スキルアップしなくても会社に居座り続けられる、日本の社会システム

澤円氏:では次(の参加者のご質問)に行きましょう。「意欲的に仕事をしていれば、新たな分野への興味が湧いて学びへとつながるので、リスキリングは普通のことだと考えています。なぜ今、ここまでリスキリングという名前が流行していると思いますか。また仮に全員がリスキリングした場合、どのような人が周りと差別化を図って、頭ひとつ抜けると思いますか」。

これはご質問くださった方が日本企業出身なのか、外資系なのか、転職されたのか、コンテキストがまったくわからない状態で言いますけれども、リスキリングがなんで必要かと言うと、会社に居座る人たちが、もう耐えられなくなってきたからじゃないかなと思います。

つまり、日本の社会システムはすごく優しくて、今までは何のスキルアップもしないのに会社に居続けて給料をもらう人たちが、のほほんと生きることができたんですね。だけど、(会社に)入ったらもうずっと食べさせてもらえるというのは、おかしいじゃないですか。

会社という器は社会に貢献するためにあるわけで、スキルアップも勉強も何にもせずにそのまま居続けて、何なら年齢に比例して給料が上がっていくなんておかしいですよね。それがもう声高に言われるようになったんですよ。

もう横並びで競争する時代ではない

経団連もいろんな企業のトップも、「終身雇用はもうおしまい」って宣言したわけですが「役に立たない人バイバイ」って言うと、これは乱暴過ぎるわけですね。だから「学んで、そして社会に貢献する力をつけてくれたら、また活躍する場を用意するよ」というのがリスキリングにつながっているんです。

これは会社のボランティア活動とは違いますからね。生き残りをかけた戦略です。そして仮に全員がリスキリングした場合、「どのような人が周りと差別化を図って、頭ひとつ抜けると思いますか」と。頭ひとつ抜けるというよりも、横並びの競争がもはや機能しない世の中になっていくであろうと。

もう1つ、そういった意味で言うと、僕が今からいろんな本を紹介していきますんで、それをちょっと見ていただきたいんですけど。何と言っても『LIFE SHIFT』。これがすごく参考になるんじゃないかなと思います。

特に『LIFE SHIFT2』がいいと思うんですけど、『LIFE SHIFT』も両方とも読んでほしいな。『LIFE SHIFT2』は、僕は書評も書かせてもらったんですけど。

要は横並びで競争する時代ではなくて、もう複数のところに同時にジョインして仕事をしていく働き方が、どんどん一般的になるとこの本に書かれているんですね。なので、そういうふうに考えて仕事をしていくのは、今後は重要になってくるんじゃないかなと思います。

やりがいと収入の両立を目指すには

次。「やりがいと収入は両立できないものと考えがちですが、両立を目指すために、どういうスタンスが必要ですか」。なるほど。まずはその「やりがい」って、自分の内側にある話ですよね。どういうものに対してやりがいを感じるのかを、自分の中でもうちょっと明確に、解像度高く言語化することが、すごく重要なんじゃないかなって思います。

そこから解像度を高くしていくと、いろんなピースに分かれていきます。これに関して言うと、もしかしたら「高収入が得られるような仕事に直結するんじゃないか」と考えられるかもしれないですよね。

解像度が粗いと選択肢もざっくりしちゃうので、解像度を高くしていって、「これだったら情熱を持って取り組むことができるぞ」と思えるようなものを見つけるのは、けっこう大事なのではないかと思います。

リスキリングと「今あるスキル」の組み合わせが重要

じゃあ次、行きましょう。「まったく無知のプログラミングを、35歳から仕事外の独学で学んだ場合、転職市場における人材価値はあると考えますか。また企業からのいいポジションを望めると考えますか」ということなんですけど。

これは正直、僕が答えを出すものではないですね。独学として学んだ場合にどうかではなくって、学んだ結果がどのレベルまでいったかによって、問われると考えた方がいいと思います。

もう1つが、プログラミングそのもののスキルだけで勝負するんじゃなくって、これは確実に組み合わせになると思うんですよね。プログラミングはあくまでも道具なので、その道具を、今自分の持っているスキルとどうやって組み合わせていくか。それができたら人材価値は跳ね上がります。

