親が亡くなった後の相続手続きの流れ

石倉英樹氏:ここまでお話をしてきまして、あと15分ぐらいですね。今までは相続税のお話を中心にしてきましたけれども、相続をまだ経験していない人。特にお若い方は、そもそも相続税だけではなくて、相続手続きにはどういうものがあるのか不安だったり、何を先にやればいいんだと思っていらっしゃる方はけっこう多いと思います。

書籍の161ページでは、相続税以外の手続きについても詳しく解説を入れております。これは具体的な相続手続きの流れになります。

画面の一番左が相続開始になりまして、右に時間軸が流れていきます。一番最初にやるのは、やはり死亡届の提出です。亡くなってから7日以内、その後10日以内、14日以内とか、主に役所でやる手続き関係の届け出が前半に集中しております。

このへんが終わると、銀行や金融機関に連絡をしたり、公共料金の解約をしたり、相続人が誰か、もしくは相続財産は何があるのか。あとは遺言があったのかなかったのかをご相続人さんが中心となってやっていきます。

1つポイントになるのが、画面真ん中の「3ヶ月以内」のところですね。例えば親御さんが亡くなって、財産よりも借金のほうが多かったと。銀行とか誰かから借りたお金のほうが多かった場合は、通常の相続をしてしまうと、今度は相続人がその借りたお金を返さないといけません。

でもそれはなかなか大変ですので、そういう場合は相続放棄という手続きができます。これの期限は、3ヶ月以内と決まっています。家庭裁判所に申し立てをして、相続放棄を認めてもらう。借り入れが多かった方はこの期限に注意していただきたいと思います。

相続税を払わなくて済む人も、「遺産分け」は必須

その後4ヶ月以内に所得税の準確定申告ですね。まもなく確定申告の時期ですけれども、亡くなった方が毎年確定申告をしていた場合には、亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの確定申告を、今度は相続人が代わってやることになります。

これを準確定申告と言います。これの期限は4ヶ月。そして(スライド内の)赤い点線で囲ったところが、けっこう重要なところです。遺産分割協議です。あとは今、お話をしてきました相続税の申告と納付。

相続税の申告納付が10ヶ月以内と決まっておりますので、できればその1個前、遺産分割協議も10ヶ月以内には終わらせたい。ここで遺産分割協議についてちょっとだけお話をしたいと思います。相続税を払わなくて済む方も、遺産分けはやらないといけません。

なぜかと言うと、これが終わらないと、例えば預金が解約できないとか、あとは家の不動産の名義変更ができないとか、いろいろ問題が出てきます。遺産分割協議は、どなたにも関係するお話になります。遺産分けには主に4つの方法があると言われています。これは書籍の136ページ目で、ここもけっこう詳しく説明しております。

遺産分けの4つの方法

まず現物分割。例えば、家は誰が相続をするのか。ここの銀行の預金は誰が相続をするのか。実際の財産ごとに相続人を決めていくのが、まさに現物で遺産を分けていく方法です。

これができれば一番わかりやすいんですけども、亡くなった方の財産が偏っている場合、例えば自宅の土地がほとんどの財産を占めていて、預金は少ししかなかったケースですね。こういったケースは現物分割がなかなか難しいので、例えばその右側の、代償分割というやり方があります。

これは、例えば相続人の1人が自宅を全部相続する。その代わり、他の相続人には、家を相続した人が代わりにいくらかお金を払う。これは代償金と言うんですけれども、「お金を渡すから家は相続させてね」というかたちで、代償金を払う代償分割という方法があります。

そして左下、換価分割とありますね。これも同じように財産に偏りがある場合。その場合は、例えばもう実家はこのまま持ち続けないで売却してしまう。その売ったお金を、例えば相続人が3人いたら、その3人に平等に分けるのを換価分割と言います。

あとは右下、共有分割があります。これも字のとおりで、例えば3人相続人がいたら、財産である家を3人の共有名義にする方法です。一般的には共有分割は、あまりおすすめができない方法と言われております。

なぜかと言いますと、例えば3人で家を相続して、2人はこの家を売ってお金に換えたいと思っている。だけど1人だけが、「いや、俺は売りたくない」と言う場合には、基本的には家は売れないんですね。

なので、仲が良い時はいいんですけど、気まずい雰囲気になってきたとか、関係性が悪くなった場合には、後でトラブルになる可能性があります。なので、できれば共有分割以外の方法で財産を分けるのがいいと思われます。これは136ページに詳しく書いてあります。

