近年広がる、公共領域でのkintone活用
蒲原大輔氏(以下、蒲原):みなさん、こんにちは。本日は本セッションにお越しいただきまして、誠にありがとうございます。この時間は「全職員をDX人材へ! 福井県庁が進めるDX部門・原課・パートナーの伴走による内製化への挑戦」というテーマでお送りいたします。
本セッションでお伝えしたいことは「自治体・省庁においてkintoneの全庁展開をするためのポイント」ですので、最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
まず簡単に本日の進行を務める私の自己紹介をさせていただきます。サイボウズ公共グループのリーダーの蒲原と申します。私自身も前職が東京の品川区役所で、元自治体職員です。
現在は「サイボウズ製品の提供を通じて自治体・省庁のチームワーク向上をご支援する」をミッションに、自分自身の前職が自治体ということもあり、非常に自分ごととしてモチベーション高くやらせていただいております。
本日、メインコンテンツは福井県・柳原さまの講演なんですが、まずはじめに簡単に私から、本セッション企画の背景をご紹介させていただきます。
近年、公共領域にkintoneが広がりつつあります。導入自治体数は250団体。最近は中央省庁にも採用が増えていまして、現在8団体で採用いただいております。
また行政職員限定のユーザーコミュニティとして「ガブキン」を運営しているんですが、こちらも2,400名が参加ということで、公共領域におけるkintoneへの注目度が上がってきているかなと感じております。
ただ一方で、私たちサイボウズとして解決したい問題も、まだまだ山積みとなっています。その1つが今日のテーマにも関わるんですが、部分導入によるサイロ化・非効率の発生です。
自治体や省庁においても、一部の部署だけでkintoneを導入するといったケースはまだ非常に多いです。こうなってきますと、その部署での業務改善はもちろんしていただけるんですが、一方でアカウントを持たない人との情報共有(の難しさがあります)。
自治体は人事異動が定期的に発生しますので、異動したらツールも覚え直しになる。また各部署がさまざまなツールを使っているので、人材育成コストも高くなってしまうといった問題があると思います。
「kintone全庁導入」を目指す中で見えた課題
蒲原:そこで私たちサイボウズが進めているのが「kintone全庁導入」です。すべての職員さまがkintoneのアカウントを持てる状況を作ることによって、ツールの垣根をなくして、情報共有が円滑な組織を作る支援ができればと思っております。
具体的には、部署横断の業務にkintoneを活用しやすくなったり、人事異動された方が異動先でも共通基盤のkintoneで業務改善できる。また、すべての部署でkintoneを使っていますので、人材育成も効率的にできるといった価値を提供していきたいと思います。
この全庁導入を推進するために、この2年間でさまざまな取り組みを進めてきました。まず全職員に導入した場合にのみ適用される特別価格のリリース。また予算がない段階でもkintone活用に着手できるよう、自治体さま向けの1年間無料キャンペーンも2022年度から開催しています。
また2023年度からはパートナー企業さまによる自治体DXプログラムということで、「小規模市町村向け・自治体丸ごとDXボックス」といった施策も展開しています。こんなかたちで全庁導入に非常に力を入れているんですが、一方で課題も見えています。
現場の職員さん、みなさまお忙しいので、DX部門の方がkintoneを全庁に広げたいと思っても、「どうやって取り組みに巻き込めばいいかわからない」とか、反対に「上層部の理解をどう得ればいいかわからない」とか、また「人材育成をどう進めていけばいいかわからない」といった、さまざまなお悩みの声をいただいております。
「全職員をDX人材へ」を掲げる福井県庁
蒲原:そこで本日は、トップダウンとボトムアップの両面から全庁的なDXを展開されている、福井県庁の柳原さまをお招きしておりますので、こういったお悩みに対する解決のヒントをお持ち帰りいただければと思っております。
それではこちらから柳原さんにバトンをお渡ししたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
