組織変革において、時間の余力を生み出すコツ

井手伸一郎氏(以下、井手):会場からも質問をいただきたいと思います。1人1個まで、できれば「誰さんに」と特定していただければと思います。せっかく最前線の列にいらっしゃるので。

質問者1:今、井手先生にまとめていただいたところを進めていくにあたり、非常に時間が大事だなと思いました。先ほど各務さんから「会議を整理することで、時間を生み出す」というご説明があったんですが、ほかにも時間を生み出すためのTipsやコツがあれば、ぜひ教えていただきたいなと思いました。

井手:改革という新しいことをやるために、時間の余力を作らないとできないよねと。それはどうやって作るんですか? という質問ですかね。じゃあ、各務さん。

各務茂雄氏(以下、各務):まず私が感じることは、会議もですが、メンタルとフィジカルを整える。体調が悪いとメンタルも悪化する。だから私はめちゃくちゃやっています。例えば1週間に1回筋トレをやったり、テニスやゴルフをやったり。メンタル、フィジカルを整えると必ずパフォーマンスがアップすると思っています。

そうすると時間を生み出せるんです。そんな意外と地道なところに投資をするのも、けっこう大事だなと思っています。以上です。

野本周作氏(以下、野本):味の素さんが出している「グリナ」という、眠れなくても元気でいられるサプリメントがあって※。僕の命はあれに助けられています。

※個人の感想。正しくは、すみやかに深睡眠をもたらし、睡眠の質の向上(熟眠感の改善、睡眠リズムの改善)や、起床時の爽快感のあるよい目覚め、日中の眠気の改善、疲労感の軽減、作業効率の向上に役立つ機能がある。

野本:要は「寝るな」ということです。寝なきゃ時間はできるし、それでも元気でいればいい。これだなと思って。グリナはほんとに良いっすよ。

(会場笑)

井手:今日一、笑いを持っていきましたね(笑)。

野本:めっちゃ役に立つので、みなさんぜひ買ってください。

DX推進プロジェクト、どのように進めればいい?

質問者2:唐澤先生にお聞きしたいことがございます。私は4月から官民の一環で、民間企業から消費者庁に出向しております。2年間限定の出向です。その間に食品ロスの削減をやる施策があるんですが、民間でDX推進プロジェクトの傍らをやっていた手前、庁内の非効率的な業務がいろいろと目についています。

先ほどおっしゃっていたように赤字という概念がないので、まずみんながそれほど課題を認識していないんです。感情的になると逆効果だとも思っていますし、今日のみなさんの話を聞いてあらためてそう思いました。

組織になじんで、信頼を得て、情報を集めて……。2年という出向期間の中でどこまでできるのかな? というところをお聞きしたいです。

唐澤俊輔氏(以下、唐澤):ありがとうございます。時間軸がすごく重要です。「2年でどこまでやるか」と区切られているなら、そこまでと限定してやりきるほうがいいと思います。2年では完璧な世界までいかないからです。

最初から2年間でできることはわからないので、少し時間をかけて定められてもいいと思います。僕が2年でやってきたことは、基本的には人事全体の組織設計と、民間出身者がコーポレート機能や組織の意思決定に入っていく体制作りです。

その状態ができていれば、その先はほかの民間のメンバーでも回していけるようになります。自分がいなくなっても、その後続いていくことはすごく大事です。その体制をとるために、2年のうちにどこまでできるかをセットしていただくといいのかなと思います。

理想のリーダー像は「せこくないこと」

井手:ほかには? じゃあ左の方。

質問者3:ありがとうございます。「未来を照らすリーダーの挑戦」ということですが、人によってリーダー像は変わると思うので、打ち手は人それぞれだと思います。その中でリーダーのあるべき姿は何なのかを、みなさんにうかがいたいなと思います。

井手:これはまだ話していない津田さんからいこうか。お願いします。

津田恵氏(以下、津田):ありがとうございます。昨日のあすか会議で島田太郎さんが言っていたことが本当にそうだなと思っているんですが、「せこくないこと」。要は自分のためにやっている人には、人はついてこないです。

いかに社会のために、限りある命を使って何をするか。なんか田坂広志さんみたいになってきましたが(笑)。そういうのを持っている人がリーダーじゃないかなと思います。

井手:これは全員に聞きたいですね。野本さん、お願いします。

野本:それも人それぞれでいいんじゃないかなと僕は思ってるんですが、事業なり会社なりをどれだけ強く「良くしたい」と思っているかに尽きると思うんですね。うちの会長は自分で立ち上げたので、めちゃくちゃ強くそう思っています。僕はその後を継いで、会長に負けないくらい強く「うちの会社を復活させたい」と思っています。

その思いさえあれば、あとはもうぜんぶ芸風。思いの強さ、志っていうんですかね。そんな感じかなと思います。

井手:ありがとうございます。

リーダーが“転ぶ姿”を見ると、周りの人もついてくる

井手:唐澤さん、どうですか?

