キャリアを考える際のヒントを導き出すセッション

各務茂夫氏(以下、各務):「働き方とキャリア形成の未来~Generative Al等のテクノロジーが変える働き方と求められるスキル~」という、ビジネススクールのみなさんにとりましては、大変重要なテーマだと思います。

私はふだん、スタートアップの支援やアントレプレナーシップ教育というAI絡みのところで、同じ専攻の松尾豊先生とご一緒していろいろとやっています。大学に来る直前まではヘッドハンターでした。ハイドリック&ストラグルズ社という舌を噛みそうな名前の会社で、社長やCEOを連れてくるようなヘッドハンターの仕事をしていました。

今日は技術の進展とともに、みなさんのキャリアをどう考えるかということですが、一方で論点としては、人事に仕事を求められるということになると、人事から見て技術が人の採用やリテンションとどうつながるかという視点もあると思います。しかし、今日の主だったものは、みなさんお一人おひとりがこれからキャリアを考えるにあたってのヒントになるものを導き出すことかなと思っています。

今日は、私もご一緒できてうれしい方々にお集まりいただきました。まずみなさんから3分から5分程度お話をいただいた上で、論点を絞りながらお聞きしていきたいと思います。そのあとの質疑応答は15分ということですが、できればなるべくインタラクティブにする時間を少しでも多く取れればと思います。

国内No.1のヘッドハンターの賞を最多受賞した志水雄一郎氏

各務:まず、一番バッターとして志水さんに力強いメッセージをいただきたいと思います。志水さん、よろしくお願いします。

志水雄一郎氏(以下、志水):フォースタートアップス代表の志水でございます。自己紹介はいらないという話ですが、簡単にお話ししますと、現在国内最大のスタートアップ支援会社、フォースタートアップスの代表を務めています。フォースタートアップスは法人設立後3年半で上場した会社です。

先ほどヘッドハンターというお話がございましたが、私は一応国内ナンバーワンのヘッドハンターの賞を最多受賞したヘッドハンターでもあり、ベンチャーキャピタリストでもあります。

私からみなさまにお話ししたいことは1つだと思っています。ここにおられるみなさまは、全員がイーロン・マスクやザッカーバーグになれるんですよ。なれると思っている人!

(会場挙手)

志水:お! いる! これが正しい。私たちはそのチャンスと可能性に溢れていることを知らないだけです。知っていたらやる人がこの中から出てくると思います。みんな優秀です。だってグロービスのMBA(経営学修士)生ですよ。

インプットしたらアウトプットできるんです。社会や未来がどっちに向かうのかをインプットした時に、それを最大値にできるのが起業家や事業家であるとしたら、自らが長となって自らのミッション・ビジョン・バリューを言霊で語り、人を集わせて、社会や未来を変えられるプロダクトを作り、未来永劫残る会社を作れる人は、この中に2〜3割いますよ。

もしやっていないんだったら、知らないだけです。だから、今日のこの1時間が終わったら、「自らは必ず日本を、世界を代表する法人(を作る)」、そして「世界観を作れるリーダーになる」と思える人が増えることを期待したいと思います。

(会場拍手)

各務:あすか会議、グロービスらしくなってきた感じがします。

(会場笑)

各務:これを基調にしていきたいと思うんですけど。

宮城治男氏(以下、宮城):志水さん、よかったら何で志水さんがそういうことを思うようになったかという話をちょっとだけシェアしていただいたらと思いますが。

各務:お願いします。

志水:僕、中高のクラスメイトが孫泰蔵さんと堀江貴文さんなんですよ。

(会場笑)

志水:僕はインテリジェンス(現パーソルキャリア)という会社でサラリーマンをやっていました。唯一やったことは、リクルートを超えるために「DODA(現doda)」という転職サイトを、事業計画を変えて作ったことくらいです。ただその時に、僕は孫泰蔵さんと堀江貴文さんの活躍する姿が疎ましかった。

10年前に得た気づき

志水:だって自分は挑戦していない。ダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)に行っていない。個人資産数百億円、数千億円を持っていない。世界の著名人と会話をし、そのことをSNSで公開し、「あの人はあんなこと言っているけど、俺はそうは思わないんだよね」と書けない。

「自分にはできないな」と。自分もいい年収をもらっていい生活しているし、彼らを見なければ聞かなければ、これでいいやって思っていたんです。

ところが、10年前にあることに気がつきました。僕は日本が豊かだと思っていた。でも、違うんです。日本は貧乏で未来がないんですよ。みなさんもご存知のように、今、私たちの生活水準は韓国に抜かれました。一人当たり実質GDPは、ポーランドと変わらないんです。

さらに言えば、国の競争力。もちろん平将明先生が今後、リーダーシップを持って圧倒的に何かを生み出されると思います。ただし、1人ではできなくて、より多くのリーダーで未来を変えにいかないと、今のこのダウントレンドの日本を変えられないんですよ。

