『「組織のネコ」という働き方』の著者・仲山進也氏が登壇

仲山進也氏(以下、仲山):よろしくお願いします。仲山と申します。

このスライドをご覧いただいてもわかるとおり、緩い感じで進んでいきたいと思いますので、リラックスしてご参加いただければと思います。

自己紹介を簡単にはしにくいのですが、楽天という会社が20人ぐらいの時に入りまして、楽天市場にネットショップを出している人たち向けの学び合いの場として、楽天大学というのを立ち上げて、何千店舗、何万店舗の店長さんたちとワチャワチャしながら、「どうやったらネットショップって上手くいくのかな」みたいなことを話したり、人数が増えてきた店長さんたちが組織の問題に悩み始めたりするタイミングで、チームづくりのテーマで活動をしたりということをしてきています。

なので、(今日のテーマである)ハイパフォーマーという点では、成長する人と成長しない人はどう違うのかをたくさん見てきたという経緯があります。あとは2007年からなぜか兼業自由で勤怠自由の正社員になりまして、「自由すぎるサラリーマン」と呼んでいただいたりしています。

あと、Jリーグのサッカークラブ(横浜F・マリノス)で、ジュニアユースの選手たちに向けたチームビルディングの活動なども手がけていました。今年は、松本山雅FCというJ3のチームでトップチームの選手向けチームビルディングをお手伝いしたり。今の主な活動はチームビルディングや組織文化醸成、個の成長、組織の成長のサポートをしています。

今日は「組織のネコ」という話をしたいと思います。「組織のイヌ」という表現は、慣用的に使われると思うんですけど、だったら「組織のネコがいてもいいんじゃないかな」と思いました。

組織のネコって、組織には属してるんですけど、基本自由な感じ。自分の意志がしっかりあるので、上から言われたことがしっくりこない時は、「何のためにやらなきゃいけないんですか?」みたいなことを言ったり、納得いかないと指示をスルーすることもあるようなタイプの人を、ネコと呼んでいます。

イヌとネコの他に、ライオンとトラもいて、図の上がパフォーマンスが高くて、下がパフォーマンスが普通と書いてあります。

ポイントになるのは左右のところで、左側のライオンやイヌは、組織の中央にいる人たちです。

組織のほとんどの仕事は上司からの「これやって」で始まる

右側のネコ、トラは、「組織にいながら自由」を志向するタイプ。この「組織にいながら自由」の「自由」っていう言葉がキーワードだなと思っていまして。どういうことかと言うと、さっき言ったように「会社に行っても行かなくてもいい」みたいな働き方になると、たまにいろんな人から「いいよね、仲山は。自由で」みたいに声をかけられることがあります。

ちょっとモヤっとするなと思って考えたんですけど、「いいよね、仲山は。自由で」の裏の意味合いとしては、「こっちはちゃんとやっているのに、お前はわがまま放題、好き勝手やっててずるい」みたいなニュアンスを感じるから、ちょっとモヤっとするのかなと思って。

別にこっちは「わがまま放題、好き勝手やっているわけでもないのにな」と思ったので、『組織にいながら、自由に働く。』という本を書く時に、ちゃんと「自由」という言葉を定義しようと思って考えました。

まず対義語を調べると、「拘束? 束縛? 強制? 統制?」みたいな言葉が出てきました。でもこれ、どれもわがまま放題、好き勝手な人を押さえ込む意味合いの言葉なので、あんまり広がらないなと思って。

次に、訓読みすると「自らに由(よ)る」と読めるなと。言い方を変えると、「自分に理由がある」と読めます。そう考えると、自分が仕事してる時の価値基準って、自分がやりたいと思えるかとか、自分がやる意味がありそうかで、「この仕事はやろう」とか「やめておこう」と判断している部分はあるなと思ったので、「自分に理由がある」という定義は使えそうだなと。