唐澤:先頭を走って、転んでケガしまくることだと思います。その姿を見て、「自分も応援しようかな、がんばろうかな」と周りが思ってくれて、ついてくる。いろいろなリーダーを見ていて、僕はそう感じています。

自分自身も「みんなに挑戦しようぜ!」と言い続ける役をやらせてもらっている。だとしたら、僕自身が誰よりも挑戦しないと説得力がないから、絶対に挑戦し続ける。自分が挑戦しなくなったら、僕は教壇を降りるべきと考えています。

リーダーというのは、「自分がこう」と信じることを誰よりもやっている人。それによってケガもするけど、それを見てみんながついてくるのかなと思っています。

井手:各務さん。

各務:私は2つありまして、1つ目が愛ですかね。先ほど野本さんがおっしゃっていたことに近いと思うんですが、その事業や人を真剣に考えているかどうかに尽きるかなというのが1つ目。

2つ目はけっこう唐澤さんに似ているところなんですが、リーダーって、最初はいかだで東京湾から太平洋に出ていくような感じなんですよ。誰もいない。

そう思っていたんだけど、実際に愛を持って「ここに行くぞ」と進んでいくと、知らないうちに後ろに船団がいたという。実は前職でも社長をやっていてそう感じたので、この2つがないとリーダーはできないなと私は思っています。以上です。

井手:ありがとうございます。

生じた課題を「誰かのせい」にした瞬間におしまい

井手:僕も2つ掲げてるんですが、1つは「先頭を走り、しんがりを務めよ」ということ。まさに先頭を走るのはみなさんと同じですし、「思いを持ってここに行くぞ」という話です。

もう1つの「しんがりを務めよ」は、改革についてこれない人たちもいるんですよね。その人たちを最後はおぶってあげたり、背中を押してあげる。こういったことをやりながら、先頭とこの後ろを締めていくと、真ん中の人たちはその流れの中で進んでいけるんですね。だから先頭と後ろ、しんがりを務めることをやっています。

そのしんがりを務めるに近いキーワードで「逃げるな」。究極、最後はここなんだろうなと思っていて。変革の時はいろいろな課題が起きるんですよ。でも誰かのせいにしたら、もうおしまい。「それは、そっちでやってください」と言った瞬間におしまい。誰もついてきてくれなくなる。

どんな課題も最後は自分が巻き取ってやる、やり切ってやる。こういう自信があるから、みんなは前線でがんばってくれるのだと思います。だから「逃げない」というキーワードもちょっと追加したいなと思います。

ポイントは「順番を意識すること」と「人に聞くこと」

井手:ありがとうございます。もう2人ぐらいいきましょうか。

質問者4:ありがとうございました。今の質問に連続性のある質問になるんですが、リーダーとして大切にされていることの先にあるHowについて、どのように決めていくのか。今、大事にされていることをおっしゃっていたと思うんですが、そのHowをどのように決めていくのかをうかがいたいです。

井手:「実行の仕方」という意味でのHowで合っています? 解決策をどう特定をしていくか。

質問者4:解決策をどう決めていくのか。

井手:課題がいろいろあって、それをどう解くのか、どう決めていくのかというところですかね?

質問者4:As-Is、To-Beは共通だと思うんですけど。

井手:通る道をどう設計するのか、解き方をどうすればいいのかという話ですかね?

質問者4:そうですね。

井手:これはどうしましょうかね。どなたか?

唐澤:僕は順番が大事だと思っています。「必ずこれからやる」「これだけをやる」のではなくて、「これを打った次にこれが」と、どの順でやるのか。つながりがあるはずなので、順番を意識すること。あと、自分で決めても合っているかはわからないので、いろいろな人に聞くことが大事だと思っています。

やはり多面的にものを見ないと判断を間違えるので、いろいろな人に聞きに行って「これだけの人に聞いた結果、この順番でした」となったら、ほかの人も「それだったらいいね」となって巻き込みやすくなる。できるだけいろいろな人の声を聞きながら進めるほうが、正しいかなと思っています。

仮説どおりにはいかないのが組織変革

各務:両方必要だと思うんですが、私は唐澤さんとアプローチがちょっと逆で。私は24時間365日ぐらい良い筋道を徹底的に考え尽くすことをやります。そうすると「この筋が良いだろう」というのが見えてくる。

ニーズ的には、唐澤さんみたいにちゃんと接点を見てぶつけ合ってやるのもあるんですけど、私はどっちかというと考え抜くタイプですね。

唐澤:仮説的に考え抜いて、仮説を立てて、検証しにいくパターンですよね。

各務:そうですね。唐澤さんも軸足、好きですもんね(笑)。

唐澤:はい(笑)。

井手:私もよくデジタルトランスフォーメーション・ジャーニーなんて言いますが、変革の旅をどうデザインするか。これは僕も最初は仮説でワーッと作るんですけど、そんな思いどおりにはいかないんですよね。

だから走りながら、やれるところからやりながら、チューニングをしていく。でも全体のコンセプトは外さない。こういったところを設計すると思います。

コミュニケーションは「素直な心で向き合う」に尽きる

井手:じゃあ、あと最後にもう1人、一番後ろの方。

質問者5:ありがとうございます。野本さんにうかがいたいと思っております。状況として赤字という厳しい状態から変革していく時に、どちらかというと私自身は変革となった瞬間に、人の「やらねば」をついていかなきゃいけないと思いがちなところがあって。

