IT人材は2030年の段階で79万人不足

金森保智氏:テーマは「生成AI時代のデータ活用スキル ~データとビジネスを繋げるこれからの『問い』の基本~」なんですけれども。サブタイトルにある、「データとビジネスを繋げるこれからの『問い』の基本」のほうを中心に、少し話してみたいと思います。

「問い」がテーマになっているので、「これからの時代は質問力が必要になるでしょう」と考えられているのではないかなと思うわけです。では、そもそも「『質問力』っていったい何なんだっけ?」というところを、少し深掘りしてみたいと思います。

というのも、みなさんに「『質問力』っていったい何ですか?」と聞かれた時に、もちろん何らかのお答えはできるわけですけれども、「よくよく考えてみると、これって何だっけ?」と思われている方もいらっしゃるのではないかと思うからです。そこで、参考にしていただけるような情報を、少し提供させていただこうと思っております。

出発点とさせていただくのはこんな話です。「不足するDX人財」。こちらは経産省の資料になります。何の話をしているのかというと、「IT人材は2030年の段階で79万人不足するという懸念が示されている状況」です。

79万人が不足するという話は、ご存知の方もけっこういらっしゃるのではないのかなと思うんですが、注目していただきたいのは、あくまで「IT人材」と書かれている点です。

DSS(デジタルスキル標準:DX推進のために必要な人材の育成・確保に関する指針)で言うと、経産省はそもそも、5類型の中の一部の役割の方々だけで、79万人不足すると考えていたのではないかなと思うわけです。

「成果を上げる意思決定」に必要なこと

ということは、「『不足するDX人財』まで解釈を広げると、どんなことになるだろうか?」「私たちがデータを使ってやりたいこと、DXを進めたい理由はいったい何なんだろうか?」「デジタル技術を使ってやりたいことっていったい何なんだろうか?」。

そう考えた時に、大きく2つの文脈で捉えられるのではないかと思います。直接的には、みなさんの業務の生産性を上げるということです。

「生産性」という言葉を数式の形で表現すると、「アウトプット/インプット」という形で表現できるかなと。つまり生産性を上げるには、インプットの削減もしくはアウトプットの拡大が必要になってくる。売上拡大をするか、業務の効率化をするか。データを使ってこれをやりたいんだと考えられるわけです。

一方で、DXの文脈ではどういうふうに捉えられるか。各企業さまは当然、成長の目標があるわけですが、データを使ってその目標達成の確度を上げたい。つまり、データを使って成果を上げる意思決定を実現していきたい(のだろう)と思うわけです。

さまざまな利用できる手段があると思いますが、おそらく社会では、「データ活用は(手段としての)実現度が高いのではないか」と捉えられているし、みなさんもそのように考えられているのではないかと思うわけです。

では、成果を上げる意思決定を行うためには、どういうことが必要なんだろうか? 「マネジメントの父」とも呼ばれる、ピーター・F・ドラッカーをご存知の方は多いのではないかと思いますが、ドラッカーは『プロフェッショナルの条件』という著書の中で、成果を上げる意思決定にはこんなことが必要だと言っています。

意思決定に当たっては、誰もが意見からスタートすること。意見は未検証の仮説に過ぎず、現実によって検証しなければならないこと。仮説は論ずべきものではなく、検証すべきものであること。検証によって、どの仮説が真剣な検討に値し、どの仮説が排除されるかわかること。

そして意見を表明する者には、いかなる事実が予想されるか、いかなる事実を探すべきか、明らかにする責任があること。

意思決定のプロセスとデータ活用

このままだと少しわかりづらい部分もありますので、便宜上、成果を上げる意思決定をプロセスで表現すると、こんな形になると思います。まず、「意見→仮説」からスタートして、判断基準を設定して、現実からのフィードバックを受け、判断基準に基づく分析(をする)。

現実から得られた情報を使って比較して、判断基準をクリアしていれば「その意見は確かにそのとおりだ」という形で意思決定していくことができます。これが成果を上げる意思決定だと。

おそらく「現実からのフィードバック」「判断基準に基づく分析」「意思決定」の部分で、データを活用できるだろうと考えられるわけです。統計学を学ばれた方はご存知かと思うんですが、実はこのプロセス自体が「統計的仮説検定」と同一になっているんです。

