価値を提供できている企業は一握り

田川欣哉氏(以下、田川):ブランドの話では、最近はパーパスの話がすっごく出るじゃないですか。「あれって何なんだろうね?」という話をよくするんですが、今日ここでされている会話がその理由になっているような気がちょっとします。吉松さん、いかがですか?

吉松徹郎氏(以下、吉松):本当にそうだと思っていて。僕たちがよく言っているのは、求人倍率が2倍になったということは、半分の会社は選ばれない会社になっている。ということは、その差がどんどんついていくので半分が潰れます。

だから僕たちの会社では、「選ばれる会社になるためにどうするんだ?」という会話をしています。「会社が人を選ぶ」じゃなくて「選ばれる会社」になる。(選ばれる会社の条件は)何なのかというと、信用とか、今日の会話にあるような内容になっていく感じはしていますけどね。

遠山正道氏(以下、遠山):私は「新種のimmigrations」というコミュニティをやっているんだけど、私を含めて1ヶ月につき1人1万円を払って、毎月百何十人が参加するので百何十万円のキャッシュが集まるんです。「集まったお金をもとに何をしようか? 今年はどうする?」とか、「自分はこれができる」という能力も集めながらやっていくんだけど。

これからの会社は、社員がお金を払って参加する感じになるのかな。行きたい会社はすごく限られていくんです。どれだけの価値を世の中に提供できているかというと、(価値を提供できているのは)本当に限られた組織になっていて。

そこにはお金を払ってでも参加したいし、メンバーになりたいし、自分の払ったものが価値に資するのであれば喜んで払う、みたいな感じになりそうな気がしますね。

これからは「共感経済」の時代?

吉松:僕自身は、Webだろうとリアルだろうと、どうやってコミュニティとして人が集まって、ビジネス化していくかのモデルを考えるのが好きだから、今一番おもしろいのは「MZDAO」です。前澤(友作)さんの「MZDAO」って知っていますか?

三浦崇宏氏(以下、三浦):前澤さんのね。あれ、すごいですよね。

吉松:今は(コミュニティ参加者が)18万人。ここにも入っている人がいるんじゃないですか? 1ヶ月500円払って、(参加者が)18万人いるということは、前澤さんの手元には毎月9,000万円、年間10億円のキャッシュがジェネレートされているわけです。

ということは、毎年10億円の資金調達をしている会社に、みんな500円ずつ入っていて、誰かに投資する。あの仕組みは、新しい会社のあり方としてあるんではないかなと思っています。

実はそこらへんも、アットコスメやアイスタイルを使いながらトライできたらなと思っていたりします。おもしろい時代になりましたよね。

田川:そうですよね。前から「共感経済」みたいな話はあったけれど、ある意味能力がAIでカバーされるようになってくる。さっき久志さんもおっしゃっていたけれど、イマジネーションとか、「これをやりたい」みたいな思いを、経営者たちがどれだけ素で言えるかという話が大事になってきそうな気がします。

GO三浦氏が思う、サポートしがいのある経営者

田川:三浦さん、どうですか? 三浦さんは外からいろんな企業をサポートされていて、「すごくやりやすいな」「これは先を行っているな」という会社もあれば、「ちょっと古いな」「これは難しいな」というところもあると思います。

三浦さんがサポートしがいのある経営者とか、「未来が見えているな」という人は、どんな基準で考えられていますか?

三浦:そうですね。荻窪に春木屋というラーメン屋があって。僕が小学生くらいの時に通っていて。大人になってから行ってもめっちゃうまかったんですが、店主の人がすごく変わって、おじいちゃんになっちゃっていたんです。

「めちゃくちゃおいしいですね。僕、小学生の時に来ていて。ぜんぜん変わらない味わいですね」と言ったら、「いや、お客さんはみんな気づいてないんですけど、けっこう変えているんですよ」と言われて、「え?」ってなって(笑)。当たり前だけど、要は時代の環境や空気によって世の中は変わっていくんですよね。

印象として「おいしい」ということは変わらないことがすごく大事です。「自分たちのブランドや、自分たちが社会に提供する価値を変えないために変わり続ける」という覚悟を持っている経営者が、一緒に仕事をしていてすごくいいなというか、やりやすい。今のタイミングで必要なマインドではないかなって思っていますね。

田川:なるほどね。たぶん、それが逆になっている人もいますよね。

三浦:そうですね。変わろうとするために変わらない、みたいな(笑)。「真逆だぞ」というのはけっこうありますね。

田川:(笑)。

“好きなこと”に注力すると、結果的に評価にもつながる

久志尚太郎氏(以下、久志):三浦さんの話にはめちゃくちゃ共感しています。特に海外のMBAでよく言われる言葉ですが、「自分を証明する為にあるんじゃない。自分をより良くするために自身を変化させろ、改善させろ」という考え方があると思います。

