生成AIの登場で、テキストや文章の価値が高まった

田川欣哉氏(以下、田川):久志さんはメディアもあり、リサーチもされていて、データとクリエイティビティを組み合わせてブランド構築にチャレンジされていると思います。この前も「けっこう(生成AIを)使ってますよ」という話もされていたので、そのあたりを紹介していただけますか。

久志尚太郎氏(以下、久志):ありがとうございます。まず先に1個だけいいですか? 今日、僕の誕生日です。ありがとうございます。

(会場拍手)

三浦崇宏氏(以下、三浦):ええ!? おめでとうございます。

田川:おお、おめでとうございます。

久志:ありがとうございます。

田川:ハッピーバースデー。

三浦:温めてきましたね。

田川:温かいオーディエンスで。

久志:本当にありがとうございます。(生成AIを)どう使っているかの話なんですが、Generative Alみたいなものが出てきて一番感じているのは、テキストや文章の価値がものすごく高まったことです。

今までは、例えばクリエイティビティやすごい専門技術、専門性、背景、教育とかがないと、何かを作れなかった。たぶんここにいらっしゃるMBA生(参加者)のみなさんで、「創造性に自信がある方?」と問いかけた時に手を挙げる方は、下手をすると10パーセントもいないんじゃないかなと思うんですね。

でも、Generative Alがやっていることは、本質的には今手を挙げなかった90パーセントの方々の創造性を爆発させることだと、まずは思っています。

クリエイターとGenerative Alの差はほとんどない

久志:我々がどう使っているのかという話ですが、まさに三浦さんがおっしゃったように、やっぱりすごいクリエイターはすごいんです。

「すごいクリエイターのほうが300倍すごい」とおっしゃられたと思うんですが、普通のクリエイターと今のGenerative Alを比べたら、たぶんほとんど変わらない。正確に言うと違うんですが、たぶん誤差なんですね。

みなさんはクリエイティビティや創造性について、「三浦さんみたいには絶対になれない」と思われていると思います。三浦さんにはなれないかもしれないですが、一般的なクリエイターレベルを超えるものはすでに作れますよね。

何かを作ろうと思った時に、人に見せられたり、人に喜んでもらえたり、人に感動してもらえるようなものを作る術を、もうみなさんは手にしている状況なのかなと思っています。

我々はメディア事業もやっていたり、クライアントさまのブランド開発支援事業もやっていますが、多くのプロセスでGenerative Alを使っています。もちろん記事を作ることにも使っていますが、記事を評価することにも使いますね。

「そのコンテンツがどういうものなのか」ということは、なかなか自分では判断できないことがあると思うんですが、AIを使うと評価できるようになってくる。AIを使って学習して、それで自分で作ってみるということを高速に繰り返していく。

「自分は創造的じゃないんだ」「自分は何かを作れないんだ」と思っている弊社の新入社員だったり、他業界から来た若手とか、「でもやってみたい、やりたい」という人たちにすごく可能性が広がっている。そういった使い方をしています。

AIに奪われる領域、人間に残される領域

三浦:でも、AIで起きていることと人間のクリエイターの脳内で起きていることは、ほとんど一緒なんですよ。順列組み合わせとPDCAの繰り返し。これを超高速でやって、あたかもひらめいたかのように見せているのが人間のクリエイターで、あたかも演算処理でやっていると見せているのがAI。

やっていることは変わらないので、ある程度のタイミングで出来上がってきて、AIが人間以上のことをするようになるのは近いとは思っています。

ただ、久志さんのおっしゃることにちょっと補足すると、クリエイティビティにも「具体のクリエイティビティ」と「抽象のクリエイティビティ」があって。

「すてきな絵を描く」「すてきなデザインをする」とかは、AIはマジ早いですよね。「湖の上に建つ家。アール・デコ風」みたいに入力すると、人間では絶対に追いつかないスピードでいろんな絵が無限に出てきます。

ただ、例えば遠山さんと会話する中で「遠山さんが欲しいのは、湖の上に建つアール・デコ調の家であろう」と、なんとなくの当たりをつける抽象のクリエイティビティは、まだAIが実装できてないところ。もしかしたらいずれできるかもしれないですが、まだちょっと時間がかかりそうな感じがしますね。

久志:だからこそ「何かを作りたい」「何かをやりたい」「何かを発信したい」という思いがすごく重要になってきていて、それこそがクリエイティビティになってくるのかなと思います。