自宅の名義変更や預金の解約に必要な「遺産分割協議書」

もし、「これで話し合いがまとまりました」「遺産分けの方法が決まりました」となったら、次に遺産分割協議書を作ります。これは相続税がかかる方もかからない方も、多くのみなさんが作っていく書類になります。

1.2.3.とありますが、例えば1を見ていただくと、猫田アルさんという相続人は次の財産を取得する。具体的に土地の所在地とか、この財産は誰が相続するのかを書きます。

2番には預金が書いてありますね。誰が何を相続するのかを明確に書いていきます。一番下に相続人全員の署名と実印があります。これを揃えることによって、遺産分けが確定いたします。この雛形も、書籍の139ページに詳しく書いてあります。

通常はこの協議書を作って、これを法務局に持っていくと自宅の名義が変更できる。あとは銀行に持っていくと預金の解約ができる。相続税の申告が必要な方は、これのコピーを税務署に提出する。そうすることで相続手続きが進んでいきます。中にはこれを作らなくていい人もいるのですが、ケースが限られています。

どういう人が作らなくていいかと言うと、遺言書がある場合ですね。遺言がある場合は基本的にそれに従って遺産を分けますので、協議書は作らなくても大丈夫。あとは相続人が1人の場合ですね。これも遺産分け自体が要らなくなりますので、その場合も協議書は要らなくなります。だけど通常はこういったものが必要になります。

これが終わったら、今お話をした、例えば不動産の名義を法務局で変更する。あとは預金の解約手続きを銀行でする。

そして株を持っていれば、証券会社で手続きをする。あとは自動車、ゴルフ会員権、生命保険などの手続きに進んでいくことになります。具体的に書籍の141ページで詳しく解説をしております。特に銀行預金の相続手続きは、ほとんどの方がやることになります。

あとは、遺言がある方とない方によって、銀行に出す書類が微妙に変わってきます。このへんの必要書類も、149ページ以降で詳しく解説をしております。

相続税よりも高くなる可能性がある税金とは

最後にみなさんに1つ知識として、知っておいていただいたほうがいいかなという情報をお出ししたいと思います。「相続税より高い税金って何だと思いますか?」というご質問ですね。

都内とか土地が高いエリアだと相続税のかかる比率はだいぶ高まってきますけれども、実は、もしかしたら相続税よりも高くなる税金があります。

知識として今日覚えておいてください。これは、相続した実家を売った時に、譲渡税という税金がかかります。もうちょっと具体的に言うと、譲渡所得税、あとは住民税です。

例えば3,000万円で家を売りました。そうすると、今回売った時の経費や、いわゆる仲介手数料など昔家を買った金額を控除して、その儲けに対して譲渡税がかかります。しかし、昔に家を買った金額がだいぶ安い場合があるんですね。先祖代々引き継いできた土地だと、買った値段がかなり安かったり、場合によってはわからないんですよ。その場合は、売値の5パーセントを昔買った値段と見なします。

スライドのケースで行くと、3,000万円で売った場合、儲けが2,750万円ですね。譲渡所得税、住民税の割合はいくらかと言うと、通常約20パーセントです。つまりこのケースでいうと、儲けの20パーセントなので、550万円ですね。3,000万円で家を売ったんだけど、550万円の税金がかかる。

財産をお持ちの方は相続税も高いですが、もしかしたらこっち(所得税・住民税)も高くなる可能性があります。これを覚えておくといいと思いますが、ここにも、実は特例が用意されていて、空き家譲渡特例というものがあります。例えば親御さんが実家に1人で住んでいて、相続人がそれを相続したけど、もう誰も住まない場合。いわゆる空き家状態です。

その場合には、いくつかの条件を満たせば、譲渡所得から3,000万円までの控除が受けられるという特例があります。これを空き家譲渡特例と言います。このケースでいくと、3,000万円で(家を)売って、④番(空き家譲渡特例)で3,000万円削っていますので、儲けがゼロですね。

そうすると当然、所得税、住民税もゼロ。こういった相続税と、あとは相続が起きた後の所得税、住民税など、いろいろ特例には細かい条件がありますので、これを知っているのと知らないのではぜんぜん状況は違ってまいります。頭のどこかに入れておいていただくといいので、最後にご説明しました。ありがとうございました。