これからの時代に必要なのは「主体的なキャリア形成」
中村英泰氏(以下、中村):本日は「主体的キャリア形成を考える 人生100年時代」をテーマに、みなさんと共有してまいりたいと思っております。
まず最初に、今日のゴールをどこに設定するのかです。流れとして、スライドの左下に3つお示ししています。この後、30分ぐらい私からお話しさせていただきます。それを聞いて知識を入れるだけではなくて、みなさん自身が主体的な行動に移すきっかけを見いだせたらいいのではないかなと思います。
そこをゴールとして置いていただいて、「そのために何をするんだろう?」ということをキャッチアップしていただけると、非常に意味がある時間になるのではないかなと思っております。
まず最初に、「主体的キャリア形成を考える」という、この「主体的」の言葉がコアになるんですが、私も主体的な行動をし出したのは数年以内のことなんです。もともと13年前までは人材サービス会社の一般的なビジネスパーソンで、年収は400万円をちょっと切るぐらいでしたね。
たぶんそのままだったら……なんだか毎日辟易としながら愚痴を言っていて、今もその延長線上にいたのではないかなと思います。
みなさんもお読みになられたかもしれないですが、リンダ・グラットンが2012年に『ワーク・シフト』を日本版として出版しています。最初の見開きのところに書いてある言葉をそのまま読み上げますが、今日の「主体的キャリア形成」ともとても関係性があるので、ぜひお聞きになっていただきたいなと思います。
2025年、私たちはどのように働いているだろうか? 1つのケースは「漫然と迎える未来」。そこは孤独で貧困な人生が待ち受けるだろう。「貧困」というのは、賃金や生活の豊かさだけではなく、最近は心の貧困の問題が言われていますよね。そしてケース2が「主体的に築く未来」。自由で創造的な人生になっているんじゃないか? ということですね。
当時、私もこの本を読んだ時に触発された部分があって、「じゃあ何をしたらよかったんだろうか?」と思ったんです。正直、ただやみくもに動いて会社を飛び出したんですが、6年、7年ほどはほとんど成果が出ないような日々だったので、組織にいたほうがよかったのではないかと後悔したことを覚えています。
最近だと「キャリアオーナーシップ」という言葉がありますが、これはやみくもに何かをすることではなく、ちゃんと戦略・戦術的に主体的な行動を選択していかなければならないということです。まず大前提として、このことはみなさんの中に置いていただきたいなと思います。
主体的キャリア形成が求められる3つの理由
中村:今日のセミナーのタイトルにもある、「なぜ今、『主体的キャリア形成』とあちらこちらで言われるんだろうか?」という背景を考えると、共有すると大きく3つあるんじゃないかなと思います。
まず1つ目は、職業人生の長期化ですね。これまでは最終学歴から、定年が60歳、65歳だったのが、おそらく80歳まで何らかの組織に属して、自分の役割を全うしなければいけない。職業人生が相対的に長くなったことが、まず1つ言えるのではないかなと思います。
そして2つ目は、1999年から教育大綱の中に「キャリア教育」が明確に言葉として織り込まれた。「最近の若手は」とか、私たちから見てみたら異次元の世代に見えるのかもしれませんが、実際に彼ら・彼女たちは主体的に何かをやり出そうとしている。
なぜかと言ったら、義務教育の段階から自己を主体とした何かや、そういうことの大切さを習ってきたからという違いはあるのではないかなと思います。
そうして、組織の中でも働く人たちが少しずつ変わっていくのと同時に、最後の3つ目に「オーガニゼーション・キャリア」という言葉が出てきます。「伝統的な組織内キャリアが、必ずしもハッピーエンドに導いてくれるわけではないんじゃないか?」というところに帰結した。
この3つとともに、確実にそれを越えるための選択肢が増えてきている中で、あとは私たちが具体的にどう行動に移していくのか。今、こんな時代に来ているんじゃないかなと思います。
主体性とは外部から獲得するものではない
中村:では、さっそく進めていきます。最初のクエスチョンなんですが、次のスライドを見て考えていただきたいんです。3つ挙げますが、みなさんはこんな職場があったらいかがですか?
1つ目が「取り組んできたことがムダになる」。2つ目が「考え方を一方的に否定される」。そして最後に3つ目が「納得できないことに従わされる」。さあ、どうでしょう。平野さんはいかがですか? この3つが並んでいる職場や求人を見たら、エントリーされますか?