Generative Alを一番使っているのはプログラマー

田川:今、久志さんがおっしゃったことで「本当にそうだよな」と思ったのは、Takramの中でもGenerative Alをけっこう使っていますが、誰が一番使っているかというとプログラマーです。プログラマーがコードを書くのではなくて、言葉で書くようになり始めているんですね。

吉松:よく落合(陽一)くんが「自然言語プログラミング」と言っています。わからないけれど僕たちも使いながら、ちょうどJavaが出てきた時にはC++とか書き始めていました。

結局、ゲームだなんだとみんながプログラミング言語で書いているように、今は自然言語でみんながぶわっと書き始めて、ものが動くようになっていくんじゃないかなと思うと、びっくりしますよね。

田川:これはめっちゃおもしろいですよ。「東京の明日の天気を教えてくれ」と言うと、裏でコードが生成されて、APIから引っ張ってきて、出してくれるんですよね。

さっきの久志さんの話にちょっと乗っかると、「イメージできる」「統合できる」とか、メタスキルやメタクリエーションの話はめちゃくちゃ重要になってくる。「こんな世界を作りたいけれど、どうしていいかわからない」みたいなところは、AIが埋めかねないなとすごく思います。

生成AIは“気の利いた後輩”のようなもの

田川:では遠山さん、遠山さんとAIの出会いはいかがでしょう?

遠山正道氏(以下、遠山):私は非常に素朴に楽しんでいる感じだけれど、AIはすごくなると思っているんですね。

この間、自分の絵の個展をやった時に「オープニングに出す手軽な料理」とChatGPTに聞いたら、(答えが10個出てきて)9個はおもしろくなかったんですが、10個目に「焼きそばパンを買ってきて、4つにカットしてオーブンで焼くと、外はカリっと中はもちっとしておいしいですよ」と出てきて。

三浦:めっちゃおもしろいですね。

遠山:うん。俺は超えられたなって。

三浦:気の利いた後輩みたいですね。

(会場笑)

遠山:(笑)。すごいなと思ったんですよね。あと、この間は北軽井沢の露天風呂で、風呂桶のふたがめちゃくちゃ重くて。俺、ちょっと足を滑らせて風呂桶に持っていかれて、崖を3回転ぐらい落ちちゃったのね。

三浦:(笑)。おお。

遠山:せっかくの機会だからAIに「風呂のふたで崖から落ちた童話」を書いてもらったら、タヌキが出てきたり、最後は村人がみんな結束したりとか。

(会場笑)

遠山:たぶん人間だと「その想定がちょっとわからないんですけど」って言われると思うんだけれど、文句を言わないで書いてくれて非常に楽しいなと。

「インターフェース」と「コンテンツ」の逆転

遠山:それから最近の体験でいうと、とある大きな運送会社の社長と話していたんです。ちょっと真面目な話なんだけど、「運送会社のトラックは、これから早晩自動運転になるよね。ピッキングもロボットがやるようになるよね。24時間文句も言わないし、派閥も作らない。本当に人はどうなってしまうのか? 今いる何千人の社員はどうするか?」と。

「5年後、10年後、まだその社員を雇い留めているならば、会社はその社員の人としての能力向上や幸せなどをなんとか手助けすることくらいしかできることがないよね」みたいな話になって。

最近の私の関心は「仕事はAIやロボットがどんどんやってくれる時代に、我々にできることは何か? 会社ができることは何? 一人ひとりがどういうことに興味を持って生きていくんだっけ?」という感じになっています。

三浦:今の話のイメージをわかりやすくすると、「インターフェース」と「コンテンツ」が逆転するという話に近いと思っています。

例えば、今ってラーメン屋に行くと食券で買いますよね。チャーシュー麺1,000円、ライスを付けて1,200円、ビールを付けたら(さらにプラス)150円とか。途中で何を頼んだのかわからなくなっちゃったりして。あれって一瞬便利なように見えて、ちょっとやりにくかったりしますよね。

(食券を買って商品を)頼むと、厨房で料理人の方がラーメンを作って出してくれる。要はこれは入力がコンピューターで、作っているのは人間なんですが、たぶんこれが逆転していくんですよね。

「会話」よりも簡単な方法を、人類はまだ発明できていない

三浦:あらゆるものがAIによって自動化されて、すごい精度のものを作るんだけれど、結局インターフェースにおいては、人間よりわかりやすいものはないんですよね。

だから「ラーメンを作ってほしいんだけど、今はダイエット中なので、麺をちょっとだけ少なめにしてもらえますか?」みたいな会話よりも簡単な入力方法を、人類はまだ発明できていないんです。

だからAIの発達によって何が起きるかというと、意外と人間にしかできないホスピタリティとか、人間が「お客さまである人間」と向き合った時の入力の簡単さ、親切さ、丁寧さが、逆にすごく重要になっていく時代になる気がすごくしますね。

久志:今の話、いいですか?

