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爆速成長スタートアップのグロースの軌跡 -UPSIDER編-(全4記事)

急増する顧客の対応で手一杯…ニーズ深掘りや新規開拓が手薄に 「6年で3.5万社導入」を達成した企業が語る、初期体制の反省点

とてつもないスピードで成長を遂げたスタートアップの裏側を見る、株式会社 リブ・コンサルティングのセミナー新シリーズ。第2回目は約600億円の資金を調達し、法人カードで急成長を見せる株式会社UPSIDERの代表・宮城徹氏が登壇。今回は、適切なパートナーとの「縁」の大切さや、競争と協業について語りました。

前回の記事はこちら

通常の「マーケットを狭く深掘ってから横展開」は選ばず

宮城徹氏(以下、宮城):資金調達シリーズBをしたタイミングからあらゆるマーケ施策を始め、いろんなお客さんが増えていく中で、特に単価が大きく、ペインが深そうなところが、(スライドの)2ndマーケットです。

当時、僕らは広告代理店マーケットと言っていましたが、広告宣伝費を、クライアントのためにかなり使う会社さんが一定いる。

その広告宣伝費に対して与信枠を出してあげるマーケットを1個見つけました。スタートアップはまだまだ広がる余地があったんですけど、2ndマーケットとして少し軸足を移していったところはあります。

大島:マーケでガンと1回アクセルを踏んで、いろんなお客さんが流入をしてきた。その中で1社あたりのGMVが大きいところが見えて、そこを2ndマーケットにするという流れだったんですかね。

宮城:おっしゃるとおりです。マーケ施策を踏まなかった時は、僕らのことを知っているのはスタートアップ界隈だけだったので、ほとんどスタートアップしか入ってこなかった。僕らが狭く深くやっていたので当たり前ですけど。

権田:めちゃくちゃおもしろいですね。通常は狭く深く掘ったら、それを徐々に横に広げていくんですけど、競争環境が変わったことで、ガッと調達して一気に絨毯爆撃的にやって方向転換したんですね。

宮城:そうです。なので、めっちゃ無駄もあったと思います。例えばアド(広告)を打ってもほとんど流入がSMBだったり。当時僕らは、SMBに与信枠はあまり出していなかったので、その広告宣伝費はほとんど無駄になっていたんですよ。

そういう無駄はたぶんあちこちにある。でもそれをやったことで、誰にどういうニーズがあるかとか、どれくらいの単価感かが一気にわかった。そんな期間だったかなと思います。

権田:検証活動をする時に、判断は何ヶ月でするかとか、こういうことが見えたらGOかNoGoを決めるとか、ガイディング・プリンシプル(何を大切にしながら目標達成していくか)みたいなものはあったんですか?

宮城:なかったです。それも走りながらやっていくしかないというか。

意識したのは“地上戦”

権田:どちらかというと、開拓のチャネルもいったんフルオープンでやりながら、検証活動をしてどんどん閉じていった感じですかね?

宮城:いや、どちらかというとこれは課題だったんです。ポイント還元がすごく高いし、マーケティングもすごく打っていたので、直での流入が多かったんですよね。もうオペレーション上、追いつくのが精いっぱい。オペレーションも型ができていなかったので、自社の能動的なチャネル開拓がほとんどできない期間というか。

権田:なるほど。

宮城:なので、これは釈迦に説法ですけど、ポイント還元とアドによる流入は、スピードは出るけど誰でもやろうと思えば真似できるじゃないですか。

権田:そうですね。

宮城:そっち側に倒してしまっていました。

権田:あらためて、ターゲットは広告代理店と絞り込んだわけですけど、そこにいくまでに選択と集中が効かなかった時期がけっこうあった感じだったんですか?