実際ドラッカーも、このことについて指摘をしています。成果を上げる意思決定のプロセスのことを「統計を知る者は知っている」と表現されているわけですね。

つまり、「良い成果を上げる意思決定をしていくためには、このようなプロセスをしっかりと理解していることが非常に重要になりますよ」という指摘でもあるわけです。

では、先ほど挙げられた79万人が不足しているという専門人財は、このプロセスの中のどこで最も活躍されると考えられるでしょうか? おそらくは「判断基準の設定」から「意思決定」に至る手前までが、専門人財が担う大きな役割になってくるだろうと考えられるわけです。

逆に言うと、空いているところがあるということです。例えば意見を仮説にしたり、最終的な意思決定をするところは、専門人財だけでできることではないだろうと考えられるわけですし。

また、トータルでこの工程・プロセスすべてをマネジメントしていくところも必要になってくると考えられます。(狭義の)データサイエンティストだけが携われば、このような成果を上げる意思決定ができるかと言われると、そうではないだろうと考えられるわけです。

専門人材とビジネスサイドの人材の連携が不可欠

ということで、おそらくDX推進に必要な人財、必要となる人財が(他にも)いると考えられます。もちろん、専門人財、狭義のデータサイエンティストと呼ばれる方は必要になってくるわけですが、それ以外にも推進リーダーの方、そして推進マネージャーの方ですね。こういう方々がコミュニケーションし、相互理解をしながら進めていくのが、DXということになるのではないかと考えられます。

立場はもちろんさまざまではあるわけですが、目指すゴールは共通です。「目的・目標の達成の確度を上げるための手段として、データを活用する仕組みを作ること」が、DXの推進になるのではないかと考えられるわけです。

この中で、狭義のデータサイエンティストの方々が79万人不足しているわけですが、「推進リーダー、推進マネージャーといったビジネスサイドの人財は、データを適切に活用できるものだろうか?」と考えていく必要があるのではないでしょうか。

そしてもう1つ。先ほど、それぞれの役割の方々が携われるプロセスの資料をお見せしているわけですが、このように黄色で示したところに、重なり合う部分があるわけですね。

そうすると、この部分でコミュニケーションが密に取れていない状況だとしたら非常にまずいことになってくるわけです。専門人財が不足しているということであれば、特に重なり合う部分をフォローアップしていくビジネスサイドの人財こそが必要になってくると考えられます。

相互理解の出発点はどこにある?

ということで、「ビジネスサイドの人財に求められる力」という形で、いったん整理をさせていただこうと思います。

「目的・目標達成の確度を上げていく」こと。そして、そのために成果の上がる意思決定をしたいわけですけれども、関連する人々、3種の人財の相互理解が必要になってくるわけですね。

重なり合う部分のフォローアップのためにも、おそらく「目標設定・管理力」といったものは必要になるでしょうし、「仮説思考力」あるいはデータにまつわる「基礎知識・スキル」「批判的思考力」も必要になってくると考えられます。

成果の上がる意思決定に、これらの力・スキルは当然必要になってくる。そこに相互理解の話も加えて考えると、特にこのような力が非常に重要になってくると考えられるということです。

「相互理解の出発点はどんなことになるんだろうか?」と考えてみると、それぞれの仕事・役割上の性質を相互に理解していくことが必要になってくるのではないかと考えられます。つまり、「前提としていることって何?」「困ることって何?」といった質問に答えられるということです。

データ分析者が「最もやりたくない業務」が生まれる要因

では、「ビジネスサイドの方々が専門家(の仕事・役割)を知るとして、データサイエンティストが困っていることはいったい何でしょうか?」と質問されたら、ビジネスサイドのみなさんはどのような形でお答えになるでしょうか?