ただ、まったく何もかも捨て去ってプログラマーとしてだけで勝負するとなったら、これはキャリアが長い人間とか、センスのいい人間に勝つのはけっこう至難の業かなと思います。だから独学をしたから価値が上がるか下がるかではなくて、あくまでも独学をした上で、さらに組み合わせることができるかどうかがポイントになってくるかなと思います。

採用選考になかなか通らない時の“別ルート”の考え方

はい、次。「来日歴の長い外国人です。現在、転職活動中でして、ただ過去はやむを得ない理由で転職回数が多かったりという理由で、多くの企業さまに書類選考の段階で落とされてしまい、かなり落ち込んでいます。そこを乗り越えるためのマインドセットを教えていただきたいです」。

まず方法を変える手もありますよね。例えば、まずはリファラル採用を狙うのもいいんじゃないですかね。通常用意されているプロセスだけに依存するんじゃなくって、知人に紹介してもらうなどして、書類選考の部分をスキップできるような手段を考えるのもいいんじゃないですかね。

例えば、「うちの会社おいでよ」って言ってくれるようなところを探すとか、あるいはイベントとかに顔を出して知り合いを増やしていって、「うちの会社で募集しているから応募してみなよ。話を通しといてあげるよ」とか。

「どこに行ったら(その機会を)得られますか?」。これは正直僕にもわからないというか、選択肢がありすぎちゃって、どれがいいかはご本人のコンテキスト(次第)でわからないので、ちょっとレコメンドのしようがないんですけれども。

いずれにしても書類選考で落ちているんだったら、書類選考がないプロセスを考えるのもいいんじゃないかなと思います。何もかも飛ばしていきなり社長面談に行くなんていうのも、特にすごく大きい企業じゃなければあったりしますからね。

ベンチャー企業なんかは「とにかく人が欲しい」というところがいっぱいありますので。「けっこうここいいんじゃない」ってベンチャー企業、スタートアップ企業に、ダイレクトにアプローチをしに行ってもいいんじゃないかなと思いますけど、どうでしょう。

「やる」か「やらない」かで将来の方向性が決まる

「自身の価値向上のために英語とプログラミングを学習中です。日本だけではなく海外への転職も考えた場合、40代、過去留学・海外勤務経験なしだと可能性はないでしょうか。またその目的を掴むために必要なレベル、さらに学習するべきスキルがありますか」。

よくこういう質問を受けるんですけど、わざわざ自分で自分にハンデを定義しちゃう必要ってあんまりないと思うんですよね。40代で留学経験・海外勤務なしでも可能性はあるかないかなんて、「可能性がある」って自分が思ったらあるでいいんですよ。ないって思ったらなくなります。それだけの話なんですね。

確率論じゃなくって、本当にこういうのって自分がやるかやらないかなんです。自分がやるかやらないかによって将来の方向性が決まるので、人間というのは「やる」って決めたらできるんですよ。

「いや、それはあなただからできるんでしょ」と言う人もけっこういるんですけど、ちょっと僕が大好きなある人の話をしますね。

『人生を変えるクローゼットの作り方 あなたが素敵に見えないのは、その服のせい』って本なんですけど、この人はパーソナルショッパーと言って、店に来る人に何かアドバイスをして、ファッションをもっと良くして、その人が楽しいと思えるようにするお仕事なんですけど。

「店に来る女性に、今着ているものに何かをプラスして、アクセントをつけてルックスを変えるのが私は大好きだった」「私には至って簡単なことだが、他人にはとても重要だったりする。それが驚きだった」って書いてあるんですけど、この(著者の1人の)ベティ・ホールブライシュさんは90歳を過ぎている方なんですよね。

40歳過ぎまで仕事をしたことがなかったにもかかわらず、「簡単だ」と思える仕事に出会ったんですよね。なので、「やればできるんじゃないの」ってことなんです。ぜひこの本を読んで勇気を持ってもらえるといいんじゃないかなと思います。

