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だかぼくオープン講演「難しい人間関係を解決する、コミュニケーションの技術」(全5記事)

指示待ちや忖度をする部下の意見を引き出すには 対話の中で上司がやってはいけない聴き方・伝え方

幸せ視点の経営を学ぶ、革新的なオンラインスクール hintゼミの主催で行われた本イベント。新著『小さくはじめよう 自分らしい事業を手づくりできる「マイクロ起業」メソッド』を出版した、ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授の斉藤徹氏が登壇しました。本記事では、部下との対話がうまくいく3ステップや、指示待ち・忖度をするタイプへの聴き方・伝え方について解説しました。

前回の記事はこちら

部下との対話がうまくいく3ステップ

斉藤徹氏(以下、斉藤):ここからは、対話をどうしていくのか、対話でどうやって問題を解決すればいいのかという基本パターンのお話です。ここでは「ゴードン・メソッド」をベースにします。

ゴードン・メソッドでは、最初に相手の持っている問題か、自分の持っている問題かを切り分けて、それによって話し方を変えます。今回のテーマは、プロジェクトの進捗が良くないという自分のチームの問題です。だから、(上司である)自分が問題を持っているケースのメソッドを使います。

自分が問題を持っている場合は、3つのステップがあります。まずその問題に対して、「私メッセージ」で伝えるのが最初の一歩です。

自分が問題を持っていると、相手に伝えること。続いて、相手の話を能動的に傾聴する。3つ目は、その上で信頼関係ができて、相手が話す気持ちになってきたら、第三案を共創する。こういうステップで解決をしていきます。

部下に問題を伝える時は「私メッセージ」で

斉藤:このケースのような場合、まず「もっと積極的になってくれよ」みたいなことが、どうしても頭の中に出てきます。しかし、頭の中に浮かんだまま「あなた」を主語にして、ストレートに相手の行動を非難すると、ほとんどの人は心を閉ざしてしまって、そこから先に進まなくなります。

だから、まず「私メッセージ」で、「私はこう考えているんだ。こう思っているんだ」と伝えることが大切ですね。「私メッセージ」はなかなか難しいので、もう少し具体的に考えていきましょう。

「あなたメッセージ」というのは、相手の部下の問題、言動とか結果を非難して、あるべき行動を要求することです。それに対して「『私メッセージ』は、自分の課題と感情として伝えること。例えば「このチームをこうしたいんだ」「でもこういう問題があって、困っているんだ」とか。

自分にとっての理想と、現実とのギャップを伝える。自分の課題を伝えたら、その後に「だからこうなんだよね」と一次感情 (怒りは二次感情で、その前に不安とか心配とか悲しさといった一次感情がある) を添えて、率直に話す。これが「私メッセージ」です。

具体例で見ましょう。例えば「あなたメッセージ」というのは、「君はいつも意見がないよね。もっと発言すべきだよ」というやつですね。それに対して△なのが、中途半端な「私メッセージ」です。「ちょっと場が盛り上がらずに困っているんだよね。もっと発言してもらえるとうれしいな」と。悪くないんですけども、もう一歩踏み込んで、自分の理想と現実を伝える。

例えば、「僕は、このチームを自発的に動いて助け合うチームにしたいんだ。そうしたら、みんな仕事が楽しくなるし、成長できると思うんだよね。でも、なかなか実際にはうまくいかなくて悩んでるんだよね」という伝え方をする。これが「私メッセージ」です。

「能動的な傾聴」で相手の内面に意識を向ける

斉藤:続いて「能動的な傾聴」というのは、自分の気持ちを「私メッセージ」で伝えた後のお話です。「私メッセージ」で伝えると、どうしても自己主張が頭の中に残ります。でも、相手が話し始めたら、いったん自分のことは脳の顕在意識から取り除いて、さっきと同じように、相手が人生の主人公なんだと考える。

相手の気持ちに切り替えて、「相手の目線で世界がどう見えているんだろう」と、相手の思考や感情に想像力をフルに働かせてみる。「今どんな気持ちなんだろう?」「何が不安でそういう言葉が出ているんだろう?」と、他者の内面に意識を向けて、耳を傾ける。これが「能動的な傾聴」です。

私の問題を「私メッセージ」で伝えると、私の(目線から見えている)問題が場に出る。でも相手もいろいろ言ってくるので、相手が感じている問題も場に出る。「能動的な傾聴」はスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』にも出ていますが、こんな感じですね。

多くの上司がやっている話の聞き方

斉藤:普通、ビジネスでは「自分の目線で解釈して、評価しながら聞く」というのが一番多いですね。さらに上は、「相手の問題が何かを理解しようと努力する」ですが、「能動的な傾聴」はレベル5のことです。「相手の目線で、世界がどう見えているのかを理解しようと思って聞く」ということで、共感による傾聴ができると。

たぶん、職場でこういうふうに(レベル5で)聞いてもらうことは、ほとんどないと思うんですね。多くの人は、レベル3で(相手の会話を自分の目線で解釈し評価して)聞きますし、ひどい上司はレベル2(聞くフリをする)だったりします。