データ分析者の場合の例として出させていただいていますが、朝井(祐貴)さんからも少しお話があったかと思います。「データ分析者が最も時間がかかっている業務は何でしょう? 最もやりたくない業務は何でしょう?」と言われた時に出てくる答えは、「データクリーニング(データクレンジング)」と言われています。すぐに分析に取りかかれないデータが多すぎるということです。

最も時間がかかっている業務については、総務省さんが過去に調査をされているわけですけれども、2~3割、あるいはそれ以上の時間がかかっている。あるいはデータサイエンティストが最もやりたくない業務では、6割の方がデータクリーニングを挙げているということですね。

このような事実が発生するのは、ビジネスサイドの人財の「データとは?」の理解の不足がひとつの原因になっている部分があります。

起こりがちな問題を提示していますが、例えば「ナンバー」「顧客名」「電話番号」という3つのデータを取得しようとしたとします。その時に、下側2行目にルールが示されていて、こんなデータが手元に届けられたとします。

仮に内容面では正しいとしても、これらの3つのデータは適切とは言えない状態になっているわけです。利用できない形で(データが)保管されていると、分析に時間がかかる。

これは現場レベルでは極めて多い課題で、特にアンケートなどでは、このようなデータになっているケースが非常に多くて、データクリーニングするのにものすごく時間がかかるということになっています。

成果を上げるうえで、データ活用力よりも重要なもの

もう1つ、相互理解のためには基本的な知識・スキルも必要になります。例えば「データとは?」について。「平均とは?」を起点に少し捉えてみますと、みなさん平均はご存知だと思うんですけれども、これを言葉で定義すると「データに含まれるデータの値を足し合わせ、データの数で割ったもの」となります。

「何のことを言ってんねん」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この定義は、平均というものの性質・特徴・限界を表している部分もあります。が、注目していただきたいのは、ここで「データ」という言葉が3つ使われている点です。

実はデータは「調査や実験などによって観測された値をまとめたもの。文脈によって、少なくとも以下の2つの場合がある」と言われています。ひとつは、「集めたもの全体を指す場合」。もうひとつが、「集めたものに含まれる個々の値を指す場合」です。

上の文章は、どちらが全体で、どちらが個々の値を指しているか。つまり、このような形で見た時に、「『データ』という言葉を安易に受け止めてしまって大丈夫なのか?」という疑問が湧いてくるわけです。

「データ」という言葉が使われている時でも「適切な理解ができているのか、まずは批判的に自分に問うこと自体」も、求められる「問う力」になってくると考えられます。

「データ活用力(分析力)」と言うと、統計学やプログラミングが注目されがちです。もちろん重要で、あるに越したことはない知識・スキルではあるんですが、最も重要なことは「相互理解=3種の人財のコミュニケーション」ではないかと考えられます。相互理解に必要なことは、「意味・意図の理解に必要な知識・スキル」をしっかりと確保しておくことになるのではないかと思います。

「目標設定力」から始まる4つの力

本日お伝えしたことを整理させていただくと、私たちは成果の上がる意思決定をしたいわけですが、その時に「目標設定力」から始まる4つの力が必要になってくると思われます。これに関して、目的を達成するために求められるのが「問うという力」なのではないかというわけです。

では、目標設定力、仮説思考力、基礎知識・スキル、批判的思考力をどのように身につけるかを考えるとするならば、例えばこのような問い、質問の仕方が考えられると思われます。

目標設定力・管理力は、「そもそも目的は何ですか?」「どうなりたいですか?」「何が問題なの?」という質問ができること。仮説思考力は、問題に対して、自分のよく知ることに置き換え、「これってどういう意味?」「どう解釈できるの?」「モデル(フレームワーク)で分解するとどうなるの?」という質問ができることです。

データにまつわる基礎知識・スキルであれば、ご自身が理解されたことを「これは適切なの?」「この理解で大丈夫?」という質問にすること。そして批判的思考力であれば、「今はベストなんだっけ?」「AI等で解決できるものってあるんじゃないの?」という形で問うていくことになるわけです。

「質問することや問うこと」について、「これって何ですか?」「なんでこうなんだ?」というものでは、おそらく良い問いにもなっていかないでしょうし、相互理解につながる問いにはならないだろうと考える、ということですね。

つまり自分に、または相手に、「自分のご理解されたことを質問」する。このようにしていくことによって、3者の相互理解にもつながっていくと考えられるのではないかと思われるわけです。

私からのご説明は以上とさせていただきたいと思います。ありがとうございました。