数字が物語る、リスキリングの必要性

さっきの続きが来ましたね。「日系大手企業勤務35歳。入ったら一生安泰ではなく、会社はボランティアをしてくれる場所ではないことはよく理解できました。ただリスキリングしないと生き残れなくなる時代は、体感50年後くらいな気がしています。私が70歳になっても、まだ大手日系企業は今の終身雇用、右肩上がりの給料の状態が続くと思います。澤さんは何年後にリスキリング常識時代が来ると思いますか」。

いや、僕はリスキリング常識時代が来るかどうかには興味ないんですよ。突き放すような言い方に聞こえるかもしれないんですけど、「体感50年後ぐらいでいいんじゃない?」と思っているんだったら、それでいいと思います。

これは別に否定しているわけでも意地悪を言っているわけでもないです。自分で決めることなんで。だから「周りが言っているからやらなきゃいけない」なんて思う必要もぜんぜんないし、体感50年後と思うならそれでぜんぜんいいと思います。

ただ、僕は壊す側の人間なので、「そんなわけねえぞ」と。だってGDPも下がっているし、何なら少子高齢化が進んでいって、10年後には労働人口の不足によってできなくなることがガンって増えるのも、まったなしですからね。

これはもう数字が物語ってますので。それでも「大丈夫だ」とお思いになるとして、実際に大丈夫だったとしたら「良かったですね」って思うし。リスキリングは本当に関係ないかもしれない。

なので、これはどういう選択をするかの意志なんですよ。ただ、やっておいて損なことは絶対ないのと、保険にもなるし、あと楽しみにもなります。ちなみに僕は、本当はリスキリングという言葉があまり好きじゃないです。なんでかと言うと、学ぶのは当たり前だから。

学ばない人間よりも学ぶ人間のほうが勝負の上で有利なのは間違いないので、「それは別にいらないんじゃない?」と思うんだったら、それはそれでいいような気がしますね。

求人が減っていく40代へのアドバイス

じゃあ次に行きましょう。「40代マネジメント経験なしです。20~30代の頃と比較し、圧倒的に求人が減っているように感じ、焦りが強く、空回りしています。今からでも人生をやり直す方法があれば教えていただければ」。

「人間は追い詰められると方法のほうに目が行く」と、今日Voicyでしゃべったばかりなんですけど、まずマインドセットをアップデートして自分を観察するのが大事になります。方法論に目が行っちゃうと、もっと空回りします。だから、まずは落ち着いて、「自分は何をしたいんだっけ。自分はどういうレベルのものを幸せと感じるんだっけ」と思うのが、大事かなと思います。

これは冗談で言っているんじゃなくって、求人がないんだったら起業すればいいんですよ。そしたら自分が社長ですから、マネジメントがいきなりできます。起業して1年ぐらいがんばるのも1つの方法ではありますから、やってみればいいんじゃないですかね。

大事なのは「今、楽しい」ということをどれだけ長く続けるか

次は「澤さんが生きていく上で最終的なゴールって何でしょうか」。僕は刹那的に生きているのでゴールはないです。「今が楽しければいい」ってまったく参考にならないでしょ。だけど「今、楽しい」ってことをどれだけ長く続けるかが大事なんですよ。そして強いて言うなら、「ああ、おもしろかった」って思って寝るようにして死ぬ。もうそれがベストかなと。

時間がだいぶなくなってきたので、そろそろ最後の質問にします。「面接の答えで話が長くなる傾向にあります。質問されて考えながら話をするには、どういった訓練があるかお教えいただきたい」。これは『1分で話せ』という伊藤羊一さんの名著がありますので、それを読んで、できるまで反復練習してください。もうそれに限るかなと思います。

もう1個だけ答えますね。「澤さんは耳心地がとてもいい声で、さらにとても伝わりやすい話し方をされていますが、何かのトレーニングをされているのでしょうか。相手に伝える上でとても素敵な特性だと思っております」。

トレーニングをしているというよりも毎日実践をしているんですね。Voicyは毎日やっていて、今日がレギュラー放送で2,061回だし、何ならプレミアムを入れると2,100回以上放送していますので。プレゼンも今日だけで3本目ですからね。なので、実践の機会を作るのがすごく大事だと思います。

司会者:たくさん質問をいただいているところではありますが、そろそろお時間としていただければと思います。

:ここで事務局のほうに戻します。ありがとうございました。

司会者:澤さん、ありがとうございます。