良い上司でもレベル4(相手の問題は何かを理解しようと努力する)ぐらいだから、部下の話をレベル5(相手目線で世界がどう見えているのか理解しようとする)で聞いてあげると、表情も変わってくるし、非言語コミュニケーションも変わってきます。

うなずいたり目を輝かせて、「なるほど。そういうことだったんだ」と言われると、相手は「この人は、自分のことを本当にわかってくれようとしているんだ。その上で、チームを良くしようとしているんだ」と感じます。

「自分を責めるんじゃなくて、チームを良くしようとしているんだ。プロジェクトをうまくやって、お客さんに喜んでもらおうとしているんだ」とわかると、信頼関係が生まれてくるんですね。

その上で第三案を共創する。さきほどのように、自分の問題は「私メッセージ」として場に出しました。相手の問題も「傾聴」することで場に出ているんですね。つまり、お互いの問題が場に出ていて「これを一緒に解決しよう」というのが「第三案の共創」です。

自分の持っている問題も、その人が持っている問題も「一緒に解決しようよ」と。言っていることだけじゃなくて、その人の背景をよく理解すると、解決にぐっと近づいていきます。

解決策を導き出すコーチングの技術

斉藤:お互いの価値観の違いも感じながら、「じゃあ、こうするのはどう?」と第三案をともに考える。第三案を共創するためには「私メッセージ」や「能動的な傾聴」がすごく大切です。解決策を引き出す時、コーチングの技術はすごく役に立ちますが、中でもおすすめなのは「GROW」という手法です。1on1の時もとてもよく効きます。

「GROW」のステップについて説明すると、まず「GROW」の「G」は「Goal(目標)」です。最初は、その人に「どういうところを目指しているの?」とゴールを聞く。その人の口から「こういう結果を目指しているんだ。こうなりたいんだ」というゴールが出てくる。

そうしたら「今はどういう状態?」と現実の確認をする。これは「GROW」の「R」で「Reality Check(現実の確認)」です。

ゴールとリアリティ(現実)がわかったら、今度はそこに行くまでのオプション「Options(選択肢)」を聞く。「どうやってそのゴールに向かっていけばいいと思う?」と聞きます。レベルがそこまでいっていない場合には、例を出したり自分の経験を話したりしながら、オプションを考えてもらう。

最後の「W」は「Will(意志)」です。「なるほどね。じゃあ、最初の一歩はどういうことをやろうか?」ということです。この「GROW」はかなり使えるので、ぜひ1on1で使っていただきたいと思います。問題解決にも使えますよね。

指示待ち・忖度をするタイプとの対話の方法

斉藤:では、今まで基本的なメソッドをお話ししましたので、ここからは実際に、今お話しした技術を使って、難しい部下とどうやって対話をするのか。ちょっと例を考えてみましたので、ご覧ください。今から3つのタイプを、難易度の順にお話ししようと思います。

最初は同調ゾーン(指示待ち・忖度)の人。このタイプは自分(上司)のことを見てくれているから、実はすごく解決しやすいです。続いて独善ゾーン(反発・愚痴)の人。この独善ゾーンにいる人は、けっこう能力が高いことが多いです。

自分がリーダー格になっていたり、能力が高いゆえに自己追求が行き過ぎて独善型になっちゃっていることが多い。一番難しいのが、無関心ゾーン(無気力・自己中心)の人ですね。では、どういう対話をすればいいのか、ちょっと考えていきましょう。

まず同調型からです。「普通に話すとこんな感じ」というものをご紹介します。(進捗が遅れ気味である指摘をした時に)「はい。遅れて申し訳ありません」「いや、なんで遅れているの。問題はどこにあると思う?」と言ったら、「申し訳ありません。とにかくがんばって、来週までに遅れを取り戻します」。

「でも短くてもいいから、進捗を共有してみようよ。僕も知りたいし」「はい。明日からそのようにさせていただきます」「うん、わかった。じゃあ、がんばってね」と。こういう感じで一方通行になっちゃいますよね。こういう部下にはどう話をしたらいいのか、ちょっと考えてみました。

まず最初に「私メッセージ」では、「思ったことをなんでも言い合える場にしたいんだよね」と伝えてみます。その上でこのプロジェクトに関して、相手の視点で情景を想像して、相づちやうなずきを交えて傾聴する。

今日のステップの中では、「能動的な傾聴」はあまり多く入れていないんですが、現実の対話の中では「能動的な傾聴」がめちゃくちゃ大切になります。この「能動的な傾聴」ができているかどうかで、今日お話ししたことが、「なかなか難しいな」となるのか、「だいぶできました」となるのか、かなり変わってきます。

上司の知らない“現場の状況”を想像しながら聴く

斉藤:そして信頼関係ができたら、「第三案の共創」をしてみる。じゃあ、ちょっとやってみましょうか。最初はだいたい同じです。「プロジェクトの進捗が遅れ気味だけど、どうすれば改善できると思う?」「はい。遅れており申し訳ありません」「遅れている原因は何だろう? どんな小さなことでもいいから、聞かせてくれるとうれしいな」「申し訳ありません」という感じになっちゃうんですよね。

ここで「私メッセージ」ですが、「大丈夫、進捗は遅れ気味でも、僕は君と一緒にこの問題を解決したいんだ。そのために、悪いことや気になることがあれば、真っ先に共有できる、何でも言い合えるチームになりたいんだよね。そういうチームを作りたいんだよ」と。

「だって、何か問題があったら、それこそチームやこのプロジェクトを良くするための学習のチャンスだからね。だから、ちょっとしたことでもいいから、気になることを共有してくれるとうれしいな」と言ったらどうでしょう?

