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株式会社ザスモールシングス設立記念イベント〜「スポーツビジネス」「共創事業」の第一人者たちに問う〜「スポーツ共創の可能性とは?」(全2記事)

2024.02.19

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事業戦略からまちづくりにまで広がる、「共創」による価値創出 経済性と幸せの両立を目指す「スポーツ共創」とは

提供:株式会社ザスモールシングス

株式会社ザスモールシングスは、国内では類を見ない「スポーツ共創」のプロデュースやコンサルティングを提供する事業会社として設立されました。その記念イベントには、スポーツビジネスの第一人者の原田宗彦氏、組織横断・共創事業の第一人者の野村恭彦氏、スポーツフューチャーセンターによる街づくりに取り組む佐賀県嬉野市長の村上大祐氏らが登壇し、スポーツビジネスと共創がもたらす可能性について語りました。後編では、株式会社ザスモールシングス代表の田上悦史氏による講演とパネルディスカッションをお届けします。

リクルートやDeNAを経て、「スポーツ共創」をテーマに起業

田上悦史氏(以下、田上):大変恐縮ですが、株式会社ザスモールシングスとして、ふだんどういう取り組みや考え方でスポーツと共創にチャレンジしているかをお話しさせていただきます。そのあとに、前のメンバーで対話の時間を過ごせたらなと思っております。

『弊社が考える「スポーツ共創」について』お話をさせていただきます。改めまして、田上と申します。先ほど原田先生からもご紹介がありましたけれども、学生時代は原田先生のところでスポーツマネジメントやツーリズムを学んでいました。

修士論文では、ソーシャルインパクトの測定みたいなことをやっていて。後ほどご紹介するんですが、当時はまさか今の社会ほどそういったソーシャインパクトの測定が流行るとは思わずに取り組んでいました。

そのあとリクルートという会社を経て、スポーツのお仕事に就きました。DeNAという会社で働いていました。実は当時、ちょうどこの上に渋谷のオフィスがありまして。ここと横浜で働いていました。

今後野球以外にどう事業を展開していこうかというところに、ひよっこが1人ポンと置かれまして。どうしようと途方に暮れながら、社内でいろんな戦略や計画も作り、その後バスケットやサッカー参入に至ったり、いわゆるスタジアムの周辺開発に至っていくという流れでキャリアを重ねてきました。

そのあと、先ほどの野村さんのNモデルの話ではないんですけれども、まさに僕なりに気づきがあったのが、スポーツのドメインですね。当時は横浜でしたが、お仕事をすればするほど街のみなさんや、たくさんの商店街や組合とどういうふうに対話をしていく必要があるのかをすごく考えながらお仕事をしていました。

スポーツクラブやチームの経営を考えれば考えるほど、そういった地域あるいはコミュニティとか、必ずお付き合いをしなきゃいけないステークホルダーとどう関係性を作っていくかというところが目に見えて感じられるようになりました。

その中でコロナ前の2019年に、Jリーグの社会連携というプロジェクトが立ち上がるタイミングでお声がけをいただいたのもありますし、野村さんともご縁をいただいたところもあって、フューチャーセッションズに入社して、スポーツと共創というところへ歩み始めたかたちでございます。

その後はJリーグとかフロンタウン、今日もお越しいただいているみなさんも含めてお仕事をさせていただいていて、気づけば今年3月に会社を作ってしまったかたちです。

スポーツ産業ではイノベーションが起きていないのではないか

田上:ちょっと前置きが長くなりましたが、中身に入っていきます。私自身がこういったキャリアの流れで課題意識を持っていったんですけれども。私は今現在32歳になりますが、ちょうど29歳か30歳の頃にいわゆる2020の国際大会がありました。

私自身はもちろん、その国際大会に関わらないキャリアを選んだんですけれども。同時にお仕事をしていく中で、この世代は人口が減るのと同時に、スポーツ自体も2020を機に変えていかなきゃいけないよねという議論がありました。

コロナ禍もあって、2020年から3年経った今、スポーツも含めてなんですけれども、仕事をしながらイノベーション自体をなかなか生みづらい、あるいは生まれていないと感じていたんですよね。

特に2020からコロナ禍もありながら、もしかしたらスポーツなのか、あるいはまちづくりなのかの議論もどこかでちょっと止まってしまったりしている部分があるんじゃないかなと感じていました。