そうすると対義語が、「他由(たゆう)」になるなと。他人に理由があるからやっている。「言われたからやっています」というのが「他由」。造語ですけど。

組織で働いていると、ほとんどの仕事は上司から「これやって」と言われて始まることが多いので、ほぼ他由スタートと言えるわけです。でも、他由スタートでも自分で考えて、「こういうふうに考えればやりたいと思えるな」とか、「自分がやる意味がある」と解釈することができれば、「他由スタートだけど自由に転換ができた」と言えます。ということで、ここでの「自由」は「自分に理由がある」というニュアンスで使っていきます。

互いを馬鹿にし合いがちなイヌとネコ

動物に戻りまして、4つの動物の相性を考えてみます。

まずライオンとトラ。どちらも「パフォーマンスが高い」って書いていますけど、人間ができていると言うか、動物ができていると言うか、「人ってそれぞれ持っている資質が違うよね」とか、「強みが違うよね」みたいなことをちゃんとわかっている。

「自分と違う価値基準もあるよね」とわかっているので、ライオンとトラはお互いに相手のことをリスペクトできる関係性。自分ができないことをあっちの人がやってくれていると捉えられる関係性なのでリスペクトできる。

ライオンとイヌの関係性は、イヌの人は、ライオンにガオーって吠えられるとビビるので、畏怖とか畏敬の念を持っている感じ。トラとネコは、ネコがトラに憧れています。

イヌとネコがちょっと問題なんですけど。イヌとネコは、ライオンとかトラほど人間がまだできていないので、自分と異なる価値基準、価値観みたいなものに対しては許容度が低くて、放っておくとお互いに馬鹿にし合うみたいなことが起こりやすいかなと。

例えば、イヌからネコに対しては、「言われたことちゃんとやろうよ」「締め切り守ろうよ」みたいなことだったり、「統制を乱すのやめようよ」「群れから外れるのやめてくれない」みたいに言っていて。

逆にネコからイヌに対しては、「言われたことだけじゃなくてさ、ちゃんと価値あることやろうよ」とか、「上ばっかり見ていて大変ですね」とか。そんな感じで、放っておくと馬鹿にし合いがち。

最も対照度合いが強い組み合わせ

あと斜めの黒い矢印が書いてありますけど、ここが一番対照的な度合いが強いわけです。ライオンは群れを統率する係で、ネコは「あんまり群れるのとか好きじゃないんですよね」というタイプなので、対照度合いが高くなります。

でもライオンは「多様性も大事だな」ということも理解しているので、「ネコみたいな奴がいてもいいしな」と思っているから、距離感が適切に保たれていれば、お互いにそんなに気にはならないのが、ライオンとネコの関係です。

一番問題なのがイヌとトラ。この図は「上にいるほうが偉い」という意味合いはないので、組織や会社で言うと、イヌの上司にトラの部下がついているパターンもあり得ます。そういうパターンだとトラの部下は、イヌ上司からぜんぜん評価されなかったりする。

言われていないことをいろいろ勝手にやっちゃうので、「何、お前勝手なことをやってるんだ」とか「扱いにくいヤツだ」など、評価が低くなることがよく起きます。

今は組織に属している前提で話していますけど、スタートアップの創業社長とかって、トラタイプの人が多いイメージありますよね。よく見かけるシーンとしては、トラ社長のところにイヌの営業パーソンが営業に行って、トラから「こんなことできないの?」と聞かれて、「うちの会社はこうこうこういう事情がありましてできなくて」とできない理由を並べ立てるトークをして、トラ社長から「もう帰ってくんないかな」と言われるシーンって、イメージしやすいのではないかと思います。そういう感じでトラとイヌは相性の悪さがあるかなと。

なぜイヌの人は「正解一択型」のルールをつくるのか?