柳原好貴氏(以下、柳原):よろしくお願いいたします。「全職員をDX人材へ! 福井県庁が進めるDX部門・原課・パートナーの伴走による内製化への挑戦」ということで、本県の取り組みをお話しします。福井県未来創造部DX推進課の柳原と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
(会場拍手)
本日は主なターゲットがkintoneの導入を予定されている自治体さま、あるいはすでに導入されている自治体さま及びその関係者さまです。自治体での悩みの種になる「原課職員の巻き込み方」や職員の自走を促すための取り組みについて、本県の事例をご紹介できればと思います。
全体の構成としては、まずデジタルツールを利用した業務改善の土台となる、福井県全体のDX推進の方針についてご説明します。続いてkintoneの導入を決定した経緯と、庁内へ展開するための方法を説明させていただきます。
そしてkintone活用の具体的な事例を2つご紹介して、最後に本県のDX推進及びkintoneの展開に多大な協力をいただいております、株式会社ジョイゾーさまとの連携についてご紹介します。
まず、福井県全体のDX推進方針ですが、もともと県の基本理念で「福井県長期ビジョン」を定めています。「『安心のふくい』を未来につなぎ、もっと挑戦! もっとおもしろく!」という県全体の基本理念がありまして、ここから福井県におけるDXを再定義しています。
福井県におけるDXの定義は「県民本位の地域社会実現のため、デジタル技術の特質を上手に活用し、県民目線で政策や実行の仕組みを再設計すること」です。
こちらで生活・産業・行政におけるDXを推進することで、地域社会・経済を活性化し、福井県の将来を持続可能にすることを目標に「みずから変える みんなで変える ふくいを変える」。以上の3つを行動規範としてDXの推進に日々取り組んでいます。
いかにして「DXしたい」という意識を醸成したのか
柳原:DX推進を支える土台として、図の6つの基盤を整備しました。
まずはDXプログラムによる方針の策定、研修・セミナーの開催による県民及び県職員の意識改革。そしてトップダウン・ボトムアップ両面からのDX推進体制。あとは研修体系の整備及び採用制度の創設による人材確保、人材育成ですね。
そして予算編成方針とも連携した、デジタルシフトを促す制度設計。最後にそれらの仕組みを支えるための情報共有の仕組みや、相談受け付け体制などのシステム整備を進めています。さらに市町との共同推進体制や、産業向けの支援体制を整えることで、全県一体あるいは官民一体となったDXの推進に取り組んでいます。
次に本県におけるDX推進の取り組みのうち、デジタルツールを利用した業務改善の基盤となっている取り組みを、いくつかピックアップしてご紹介します。
まずはボトムアップ。現場の取り組み推進のための制度として、各所属から1人ずつDXリーダーを選出しています。
若手職員を中心に選出していますが、各所属におけるDXの目標を1つ定めて、それに向けてkintoneやRPAツールなど、さまざまなデジタルツールを使って、所属における実務面でのDXを推進しています。
さらにMicrosoftのグループウェアのTeamsを利用して、全庁職員を対象にDXの相談受け付け、あるいは雑談ができる専用の掲示板を設けて、こちらでkintoneの使い方や、あるいはもっとざっくりとした「DXしたい」といった相談を受け付けています。さらに、優れた取り組みもこの掲示板で共有して、横展開を図っています。
また庁内のイントラネットでも、優れた取り組み事例や実践事例を掲載することで、職員がデジタルツールを利用して自走しやすく、情報が手に入りやすい仕組みを用意しています。
さらに、階層別の研修体系を用意しています。
例えば管理職向けのDX研修、一般職員向けの研修のように階層別の研修を用意することで、それぞれの立場において納得しやすく、DXの必要性や重要性などを認識していただけるよう努めています。
また、RPAツールやkintoneのデジタルツールを利用するために、実際にツールを触りながらアプリ開発などを行う実践型の研修も毎年行っています。DX(ツール)を使ってみたいという意識を醸成した上で、実践型研修で取り組みを支援するという、2段階の研修でDXの意識醸成と実践を進めています。
福井県がkintoneを導入したきっかけ
柳原:続いて、このような取り組みの中で本県がkintoneを導入したきっかけについてお話ししたいと思います。もともと先ほど申し上げたような取り組みの成果もあり、RPAツールなどのツールを利用して、優れた業務改善の取り組みが庁内にいくつかある状況でした。