また実際に野球やサッカーとか国内のスポーツの仕事をしてきた中で、イノベーションがさらに出てこないなと感じました。業界の中にはスポーツの仕事をしたいと入ってくるんだけれども、そこからほかの産業のように新しいものを生み出すムーブメントがなかなかないなと感じました。

例えば、車の産業であれば車を輸出して売ることがあると思いますし。電気自動車なのかどうかも含めて、いわゆる国際的なグローバルな競争の中で、きちんと議論がなされていく。

日本からプロダクトを生み出していって、勝負しにいくというのが成熟した産業ではあるものの、スポーツ産業などに触れてきた自分が果たして今、それを生み出す側になれているのかなと思った時に、待てよと。なかなかそういったことができていないんじゃないかと。

友人などを見ていても、やっぱり業界の中に入ったあとの議論がなかなかないなという感じがしたので。それで、自分なりにそこに特化して新しいことを生み出し続ける組織をやっていこうというかたちにしました。

社会にまだない・普及していない物事を生み出す組織

田上:弊社はザスモールシングスという会社名になったんですけれども、実はみなさんが今日入場される時は『Small things』という楽曲が流れていたんです。その曲のサビの歌詞ですね。「The small things will make the world shine」という歌詞から、実は弊社のミッションを設定していきました。

社会にまだない、あるいはまだ普及していない物事を生み出していく組織だよと。そして生まれたての組織であり、小さいアクションかもしれないけれども、そこから世界を照らしていくといった所信表明も込めて、ザスモールシングスという会社名にさせていただきました。

私たちが取り組むものは基本的にはまだまだ小さいもの、あるいは私が作った小さい会社かもしれませんが、そこからどういうふうに世界に取り組みを輸出していけるか、という目線で今後取り組みをしていきたいと思っています。

そのような中で、今日はこのあと市長にも「Sports Future Center」という、まだ聞き馴染みのない取り組みについてお話をいただきます。

あるいは今日来ていただいている方もいますが、「Social Return on investment」という、いわゆる社会的効果の金額換算のようなまだまだ普及していない取り組みとか。あとは、まだ国内にそこまで広まっていないUrban Sportsといった取り組みもしつつ、さまざまなことにトライしている組織です。

今話題にあがっているスポーツ共創は、その中で挑戦している1つの分野ではあるんですけれども、私自身スポーツと共創というテーマは非常に広い可能性や取っ掛かり、あるいは介在価値が出せる場所があるんじゃないかなと感じています。

まさに私自身が、先ほどの野村さんの話でいう「信じていること」みたいなところで言うと、ここからお話することはもしかしたら、それぞれの次の領域のパラダイムシフトを生んでいったり、次世代のスポーツの形をつくっていくんじゃないかなと感じています。

多岐に渡るスポーツ共創の分野

田上:スポーツの共創はおそらくスポンサーシップとか、あるいはファンコミュニケーションとか本当にさまざまな分野に渡るんですけれども、弊社はそのプロフェッショナルとして、いろんな組織のみなさんと一緒に取り組みを進めて参りたいと思います。

例えば先ほどあった図の中から、まちづくりみたいなところを見ていくと、施設とコンテンツ、そして周辺の地域の開発をそれぞれ独立してやられてきた過去があるんじゃないかなと思っています。

近年であれば例えば施設、コンテンツ、そして周辺の地域が、いわゆるレバレッジという単語になるのかもしれませんが、お互いにきちんと掛け算をしていくような取り組みが出てきていると感じています。

実際に北海道のボールパークのFビレッジさんは、間の文字を抜けば共創とも言えますけれども、共同創造空間と言われるような取り組みで、まさに開発後も病院がオープンしたり医療大学が移転したり、JRさんが新駅を作ったり。自社の投資だけではなくてさまざまな投資を呼び込み、一緒に共創されています。

ただ、もちろんコンセプトがあって、お互いきちんとレバレッジを掛けられるところを中長期的に対話しながら、彼ら自身が自分の信じることをして、ここまで進んできたのかなと感じています。おそらく今後、この分野でもこういった取り組みが増えてくるんじゃないかなと思っています。

自治体のまちづくりの分野にも広がる、共創のかたち

田上:このあと市長にもお話しいただきますけれども、市民協働、市民参画といったハードが伴わないまちづくりのようなところ、例えば第3期スポーツ基本計画でも「つくる/はぐぐむ」というところの下に「あつまり、ともに、つながる」という文言が入っています。