田川:どうぞどうぞ。

久志:僕、ハイエースを改造したキャンピングカーに乗っているんですが、ゴールデンウィークに東京から北海道まで行っていて。青森に立ち寄った時に、まさに今の三浦さんの話みたいなことがありました。

おじいちゃんとおばあちゃんがやっている、地元のおいしそうな古い焼き鳥屋に入ったんですよ。入ったら、ちょっと嫌な予感がして。いろんなお酒の看板が並んでいて、ローカルのお酒とかを飲みたいなと思って来たのに、「既製品が多そうだぞ」みたいな感じになって。

焼き鳥とかお新香とか、どんどん食べていったんですよ。おじいちゃんとおばあちゃんはすごくカッコいいし、「地元で長年やってきました」という雰囲気が出ているんですが、食べた料理がほぼ業務用の既製品や冷凍食品でした。まさに今みたいな話だと思うんですが、その時に僕はけっこうがっかりしちゃったんですよね。

人間は、完璧なものよりも「不揃い」なものを求める

久志:「逆転する」ということはまさにそうなんですが、食べ物とか触れるものにも、人間は「人間味」をすごく求めています。完璧じゃない、不揃いとか。

野菜もそうだと思うんですが、きれいな野菜よりもなんか曲がっているものがおいしいとか、自分で育てた野菜のほうがおいしいこともある。いわゆる機能的なものだけじゃなくて、情緒的なものも人間は好きなので、今後はそのへんがすごくポイントになりそうだなと、あらためてその時に思いましたね。

田川:確かに。吉松さんもおっしゃってましたが、テキストとかはバンバン自動で書けるじゃないですか。さっきのクチコミの話とジェネレーションのところって、「それは危機感あるよね」という話もある中で、「だけど」という話をされていましたよね。

「人が人を呼ぶ」部分についてはいかがですか? シリアスにデータもご覧になっていると思うので、けっこう肌感覚をお持ちなのではないかなと思うんですが。

吉松徹郎氏(以下、吉松):そうですね。いろんなデータも読みますし、いろいろやります。でも僕たちの会社の中で社員と言っているのは、最終的に残るのはトラスト、信頼。あとはワンインチです。

昔、ECの「ワンマイル問題」があったじゃないですか。僕は今「ワンインチ」と言っています。手触りとか、化粧品も最後の「ワンインチ」はどうしても機械ではできない部分があるんです。

今後、働き手に求められること

吉松:僕たちのビジネスモデルに戻してみると、「化粧品がECで100パーセント売れることはあるのか?」と、まずは問うわけですよ。じゃあ80パーセントがECで、20パーセントが店頭なのか、50パーセント・50パーセントなのか。これがどこなのかという仮説から突き詰めていく。

結果、僕たちの中では「せいぜいECは20~30パーセント。60〜70パーセントは店頭だ」という話をするわけです。それはなんでなのか? ということになりますが、なんとなくさっきの話と似てますよね。

やっぱり、置き換えられるものと置き換えられないものはすごくあって。さっきの遠山さんの話ではないですが、「売る」ということではなく、だんだんそっち側(働く側)の重要度が高まってくるのは明確だと思うんですよ。だから、これから店頭に立つのは売り子さんではなくなると思うんです。

田川:へえ、おもしろい。

吉松:よりお客さんに情報を伝えられる、共感する人とか。これは難しいですよ。

田川:どちらかというと「仲間」みたいな。

吉松:そうそう。だから僕たちが今やろうとしているのは、LINEとかでコミュニケーションをしながら「何月何日、その時だけ店頭へ行って3つ比較しようね」と言って一緒に集まって、そこからまたみんな帰ればいい、みたいな。お店にいる人じゃないかもしれないね。

田川:そういう意味だと、働き方や売る・買うはすごく解けていく感じもします。