ただし、こういったツールは使用するのにある程度の知識を要するので、優れた取り組みはあるものの、その取り組みが「点」になり、一部の職員にとどまっていました。
せっかく職員がシステムを構築しても、異動してきた方が使い方がわからず、結局使われなくなってしまう事例も散見されました。それを解消するために、すべての職員が業務改善ツールを使いこなせる環境作りが必要なのではないかと考えました。
その際にサイボウズさんが、kintoneの自治体1年間無料キャンペーンを開始されます。数多くの自治体で導入実績があるノーコード・ローコードツールであるkintoneを本県にも導入することで、システム内製化の取り組みを、点から面へ進められるのではないかと考えました。
kintoneを試験的に導入するにあたり、全所属から自らの業務について改善したいことを募集しました。こちらの募集は庁内の掲示板、あるいは先ほど説明したTeamsを利用して周知を行いました。
その結果、計18所属から40業務について、kintoneを使った改善の希望をいただくことができました。
用品の要求、あるいは庁内の照会業務や公用車の運転記録などの総務的な業務から、農作物の生育状況の管理などの現場における業務まで、幅広い分野での業務の改善希望をいただきました。
そしてキャンペーンでkintoneを導入する際には、所属ごとなどではなく、全職員1人1つずつアカウントを付与しました。キャンペーンの一環として、kintoneの運用をして業務改善を行うためのオンラインセミナー「ガブキン道場」がありまして、そちらに参加しました。
そちらに参加できるのが1自治体につき2名まででしたので、改善を希望した所属の中から特にkintoneによる改善効果が大きい、あるいは難しい所属を選定して、ガブキン道場にはその1所属だけ参加いただきました。
kintoneの「全庁導入」が生んだ効果とメリット
柳原:ただ、せっかく業務改善希望を出していただいた所属には業務改善に取り組んでいただきたいので、ガブキン道場において学んだアプリの使い方やテクニックを、先ほどのTeamsで全庁に展開しました。ツールの使い方の相談もDX推進課ですべて受けて、全庁を巻き込んでkintoneによる業務改善を進めました。
さらにkintoneの活用を促進するために、基本操作研修を開催しました。kintoneの概要を説明して、実際に手を動かしながらkintone上でアプリを作成するなどして、kintoneの使い方に慣れてもらう趣旨の研修です。
延べ71名の職員に受講いただき、kintoneの手軽さや便利さに触れることができたという声や、実際の業務改善に活かしてみたいという相談まで、いろいろな反響がありました。
実際にツールを使いながらアプリを使う体験を通して、kintoneの活用に対するハードルを下げて、職員自らが職場で業務改善に挑戦する気運を醸成することができたと考えています。
さらにkintoneにおける業務改善の取り組みが実際に現実化して、いろいろ事例が出てきたタイミングで、システムの内製化コンテストを実施しました。
こちらは「いいね!チャレンジ」と名づけていますが、kintoneに限らずさまざまなデジタルツールを利用して、システムの内製化を行った事例を募集して、良いと思ったものに投票するという企画です。
業務改善の事例で30件の応募があり、さらに職員から965件の投票があったので、非常に多くの職員が関心を持つ契機になったと考えています。また投票いただいた職員のモチベーション向上にもつながったのではないかと思います。
結果としては、kintone上での運転日誌管理アプリが投票で1位を取ります。そちらのアプリはいろいろな所属に広がり、現在では9所属で同様のアプリが活用されています。
全庁の職員に「これなら自分でも取り組めそうだ」という意識を持ってもらうためにも、このような事例の展開は効果があると考えています。
若手職員、主にDXリーダーを中心としたこうした取り組みで、現在は35所属で159業務の改善にkintoneが活用されています。当課の試算では、年間で約2,100時間の業務時間削減につながっていまして、非常に大きな成果を生んでいます。
こういったかたちで、システム内製化の取り組みを点から面に拡大していくために、kintoneは非常に重要な役割を果たしたと思います。