「nest Award 2023」を受賞したヤンマー建機のDX成功例

横尾勇人氏(以下、横尾):それではスペシャルセッションを始めます。私はアライアンス統括部、横尾と申します。本日のモデレーターを務めさせていただきます。

WARPパートナーのみなさま、日頃は当社のパートナービジネスに多大なるご支援をいただき、誠にありがとうございます。私はWARPの運営責任と、そして「ISVスクラム」と命名しておりますが、パートナーさまとのGO TO MARKET(市場進出戦略)をウイングアークで担当しております。本日はよろしくお願いします。

さて、本セッションでは2人の素敵なゲストをお招きして、対談をさせていただきます。まず紹介するのが、ユーザー企業さまを代表して、ヤンマー建機の田中さんです。田中さん、こんにちは。

田中重信氏(以下、田中):ヤンマー建機の田中です。今日はよろしくお願いします。

横尾:続きまして、パートナー企業さまを代表してエコー電子工業、右田さんでいらっしゃいます。右田さん、よろしくお願いします。

右田良隆氏(以下、右田):エコー電子工業の右田です。よろしくお願いします。

横尾:よろしくお願いします。本日、右田さんと田中さんは福岡から来ております。遠路はるばるありがとうございます。それでは、ヤンマー建機の田中さんからセッションをスタートします。では田中さん、会社紹介と自己紹介を簡単にお願いできますでしょうか。

田中:ヤンマー建機という会社は、福岡県の南のけっこう田舎なところにあります。築後市に会社をかまえておりまして、小型の建設機械の開発・生産・販売サービスを一貫してやっている会社です。

そしてありがたいことに去年、「nest Award 2023」をウイングアークさんからいただきました。どうもありがとうございました。

横尾:おめでとうございます。

田中:ヤンマー建機とはどんな会社か、写真1枚で言うとこれなんですね。2023年11月25日の「ヤンマー建機感謝祭」の時の写真で、X(旧Twitter)でポストしたところ、非常に評判が良かった写真です。これを見れば「ヤンマー建機ってこんなものなのか」と、わかるのかなと思って出しています。

横尾:壮観な写真ですよね。

田中:そうなんです。この時は約4,000名のお客さまが来られまして、工場を開放してみなさんに見ていただけるようにしておりました。

横尾:ちなみに、フロントで旗を支えてる建設機械はおいくらぐらいするんですか(笑)?

田中:一番高いのが一番手前にあると思うんですが、2,000万〜3,000万円はするんじゃないかなと。もしよろしければお買い上げください(笑)。

横尾:みなさんご検討ください。よろしくお願いします(笑)。

ウイングアークの「nest」がなければ、DXは進まなかった

田中:私自身の自己紹介です。あらためまして、田中重信と申します。ヤンマー建機の中では、このような3つの役割を担当しています。

戦略部のDX推進グループと、ヤンマー建機筑後本社の品質保証部の品質企画グループ。それから、全世界に工場を4つ持っておりますので、それをまとめるGlobal Quality Assuranceというセクションのマネージャーもやらせていただいております。

経歴なんですが、前職は青いロゴのPがつく電気メーカーにおりました。プリンターから始まり、アメリカ・イギリスの海外工場に行きました。それから日本に帰ってきて、電話交換機のソフトのPMをやっていました。

ちなみに私はソフトのことで1行も(プログラムを)書いたこともありませんし、SQLもさっぱりわかりません。そんな状況でソフト開発のPMをやって、商品企画をやりました。いろいろなことをやってSE・CSで2020年、コロナがちょうど始まった頃にヤンマー建機に転職して今に至ります。

私がDX推進を進めていくにあたって、なくてはならなかったものがウイングアークさんのユーザーグループ「nest」ですね。これがなかったら、今のヤンマー建機のDXも進まなかったと思っております。

横尾:WARPパートナーのみなさまで知らない方もいるかもしれませんが、ウイングアークが運営しているユーザーコミュニティがnestです。田中さんは、そちらで大活躍をされています。

田中:おかげさまでnestから得るものが多くて、非常にありがたいなと思っております。実は2018年からnestに参加しまして、前職の頃は非常に人も少なかったんですが、今は驚くことにもう3,500人とかなり多くの人が入っています。