宮城:そうです。もう流入されるがままみたいなところはありました。だから途中から、単価が大きい広告代理店だけは、しっかりどこのチャネルでアカウントを作るんだみたいな話を始めて、できるようになったのは2022年の途中からですかね。

権田:なるほど。

大島:もし話せる範囲の中で、網羅的にやったところとか、絞り込んだ時はどういう絞り方をされたのかもうかがえたらと思います。

宮城:具体的なチャネルとか施策の話まではできないんですけど、意識していたのは、常に地上戦をすることだと思って、広告代理店の方々とたくさん飲みに行きました。

大島:なるほど。

宮城:その人たちがどこに時間を使っているかとか、何を見ているのかとか、どういう付き合い方をしているのかとか。例えば代理店の人たちって、他の広告代理店の人たちから勧められるとちょっと嫌な顔をするんですよ。

経営者同士で紹介してもらっても意外とうまくいかなかったりとか。それってスタートアップと違いますよね。スタートアップの経営者だったら教えてもらったらそれを試すじゃないですか。

そういった違うダイナミクス(力関係)が働いていることなどは、自分でしっかり一次情報を取りに行って、アカウントを開いていった感じでしたね。

権田:広告代理店という型が定まったら、そこに対しての解像度を上げるべく、飲み会も一緒に行きながら、具体的にどういう生活をしているのかまで入り込んでいったと。

宮城:そうですね。片方で空中戦をしながら、こっちでは地上戦をするみたいな。

適切なパートナーとの縁を逃さない

権田:法人ビジネスの動きをほぼブリッツスケーリング的なスピードでやりながら、第2、第3の柱を組み立てられているわけですが、どのタイミングで2本目、3本目を考えていたんでしょうか。このタイミングで、もう次の展開も考えていたんですか?

宮城:「支払い.com」のオープンが2022年4月で、2021年の冬から準備していました。なので、リリース1年目の「競合が来そうだからアクセル踏まないとな」みたいな時から、2本目の矢に動いていたと思いますね。

権田:片や広告代理店に絞り込んで、どちらかというとグロース効率を上げるフェーズの時に、一方では、(支払い.comを)PMFからやっていくかたちで、少しずつフェーズをずらしながら進めた感じですかね? 

宮城:そうです。常に、「ここにニーズがあるな」と気づいたら次のものを準備し始める感じです。

権田:最初に法人カードをやる段階で、BRICSみたいな経済圏を作っていくことを、どれぐらいの粒度で考えられていたんでしょうか。次にこれやって、これやってという、ある程度のロードマップがある中で、わりとその先の未来まで描いた上で事業を進めている感じですか?

宮城:やりたいことは常にあるんですけど、僕らみたいな事業はたいていどこかのパートナーと組まないといけないものが多いので、適切なパートナーが現れるタイミングやご縁があったら、それをなんとかつかんできたという……。

例えば「支払い.com」も実はもともとアイデアがあった。「UPSIDER」のカード事業の前に振込代行事業を始めて、クローズしているんですよ。その時はクレディセゾンさんというパートナーがいなかったんです。やりたいことができなくて閉じたけど、法人カードの事業が伸びて、1年経ってクレディセゾンさんがやりたいというので一緒にやろうとなって「支払い.com」を立ち上げた。

「UPSIDER Capital」というスタートアップ向けの融資も、実は2021年の冬に僕はもうやりたかったんですよね。いろんなところに話を持って行ったけど、誰も「ベンチャーデットって何?」という状態だったんですよ。

権田:あの時はそうですよね。

宮城:あるところに入ろうと思って、「一緒に混ぜてください」という感じでやったら断られて、ということをやっていた。それでまだ早いかなと思って我慢していたら、みずほフィナンシャルグループさんと良いご縁があった。

なので、戦略的にタイミングを考えているというよりは、常に同時並行でいろいろ動かして、トライして失敗しているんですね。そして、どこかのタイミングで良いご縁が舞い込んできた時に、死に物狂いでつかみにいって実現させるということを繰り返しています。

