元電通・労働環境改革本部室長の小柳はじめ氏が登壇

小柳はじめ氏(以下、小柳):小柳はじめと申します。虎ノ門でAugmentation Bridgeという会社をやっています。読みづらいのでAB社と言っていますが、そろそろ登記を「AB社」の3文字に変えようかなと(笑)。Augmentationって言葉がぜんぜん流行らないんですが、Augmented Reality(AR)の「拡張する」という意味です。

1965年、昭和40年生まれです。開成高校と東京大学出身で、両方ともボート部にいました。東大も“ボート部卒”なんですが、一応かたち上は法学部卒になってます。

昭和の最後の1988年に電通に入社しました。リクルートさんは置いといて、当時の電通って、入るための人気や難しさが、今の外資コンサルの会社を全部足して3倍にしたくらいありました。……すみません、個人の感想ですけれども(笑)。

そういうわけで、運良く電通に入れてもらったのが昭和63年です。知らないふりしてるけど、彼女(司会者)は同期なんですね。それで会社を辞めたのは2019年、令和元年って書いてあるんですが、5月末に辞めたので令和元年は1ヶ月だけですね。

辞表を出しに行ったら「5月末に辞めなさい」と言われたんです。「なんでですか?」って聞いたら、「お前は昭和、平成、令和と三代にわたって電通にお仕えできてうれしいだろう」って言われて(笑)。よくわかんない理由で3つの元号にかけて電通に勤めました。だからもうすぐ辞めて5年です。

電通には31年間お世話になったんですよ。それで最後の2年間は、RPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)やAIや業務革新をやらせてもらいました。

そもそも入社以来の経歴で言うと、TBSテレビさんやフジテレビさんに広告を入れさせていただく、どちらかというと「ザ・広告人」みたいな。「これ、花形じゃね?」みたいな仕事もさせていただいたり、クライアントさんの営業もさせてもらいました。

テクノロジー・IT系から、経理・経営企画、はたまた広告の仕事まで、すごく幅広く経験させてもらえました。「こういう人材を作ろう」と、計画的にローテーションしていたんじゃないかと思うぐらい、絵に描いたようなキャリアなんですが、辞めてしまってどうも申し訳ありません。

電通事件後に命じられた労働環境改革

小柳:最後の2年間は電通の労働改革を主導しました。その時の肩書きが「エグゼクティブ・トランスフォーメーション・ディレクター」ですよ。かっこよくないですか(笑)?

桑原哲也氏(以下、桑原):かっこいいですね(笑)。

小柳:これは聞いた話ですけど、僕たち数人がこの肩書きの初代に選ばれたんですよ。残念ながらそのあとすぐ僕は辞めちゃうんですが。当時、この役職を作る組織人事委員会がありました。その時に会議で提案してくださった役員の方が、「これは小柳みたいな人間を処遇するための役職です」って。

(一同笑)

褒めてるのか褒めてないのかよくわかんないんだけど、作ってくださったらしいんです。「それなのにお前は辞めるのか」って、ちょっと責められたんですけどね。最後の2年間は、電通さんの労働環境改革のチームとしてやらせていただいたんですよ。それがどういうことかについては、この本(『鬼時短』)の前半でもページ数を割かせていただいています。

2015年に入社された方が、その年のクリスマスに亡くなりました。翌年の秋に、それが過重労働のせいであると労基さんに労災認定されたんです。そこから怒涛のような日々が始まりました。

本にも書いたんですけど、2016年の11月1日に労働環境改革本部が発足しました。その年の12月末で当時の社長が引責辞任されて、まだ常務だった山本(敏博)さんが、社長になります。2017年1月1日付で社長兼改革本部長になりました。

成果はそのままに、総労働時間の8割削減を求められる

小柳:これが翌年の7月27日ですね。労働環境改革基本計画を作るのに8ヶ月ぐらいかかりました。ここが鬼時短と一番関係あるんですが、「総労働時間は8割にします。でも成果は100パーセント出します」ということです。

数字はちょっと違うけど、一応この本のタイトルにある「残業6割減、成果はアップ」という話とリンクしていますね。総労働時間を8割にすることで、みなさんは自分が年間で何時間働いているかわかりますか。

簡単に言うと、仮に月20日、年間で240日働いているとしましょう。240日掛ける、1日に10時間働くと2,400時間になる。

電通は8時間の拘束で、1時間休憩を入れているので、労働時間は7時間となります。だから実質10時間働くと3時間残業したことになるという仕組みです。(2014年の電通の総労働時間の)目安なら、2,400時間を2,252時間にするということです。これは「1人当たり平均」という、いわゆる残業の少なそうな部署の人も全部ひっくるめた平均です。

桑原:育児や介護などの時短の方も含めてですよね。

小柳:例えばですが、(総労働時間が)人によっては2,800時間とか、相当多い方がいっぱいいたわけです。それを「とにかく2,000時間を切って1,800時間にする」という話になったので、「これはえらいこっちゃ」って話なわけですね。

それで、どうするのか。これは企業のIRでよく出てくる(ようなグラフです)。普通なら「前回の決算よりも営業利益が増えたのはこの要因です」みたいに伸びていくんですが、その逆で「どうやって減らすんだ」という。

その取り組みを、月刊の『文藝春秋』さんに取り上げていただきました。上に写ってるのが山本社長と僕と、中心で回していらっしゃった瀬谷(貴子)さん。この方は戦友で、電通に残られて、グループ会社の常務をやってらっしゃいます。

ロボットによる業務自動化を駆使し、働き方改革を進める

小柳:(資料の)青い線のところですが、「一連の改革のなかで、特に産業会から注目を集めているのが、RPAの成果である」と。2016年〜2018年頃、RPAというテクノロジーは大変カッティングエッジ(最先端)でした。その技術が、先ほどの労働時間を減らしていくグラフの一翼を担っていたことも含めて、記事にしてもらえました。

