生成AIの専門家が振り返る2023年

池田朋弘氏(以下、池田):本日のテーマとしては、2023年の生成AIを振り返りながら、今年2024年にどういう動きがあるのかを、高桑さんと一緒に考えていきたいと思っております。

まず簡単に我々の自己紹介です。あらためて池田と申します。私は2023年からChatGPTに関する情報発信をしています。また企業から「導入したい」という相談やニーズも非常に増えていますので、研修や導入支援をやらせていただいています。YouTubeや本など出しておりますので、よろしくお願いします。続いて高桑さん、お願いします。

高桑宗一郎氏(以下、高桑):高桑宗一郎と申します。FIXERではプロンプトエンジニアとプロダクトのUI/UXを設計しています。

今までtoCのモバイルアプリのPdM(プロダクトマネージャー)をずっとやってきました。2023年の3月くらいからプロンプトを触り始め、趣味が高じて専門職になりました。生成AIを使っていろいろと好きなものを作っています。特にPodcastなどは全部自動化し、実際に世界19ヶ国の人たちに聞いてもらっています。よろしくお願いします。

池田:我々2人はプロンプトや生成AIを専門にしているのですが、それぞれ視点が違います。(今日は)2023年をそれぞれの視点で振り返りながら、2024年を考えていきたいと思っています。

前半は「2023年はこんなことがあったよね」という話、そこから「2024年はこういうトレンドがあるんじゃないか」といったお話ができればと思っています。まず2023年の大きなトピックです。個人的にはChatGPTや生成AIが社会に浸透し、非常に大きく広がった1年だったと思っています。

ExcelやWordのような、使って当たり前のツールになる可能性

池田:1月に、自主的に2,000人くらいにネットリサーチをしてみました。ChatGPTに関して「知っているか、使っているか」を聞いています。「知らない」という人が(グラフの)灰色の部分ですが、7パーセントしかいません。2023年の最初の頃は(知らない人が)過半数だったのですが、非常に騒がれたこともあり(今は)知らない人は1割未満です。

実際に使っている人はまだ3割くらいで、日常利用になってくると1割未満です。みんなが完全に使っているかと言うと、そうではない。とはいえ3割の方は使ったことがあり、1割が日常利用していると、それなりに社会に浸透していると言えます。(それに伴い)普通に使っている人も増えているということです。

先ほど会社のメンバーと話していたのですが、その子のおばあちゃんが普通に「ChatGPTで仕事をしている」という話がありました。

売上500億円以上の企業における、生成AIを利用している状況の比較(2023年の春と秋)です。大きな企業だと7割くらいが生成AIを使ったことがあり、使っている人がかなり増えているデータもあります。

一般的に使う人が増えてくる状況にあるのではないかと思っていますが、このあたり高桑さんの周りの感触はいかがでしょうか?

高桑:ChatGPTという名前だけは動いているのですが、プロンプトを使われている方は少なく、同じIT業界の中でもまだまだ浸透は難しいところがあります。一方でこの96パーセントというのは、マスメディアなどで取り上げられていることもあり、認知度はすごく高いと思いますね。

池田:ありがとうございます。こんなことから、2024年はどういうトレンドがありそうかと言うと、1点目です。今の高桑さんのお話にもあったように、2023年は普通に使えている人はそんなに多くなかったかと思います。

今のビジネスマンだとExcelやWord、PowerPointは「普通に使って当たり前だよね」という印象がある。(2024年は)そういうツールとして、ChatGPTや会社独自の生成AIが位置づけられてくるのではないかと思っています。

ChatGPT普及のカギは、現場での使い道の想起

池田:こちらも先ほどのデータと同じくPwC(コンサルティング)さまが出している、売上500億円以上の企業データです。

2023年までで3割くらいが(生成AIを)導入しています。さらに、2024年9月までに6割くらいは企業単位で導入していくという話があります。これは売上500億円以上でそこそこの規模の会社に限定されているのですが、もちろん中小企業やベンチャー企業もどんどん取り入れていくと思っています。

導入が進んでいく中で、一部の業務においては「使うか使わないか」で相当生産性に差が出ます。アイデアを出したり文章を作ったりするだけでも差が出てきますので、企業も非常に重要な流れだと感じているのではないかと思います。

高桑さんは、2024年の利用の推進や広がりはどうなると思われますか?