競争ではなく、協業のスタンス

大島:我々も社内でよく「UPSIDERさんは外部の巻き込み方がすごく上手だな」と話しています。その裏側ではご縁を待ちながら、来たご縁をしっかりつかみにいくことをずっとされていた、と。

宮城:そうですね。文化的なところもあると思いますけどね。

権田:本当にそうだなと思いますね。UPSIDERさんのカルチャーの中に、なんとなく組み込まれていますよね。

ただ、外部の巻き込みだけでなく、「競争環境が変わる」「競合が入ってくるんじゃないか」という危機意識もあったじゃないですか。

宮城:はい。

権田:競争と協業についてお聞きしたいんですが、エコシステムを作る中で競争とパートナーシップをどのように考えて、これから大きくなっていこうとされているんですか?

宮城:これはぜんぜん答えじゃないと思っているんですけど、僕らは実はみんなと協業しようとしているんです。

権田:なるほど。

宮城:断られない限りですね(笑)。

権田:そうですね(笑)。こちら側が選ぶことではないよと。

宮城:そうです。僕たちはそんなスタンスでやっています。

権田:自分たちで「最終的にはこことぶつかる」と青写真を描いているわけではなく、基本は来るものは拒まずみたいなスタンスでやっているという感じですか?

宮城:そうですね。おっしゃるとおりです。ただ、結果的に僕らがお客さまに選んでいただけるような事業をやっていると、どうしても競合と見られる会社もあるので、それは仕方がないと思っています。そこは難しいですよね(笑)。

権田:そんな中で、「ここと組むと圧倒的に良さそうだ」とか「ここと今組んでおくとやばいかも」というところは、わりとオープンな中で進めている感じですかね。

宮城:そうですね。例えば昨日も水野を連れて、とある有名企業の社長に会いに行きました。けっこう前に僕らを買収したいと言ってくれていて、その後、競合認定をしたということは聞いていたんですが、「実際はどうなの?」と。

「噂ではいろいろ聞くけど、実際社長はどうお考えなんですか」と話しに行って、僕らは一緒にやりたいというラブレターを失敗覚悟で話しに行ったら、意外と「なんかそういう時期もあったけどな。一緒にやろうよ」という感じになった。

権田:なるほど。そういう感じなんですね。やはり社内のカルチャーもそうだし、内と外を使い分けずに、ある意味外側にもそういうお付き合いの仕方をされていらっしゃるんですね。

宮城:そうですね。

権田:大きなマーケットですし、やろうとしていることが壮大なので、そういうふうに進めないとなかなか前に進まないところもありますよね。

宮城:僕らがどれだけスピーディにグロースしても、市場全体の規模で見るとゴミみたいなサイズなので。1社でできることは少ないと思って、そういうスタンスでやっています。だからマーケットによって違いますよね。限られた市場をどう取り合うかという時にそんなスタンスでは駄目だと思うので。

急増する顧客の対応で手一杯…ニーズ深掘りや新規開拓が手薄に

権田:大島さん、GTMのところでこれだけは最後に聞いておきたいということはありますか?

大島:体制面の話もちょっとうかがえたらなと思います。これだけの急成長を遂げてきた中で、組織側はどうだったのか。採用はどうしたのか。グロースを実現した裏側の組織がどうだったのかをうかがえるとうれしいです。

宮城:初期の、ポイント還元もせずにすごく狭い市場でやっていた時は、営業が10人もいない状態でした。営業というかビジネスサイドと呼んでいて、全員が営業をするし、全員がサポートもやるというスタイルで、追いかけているKPIはGMVだけという世界観が最初のステージです。

ポイント還元や一気にいろんな施策を始めて、広告代理店マーケットに行った中期の2022年は、ビジネスサイドがたぶん20〜30人だったかなと思います。1つのチームでやっていて、セグメントごとにチームが分かれていませんでした。かつファネルごとにも分かれていなかった。要は、インサイドセールスやフィールドセールス、カスタマーサクセスみたいに分かれていなくて。