地域別のワーキンググループなんですが、私は「nest 九州沖縄」を担当しています。業種別では「製造業データ活用ワーキンググループ」でも一緒に活動しています。非常にありがたいですね。

nestをご存知ない方もおられるかもしれないので(説明すると)、nestはポータル上で日々情報交換など、いろいろな悩みごとの相談をやっています。ここにはいろいろな情報が集まるので、我々にとっても非常に情報の宝庫で、ボード作りなどに役立てております。

社内に「Excel大好きおじさん」がはびこっていた

横尾:それでは、ここからは田中さんから、ヤンマー建機さまでどのようなDXの取り組みをしてきたかをご紹介いただきます。

田中:ざっと年表にしてみたんですが、まず私は2020年にヤンマー建機に入社しました。その頃は「Excel大好きおじさん」がはびこっておりまして、Excelで一生懸命やって仕事が進んでいました。

まずはとにかく可視化するため「Dr.Sumが欲しいよね」となり、2021年にやっとDr.Sumも入れることができました。

MotionBoard Cloudの最小ライセンスで、効果を少しずつでも説明できるようになったので、値段の高いDr.Sumオンプレを買うことができたんですね。

そうこうしているうちに、またほかの部門が「使いたい」と言ってきたんですよ。だんだんMotionBoard Cloudのユーザーが増えてきて、結局ライセンスが50ぐらいになってしまったんです。

ここでいっぱいお金を取られるようになったので「もう、どうせならMotionBoard CloudをMotionBoardオンプレにしようぜ」となり、ライセンス・ID作り放題のMotionBoardオンプレを導入しました。ちょうどこの時にDX推進グループを社内に作って、私はそこの責任者になったので、調子に乗って入れました。

その後は、ウイングアークさんのinvoiceAgentdejirenSmallData Managerなどを導入しました。MotionBoard Cloudも、オンプレを入れた時点でいったん最小限の10ライセンスに減らしました。

海外からも「使いたい」と言ってきたので、最近では25ライセンスぐらいまで増やしました。それをやる中で、関連するUiPathやAgileWorksなどのソリューションも入れてまいりました。

「誰でも可視化していいよ」がDX推進のカギに

田中:私が入った時に何が起きたかを図にしてみました。この方は大橋(哲博)さんという方なんですが、私が入った時の品証部長です。この方は「データを活用したい」と、社内で一生懸命言っていた方なんですね。でも、ノウハウを持っていませんでした。

この方は、来る日に備えていろいろなデータを集めていましたので、生データはある状況でした。なおかつ「Excel大好きおじさん」が月の半分ぐらいはExcelで資料を作ることもあり、「なんとかしたいな」と思われてたのが、この大橋さんという方です。

なおかつ、その元データはヤンマーグループの社内システムで管理されているデータなので、なかなか触れませんでした。グループ共通のBIツールも自由に契約を変えられません。こういった時に私が来たということですね。そして、MotionBoardとDr.Sumを使ったソリューションを作り上げたのが、品質保証部での変化になります。

Dr.SumとMotionBoardの連携なんですが、「方針を明確にして、Dr.Sumにありとあらゆるデータを集めよう」となりました。生産系のMES(製造工程の把握、管理、作業者への指示を行うシステム)など、いろいろなサービスのシステムのデータや営業やIoTのデータを集めました。

もっと多かったのが、個人のデスクトップにあるExcelです。そういったものもすべてDr.Sumに放り込んで、MotionBoardで使えるかたちに整形したり、ビューを作ったり、簡単なデータウェアハウスのようなものを作りました。

そしてMotionBoardで「誰でも可視化していいよ」とメッセージを出して、IDをバンバン発行しました。直接生産に入られている工場のオペレーターの方を除くと、だいたい約400人ぐらいのスタッフがおりまして、我々がMotionBoardのIDを発行しているのは約350人です。ということで、社員のほとんどがMotionBoardを扱える状態にしたので自由に使ってもらっています。

ウイングアークさんのnestの「サクセスストーリー」でヒアリングをしていただいて、リーフレットも作ってもらって、事例として取り上げていただきました。

その中で、先日読み返してうれしいなと思ったのは、大橋さんがこんなことを言ってくれていたことです。私を「腕のいい調理人」「道具が揃った」とおっしゃっています。

「道具」とは何かというと、MotionBoardとDr.Sumですね。私がたまたま転職してきて、いろいろなことができる。そしてDr.Sum、MotionBoardが揃っておいしい“料理”、つまりデータ活用ができるようになったと書いていただきました。あらためて読むと、非常にうれしいなと感じましたね。

横尾:「調理人」って本当にすばらしい例えですね。ちなみに田中さんはご家庭で料理はしますか?