平野裕一氏(以下、平野):いやぁ……考えます。エントリーしないです(笑)。
中村:とても大事なことですが、「主体的キャリア形成」について、厚生労働省の言葉をそのまま端的に読み上げさせていただくと、「変化する環境において、キャリア構築と学習を主体的かつ継続的に行っていくこと」です。
それを行おうと思った時に、自分の将来に向けて可能性を探求しようと思っても、こういう3つが掲げられている職場では障害になるんじゃないか。まずは、そんな発想を思い浮かべていただきたいと思います。
平野さんにもお答えいただきましたが、多くの方たちが3つの条件に対して、たぶん「ノー」を突きつけると思います。なぜかと言ったら、「私の将来のキャリアを考えた時に、そうした環境下では結果的に目標・目的に向けて成し得られないと思うから、これはノーだ」と。
考えてみてください。そこには紛れもなく、すでに主体性があると思うんですよね。主体的に考えて、「ノー」だと意思を表示するということです。
いくつか重要なことを伝えてきておりますが、これも重要なので、みなさんのどこかにとどめておいていただきたいです。「主体的」というものは外部から獲得するものではないですからね。そもそも、今、こういうところに参加しているのも主体的ですよね。内在する可能性をどのように探求するのかというものが、「主体的」の言葉の中にあるんです。
過去と現在で比較する、3つのパラダイムシフト
中村:一方で、「主体的」の反対にある言葉は何かと言うと、「従属的」という言葉が出てきます。
そもそも私たちは、生まれながらにして主体的な素養や可能性を内在しているんですが、それを組織の中の役割に当てはめることによって、「まぁ、従属的でいいんじゃないか」という時間を過ごしてきているだけです。とはいえ、ひとたびこういう問いを立てられたりすると「ノー」を出したくなるわけですね。
なので、「主体的なキャリア形成」とは、もう一度内在している「自らの主体的な領域」を取り返していくプロセスなんだということを前提に置いて、その後ろにある大きな変化について、もう1つ、2つと進めていきたいと思います。
先ほど厚生労働省の言葉でも挙げましたが、「変化する環境=パラダイムシフト」という言葉とともに何が変化しているのかをみなさんにお示ししたいと思います。
「これまで」と「これから」の対比で見ていただきたいんですが、一番最初にわかりやすい大きなシフトは、人口が拡大するところから人口縮減。量だけの問題ではなくて、中身も変わってきていますよね。
そしてこれまでは、どちらかと言うと単一で単調な環境の中で、誰もが右を向いている中で左を向く。また誰もが、「社長は正しい」と言っていることに対して異を唱えることは叶わなかったわけです。
これからはどうなっていくのかと言うと、多様であり、タレント性が尊重されるような時代になっていく。これまでは従属的で、道は1つしかなかったわけです。かつて私も何度か「中村、嫌なら辞めるか?」って言われましたが(笑)。今や、辞めるか・辞めないかじゃなくて、もう少しキャリアの考え方には幅があり、多様化しています。
「マルチプル」という考え方があるんですが、主体的にいろいろなものを組み合わせて、自分のキャリアを作ることが可能だと言われ出している。そこに向けて具体的な形成をしていかなければならない時代に入ったということが、確実に言われ出しています。
主体的なキャリア形成に必要な要素とは
中村:多くの会社で当たり前のように聞かれるようになりましたが、パーパス。そして、プロティアン的なキャリア形成を促すような仕組み。中小企業だとそういう言葉がイメージしづらいと思うので、もう少し具体的なところで言うと、1on1や評価制度を見直したり、働き方改革も含めて、誰もがいきいき・わくわく働けるような職場風土・環境を作っていく。
物的資本を主体とする世の中から、人的資本を主体とする世の中に大きく変わっていく中で、身の回りでも、すでにいろんなことが変わり出そうとしている。
そして、私たちはどうしていかなければいけないのかということが、ここからの中核です。もう1つみなさんに共有させていただきたいのが次なんですが、そもそも「主体的キャリア」とは何なのか、もう少し詳しく説明します。
お借りしている資料は、慶應義塾大学名誉教授の花田光世先生のものです。私も何度か講座に参加させていただいたりもしていますが、花田光世先生は主体的キャリアをスライドに示した5つに分けています。では、これらを具体的に実現していこうと思うと、何が必要なのでしょうか?
主体的キャリア形成はいろんな意味合いで求められています。組織も求めるし、個人も求めていかなければならなくなってきている中で、それを実現するには何が必要なのかと言うと、下の囲みの青で示した3つです。まず「転機の経験」です。
そもそも多くの企業で採用されているジョブローテーションとは、昨日と今日で何かが変わる、昨日と今日の関係性が変わることを目的としたものです。主体的キャリアを形成するためには重要な側面であるんだけれども、最近では異動や配置転属を嫌い、役割を固定をする人が増えたことで、それを避けられるようになっていたりもします。
組織図が“ただのポジションの話”になっている
中村:どちらかと言ったら大きな変化を嫌うが故に、1つのコンフォートゾーンで、同じ人たちと、同じ仕事を、同じアイテムをもとに、同じ取引に対して、同じようなルートで、ずっとやっているような方たちも増えてきているのも実際です。
仮にコンフォートゾーン化してしまうと、図の真ん中の「垂直的な交換関係」も、単に上に人がいる・下に人がいるという、ただのポジションの話になっていたりもします。そして一番最後の「水平的な交換関係」も、ただ隣に人がいるだけになっていたりもします。組織図に意味があるのではなく、そこには確実に人がいるんだということをしっかりと見る。
物的資本的な世の中から、今は人的資本に移りましたが、これからは知的資本だということが(リンダ・グラットン氏の)『ワーク・シフト』でも言われています。
よく野中(郁次郎)先生が『ワイズカンパニー』でもおっしゃっていますが、知的資本を中心とした社会では、(自らの主体的キャリア形成のために)何を基に付き合う人を選ぶのか、組織が何を基に雇う人を選ぶのかが重要になっていきます。
知識や経験を持っていると同時に、内在している自分の主体的なものを開放しようとしている人を確実に選択しようとしています。それを基に、互いが相補協働しながら、先程の図の上に書いてある5つの方向性に向かっていかなければならなくなっているのです。