高桑:「何に活用できるか」というユースケースの想起がスピードの差になると思っています。

一度はモバイルアプリで触ったことがあったり、Twitter(現X)でスクショを見たことがあったりして、ものすごく使いやすいのにそこまで広がっていかない。それは現場で「何に活用できるか」という想起が難しいからだと思っています。

IT業界でも使われていない方は、そこがトリガーになってきます。例えばマスメディアやSNS、コミュニティなどでユースケースがシェアされていくと、そこからババっと一気にトリガーを超えてくるイメージがありますね。

池田:確かに、実際に何に使えるかが非常に大事ですからね。また企業や業界によっても変わってくると思います。メディアの認知もそうですし、企業向けの支援などで研修や情報発信するプレイヤーもどんどん増えてきて、普及を後押しする感じになりそうですよね。

年が明けて稼働し始めたからかもしれないのですが、1月は相談がめちゃくちゃ増えていて、1日何件かは研修や登壇の相談がきています。年末はまだそんなことがなかったので、急激に動いているなと感じますね。

高桑:年明けに「GPT Store」が出てきて、いろいろな「チャットボット(Chatbot)」が大量生産されました。そういうのもユースケースを想起しやすいので、外的要因はあると思いますね。

池田:ありがとうございます。こんな感じでいくつかのトレンドについて話していきますので、質問がありましたらチャットにいただければ幸いです。

企業のAI活用における最大の課題

池田:では次のトレンドにいきたいと思います。使う人やユースケース、認知が広がっているとはいえ、先ほど高桑さんの話にもあったかと思いますが、ちゃんと活用できる人はそんなに多くないんじゃないかと思います。

これも同じ調査になるのですが、売上500億円以上の会社が生成AIを活用しようと思った場合に直面する課題です。一番大きいのは「必要なスキルを持っている人材がいない」ということなんですね。

企業向けの研修でお客さまのところに伺って、実際に使い方やプロンプトの設計をお伝えすると、その場では「わかった」という雰囲気になるのですが……。それをお渡ししてやっていただこうと思うと、枠の中に文章を入れるだけでもハードルが高いみたいで。「情報やマニュアルがあるから今すぐできる」というわけではないなと思っています。

ましてや複雑な用途や難しい要件になってくると、ロジカルに要件を整理したり、アウトプットを定義したりしなくちゃいけない。プログラミングほどではないにしても、それなりにハードルがあるのかなと、自分自身も日々の研修で直面しています。このあたり、高桑さんの見解としてはどうですか?

高桑:僕もまったく同感です。必要なスキルはユースケースの想起に加えて、プロンプトエンジニアリングも出てきます。このプロンプトエンジニアリングのさらに具体的なところでお話しすると、出力の結果をある程度コントロールしたい現場が多いように思います。

例えば「タイトルは太字にしたい」「箇条書きにしたい」「左から一列目はケーブル形式にしたい」など。ただ自然言語処理の原理上、どうしてもランダムチックなところがあります。いかに高確率で(出力の)範囲を狭められるかは、地道な微調整が大切になります。そこまでやり切れる人が絶対数として少ないのかなと思っています。

池田:確かにそうですね。あとは生成AIだけではできないケースもありますしね。複数のプログラムと組み合わせて生成AIの処理をし、別途成形や単純なチェックをしたり。こういうフローも含めるとハードルはけっこう上がってきてしまいますね。

高桑:そうなんですよね。たぶん会話したり「〇〇について教えて」という使い方までは浸透しているんですけど、現場ではそういうところが難しくて。それが「スキル」という呼び方になってくるのかなと思います。

池田:確かに。よくわかりました。ありがとうございます。