さまざまな立場、背景、特性を有した人や組織が集まり、課題の対応や活動の実施を図るといったものです。まさにこれが第3期基本計画で入ったのも含めて、今後「過去にする、みる、ささえる」という文脈で話されていたところから、「あつまり、ともに、つながる」というのが、「今する、みる、ささえる」と同じように話されている。

そういうかたちで話されていくのだろうと思っていますし、これが全国の自治体にも広がっていくんだろうなと感じています。

私自身、2023年3月に会社を作らせていただいたのですが、群馬県太田市さんのお仕事を数社でご一緒しまして。その中で、実際に太田市に関わるステークホルダーのみなさんに集まっていただいて、みなさんの対話をもとに計画を作っていくプロセスを過ごさせていただきました。

これまでもやられていたかと思いますが、今後はおそらく単純にお話を聞くだけではなく、これまで以上にともに作っていくというところに踏み込んで進んでいくんだろうなと感じています。

広告露出価値以外のスポンサーシップのあり方

田上:打って変わってスポンサー・パートナーシップも、共創という概念が出てくるのではないかと感じています。現在もそうですし、これからもたぶん残っていくとは思うんですけれども、過去の広告露出価値をベースにいわゆるスポンサーシップ、パートナーシップの部分は取り引きが成り変わった部分があると思います。

今出てきている文脈で言うと、さまざまなところで議論をしていますが、スポンサーシップやパートナーシップを通じた価値の共創も、今指摘されている分野の1つなのではないかなと感じています。

実際に露出価値以外をどう作っていくか、スポンサードする側やコンテンツホルダー側がどういうことを信じているのかというところに基づきつつ、丁寧な対話を行いながら、本当に一緒に取り組みたいことを話していくという取り組みがあります。

実は今日ご来場されている方の中の1人と、私も過去にパートナーシップ、スポンサーシップの共創のプロセスをご一緒させていただきまして。

広告露出価値だけではなくて、例えば研修につなげていくとか。その会社のコアな商品とスポーツコンテンツホルダー側が一緒に取り組んだり、会場で何かのアクティベーションをやるようなところまでつながっていって、広告露出価値以外のところも作れていく。

かつ、両社のチーム同士がすごくいい雰囲気で、継続してコミュニケーションが取れる関係性を作れたところがありました。おそらく今後もそういった取り組みが増えていくんじゃないかなと感じています。

商品開発や地域貢献活動の場で起きている変化

田上:また商品開発の分野も、近年は消費者やインフルエンサーのみなさんと開発者が一緒に作っていくプロセスが増えてきています。先ほどご紹介のあったeスポーツでも、実際に使っているゲーマーのみなさんと共同開発することも増えていますし。商品開発の文脈でもこういったシーンが見られてくるのではないかなと思っています。

ファンベースも同様ですね。まさに大阪エヴェッサさんとかも共創コミュニティと打ち出されて、ファンと一緒に作っていったり、スポンサーやさまざまなみなさんと一緒に作っていくところを打ち出されながらですね。

これまではたぶん市場調査を積み重ねて、ウォーターフォールで開発をしていたと思います。そういうところから、まさにニーズを受け取りながら一緒に物語を作っていく。ストーリーテリングをしながら取り組みを重ねていくような、ファンベースの構築というところで今、共創が出てきているのかなと思います。

そして地域貢献活動や地域連携活動。サッカーで言えば「シャレン!( Jリーグ社会連携)」という概念も、いわゆるこれまでは一組織で、例えばサッカー教室を行っていたり。

実際にお金をいただいてサッカー教室をやるというよりも、出向いてやっていくというコストが先行するような取り組みだったものが、今は共創というところを通して、例えば行政や金融機関とかも入れた座組みになりながらですね。

持続可能なかたちでの資金潮流を作りながら、「Social Impact bond」という仕組みを使いながら実際にマネタイズしたり、価値創出を促していく取り組みも近年出てきています。ここも共創というところは1つキーになってきているのではないかなと感じています。

ステークホルダーとともに議論し、価値創出していく

田上:あとは経営戦略なども、よくオープンイノベーションという言葉もあると思うんですけれども。小田急電鉄さんがスポーツ共創戦略を打ち出しながら、周辺の沿線にある、多くのクラブやスポーツチームのステークホルダーのみなさんと4年、5年と共創してきた歴史がございます。