人は「やりたい」「やれそう」「やらねば」というのもスイッチになると思うんですが、そういった人を動かしていく機微で、この3つのバランスをどううまくとっているのか。例えばレイヤーによっては「やらねば」スイッチを押すけど、役員だったら「やらねば」なのかなとか。そこをぜひうかがいたいなと思います。

井手:どう火をつけるか。

野本:基本的には「変革しよう」と思ってしてはいないんですよね。「この事業はポテンシャルがあるのに、良くならないのはもったいないな」と思ってTo-Beを示し、「こうやっていったらTo-Beにたどり着くんじゃね?」を配慮はしつつもピュアに。

だから「君らは悪くない」とか過去は否定しないことも含めながら、純粋に素直に「こうやると良くなるんだけど、やらない?」「いや、ちょっと。でも、これって……」「それだったら大丈夫だよ。そこは俺が責任をとるか」と伝えれば、そんなに難しいことはなくて。

良いと思ったことをちゃんと説明して、その人の感情に寄り添って「がんばろうよ」というコミュニケーションをフラットにやっていく。なんの秘訣もない、ただそれだけだと思うんですよね。

だからぜんぜん派手なことじゃないんですが、素直な心で向き合うのが実は一番大切なんだろうなと思っています。答えになっていなかったら申し訳ない。

井手:「なんでこれをやらないんだろうね」「だってこんな良いことじゃん」みたいなね。

野本:「本当にこれを良くしたら、うれしくない?」という。

井手:そういうことですよね。ありがとうございます。

どんなに怒鳴られても、心の中では感謝を忘れない

井手:最後にみなさん1人ずつから、このメンバーに対してのエールを送っていただきたいと思います。じゃあ野本さんから。

野本:ありがとうございました。先ほど唐澤さんも言っていましたが、僕も「変革しよう」と思うことがないんですね。「この事業をもっと良くするにはどうしたらいいだろう?」しか考えていません。

結果として変革のアルムナイ・アワードをいただいて本当に光栄なんですが、基本的に僕は「良い事業をもっと良くしたい」に尽きます。だから、あまりビッグワードにぶらされないようにする。

一番最初に言ったファクトは、あれほど整理されたものは、実際には世の中にはほかにないですからね。ファクトをどうつかむか。グロービスに出たら、みなさん必死にやっていただければと思いますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)

井手:津田さん。

津田:今日はありがとうございました。変革は痛みを伴うので、変革のリーダーとしては感謝の気持ちを忘れないようにしていただきたいです。みなさんからいろいろなことを言われますが、どんなに怒鳴られても心の中で「ありがとう、ありがとう」と言い続けてください。そしたら絶対に腹は立たないんです。それが1つです。

あと、あすか会議で聞くことは、すごく遠いことのように思うかもしれません。でも、やり続けていたら絶対に近づいていきます。私も在学中はずっと遠くの話だなと思っていました。

今日来て、いろいろな人の話を聞いたらすごく近いことがわかったし、明日から使えると思うので諦めずにやり続けてください。私からは以上です。ありがとうございます。

(会場拍手)

井手:ありがとうございました。

アナログへの理解がなければ、DXは推進できない

井手:じゃあ、唐澤さん。

唐澤:ありがとうございました。僕は10年前にあすか会議に初めて来て、その時に登壇者を見てかっこいいなと思っていたんです。アルムナイの時に田久保善彦さんも言われていた「悔しいって思え」という話は、本当にそうだと思います。

登壇もそうで、みなさんもぜひ登壇しましょうね。そのために今学んだことをどんどん実行して、実践して、成果を出していってほしいなと思います。

僕の志は「誰もが挑戦できる社会へと、日本のカルチャーをアップデートする」ことです。これは1人じゃできないので、総力戦でやると決めています。みなさんと一緒にやらなきゃいけない。だからこそ、みなさんもどんどん発信する側に立っていただいて。この「カラサワギ」というTシャツがあるんですが……。

井手:オッケー、わかった(笑)。

唐澤:これでみんなで総力をあげてやっていきますから、よろしくお願いします。

(会場拍手)

井手:じゃあ、各務さんも一言。

各務:みなさん、お疲れさまでした。私は前職でKADOKAWAのメディアエンターテインメントにいたのですごく思うんですが、日本のカルチャーはすばらしいんですね。「日本のカルチャーを残すためにどうするか?」とDXをやっていました。

まさにみなさんは、日本人として日本に住んで、日本のカルチャーが好きだと思うんです。これをどう残していくかというボールを持っているのが、みなさんなんですよ。それをどうやるのかが、いわゆる変革やDXという領域だと思うんです。

そこをどうやって残していくかを考えるためには、アナログや日本の良さを徹底的に理解する。これを理解していないと、DXや変革はできない。みなさんがそこをちゃんと見極めて、みなさんらしい変革を作っていってほしいなと思っております。

井手:ありがとうございました。

(会場拍手)