「結論優先型」というテンプレート

山口拓朗氏(以下、山口):では、第3講にいきます。今日のもう1つのテンプレートで、「結論優先型」というものです。結論優先型はどんな流れで書くか。あなたが最も伝えなくてはいけないこと、結論。「私はこのアイデアに賛成です」も結論だし、「この商品をおすすめしたいと思います」も結論だし、いろんな結論の示し方がありますけど、とにかく結論が最初です。

そのあと、必ずセットで「理由」を書いてください。理由・根拠は論理的な文章に欠かせない要素ですね。理由・根拠をしっかり書く。

3番目が「具体例」です。具体例は適当に書いていいわけではなく、結論に関する具体例です。結論に関連する詳細、具体的な事例、具体的な体験談、具体的な効果、具体的なやり方などです。

ここの部分は、やや自由度が高いです。何を伝えるかは結論で示したテーマによりますが、具体例のところはテーマに関することを比較的自由に書いてもらえるパートだと思ってください。

最後は「まとめ」です。まとめは結論の念押しみたいなものでもいいですし、あるいは「この結論を実践していただくことによって、未来やあなたはこうなっていくでしょう」と、ちょっと明るい未来を見せるようなまとめ方もよく使われます。ケースバイケースで、その都度まとめていただければと思います。

ここも「幹」「枝」「葉」、そして最後に「幹」に戻っていく感じです。やはり順番としては「幹」「枝」が大事です。「幹」「枝」「葉」、そして最後にまとめでもう1回「幹」。このイメージです。

「葉っぱ」から始まる文章は、ビジネスシーンではほとんど使えないです。使えるとしたら、居酒屋トークのエピソードトークのような感じですかね。芸人さんがやる『すべらない話』のトークは「葉」からいくんですよ。

「昨日、おかんが自転車に乗っていて」という感じで、いきなり具体的な話から始めるんですね。「それでそれで?」という感じでついていく。これはエピソードトークであれば成立します。最後に結論、オチですよね。

ビジネスシーンでこの書き方をしても誰も相手にしてくれません。それをやってしまっている方がかなり多いので、「幹」から伝えなくてはいけないということです。

話が進むにつれて、相手の納得度が上がる

では、例文を見ていきましょう。ちょっと硬めのビジネス文章ですが、流れだけをちゃんと押さえていただきたいと思います。読み上げます。

「人材不足に悩まされている中小企業こそ在宅勤務制度を導入すべきです。

なぜなら、出産や介護を理由に、離職しかねない社員の流出を防ぐことができるからです。また、在宅勤務制度を導入することで、子育て中の主婦や、シニア層の雇用を生み出すこともできます。さらに、一般社員にとっても、通勤時にかかる時間的コストや肉体的コスト(疲労やストレス)が低減されて、仕事効率と生産性を高めることができます。

在宅勤務制度の導入により成功したのがA社です。A社は300名以上いる社員の約半数を在宅勤務にすることで、女性の離職率33パーセント削減と、事業生産性(=社員1人あたりの売り上げ)の15パーセントアップを実現。ロールモデルとして、教育ビジネス業界はもちろん、それ以外の業界からも注目を集めています。

在宅勤務制度は、中小企業を元気にする切り札にもなり得ます。少子高齢化社会にフィットするシステムとして、これからますます注目を集めるでしょう」という文章。

これは結論優先型で書いています。結論優先型はおもしろいもので、結論を伝えた時は、まだ読み手の納得度が高くないんですね。

「在宅勤務制度? コロナ禍ではリモートとかでちょっとあったけど、通常に戻ってきたら在宅勤務制度なんてあまり必要ないんじゃないの? 1つのオフィスに集まったほうがいいよね」くらいの気持ちの方もいるわけです。納得度は高くない。

けど、理由を読んだらけっこう良いことが書いてあるわけですね。「離職しかねない社員の流出を防げますよ」とか、「子育て中の主婦やシニア層の雇用を生み出すことができる」とか、あるいは「現在の社員のストレスが低減される」、そして「仕事効率や生産性も高まる」と。そう言われると納得度が高まるわけですよ。だから理由が大事なんですね。

テンプレートの流れと理由のところをしっかり書くことで、盤石の説得力が生まれてきます。ただ、これでも納得度はまだ60パーセントくらい。そこで追い打ちをかけるかのように具体例を出すわけです。

同じ業界で同じ規模のA社を引き合いに出して、「実はA社で在宅勤務制度をやっていて、しかも成果が出ているんです。こういう数字が出ているんですよ」と伝える。そうすると納得せざるを得ないですよね。