今ちょうど小田急線に乗ると、車内の中吊りに東海大学のバスケ部さんと一緒にやっている取り組みなども見られますし、おそらく今後こういった取り組みも経営戦略、事業戦略単位で増えていくんじゃないかなと思います。

それができることで、スポーツコンテンツを持っていない組織も、ともに価値創出を目指していくことが今後増えていくんじゃないかなと感じています。

また効果測定や評価のところも実は最近スタイルが変わっています。例えばみなさんもテレビなどをご覧になられていて、「〇〇の取り組みの経済的効果はいくらです。〇〇研究所調べ」みたいなものをよく見られると思うんですが。

今こういった評価も第三者の客観的な評価ではなくて、360度利害関係者の認識というところから抽出していって、そこからどういう効果が発生しているかを見定めていく。そういう第三者評価から一歩進んだ評価の仕方に変わってきています。

これもまさに対話やステークホルダーのみなさんとともにどういう効果が発生しているのかを議論したり、そこの情報を把握する取り組みが測定の分野にも広がってきているなと感じています。

私自身も過去に「Social Return on investment」では、松本山雅さんやガイナーレさんとも一緒に実証実験もさせていただきました。実際に現状もかなり多くのお問い合わせやご相談もさせていただいておりますし、今後もかなりメジャーになっていく可能性を秘めているなと、まさに毎日を過ごす中で感じています。

縦割りだった社会課題やまちづくりでの変化

田上:最後に社会課題、あるいはまちづくりを俯瞰して見た時なんですけれども。これまではおそらく縦割り行政で、一組織・一部署でやっていたところから、今日いらっしゃっている嬉野市さんは、Sports Future Centerというスポーツとフューチャーセンターの概念を掛け合わせながら、取り組みを進めてらっしゃいます。

そんな中で、社会課題の解決に対して、スポーツと共創をどうツールとして使うかということもやってらっしゃいます。このあとのお話で詳しく出てくるのですが、これ自体もかなり動きとしては新しいのかなと感じています。

話が大変長くなってしまったんですけれども、これだけ多様なシーンでイノベーションの機会が見えてきているなと感じます。今後の世界を考えていく時に、次のパラダイムシフトをどう考えていくかというところで、もしかしたらスポーツ共創はその鍵の1つになるんじゃないかなと考えております。

一旦私の話は以上とさせていただきます。ここで第一部と言いますか、序盤のお話の部分で、前に出ている3名、4名で頭の中を交換する時間を過ごしたいなと思います。ここまで1時間弱になるんですけれども、まずは改めてお三方に、お話を聞いて「こういう気づきを得た」「こんなことができるんじゃないか」ということも含めて場に出していっていただけると。

そうすると、会場のみなさんも「あ、そういうふうに見えるんだな」ということがわかると思いますので、ちょっとそんな時間を過ごしていきたいなと思います。もしよろしければそれぞれのお話を聞いて、気づきや示唆を共有できればと思います。野村さん、ここまでの話を聞いてみていかがですか?

スポーツ文化が幸せと経済をつなぐ架け橋に

野村恭彦氏(以下、野村):スポーツの話をしているようで、スポーツと関係ない話をしているような感じもして。もちろん、スポーツが持っているパワーはたくさん知っています。でも、特に原田先生の話も、スポーツというところを演劇と書いても、もしかしたら成り立つかなと思ったり。

たぶん今の社会の中で経済と一番接続しやすい文化、要は共創をリードする可能性のある文化のトップランナーがスポーツなのかなという感じで、僕はちょっと見ています。

きっとただ経済が進んでも、お金の額が増えるだけで、経済自体は人を幸せにしないじゃないですか。じゃあ、経済と豊かさや幸せがつながるのが広い意味で文化だと。そうすると、今いろんなテクニカルな話も田上さんがしてくれたんだけど、豊かさを作っていくことと経済が、スポーツだとつながるかもしれない。

スポーツでつながるパターン、あるいはスポーツに投資することによって経済もちゃんとOKにしながら豊かさを作っていくことを示せたら、この先スポーツ以外のいろんな文化にも適用できるんじゃないかなと。

特に地方創生がどちらかというと経済中心で回しちゃったので、各地域がちょっと似てくる傾向があったかと思うんですけど。このやり方で、文化資本への投資が経済にも豊かさにもつながることがある程度証明されたら、ほかの文化資本にもいろいろと投資していける。