見るに見かねてかわかりませんが、山本さんの招聘(しょうへい)により桜井(翔)さんのお父さまが電通の取締役として来てくださいました。「RPAと嵐・桜井パパで働き方改革急ぐ」って、何を書いてるんですか? っていうね(笑)。こんな感じでRPAがどんどん増えていって、すごい勢いでやってました。

Robotic Process Automationは、当たり前ですが産業用ロボットじゃなくて、パソコンの中に仕込まれているプログラムです。定型化されている業務は、とにかく言われたことを言われたとおりに繰り返してくれます。

Excelのマクロと違って、いろんなアプリを横断してデータを取ってきてくれます。「このサイトを見てこのデータを取って、Excelに貼って、印刷してちょうだい」みたいなことは、それこそ鬼のように速いです。

ということで、これをものすごくやったんですけど、そうすると「ロボットは人間の敵なのか?」みたいな。特に事務スタッフの方がざわつくといけないので、「これは仲間である。人なんだ」と、「電通の働き方改革を担う『ロボット人事部』」みたいにして、一生懸命やっていました。

「残業6割減、成果はアップ」を達成

小柳:そうしたら、この麹町アカデミアの主宰でもある、プリンシプル・コンサルティング・グループの秋山進さんが、「ロボットが『業務代行』に辿り着くまで」ということで、ダイヤモンド・オンラインの連載で取り上げてくれました。

それですったもんだの末、2019年の2月。まさに山本社長が「とりあえず2年で目途をつける」と言っていたところまで経ちました。2019年の2月14日に、2017年、2018年で目標はほぼ達成できましたとリリースを出しました。

「残業6割減、成果はアップ」と謳っていますが、2019年2月のこの発表をもって、僕は辞表を出させてもらいました。それで4月いっぱいと言ってたら、さっきの話にあったように「次の元号までいなさい」って言われて、5月いっぱいで辞めました。すみません、超長くなってしまいましたけど、自己紹介でございました。

タイトルの「鬼」に込めた思い

小柳:なんでタイトルがこれになったかという話をしましょう。桑原さん、絶対にこれ(『電通「鬼十則」』)を意識してつけましたよね? みなさんご存知と思いますが、本のタイトルは出版社さんの専権事項で、一応の意見は聞いてもらえますけど、著者にはなんの権限もないんですよ。

桑原:『電通「鬼十則」』のイメージがあったのは確かですね。ただもう一方で、冨田和成さんによる『鬼速PDCA』という本も頭にありました。あの本は「鬼」とつけて売れているなと。だから当時は小柳さんに「あの本をイメージした」と伝えていた気がします。

小柳:そんなのは嘘であると、俺をはめる気だろうと思いました。

(一同笑)

小柳:電通さんが、特にこの第5条(「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは」)に体現される働き方を封印してらっしゃるんですよね。

それをわざわざノスタルジックに「いや、俺は何があっても鬼十則派なんだ」と蒸し返していたら、電通を出入り禁止になっちゃうから(笑)。「いい感じで辞めているのに出入り禁止になるから、このタイトルはやめてくれ」って、最初はものすごく頼んだんです。

でもちょっと思うところがあって、一応ヒット祈願として、雑司が谷の鬼子母神さんに2人で行ったんです。それで、鬼子母神さんの「鬼」の字をこれよく見ていただきたいんですが、角がないんですよ。

もともと鬼子母神さんは、人の子どもを誘拐しては食うという極悪非道なチームで、10人のレディースのような部下を持っていました。でもお釈迦さまに大説教されて、いろいろあって180度変わって、人々を守る善神に変わった。それで角が取れた話があるんです。

だから「桑原さん、ここは表紙の『鬼』から角を取ろう。そしたら俺も、これは鬼十則を安易にパクってるんじゃないって説明ができる。鬼子母神さんにも説明がつく」ということで、このデザインになったんです。

桑原:そうですね。最初は「鬼」の字の白抜きの角もなかったんです。でも、それがないと、遠くから見ると「思」という漢字に見えてしまうので「(角の部分を)白抜きにさせてください」と。

小柳:デザイナーさん、本当にありがとうございました。

『鬼時短』は、時短術を活かすための下準備の方法

小柳:それにしても、Amazonで「時短」とググると、まあまあヒットするんですよね。特に私としては、木下勝寿さんの本(『時間最短化、成果最大化の法則 ​​1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム』)が、自分の中でもバイブルだと思っています。

木下さんをはじめ、みなさんを悪く言うつもりはないんですけど。結局、時短ができる時とは、前提として「こうやったら時短ができます」という環境があるわけです。「じゃあ、その環境にない人はどうすればいいの?」という話が、多くの本では書かれてないなと思っています。

よくある話で、掃除用ロボットを買ってくると、説明書に「まず部屋を片付けろ」と書いてあって「ああー……」って天をあおぐという(笑)。やはり何事も準備が必要ということです。『鬼時短』は、本当の時短術を活かすための下準備として必要だと書かせてもらいました。これは東洋経済さんのストアで紹介してもらった話ですが、ここで大奮発しています。

桑原:そうです。「『23のやること』と『58のチェックポイント』リスト」を無料でダウンロードできるんです。

小柳:この帯を書いてくださった、ひふみの藤野(英人)さんに「こうしたほうがいいんじゃない?」と言われたので、その案をいただきました(笑)。東洋経済さんも快くやっていただいて、ありがとうございました。見開き2ページの計4ページを印刷していただけるようになっています。よろしければ一覧としてお手元に置いていただけるとうれしいです。