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キーエンスに学ぶ! 高賃金化〜経営者と社員で「高収益」かつ「高給与」を実現する方法(全5記事)

高給与を目指すなら「付加価値生産性」の高い仕事を探す キーエンス出身者が語る、キャリアの“大失敗”から学んだこと

キーエンス出身で、経営戦略コンサルティングなどを行う田尻望氏の新刊『高賃金化 会社の収益を最大化し、社員の給与をどう上げるか?』。今回は本書の内容をもとに、「収益最大化」と「高賃金化」の両立実現への道を解き明かします。本記事では、個人が給与を上げるための働き方について、そのポイントを語りました。

前回の記事はこちら

安い金額で、無理して仕事を受ける日本企業

田尻望氏(以下、田尻):地方やいろんな場所で人手不足と言われるじゃないですか。「人を増やしても利益も上がらないんです」と言われたりしてるんですが、ここに日本の経営者としての経営の間違いがありまして。(無理に仕事を)受けようとするんですが、いえいえ、受けなくていい。むしろ価格を上げて減らしたほうがいいですよ。

「これだけ需要があるので、すみませんがこれまでの1.5倍だったら受けさせていただきます。それでもやりたいんだったらやりましょう」と。そうすると、頼んでる側がその価格ほどの費用対効果があるのかどうかを判断するわけですが、日本の方々はなんとか人をかき集めて、安い労働力をかき集めて、無理してやろうとするんですよね。

やらんでいいという話なんですよ。「そんな安い値段ではそんな価値は(提供)できません」という人たちが増えると、元請けさんや頼んでる側がちゃんと改心するんですよね。「そっか。それじゃあ無理かも」となると、「市場に対してお金を払ってくれ」というかたちになります。

中小企業さまからすると、「いや、そんなことを言っても……」という話だとしても、そんなに大きい組織じゃないわけですから、とっとと新しい市場に対してアプローチできるように経営戦略をやり直さなきゃいけないんですよ。

先ほどおっしゃったとおり、お金はすべてエンドユーザーが払ってくれるので。トヨタさんや日産さんの下請けの下請けの下請けとなると、価格変更はほぼ不可能です。ほぼすべて元請け側が決めてますから。

井上和幸氏(以下、井上):そうですよね。

田尻:なので、最小の時間と人で求められたものをちゃんと作って、残った人員で新たな施策を立てないと、「いや、僕たちがんばってるので」と言ったとしても、こっちに限界がありますから。このあたりの社会構造は変えていかなきゃいけないなと思います。

井上:そうですよね。

そもそも適切な金額設定ができていない

井上:田尻さんがお話しくださったところは、僕はすべては解明できてないですが、平成以降の長年の流れの中でバーチャルな相場感みたいなものができちゃったんだろうなという感じはしますね。

田尻:おっしゃるとおり、あります。

井上:「受けなきゃならない」「このくらいじゃないとお客さんは発注してくれないんじゃないのか」とか。逆に、ちょっと話がずれちゃうかもしれないんですが……。

田尻:いくらでも。

井上:この話って、「ちゃんとしたバリューを提供できてるかどうか」じゃないですか。その中で引き合いがあって、ある面のコストもかけて提供する。だから、田尻さんがおっしゃるとおりちゃんと(妥当な金額を)請求すべきだし、請求できると思うんですよね。

一方で、本当はそこまでのバリューがないのに、同じ価格になって提供されていることも日本ではすごくある気がします。例えば200万円ぐらいのバリューがあるものも100万円で、50万円か30万円ぐらいしかバリューがないものも100万円で提供されている、みたいなことがすごくある気がするんですね。

だから日本では、発注側も受ける側ももっとこれをちゃんと正さなきゃいけないんじゃないかなと、最近すごく感じることが多いんですよ。

田尻:そうなんですね。

井上:僕らも提供させていただいているし、使わせていただいてる側でもある中で、いろんなものを見ていてわりと感じるんですよね。ただ、これはこちらが悪いんですが、それに応じたちゃんとしたバリューがいただけてるのかというと、蓋を開けてみると「あれ? いただけてないじゃん」みたいなものもあるとは思うんですよね。