つまり文化そのものが目的ではなくて、文化に投資することが社会課題解決や我々の豊かさ、あるいは経済活動を生み出していく源泉になる。だからこそ日本はこれからもっと文化資本に投資することが戦略なんだというところまでつながるのかなと、ちょっと1人で妄想しておりました。

田上:そうなんですね。お話をうかがいながら、もしかしたら、たぶん京都にお住まいなこともあるのかなとも。

野村:やっぱり京都では「経営者は自分の代で伸ばすことよりも、次の次の代で潰さない経営をしろ」と言うわけですよね。自分の人生の中で解決しないことにも関わっていく。100年、1000年と続いている歴史の中で、自分がどの役割を果たすかということの豊かさみたいなものが、Slowの原点にあるかなと思っています。

非効率でも人々を惹きつけるものの力

田上:実際に私は前のお二人のお話を聞いてというか、実は先に資料を見ちゃったんですけど(笑)。あえてテクニカルなほうに振ったお話をさせていただいたんですが、今私も野村さんのお話をうかがいながら、これまでコミュニケーションが取られてなかったところをきちんとコミュニケーションを取っていこうね、というメッセージは共通している部分なのかなと思います。

もしかしたら、それがファストな世界だと意外と見過ごされてきていて、気づいたら本当に取らなきゃいけないコミュニケーションが取れてなかったんじゃないかなと。野村さんの話を聞きながら、テクニカルな話をしたあとに今改めて感じたところがありました。

スポーツって1つの文化の側面を持ちながら、人がおそらくフランクに関わりやすいものの1つでもあると思います。それが社会課題の解決にどう貢献していくのか、どうアプローチしていけるのかというところがあると、より文化やスポーツの目線自体が変わってくるのかなと。野村さんのフィルターを通して改めて感じました。

野村:そういう意味で、縦糸でやっていくのは一番効率がいいわけじゃないですか。専門分化させて解決していくのが一番効率的なわけですよね。それに対して共創は横串なので、ある意味では効率が悪いわけですよね。この効率が悪いものに対して、どうやって人を留まらせるかといった時に、先週の金・土のお話は「おいしさ」だったんですよ。

田上:なるほど。

野村:やっぱり、おいしいというのはみんなをそこに留まらせるパワーがあったんですよね。スポーツもそれがあるじゃないですか。共創にはそれをしていること自体が幸せというものが伴わないと、頭で考える共創って疲れちゃうんですよね。そうすべきだという話になってしまって。

やっぱり楽しかったり、エキサイティングだったり、本当においしかったり、この仲間とまた集まりたいなという気持ちが、我々の論理ではなく感情面にフォーカスする。そういう活動と共創が一緒になることにすごく価値があると思いますね。

田上:なるほどですね。私から2020以降とか人口減少という単語を出しましたけれども、その先の未来像や社会像を考えていく時に、Slowという価値観を持ちながら共創に取り組んでいくと。

そういうふうに、社会像とスポーツの文化性や価値観、考え方がうまくミックスされてくると、もしかしたら社会で過ごす人のWell-beingにもうちょっと貢献できるような社会像になっていくのかな? とうかがいながら思ったところでした。

満員電車の中からは、絶対に新しい発想は出ない

田上:原田先生にお話を振れたらと思うんですけど。ここまでスローイノベーションやスローリーダーシップというところ、真の共創の部分をうかがわれていかがでしたか?

原田宗彦氏(以下、原田):先日ニュースで、リニア新幹線に向けてトンネルが開通したというニュースがやっていたんですけど、ん!? リニア!? まだやってるのか!? と思いましてですね(笑)。スローの対極ですよね。

野村:でも、なかなかできあがらないからスロー(笑)。

原田:そういう意味ではスローですけど(笑)。本当に今の日本にリニアがいるのかどうかという議論もあると思って。スローについては、今日は非常に実感を持っていろいろ考えさせていただきましたけど。

やっぱりコロナが終わってから、幾分社会がスローになれる環境が整った。例えば、もうオンラインで仕事ができちゃうので、(通勤に使っていた)往復3時間を自分のために使える。すごくスローダウンですよね。その中から、新たなイノベーションが生まれるのかなと思っています。