ここ数十年ぐらいは「自分はこんなにできるんだ」「こうなんだ」「こんなに偉いんだ」「こんなに賢いんだ」と、証明することばっかりに気を取られるところがあったと思うんですね。

でもそうじゃなくて、まさにMBAのクラスもそうだと思うんですが、自分をより良くする、自分を変化させるためにみなさんはMBAに通われたり、ここにいらっしゃると思うんです。

自分が大切にしたいこと、情熱や楽しさ、何か誰かに伝えたいことをやるために、どんどん変わり進化し続ける。そして、別にそれは周りが勝手に評価してくれるので、証明しなくてもいい時代になったのかなと思います。

だからこそ自分が何をやりたいのか、何が好きなのか、何が楽しいのかにより重きを置くことが、結果的に評価にもつながるという構造なのかなと思います。

田川:なるほどね。

ビジネスにおける「合理」と「非合理」のバランス

田川:じゃあ、ここからはフロアに質問を聞いていきたいと思います。質問をされたい方は挙手して……。いっぱいいるな。どうしようかな。順に聞いていくので、20秒ぐらいでどんどん言ってもらっていいですか? 集まったところで、こちらで引き取って答えていきたいと思います。

質問者1:すごく興味深かったです。「個人がパーパスを持っていくようになる」ということも理解した一方で、(三浦氏の)青学の学生さんの話みたいに、プロジェクト型で目的を持っていくという話もありました。

ちょっと気になっていたのが、今の時代って、個人が自分の中で自己やパーパスを強く持って、ずっと生きていく感じになっていくのか。それともプロジェクト型なので、会社としても、時々の目的に対して課題解決をしていくような方向性を考えられているのか。ちょっと聞いてみたいと思いました。

田口:ありがとうございます。じゃあ、次の方もいってみましょう。

質問者2:ありがとうございました。ビジネスを考える上で、合理的に考えていくところと、消費者は非合理なところが多分にあると思います。その間を埋めたり、合理と非合理を行ったり来たりするのにAIは使えるんじゃないかなと、なんとなく思っています。

その間を埋めるのにどう使えばいいんだろう? というのが、今はまだヒントがないんですね。合理と非合理のAIを使った埋め方で、何か考えるところがあれば教えてほしいです。

田川:ありがとうございます。

テクノロジーの進歩によって「ブランド体験」が希薄化?

田川:じゃあ、もう2人聞いて回収しましょう。お願いします。

質問者3:ありがとうございました。吉松さんに教えていただきたいんですが、ECやAIでテクノロジーが進歩することによって、買い物は非常に便利になっていると思うんです。その反面、私個人としてはブランド体験が希薄化しているんじゃないかと思っております。

先ほど「ラストワンインチ」というお話があったんですが、まさにその「ラストワンインチ」が広まっちゃっている気がしていて。それを縮めるために、何か工夫されていることがあったら教えてください。

田川:ありがとうございます。

質問者4:お話をありがとうございました。私も吉松さんに「ToCに対する共感」という点についてうかがいたいと思います。

「店頭は売り子ではなく、お客さまとの共感を生む場になる」「共感の生み方や作られ方が変わってきている」というお話もありましたが、具体的に、その「共感」とはどういうことなのか。また昨今の潮流において、経営戦略やプロセスを変化させた点があれば、うかがいたいです。

田川:ありがとうございます。

三浦:すごくいい質問。濃い質問ばっかりですね。

田川:濃いですね。

一見非効率にも見える、アットコスメの経営戦略

田川:じゃあまずは吉松さん、お2人からいただいているので、よろしくお願いします。

吉松:ちょっと似たような質問だと思うんですが、共感を生むためにどうやるかと言うと、アットコスメの場合に一番あるのは「最近この化粧品、人気ですよね」「人気ですよね。これ見ましたか?」と、普通の会話が行われている。これって共感そのものですよね。

実際にお店側の人はメーカーの人間じゃないので、「それを好きだったら、これ知ってますか?」という会話が進む。それで、一緒にiPadを見ながら店頭を回る。たぶんこれは、今までのお店よりは共感があると思いますが、これが完成形ではぜんぜんないです。

実際にアットコスメの中でやっているのは、まずはコンテンツの場なので、ユーザーさんやYouTuberを呼んで、どんどんコンテンツを作ってもらっています。最近アットコスメで人気なのは、YouTuberの人が「何々さーん」って呼ぶとうちの美容部員が来て、ひたすらお店の中を一緒にずっと動画を撮りまくるというコンテンツですね。