両方にちゃんと適正化していくというか、付加価値があるものはちゃんと上げるべきだし、逆にないものは下げなきゃいけないということかなと思います。

田尻:確かに。

企業の価値を生み出すのは「情報偏差」

田尻:ちょっと思い浮かぶのが、二社購買とCxOを入れるというイメージです。例えばIT業界で言うと、IT力のない会社がIT会社さんに対して見積もりを取ると、あんまりバリューがなくても言い値で言われてしまうんですよ。

でも、この時に二社購買をすると、「僕たちはこうがんばるので、こんな金額なんです」「いや、でもさぁ」と、交渉して下げていけるんです。ただ、私たち側にIT力や情報系のデジタル力があるなら下げられるんですが、なかったら下げられないわけですよ。

「こんなの3時間あったらできるじゃないですか」というものが、何時間ぐらいでできるかがわからないと「1ヶ月」って言われたりしますから。

井上:まさしく。

田尻:社内に外部CIO(チーフインフォメーションオフィサー)とかを入れてワンアドバイスもらえば、「いや、こんなん半日で終わりますよ」「この価格は不適切です」「僕、交渉しましょうか?」みたいな(かたちで交渉できます)。

井上:大事ですね。

田尻:大事です。

井上:いろんな部分で大事になっている気はしますね。確かに、象徴的にIT経営関連はすごくそうだと思います。

田尻:僕らは「情報偏差」と言うんですが、情報偏差は価値になるんです。例えば新商品に関しても、トヨタや日産とかの超大企業がやってできていることと、中小企業さんができていることにはものすごく差がありますよね。

なので、「大企業さんは知っていることでも中小企業さんが知らないこと」「中小企業さんが知ってることでも大企業さんが知らないこと」という情報偏差は価値になるんです。なので、新しい発想がなくてもそれらのことを熟知していくと、実は情報偏差だけで新しい価値を作ることができる。

逆に情報偏差をなくしてしまうという方向になると、今、井上さんが言ってくださったような価値の交渉がうまくなる。「この業界だったらこれくらいでやってるんだから、君もこれくらいでやってよ」って言えちゃうわけですよね。これができると価格交渉の上げる側もうまくなるんですが、下げる側もうまくなる。ちょっと余談でした。

井上:いやいや、今日のテーマにおいてもすごく大事な機能ですね。ありがとうございます。今の話は、「企業としてどんなふうに高賃金を実現するか」のところでまた出てくると思います。

給与に仕事が比例するのではなく、仕事に給与が比例する

井上:参加いただいてるみなさんも一番興味があるところじゃないかと思うんですが、「じゃあ、個人として僕らはどうやって給与を上げてったらいいのよ?」ということだと思います。このあたりをお話ししていただけますでしょうか。

田尻:かしこまりました。高給与について、そもそも給与って何なのか、給与の源泉ってなんだっけ? ということを考えなきゃいけない。給与の源泉は何かというと、市場に対して会社が価値を提供して、売上として返ってくる。この売上分から原価を引いて分配されたものが給与です。

この図を見た時に、「そうじゃないね」って言う人はいないと思うんですが、これまでは給与をどう考えてたかというと、けっこう多くの方、特にまだ給与が上がっていない方は「お金をもらって働いてる」と思ってるんですよ。

でも、違うんです。(給与とは)価値を出した分の分配だから、お金をもらって働いてるんじゃなくて、働いてお金をもらってるんです。なので、基本的に給与は仕事に比例していきます。給与に仕事が比例するんじゃなくて、仕事に給与が比例する。

だから高給与を目指すのであれば、まずは付加価値生産性の高い仕事を探すことが重要になってくるかと思います。決して「価値がある・ない」という話ではなく、付加価値生産性とは、単位1時間あたりにどれだけの感動をお客さまにもたらすことができたのかということです。

例えば、特に感動がいらない系の飲食店。居酒屋で感動系もあるんですが、普通の居酒屋さんやファミリーレストランとなると、一定はオペレーションですよね。そうなった時にここで高給与を目指せるかというと、残念ながらそれは無理です。

ただ、飲食店でも高給与を目指す働き方はありますよ。簡単に言うと感動が大きくなればいいわけですから、高級寿司屋さんであったり、さまざまなレストランでも感動が大きなところになっていくことができれば給与が上がる。