実際アメリカへ行くと、ニューヨークもサンフランシスコもオフィスが半分くらい空いてるんですよね。みなさん戻ってこないんですよ。そういった新たなライフスタイルの中で、また地方との関係にも新たなツーリズム的なワーケーションの動きも出てきて。

私がさっき言ったように、弱い紐帯の中で副交感神経を刺激しながら、新しい発想が出るじゃないですか。満員電車に乗っていると、絶対に新しい発想が出ないんですよね。ここからイノベーションは起きないなと思っています。

そういういい時代にはなってきたので、今野村さんがおっしゃったような話はすごく響きますよね。例えば、スローツーリズムにSDGsを掛けて、脱炭素ツーリズムも世界で人気があります。飛行機に乗るより電車で行こうということで、今ヨーロッパで、ヨーロピアンスリーパーという夜行列車が大復活しているんですよね。

そんな時代になってきたので、相対的に共創をする場や時間が増えたなと、今日つくづく感じました。スポーツとはまったく関係ないですけど、アクティブなライフスタイルができるようなまちづくりを組み合わせることによって。たぶんこのあと、村上市長からそんなお話につながるのかなと思うんですど。楽しみにしています。

地方の温泉旅館をイノベーションが生まれる場に

田上:ありがとうございます。まさにちょうど今村上市長にお話を振ろうかなと思っていましたので(笑)。村上市長、ここまでうかがっていかがですか?

村上大祐氏(以下、村上):まずちょっとリニアの話が出て。実は嬉野は新幹線が開業してつながったばかりで、高速鉄道の恩恵を被っている者としては、そこに踏み込むとちょっと論争の種になってしまうので避けたいと思うんですけれども(笑)。

鉄路が計画されてから50年以上も紆余曲折しながら、「本当にいるのか?」という議論も経て開通した新幹線でしたけれども、「嬉野に100年鉄道が欲しい、欲しい」と言い続けてきました。

鉄道とつながることで次の時代のイノベーションをというような気持ちを持ち続けた市民性も鑑みて、100年の念願の叶いし時に、次の100年をどう構想していくかということを、私はその新幹線の開業の式辞に謳いました。

その中の1つが、まさに原田先生がおっしゃられたクリエイティブな人材の集積だと思いますし、都心部で満員電車にゆられて通勤するより良いと考える人も増えたのでは……というところはありますけれども。

嬉野は温泉がとても有名なので、最近はコロナで空室が出た温泉旅館をオフィスにしてゆるくつながろうということで、何十社も進出していただいています。温泉旅館内には足湯などがありますから、そこで足湯に浸かりながらパソコンをカタカタやっている人もけっこういるんですけれども。

そういった中で、温泉という1つの癒しコンテンツと一緒に、頭が冴えたり気持ちの切り替えもできて、新たなイノベーションが生まれるんじゃないかという期待をしています。そういう意味では、今後の方向性についても本当に勇気をいただいたんじゃないかなと思います。

佐賀県の最年少市長が描く、新しいまちづくり

村上:私は35歳9ヶ月で市長になりまして、いまだに佐賀県で一番若い市長でもあります。全国で数えても下からですね。そこから41歳になりましたが、まだまだ若い部類に入ると思います。

有権者のみなさんからは、せっかく若い市長になったんだからドーンと世の中を変えてほしいという期待をいただきます。しかし私自身、非常に戸惑うところも大きくて、ドーンと変えた先に、本当に私が30年後も生きて審判を受ける立場として胸を張って言えるものがあるのかというと、なかなかそうはいかないと。

短期的に成果を求められるみなさんの気持ちもよく理解しつつも(そうじゃないものも必要だと思っています)。例えば、新幹線の新しいまちづくりもそうで、田んぼの中に駅ができたんですね。いかようにでも作れるという中で、そこにショッピングモールを誘致してドーン! というようなまちづくりは私はしたくなかったんです。

みなさんが一つひとつ自分たちの良きものと思っているものを発信する。そして未来はこうあるべしという、自分たちの望むべき姿を投影する場所として、駅前の空間を作りたいと思いました。まさに、野村先生のスローリーダーシップをもって、市民が良きと思うものを新しいまちづくりに投影していきたいと思っていますし。

