわけですよね。ありがたい限りです。ただ、わざわざ声をかけなければ気づかない人や届かない人もいます。

今回は古瀬さんが企画をしてくれましたが、本をきっかけにして直接お話をする機会をいただいたおかげで、ただ「本を書きました。読んでね。終わり」じゃなくて、「こんな思いで本を書きました。本の裏側にはこういう思いがあるんです」と、私がみなさんに介在するきっかけをもらってます。

私がここでやらなければいけないことは、今日の話を聞いていただいてるみなさんに「参加してよかったな」と思える価値を発揮しなきゃいけないんですよね。じゃあ「価値」って何なのかというと、結局は相手の決めつけなんですよ。価値があるか・ないかというのは、その人自身の判断です。

営業としての介在価値を生むためのポイント

じゃあ、何で判断して決まるのか。ここに「想定価値」と書きました。例えば唐揚げ定食を頼んで、「きっとあれぐらいの味かなぁ」と思ってたら、思ったよりおいしい。そう思ったら満足なんです。自分が想定しているラインを越えたか・越えてないかなんですね。

うちではテレアポ代行のお仕事をさせてもらっていますが、「だいたい10アポぐらい取れたらいいかな」と思った時に20アポ取れたら、めちゃくちゃ喜んでくれるわけですよ。だけど、もともと「30アポ取れると思ってるので任せてください」と言って20アポだったら、同じ20アポなんですが満足・不満足に分かれてしまう。

なので、人は何を基準にして判断をしているのかを頭に入れておかないと、相手に喜んでもらうことってできませんよね。だからこそ、みなさんが営業として介在価値を生んでいくためには、「相手が自分に何を求めているのか」をちゃんと把握しておかないと、いつもどおりがんばってるんだけれども喜んでくれない人が出てくる。

「いつもこれをやったら喜んでくれるのに、なんでこのお客さんは怒ってるんだろう?」というのは、想定した「相手側が求めている価値」が違うからです。「いつもどおりがんばる」が正しいんじゃないんです。「いつもどおりがんばったら喜んでくれる人に営業する」であればいいんですが、営業の方は毎日会う人が違うと思います。

「いつもどおり」は自分の話で、相手は「いつもどおり」を知りません。努力をムダにしないためにも、相手の想定している価値をしっかりと認識しておく必要がありますよね。

ニーズの種類を把握することで、相手はその問題・課題について気づいているのか、気づいていないのか。見えてるのか、見えていないのかが判断できる。目の前の相手は何を求めていて、何をしたいと思っているのかを把握しなければ、コミュニケーションは前に進みませんよね。

また、介在する価値はお客さまとの関係性によっても当然変わってきます。潜在顧客なのか、見込み客なのか、既存のお客さまなのかで、営業が求められるアクションも変わってくると思います。自分の顧客との関係性をしっかり意識しながら、関係を前進させていきましょう。