田中:週末に酒のつまみをだいたい作っていますね。MotionBoardをつまみに酒を飲むのも、時々やっております(笑)。

横尾:次に行きましょう(笑)。

田中:はい(笑)。

現場の“やりたいこと”と情シスをつなぐのがDX

田中:我々がDXを進めるにあたって、誰が主役なのか。以前は情報システム部門がいろいろなシステムを作って、それを現場に押しつける。たまに現場が言っても「いや、できないよ」といったことがけっこうあったんですね。

私がDXに移って思うのですが、主役はやはり現場です。なので現場の「これやりたい」をなんとかするのが情シスで、その間を取り持つのが我々DX担当だ、という考え方で進めております。

なぜユーザー主体・現場主体なのかは、みなさんおわかりのように、やりたいこと・業務を一番知っているのは情シスじゃなくて現場の人なんですね。情シスが作ると、現場に合わないことになってしまいます。

ただ、現場の人が進めるにあたって、スライドの下の部分に4つ書いていますが「実現方法がわからない」「ツールがない」「データが揃わない」「加工の方法がわからない。どうやったら自動的に取れるの?」と、わからないことだらけなんですね。そこを我々DXが一つひとつ丁寧に解決する方法を使っていました。

「やりたいことがわからない、方法がわからない」に対しては、ワークショップをしたり、部門をヒアリングしています。それから「ツールがない」に対しては、標準ツールを入れて誰でも使えるようにする。これがMotionBoardだったわけですね。

「データが揃わない」に対して、本社で管理しているものでなかなか管理部門が出してくれないところは、我々DX部門が「ああでもない、こうでもない」と言って交渉をして、Dr.Sum Connectを使う手法で安全に取り込みました。

「使いやすいように」に対しては、Dr.Sumへデータを集約して、データウェアハウスみたいなものを作って進めております。そういうことをやっているうちに、なんとなく(DXが)進んできました。

ユーザーコミュニティ発足の効果

田中:みなさんがこういう活動をやりやすくするために、次に社内ユーザーコミュニティを発足しました。それに至る経緯として、当初は個別に我々DXが部門や個人をサポートしていたんですが、DXのメンバーはトータルで5人しかいないので、できる範囲は知れているんですね。なかなか広がらなかった。

次にやったのが社内勉強会でした。「部門の代表を出してくれよ」「勉強会に出てくれよ」という言い方でやってましたが、選抜された人は部門から出されたので、やらされ感が満載だったんですね。

そして考えたのが社内コミュニティですね。アクティブなデータ活用が好きな人たちを増やしたり、メンバーが自主的にやったりして進めていっております。2023年の5月からは、実際にコミュニティを実際にスタートしております。

この3つがポイントです。まずは「みんながDX志向になるように広げる」。それから相互サポートをやるんですが、実は意外と人材が隠れていたんですね。

工場の班長さんはデータ活用が好きなんだけど、その上の課長さんがやらせてくれないこともありました。実は「隠れている人」があっちこっちにいたので、それをあぶり出すために「誰でもやっていいコミュニティ」をやろうと。

「部門を越えて」は、DXに対する依頼に関しては全部コミュニティを通してやってもらおうということで、誰にでもオープンにできる状況でやりました。

こんな感じでTeamsをプラットフォームにしたら、自己紹介がけっこう盛り上がったんですよね。人を知ることが、相互サポートにおいては重要です。

横尾:確かに。

田中:DXへの依頼はすべて共有するということで、コミュニティを活用しております。そして最近では、我々がコミュニティやDXを引っ張るのではなくて、現場の人に引っ張ってもらおうということで、それぞれのツールのコミュニティリーダーを出してもらっています。