「感動」を提供できることは大きな価値がある

田尻:あとは、感動に対して価格が高く積まれる場所もあります。例えば今、アメリカやカナダで寿司職人をやれば年収数千万円が当たり前と言われてますが、その世界では感動に対してお金がついてくるわけですよ。価値って感動なので、感動が高まって、かつお金が積まれる場所で働けばいいというのが答えです。

井上:働くこと以外にも、田尻さんの一貫したメッセージになってる気がするんですが、今、感動とおっしゃいました。付加価値を求められる仕事といらない仕事ってありますよね。特に今日の話なんかは、ここの出発点がすごく大事になるのかなと思います。

田尻:こういう場だったらあんまり話さないかもしれないですが、高給与を目指す働き方は俗的な話だけじゃなくて、根底的には「何のために生きるのか」だと思うんですよ。

根本的には、私たちは幸せになるために生きている。哲学的になってしまうところだと思うんですが、日々私たちは幸せを感じたり、より良い生活をするために生きている。この話の根本は何なのかというと、幸せを感じようと思ったら、日々を感動で生きることですよね。

感動を提供できてるということは、人に幸せを提供できているので、価値を提供するのは良いことです。その結果として高給与が達成されるということは、価値が大きかったということですから、それが成り立つところがおすすめです。

井上:そうですよね。こういう話はややキャッチーなところもあるんですが、今日参加いただいてるのは組織型のマネジメントの方々なので、ほぼ全員が付加価値型の働き方の場所にいらっしゃると思うんですよね。

ただ、象徴的に言われるのは、工場のラインとかでは「とにかくオペレーションそのものを行ってほしい」という仕事があります。

労働にやりがいを求めるべきか?

井上:人材系の世界の中では哲学論争みたいなものが何種類かあるんですが、その1個が「働くことに対してやりがいを求めるべきかどうか」みたいな哲学論争です。やりがいがあって好きな仕事を仕事にすべきなのか。そうじゃなくて好きなことはプライベートにしておいて、仕事はお金の種なんだから、つらくてもお金になるものをやるのか。

これはどっちもあるんですが、付加価値型の仕事をやっている時は仕事そのものにやりがいがあったり、自分がワクワクすることや好きなことだったりします。

そうじゃないオペレーション型の仕事は、そんなことを考えたりワクワクを持ち込んで、ライン作業でいきなり「付加価値を出そう」とか言われちゃ困るわけなんですよね。

田尻:おっしゃるとおりです。

井上:田尻さんがおっしゃったように、企画するような仕事になると付加価値が出てくるからいいんですが、オペレーションだけをやったり、決まったことを粛々とやってくれという仕事は、エッセンシャルワーカーやブルーカラーなんかにあります。

そこに閉じこもってしまうと、なかなか(付加価値を)上げにくかったり、仕事上で感動を持つことには限界があります。そんな構造が前提としてはあるなと思うんですよね。

田尻:これは僕の経験・体験ですが、キーエンスを辞めた後に大失敗して家族を苦しめたんです。この本(『付加価値のつくりかた』)にも書いたように、家なし・食なし・家族ありという苦しい状況がありましたから、そこの優先順位はちゃんとつくんですよね。

家族を守るためだったら、自分が嫌いな仕事だってやればいいじゃないですか。何のための優先順位なんですか? というのを昔の僕に教えてあげたいです。自分のプライドをいったん捨てて、自分の家族や大切にしてる人、最低数人ぐらいをちゃんと守れるぐらいまでは(仕事で)好き嫌い言うなと。

好き嫌いじゃなくて、ちゃんと価値があると肯定される場所にいきなさいと。ライスワークと呼ばれるように、日々ご飯を食べていくことが達成できた後に実力がついて、そこで好きなことをやりなさいと。そうじゃないんだったら、単純に周りの人に迷惑かけるだけだよっていう話です。

別に迷惑をかけてもいい人生というか、それが幸せなんだったらそれでいいと思うんですが、僕はそうじゃなかった。逆に言うと、少なくとも家族を食べさせられないような状態になった時に、自分自身の生きる尊厳やプライドが傷ついたほうでした。「僕はそこにプライドがあったんだな」と思いました。

別にそこにプライドがなく、自分1人で幸せに生きるというんやったら、そっちで行ったらいいと思うんですよね。

井上:要するに、そもそも自分が付加価値が出せるような力をつけてるのかどうか? ということをおっしゃってるんですよね。

田尻:そうなんですよね。

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