「そうか。A社、在宅勤務制度を導入してそんなに成果が出ているんだ。だったらうちも、同じ業界で同じ規模だからできなくはないよね。ちょっと検討しようか」という感じで納得してもらいやすくなる。納得度が90パーセントくらいに高まるイメージですね。

こんなふうに結論優先型で書くことで、読者の納得度を徐々に上げていく。

結論優先型の長所

当然ですけど、「結論を伝える」と決めているわけです。「人材不足に悩まされている中小企業こそ、在宅勤務制度を導入すべきです」という背骨が決まっているので、そこから脱線することがありません。

このテンプレートを使えば脱線しませんけど、使わないと脱線していくんですよ。あれやこれやと急にコロナ禍のことを語り始めて、ぜんぜん論点の違う話が出てきたり、「あれ? 在宅勤務制度の話、どっかいっちゃいましたけど」という文章を書いてしまう人もいます。

テンプレートは、ありがたいことに枠が決まっているわけです。この枠どおりに書くと、相手にわかりやすい流れになるし、相手に必要な要素が含まれるわけです。

最初に結論を聞きたい。その次に理由を知りたいんですよ。そのあとで具体的なやり方や具体例を聞きたいんですよ。この順番が、読者にとって最も受け入れやすい。ストレスがかからず受け止めやすい流れです。さっきの列挙型も良かったけど、結論優先型もかなり使えるツールになります。

通常の私の研修は7〜8時間、2日間とかで行い、けっこうたっぷりと文章を書いていただくんですけど、今日は90分間のセミナーということで、文章を書いていただくところまではいけませんが、ぜひ頭の中でやってみてください。

結論、あなたがおすすめしたいものを1個決めてください。さっきと違うものを選びましょうか。1個決めていただいて、それがなぜおすすめなのかという理由を書いてください。そのあと具体的な何かを書いてください。

具体的なやり方、使い方、具体的な効果、あるいはご自身の体験談、誰かの体験談。その結論に関することです。おすすめの○○に関して具体的な詳細を書いていき、最後にまとめる。タイマーで10分くらい計って、今スライドでお見せしているくらいの文量を書いていただくと、エクササイズとして有効です。

列挙型と結論優先型のドッキング

先ほど「伝わる文章の書き方 5つのポイント」をお伝えしましたが、あれは列挙型ですよね。気づいている方はいましたか?

「1つ目は、一文一義です。なぜ一文一義がいいかと言うと、これこれこうでこうで、じゃあ実際に例文を見ていきましょう」。こんなふうにして進めていくわけですね。

なので、実は列挙型は文章を書く時だけではなく、プレゼンテーションの資料や営業の資料を作る時、会議で発言しなくてはいけない時にも、お使いいただけることがわかっていただけると思います。

私は話のプロではないので、話し方うんぬんでダメな点もいっぱいあると思いますが、構成としては受け取りやすかったと思った方がいたとしたら、それは列挙型が功を奏しているわけです。

列挙ポイントの一つひとつの冒頭で必ず結論を言いました。「一文一義で書きましょう」「具体的に書きましょう」「正しく読点(テン)を打ちましょう」「同一情報を揃えましょう」「ストレスがかからない見た目にしましょう」。

そのあとに詳細。私の場合は全部そういう作りにしているんですね。それが最も伝わりやすいと思っているからです。なので、列挙型は文章の書き方だけではなく、話し言葉でもお使いください。

そして、結論優先型も同じく使えるんですよね。例えば、列挙型の中身の「一文一義で書きましょう」は結論じゃないですか。そのあとに一文一義がなぜいいかという理由を語り、さらに詳細を語るわけです。「具体的な文章を比較して見ていきましょう」。そして最後に、「だから一文一義で書くことが大事ですよ」と。これは、中身が結論優先型なんですよ。

列挙型と結論優先型はドッキング可能です。列挙型を全体のベースにしながら、それぞれの列挙ポイントの中に結論優先型を埋め込む。そうすると箱の中の間仕切りが全部きれいになるんです。

逆に、結論優先型をベースにしてもいいです。今お見せしているスライドは、結論優先型ですよね。この中で今回は理由のところを文章でダダダっと書いているので、実はちょっとわかりにくいんです。

ここを、「理由が4つあります。1つ目は離職しかねない社員の流出を防ぐことができます。2つ目は新たな雇用を生み出すことができます。3つ目は社員のストレスを下げることができます。4つ目は仕事の効率、生産性を高めることができます」としてもいいんです。

だから、何を選択するかはそれぞれの判断ですけど、列挙型の中に結論優先型を入れることもできるし、結論優先型の中に列挙型を入れることもできる。テンプレートに慣れてくるとこういう使い方もできますので、慣れてきたらぜひアレンジにも挑戦していただきたいと思います。

というわけで、テンプレート2つ目はここまでです。