コミュニティリーダーを選出するにあたって、KEEN Managerを導入しました。たぶんウイングアークさんのnestでも使われてると思うんですが、「誰が活動をやっているか」「誰をリーダーにするか」「誰をスターにするか」などを引っ張り出してくれて、データで判断できるツールを導入して、この人たちを選出しています。

そして今、こんな感じになっています。コミュニティのメンバーが自主的に勉強会をやったり、自分たちが困って解決したことをみんなにオープンにしたり、ノウハウにしてくれようとしているので、非常に良い方向に進んでるのかなと考えております。

二人三脚で伴走できるパートナーを探していた

横尾:田中さん、ありがとうございます。今までのお話を聞いている限り、社内のDX推進は社内のメンバーだけでできる印象を持った方がいらっしゃるかもしれません。この中で、SIパートナーさまが果たす役割を教えていただけますでしょうか。

田中:もともとMotionBoard Cloudをやっていたので、そこはSIerさんなしでもなんとかなりました。次にMotionBoardのオンプレやDr.Sumを入れる時は構築ベンダーさんにお願いするしかないので、パートナーの選定に入りました。

そこで、2つの条件があるのかなと思いました。ポイントとしては、地場であること。もしくは地場に支店などがあって、我々のところに電話1本ですぐ来てくれることです。

それから我々は、要件定義や要件を明確にすることが非常に苦手です。工場の現場の人たちは特にそうなので、二人三脚で伴走型で、いろいろな要件定義の作り方などから一緒にやってくれるパートナーさんを探していました。

ちなみに私個人としては「パートナーさん」という言い方が非常に好きです。製造業がどこかに何かを発注する時に、上から目線で「ベンダー」「業者」などとけっこう言われるんですが、私は大嫌いなんですよ。

なぜかと言ったら、前職で海外のパートナーさんと仕事をやっていた時に、発注側が上から見ることがけっこう多くて。それが非常に嫌がられて、その場合はプロジェクトがうまくいかなかったんですね。

そして我々の考え方として、パートナーといろいろなことをやらなくてはいけないので(人数を)最小限にしたかったんですよね。ヤンマー建機にとってのエリートなパートナーを選ぼうということで、選択検討に入りました。

エリートパートナーの条件3つ

田中:「エリートパートナー」とは何かというと、ヤンマー建機にとってのエリートパートナーの条件は3つです。我々は使わなくちゃいけないんだけど、あるパートナーさんでは扱ってない部品があっても、扱ってくれるパートナーさん。

それから、複数のパートナーさんで作り上げるソリューションがたまに出てきます。その時は、その2つのパートナーさんが敵対関係にあっても仲良くやってくれること。

3番目はウイングアーク1stさんとの距離です。我々に問題が起きて、パートナーさんに言ってもわからない時は悶々と悩んだり、単純に「サポートに聞いていますから」みたいなことがあるんですね。それを越えてウイングアークさんとお付き合いがある会社がいいなとなりまして、この3点のポイントで選びました。

横尾:なかなかのエリート条件ですね(笑)。

田中:そうですね。そして我々にとってのエリートは右田さんでしたので、エコー電子さんをキーパートナーに選択しました。理由としては、九州エリアでご活躍の会社(であること)。それから右田さんの人柄といいますか、右田さんにお願いしてくれればなんとかしてくれそうだなと思いました。

ウイングアークさんとも非常に近いと聞いていますので、エコー電子さんに決めました。でも、決して安いとは思いませんでした。ただ、お金を払う価値がある会社さんだと思ってエコー電子さんに決めました。

今では(スライド)一番左側にある「Dr.Sum」「MotionBoard」を中心に、データをつなぐソリューションをいろいろと入れています。ウイングアークさんのものがほとんどです。

それからデータを入力するところも、「dejiren」「MotionBoard Data-Jig」など、ウイングアークさんの商品ががんばっています。業務効率化では「invoiceAgent」も含めた効率化のツールも使っています。

横尾:ありがとうございます。

田中:組み合わせがきれいになってきたので、非常にありがたいなと思っています。ということで、右田さんにはとても感謝しております。

横尾:こちらのスライドをうちのスタッフが見た時に、「ほっこりした」という表現を使っていたんですね。

田中:(笑)。

横尾:パートナーさまとのすてきな関係を表す、本当にすばらしい1枚だと思います。