みなさんの中には家族がいる人もいるでしょう。自分だけでなくご家族も幸せにするということは、「いい仕事をする」というレベルじゃないんですよ。ワーク・ライフ・バランスを取るレベルでもない。もっと社会や未来に自分がどう寄与して未来を変えられるか。

一般的には「変えられない」と言うんだけど、違う。みなさんにはチャンスと可能性しかないんです。それを知らない。僕はこれを「知らない悪」と呼んでいるんですが、これを解消するために僕がやっているという話ですね。

各務:ありがとうございます。それこそ今日は全体セッションの中で、今をどう見るかというのが難しいんだという話があったかと思いますが、今の話を聞くと坂本龍馬の「世に生を得るは事を成すにあり」を思い出します。

そういう情勢の中にみなさんのような優秀な方がいるんだとまず認識し、ちゃんとファクトを捉えることの重要性を教えていただいたと思います。どうもありがとうございます。

「経済複雑性指標」はずっと世界一の日本

各務:次に平先生、お願いしてよろしいですか。

平将明氏(以下、平):国も今、志水さんが言ったのと同じ認識で、新しい資本主義の中身、成長戦略の中身を私がライターになって作りました。テーマは「脱皮しない蛇は死ぬ」で、よく安宅さん(安宅和人。情報学者・脳科学者で慶應義塾大学環境情報学部教授)が言っていることがテーマになっています。

1人当たりGDPを韓国に抜かれましたが、本当にいいんですかと。この提言は私のHPに載っているので見ておいてください。国の方針や戦略を知っていることは、ビジネスを立案する時にすごく重要です。大きく分けると、イノベーション、インバウンド、サプライチェーン、あとはその他の課題ですね。

サプライチェーンは、今円安になっていて更に経済安全保障という新しい文脈が入ってきたので、実はチャンスなんですよ。ですから半導体やデータセンターがどんどん日本に集まってきている。「日本はダメだ。ダメだ」と言うんだけど、経済の複雑性指標はずっと世界一なんですね。何でも作っているんですよ。

レアアースで中国に首もと、チョークポイントを押さえられていたと思っているんだけど、実はあらゆるサプライチェーンで日本がチョークポイントを押さえているんですね。

我々の問題意識は、「いいものを安く」はもうやめましょうよと。「いいものは高く」売りましょう。サプライチェーンのチョークポイントを我々が押さえているんだったら、ちゃんと交渉に使いましょうということが書いてあります。

イノベーションは、AIや量子コンピューター、フュージョンエネルギー(核融合エネルギー)に我々は関心を持っている。中でも今日のテーマはAIですが、私は自民党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」というのを2023年1月に作りました。

そして3月にホワイトペーパーにまとめて、リーガルチェックした英語版も出して、4月頭に岸田さん(岸田文雄総理大臣)にOpenAIのサム・アルトマンCEOと面会をしてもらった。さらにG7のアジェンダや、G7広島サミットの結果を受けて、生成AIに関する国際的なルールの検討を行うために立ち上がった「AI広島プロセス」なんかも、いいかたちでいったと思います。

ザクッと言うと、ヨーロッパは規制する気満々。アメリカは巨大なAI、いわゆるファンデーションモデルは、経済安全保障上の理由から監査をする方向にいっている。日本は一応問題点をよく理解しながらも使い倒すという、三者三様になっています。

日本は「ドラえもん」っぽいAIのイメージが強いし、アメリカはアメリカで『ターミネーター』の影響が強すぎて「怖い怖い」となっているので三者三様ですけど、我々は使い倒す方向でいきたいと思っています。

産後3週間目に起業した小室淑恵氏

各務:ありがとうございました。さっきの志水さんの話に関連すると、みなさんは学ぶ途上にある方かもしれませんが、学ぶにあたって当然AIを使うよねということになると思うんです。このあたりの部分も今日のポイントかもしれません。次に小室さん、お願いしてよろしいですか。

小室淑恵氏(以下、小室):この「働き方とキャリアとAI」で何をお話ししたらいいだろうかと思うんですが、私自身がどうやって今日まで来たのかを振り返ると、最初から混乱し過ぎでした。

起業しようと思って、前職の資生堂に辞表を出したんです。意気揚々と起業するつもりで辞表を出したのに、翌日の朝ものすごい吐き気に襲われました。その頃結婚1年目だったんですが、妊娠していた。私の当時の頭では、起業する人間はもう夜討ち朝駆け、不眠不休でやらなきゃいけない。すべてを投入しなきゃいけないのに「なんていうことだ!」と思いまして。

今私の右腕で、当時楽天に勤めていた(大塚)万紀子さん。もう20年一緒にやっていますが、彼女に泣いて電話をして、「もう本当に計画性のないことでごめんなさい。私は妊娠してしまったの。起業できないかもしれない」と言ったら、「小室さん、何の会社をやりたいんでしたっけ。あなたはワーク・ライフ・バランスをやるんじゃなかったですか?」と言われて。

「あなたが自分で実践できないことをビジネスにはできませんので、まず産みながらやられてはいかがでしょうか」と言われて、本当にそうだよと思った。かつお客さまに「これからこういう仕事をする予定です」と営業しながら妊娠中を過ごしていたら、最初のクライアントからプレゼンに来いと言われた日が、産後3週間という日だったんですね。