4つの動物のキャラがわかってきたところで、もうちょっと解像度を上げるためにいくつかの視点で比較をしていきます。まず、ルールをどう捉えるかを考えてみましょう。

ライオンにとっては、群れを統率するために自分でつくるのがルール。自分でつくるという意味合いで「自律」と書いてあります。

イヌにとっては、誰かが作ったものを「ちゃんと守るべき」というのが、ルールに対する捉え方。「何でこんなルールを守んなきゃいけないんですか?」と尋ねたら、「ルールですから」と答える感じですね。

ネコの人は「このルール意味わかんないんですけど」と言い、イヌから「ルールですから」と言われて「なんか息苦しいな」と思っている。

トラは、自分たちがパフォーマンスを上げるために、「こういう約束ごとで動きましょう」と「自分たちルール」として捉えています。

言い換えると、今までやってきたやり方・ルールがうまくいかなくなってきたら、うまくいくようにチューニングをどんどん変えていくのが当たり前だと思っているのが、トラです。

図の右上に、ルールをつくる時、「ライオン・トラはOBライン型を好む」と書いてあります。「OBライン」というのは、ゴルフのOBラインで、「外側はNGだけど、この内側だったらどこに打ってもいいですよ」というルールの作り方。要は自由を保障するためのルールの作り方をするのが、パフォーマンスの高いライオンとかトラのルールの作り方ですと。

イヌの人がルールをつくる場合ももちろんあるんですけど、イメージは、「正解一択(指示)型」です。例えば服装自由の学校があって、近所の人から「服装が乱れているのでは?」とクレームの電話が入ったとします。イヌの教頭先生が「ルールをつくろう」となって、「明日から全員この制服に統一します」とやるのが、「正解一択(指示)型」のルールです。

それを言われて、「いやいやいやいや、別に制服を決めなくても、ガイドラインで『これは不適切です』とだけ決めて、あとは自由にさせてほしいんですけど」って思うのがネコです。

なぜ「正解一択(指示)型」のルールをつくってしまうかと言うと、OBライン型のルールって、自分の中に世界観や美意識みたいなものがないと、「ここから外側は美しくないな」のように、どこに線を引いていいかがわからないので、決めようがないんですよね。

イヌの人はどちらかというと、自分よりも組織、外側に軸があるタイプなのでOBラインを引くの苦手なところがあります。

「イヌがダメで、ネコがいい」ではない

次に、役割(ロール)についての捉え方です。

ライオンは組織のリーダーとして、社長だったり、事業部長だったり部長だったり、長の字がつくようなわかりやすい肩書きがついています。イヌは1つでも上に上がれるように、言われたことをがんばってやっています。

ネコは肩書きとか興味ないので、人事評価の面談とかで「君、もうちょっとがんばったら上がれると思うんだけどな」って言われても、「いや、そういうの興味ないっす」みたいなリアクションも取りがち。

トラの人は、名刺に書いてある肩書きだけでは想像もできないことをいろいろやっているので、自己紹介が苦手です。「あの人、何してるのかぜんぜんよくわかんないよね」と言われがちです。

もう1つ比較をしましょう。失敗に対する捉え方です。

イヌは失敗が怖い。ライオンにガオーって怒られたくないので、極力避けたいと思っています。ネコはそんなに失敗を怖がらない。いろいろチャレンジをして失敗もちょいちょいします。

トラはネコと同じく失敗を怖がらないんですけど、極力失敗しないように考えながら動いているので高打率。ライオンはそういう失敗について叱ったり許したり、指導する立場です。

こういう話をすると、「イヌがダメで、ネコがいいっていうことですか?」と聞かれるんです。そこで本を出したあとは、「いいのは健やかなイヌと健やかなネコが良くて、ダメなのはこじらせているイヌと、こじらせてるネコがダメです」と説明するようにしています。

ちなみに、会社に属しているトラのことを別名「トラリーマン」と言うんですけど、その名付け親の藤野英人さんというカリスマファンドマネージャーがこういう表現をしています。

「会社には2種類あって、令和5年型の会社と昭和98年型の会社がある」と。昭和98年型というのは、昭和に始まった事業や組織の価値が賞味期限切れになっているにも関わらず、令和になっても引き延ばしている会社のことです。昭和98年型の会社に勤めていると、イヌもネコもこじらせやすいだろうなと思います。