ただ、それにはリーダーの勇気がいると。やっぱり「あんた、何したいんだ?」とよく言われるんです。「みんなが良きと思うものを!」と言ったら、「そんなのは、大衆迎合政党のあの人みたいにドーンとやったり……」とか「職員なんてどうせ言うこと聞かないんだから、職員を脅してでもやってこーい!」とか。「新しい制度をブチ上げたらどうだ?」とよく言われるんですけれども。

そんなまちづくりをして、長続きするわけないじゃないですか! というところもありますので。今日はそういったみなさんにお話もうかがいながら、今後の方向性についてもいろいろと示唆をいただけるものと期待をしております。ありがとうございます。

市民が主体的に自分たちの未来を作っていく

田上:ありがとうございます。ちょっと時間が押しつつなんですが、実はもう1個だけスライドを作ってしまいましたので、サラッといければと思います。

今の野村さんや原田先生のお話の中で、ぼんやりと未来の社会像みたいな話が見えてきた部分もあるのかなと感じています。おそらく今後のリーダーシップの部分とか社会像の部分でも、ファストが終焉を迎えつつあるんだろうなと思います。

その中で、さまざまな立場の人がフラットに共創について話していく社会が見えてくるんじゃないかなと思っています。そこにスポーツというものが介在するとフランクに話せたり、まさに副交感神経ではないですが、ゆったりとした雰囲気で話ができる。

頭を使っただけの共創ではなく、フィジカルあるいはフィーリングが伴ったところの共創ができていくのかなと感じたんですけれども。改めて、未来の社会像から考えるスポーツ共創の果たす役割や機能について、もう一度言葉を言い直したり整理するとどうなっていくのか。

そこだけ最後にちょっと押さえ直しをして、次に進めていけたらと思います。野村さん、ここはどう思いますか?

野村:せっかく市長もいらっしゃるので、僕の考えもお伝えしたいなと思うんですけど。最終的に共創の目指すものは、市民が自分たちでこの社会をどうしたいかを決めることじゃないかなと思うんですね。

それは民間企業という立場をもっても同じだと思いますし。あるいは行政の職員もまた、市民として決められるようになっていくためには、ただ単に話し合うだけでも、何か作っていくだけでもダメ。本当に自分自身のことを考え、ほかの人の話を聞いて、なおかついろんな知識を得なきゃいけないと思うんですよね。

なので、市民がこのスポーツ共創という場を通して自分自身に気づき、一緒にスポーツをしたり食事をしたり料理をするプロセスの中で、相手のことにちゃんと耳を傾ける。

何が正しいという正義論ではなくて、本当にお互いを知るということをスポーツ共創がリードできたら、本当に市民が自分たちで主体的にこの街の未来を決めて作っていくことが可能になるのではないかなと。

ですから、トップダウンで「こういうふうにやればいい!」というのはどうしてもハード中心になりやすかった。僕は、市民が中心になって自分たちで作っていく未来を作るのが、このスポーツ共創の果たす役割じゃないかなと思っています。

令和の新しいスポーツ共創が生まれつつある

田上:ありがとうございます。よろしければ原田先生からも一言いただけますか?

原田:社会像が今刻々と未来に向かっていて、ふと気づくと「Japan as No.1」はすごく過去の事例になってしまい、日本のGDPもアジアの中ではかなり低いところに来ている時代に入ってきたと。

その中で、例えば札幌オリンピック招致があったじゃないですか。実は私も深く関わっていたんですけど(笑)。地元の新聞社に聞くと、もう札幌ではオリンピック反対ではなくて「オリンピックって何?」という、完全に無関心な状態になっていたということで。

たぶん市民感情のほうがはるかに未来を行っていて、そういうメガスポーツイベントで街をどう変えていくかという昭和のパラダイムは、もうすでに市民感情の中では消え去っているという話はしたと思うんですね。

なので、東京2020もある程度のレガシーは残しましたが、本当に「いつやったの?」という感覚に捉われてしまうくらい、もうそういうまちづくりじゃないんだろうなと(感じています)。

それよりも個人個人がまさに、こういうスポーツ共創の中でできるだけの能力と知見を持つ時代になってきたんだなということなので。マクロ(地域/社会)、メゾ(専門職/所属機関)、ミクロ(個人/集団)で見ると、もうミクロの時代に入ってきたと。

クリエイティブワーカーが集まることで、昭和、平成と来て、また令和の新しいスポーツ共創というのが今できつつあるんだろうなという感じはします。

田上:ありがとうございます。

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