お腹の皮も余っている私がフワッとした服を着てプレゼンに行ったのが私の起業の日です。なので、起業の日は産後3週間目。そこからずっと残業はできない。したいんですよ。最初の頃はしたくてしょうがないんです。だって時間が何かを解決すると思っているから。だけれども、できないんです。

世界で最も教育を受けていて健康な日本の女性

小室:それで思い知ったんですよね。こういう人が日本の労働力の大半なんだって。これからは、こういう一度家庭に入って眠っちゃった女性たちをみんな引っ張り出さなければいけない。そうしないと、日本は世界に比べて圧倒的に働く人の数というよりは割合が、支える側と支えられる側のバランスがとんでもないことになる。

日本の女性は世界で最も教育を受けていて健康なんです。ジェンダー・ギャップ指数で「女性がものすごく活躍しない国だな」とだけ見られたらすごくもったいない。そこを見るのではなく、他の数値を見てほしい。

日本の女性は、一番健康で一番教育されているんです。「すごい資源の埋まっている大地をあえて掘らない」みたいなことなんですよ。日本はすごくもったいない。働きたいし能力だってある。でも夫の収入で暮らしていると、言葉は悪いですが、マインドコントロールされてくる。

「自分はダメな人間なんじゃないか」「1人では何も自立できないんじゃないか」と思ってしまって、自分でも行動できなくなる。そういう人が山ほどいるんだなと。その気持ちがすごくわかりました。

「これこそチャンスだ」と思って、わが社はその日から私だけじゃなくて全員を残業禁止にしました。「1日は8時間1本勝負です。この中で徹底して成果を上げるためにはどうしたらいいかを、忖度なく全力で考えてください」と。その結果、うちの会社はAIを使い始めたのがめちゃくちゃ早かった。だって時間が限られているから。

日本はこんなにもITスキルが高いのに、なんでAIで遅れを取ったんですか? それは優秀すぎる人が夜中まで働いてくれるからなんです。そしてほぼ無料。特に官僚。ほぼ無料です。議員さんの前で言うのもあれですけれども(笑)。

国会会期中、自民党はだいたい2日前に大臣への質問通告を出してくれますが、夜中じゅういろんな質問が届きます。その質問を優秀な人たちが無料で朝まで全部対応する。時間をかけて無料でやってくれる人がいると、IT投資するタイミングを見失うんですね。そのほうが安いから。これが一般の企業にも、霞が関にも見られる。

あとは学校ですね。公教育の学校がものすごくアナログなのは、教員に残業代が4パーセントしか支払われていないからです。教員は残業代が月額1万円ですよ。残業代がかからないところにおいては時間で解決しようとするから、誰もITを学ばない。

そこに対する思い切った投資をしない。財源を取らない。これが繰り返されて、技術はあるのに使う現場がない国として、日本はAIがここまで遅れた。今ちょっと盛り返している感がありますが、途中ひたすら遅れた時期があったと思っています。

これからのマネジメントに必要な視点

小室:実は働く時間の制限とAIは、めちゃくちゃつながっています。これからは労働力人口も減っていく。さらに言うと、介護と両立する人がとんでもなく増える。国が時間を規制するとかしないとかではなく、事実上全員が持っている時間が減るんです。なので、限られた時間の中で最大の成果を出すにはどうしたらいいかを考えていかなきゃいけない。

今日集まったあすか会議のメンバーのみなさんは、この時間でこれからの自分のキャリアを考えるというよりは、あまりにも多様になるこれからの部下のキャリアをどうマネジメントしたらいいか。すごく途方にくれることをイメージしながら聞かれるといいと思います。

ご自身の意思は時間をいっぱいかけるという方向だったり、いろいろやりたいこともあると思うんですが、部下は違うんですね。さまざまな部下に自分が適切な指示をする時間もない。隅々まで見ている時間もない。もはやテレワークです。見張っていられない。

なので、自律的に自分で時間を効率的に使って、成果を出してもらうような心をつかむ。本人がやる気になる、ワークエンゲージメントが最大になるようなマネジメントを、いろんな背景の人に対して、自分がマネジメントするにはどうしたらいいか。

かつ、この国は少子化ですので、単に少子化の中でうまくいくマネジメントをすればいいんじゃなくて、できればもう一歩進めて考えていただきたい。自分のマネジメントで少子化を解決するつもりでやってもらいたいんです。

つまり、自分の部下が二者択一で悩むのではなく、仕事の成果も徹底して上げながら、結婚もしよう、子どもも持とう、妻のキャリアも尊重しようと思ってもらえるには、自分がどういうマネジメントをしたらいいかということも、ぜひ織り込んでほしい。サステナブルな、というんですかね。

この少子化の国を一緒に克服していくつもりのマネジメントをぜひしていただきたいと思いますので、今日はそんなことに役立てるアイデアがみなさんと交換できればいいなと思っています。以上です。よろしくお願いします。

(会場拍手)