最初、僕と水野の目指していたのは、営業がプライドを持って、1つの顧客を最初から最後までお世話するということでした。そのお客さんがどんなビジネスをやっていようと、取ってきた人間が偉いんだという発想の組織だったんですよね。

権田:なるほど。

宮城:2022年の中盤までそんな感じで、結果的に何が起きたかというと、もうたぶん聞いてくださっているみなさんはわかると思うんですが、まったく進化がなかった。これは現場メンバーのことを批判しているわけじゃなくて。

何が起きるかというと、既存顧客がすごい勢いで増えて、全員が既存顧客からの問い合わせや質問に追われる状態になって、新規に行けなくなった。新規の顧客に使える時間が少なくなるし、ニーズを深掘りする時間もなくなる。問い合わせも、カスタマーサクセスがないのに些細な問い合わせが多かったりするんですよ。

例えば当時の営業資料は機能営業の資料で、「こういう機能がありますよ」とだけ書いてあって、「お客さんがどういう状態からどういう状態になります」という価値営業の資料になっていないんです。1パターンの営業資料しかなく、営業資料の進化がまったくできなかったんですよ。みんなそれどころじゃなくて忙しいから。

もちろん既存顧客がどういう使い方なのかとか、例えばデータドリブンで「こういう機能は使っている・使っていない」という利用状況の見える化も一切進まなかった。役割分担が進まないが故に、あらゆる課題が生まれてしまったというのが当時のビジネスサイドの課題ですね。

初期体制の反省点

宮城:なので、新規顧客を取りにいく工数も少なかったし、カスタマーサクセスをできるリンクもない。お客さんからのフィードバックを得てプロダクトに返したり、データに基づいて判断していくような部門もまったく人がいない状態なので、とりあえずサポートに追われているステージ。

権田:なるほどですね。

宮城:人が少ないからという言い訳もできたし、そもそもそこをやろうとしていなかった。発想として、業務を分担するよりも、営業は全部やるのが偉いんだという発想というか、そうじゃないと人が育たないと思っていたんですよ。

業務が分かれることで、「これしかできません」という人が増えるじゃないですか。「これしかできません」という人が初期に増えてしまうと、その先に新規事業が生まれるような会社にならないと思っていたんですよ。

「お客さんに責任を持って、いろんな課題が返ってくるからこそ良いビジネスマンが育つよね」「最初の数十人は良いビジネスマンを育てたいよね」という発想があるが故に、分業が進まなかった。

権田:なるほど。基本的にあらゆる意思決定で難しいほう、難しいほうをあえて選択をしながら初期は過ごしていた感じですね。

宮城:そうなんですよ(笑)。

権田:初期のオペレーションは本当に苦しんだんだろうなと想像できるんですけど、逆にそれがあったから幹部候補が育ったとか。振り返ってみてどうですか?

宮城:いや、普通にもっと早く変えるべきでしたね(笑)。どちらかというと、仕組みの問題というよりは採る人の問題だと思っていて。当時は「BtoB SaaSで、とある機能しか経験していません」という人はあまり採用せず、広告代理店とかで「新規からデリバリーまで全部やっていました」という人をなるべく採用するようにしていたんですね。

マインドセットとして「顧客へのオーナーシップがあること」。その採用さえしていれば、会社の中の仕組みはもうちょっと洗練されたかたちで良かったんじゃないかと思っています。というのは、別にどんな仕組みであろうとその人のマインドセットはそんなに変わらないから。

権田:そうですね。ただ、今もGrowth Partnerでしたっけ。セールスとCSの両方をやるような方を採用していますよね。

宮城:そうですね。基本的に人材としてはそういう人を探しています。会社の仕組みとしては当然分業して責任を分担したほうが、当たり前だけど効果が出やすいので、そこをごっちゃにしないようにしようというのが途中からの気づきですね。

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