また、ユーザーさんがそれを許可してくれている。昔だったら、店頭で価格が写るようなことがあれば「写真を撮るな」と怒られていたのが、そもそもの作り方がぜんぜん違うと思っています。でも、それが先ほど言っていた「共感」ですよね。

アットコスメは、例えばディオールの横にSelifとかセザンヌのような一般商品を置くんですよ。男性はわかりにくいと思いますが、100円コスメと1万円コスメを並べるんです。2階に行くと、1万円コスメと1,000円コスメが並んでるんですよ。

これって普通の小売からすると、(価格帯の違う)同じ商品を並べていて非効率なんですが、リアルに比較するものを別々の場所で同じようにしてあったら、すごくおもしろいじゃないですか。そういったことをすごく細かくやっていると、1つのアイデアとして思ってもらえればいいかなと思います。

具体的な戦略の話でいくと、たぶん難しいと思いますが、AIはすごく身近というか、自分たちの味方になるものだと思っているので、共感を縮めるということで使っています。

田川:ありがとうございます。

個人にとって重要な「プロジェクト」という概念

田川:じゃあ三浦さん、一番最初にいただいた質問もけっこうおもしろかったですね。

三浦:個人のパーパスとプロジェクト型人材ですよね。結論から言うと、やっぱり「プロジェクト」という概念はめっちゃ大事だと思っていて。

いろんなことをやっていく時には、人間ってある程度経験しないとパーパスは作れないと思っているんですよね。パーパスってビジョンと何が違うんだといった時に、「ビジョンは未来で、パーパスは過去から生まれるもの」という言い方を僕はよくするんです。

クライアントさんのブランディングをする時に、必ず社史を読むんですね。「誰が作って、いつできて」といったことは、やはりすごく重要です。

例えば電通と博報堂は同じ広告代理店ですが、メディアカンパニーから生まれた電通と、マーケティングカンパニーから生まれた博報堂って、採用する人間もぜんぜん違うんですよ。

ということは、経験を積んで歴史がないとパーパスは作れないんですよ。じゃあ、その歴史を作るのはいったい何かと言ったら、一回一回のプロジェクトなんですよね。

さっき言った(インターン生の)青学の学生も、高校までは青森で生きてきて、お父さん、お母さんが政治家をやっていて、今は東京で広告の勉強をしながら地下アイドルをやっている。これによって、たぶん見えてくるものがまた変わると思うんですよ。

「芸能活動をしたい」というのが、「芸能界の闇を暴きたい」になるかもしれないし、あるいは「学問を勉強して、広告コミュニケーションのことを勉強して、大学教授になって日本を変えたい」みたいに(解釈が)いろいろ変わってくると思います。

なので個人にとって、まずは「プロジェクト」という概念がすごく重要。同時に企業や政治においても、例えば田川さんが「日本のデザイン教育を変えたい」と思って、文科省に一回入って、3年でまた変わってくることもいろいろあると思います。

企業の雇用の流動性と個人のプロジェクト型人材の考え方は、かなり相互していると思います。その繰り返しで、パーパス型の人材が生まれてくる。そんなイメージかなと思っています。

田川:ありがとうございます。

「自分で自分の機嫌が取れる」ことが大切

田川:久志さん、今の質問の中で、拾って付け加えたいことはありますか?

久志:そうですね。パーパスという意味で言うと、「楽しい毎日」がすべてかなと思います。それってつまり「自分で自分の機嫌が取れる」ことだと思うんですね。今って機嫌ですら主体性がなくて、誰かに左右されることが多いと思うので、まずは毎日ニコニコ楽しく過ごしたいなと思いますね。

田川:ありがとうございます。じゃあ遠山さん、最後にラップアップする感じで。

遠山:(笑)。ラップアップは難しいが。

田川:どうですか? オーディエンスのみなさんへ、最後にメッセージをお願いします。

遠山:私はもう還暦を過ぎたので、私自身の表現をしようと思ってYouTube『新種の老人』を、撮影も編集も音楽も1人でやっています。私でもやっているので、ぜひみなさんもいろんな表現から、何か価値を生み出すことをやってもらえたらなと思います。

田川:ありがとうございます。今日は「Generative AI時代」から始まったんですが、もっと深いところにあるのはブランドの手前側の共感の作り方、仲間の集め方、会社の顔の作り方とか。そんな話が今日は4人のパネラーのみなさんから聞けたんじゃないかと思います。

ぜひみなさん、大きな拍手で感謝をお願いします。ありがとうございました。

(会場拍手)