「現場で一番困っているのは、お客さんのニーズが変わりやすいことでしょうか」とポロッと出てくる。「なるほど、そっか。お客さんのニーズが変わりやすいのか。具体的な例があったら聞かせてほしいな」と言うと、「はい。例えば……」と、いろいろな話が出てくると思います。

その時、ここがポイントなんですね。こっちの言いたいことを言うためになんとなく聞くんじゃなくて、相手の視点になって、現場のプロジェクトの状況を想像する。現場のことは、上司はあまりわからないことが多いですよね。相手のほうがずっと情報量は多いと感じながら、相手の視点になってしっかり傾聴する。

相づちを打ちながら、途中で「それは大変だったね。その時はどう対応したんだろう」と聞くと、「その時はこうだったんですよ」と、またいろいろと話をしてくれる。その時もしっかり傾聴する。

ある程度話し終わったら、「話してくれてありがとう。なるほどね。なかなか難しいところがあるんだね。じゃあ、この困難な状況に対応するために、例えば納期の期日を遅らせることは現実的だと思う?」と。

こういうふうに、指示待ちの人があまり考えていなかったことを、ポンと言ってみる。そうすると「あ、そこまでは考えていませんでした。とにかく今、言われたことをやるのに一生懸命で……」という感じになります。

相手の行動を非難せず、自分の理想を伝える

斉藤:「例えば、お客さんに率直に現状をお話しして、期日を守ることと、新しい機能を追加すること、どっちを優先したいかを聞いてみることはできるかな?」と、このぐらいまで分解してあげることですね。たぶんこの部下は、経験したことがないだろうから、まだそこまで考えが至らない。

でもリーダーであれば、だいたい経験していますよね。だから先読みして、こういうことを言ってあげる。そうすると「そうですね。その選択肢を聞いてみることは可能ですね。今まで、僕が受け身すぎだったことが問題の真因かもしれません」と。指示待ちで忖度するような人は、すごくまじめなんですよね。

「いいね。君がさらに成長するヒントにもなりそうだね。チャレンジできる?」「はい。明日にでもお客さんに聞いてみます。そのために今日中にちょっと現状を整理してみます」。

「こういう問題を話すのは、なかなか難しかったりするよね。昔、そういう時に『信頼のトライアングル』という考え方を大切にして、うまくいったことがあったんだよね。僕のケースではけっこう効いたから、参考になるかもしれないよ」と。

「あ、これはいいですね! ありがとうございます! 参考にします!」となる。こんな感じはいかがでしょうか。ここでちょっと分析すると、最初に「私メッセージ」です。それから「能動的な傾聴」、そして「第三案の共創」というステップです。

「私メッセージ」では、「どうしてそんな答えしかできないんだよ」と相手の行動を非難するんじゃなくて、「こういうチームにしたいんだよね。悪いことでもなんでも、真っ先に安心して言えるようなチームにしたいんだよね」と自分自身の理想を話す。

「トラブルが起きていると、なかなかそうはいかないよね。だからそうなったらうれしいな」とポジティブに伝えることです。

部下との対話でやってはいけないこと

斉藤:その上で「能動的な傾聴」。今日はさらっと書いていますが、ここがすごく大切なので、比重を置いたほうがいいと思います。特にまだ信頼関係ができてない時、相手がちょっとビクビクしている時は、「相手の視点からどう見えているのか」を想像して、共感しながら傾聴する。

その気持ちが目の輝きやうなずき、相づちなど表情になって、必ず非言語で相手に伝わります。だからここでうそをついたり、別のことを考えながら「あ、なるほど」なんて言ったりしたらだめなんです。想像力を働かせて、本気で傾聴します。

こういうタイプの人は、自ら考えることにまだ慣れていないんですね。そういう人にポンと大きな課題を出してもできない。できなくてパニックになっちゃったりするんです。だから、「第三案の共創」では、「例えばこういうのはあるかな」と問題を分解して例示してあげます。例示する時も、「じゃあ、これとこれをやってみなよ」と押しつけたり、無理強いしない。

あと長々と話さないことですね。どうしても長々話しがちですが、むしろ短い言葉で「こういうことはどうかな?」「どう思う?」と常に会話のリレーを意識し、そこから価値を生み出す。「一緒に共創しているんだ」という感覚を作っていくことが大切ですね。

今日は、指示待ち・忖度を感じる部下をお持ちの方がとても多かったですよね。3分の2の方はそう感じていらっしゃったので、実際こんなふうに話してみたら、もしかしたら問題が解決に向かうかもしれません。

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