武井氏が語る、識学の良さ

坂東孝浩氏(以下、坂東):今日はぶっちゃけた感じでいきたいと思っていまして。お互いに良いと思っているところや違和感があるところもあると思うんですけども。そこらへんをお互いに話していけたらと。タケちゃん(武井さん)、どうですかね? いつもタケちゃんと言っちゃっているんですけど、識学や安藤さんについて。

武井浩三氏(以下、武井):安藤さんと出会ったのは、創業したての頃ぐらい、1年目とかで。

坂東:へぇー、そう。

武井:六本木であった不動産業界の大物社長の誕生日会で出会って。

安藤広大氏(以下、安藤):なんであそこにいたのかも謎なんですけどね(笑)。

武井:その頃からけっこう俺の周りの人たちが「識学いいんだよ」とすげぇ言っていたんですよ。で、たまたま安藤さんと出会って「あの識学の人だ」という感じだったんですね。

俺もけっこういろんな勉強はしてきて、成功哲学とかアチーブメントとかめちゃくちゃ受けたりもしたし、会議とかもめっちゃやって。ちゃんとしたマネジメント論を自分なりに学んで、実践もしてきて。だから安藤さんが言っていることは、マジで理にかなっているなとは思うんですよ。本当に(笑)。

安藤:(笑)。

武井さっき俺、期待の合意という話をしましたけど。こっちが求めていることとの認識のずれがあって、「ちゃんとやれって言っただろ」「いや、ちゃんとやっただろ」という水掛け論みたいな。冷静に見るとすごくくだらない話なんだけど、それが「こいつとは一緒に仕事できない」ぐらいにまでいっちゃったりする。

俺も20代の頃とかはわけがわかってなかったんで、そういうのあったし、逆に言われることもあったんですよ。だから俺は本当に、識学の知識は普通にみんな学んだほうがいいと思います。

安藤:そうですか(笑)。ありがとうございます。

「識学」と「手放す経営」の共通点

武井:それはマジで思っていて。その上で俺は1回倒産もしてるから、選択肢として、それぞれがその会社でどういうことをやりたいかってことだと思うんですよね。識学って無駄をすごく省いて、マッチョな組織を作っていくので。

安藤:そうですね。

武井:これから上場を目指すとかっていう会社は、めっちゃ相性良いと思うんですよ。でも俺が目指す世界というか、作りたい世界は……これ別に二元論の話じゃないんですけど。組織の目標とか目的を達成するために人がいるのではなくて、人が集まってみんなが仲良しで、それで「俺ら何する?」みたいな、順序が逆の組織。

ドイツ語で「ゲゼルシャフト」っていう、一人ひとりの生き方寄りの組織みたいな。これも中間領域があったりするので、きっぱり分かれるものじゃないですけど、俺はこっち側が好きだなという感じなんですよね。

安藤:数値的な目標とか、組織の目標はあまり掲げなかったりするんですか?

武井:目標を絶対に固定するというわけでもなく、シミュレーションみたいに。例えば10年前とか5年前は、「どのくらいの行動をすると、どのくらいの受注や仕事があって、それの平均顧客単価がいくらぐらいで、ライフタイムバリューがいくらで……」とかって。僕ITの会社をやっていたので、かなりの分析はするんですよね。

それを全部事実として見えるようにした上で「どのくらいやりたい?」みたいなのをみんなが決めていくので。

安藤:あぁ、なるほどね。

武井:だから、実は作りのところは識学とかなり似ている気がしていて(笑)。

安藤:うん、うん。

武井:それぞれのチームの裁量の範囲というか予算、そして仕事の範囲、定義みたいなものは決めていくし。ホラクラシーのやり方と基本的に一緒なんですよね。ただホラクラシー憲法と何が違うかと言うと、上司がジョブディスクリプションとかロールマネジメントを決めるのではなくて、Wikipediaみたいに誰でも編集していいよっていう。「編集可」の状態で置いてあるみたいな(笑)。

自律分散的な組織における「場のリーダー」

安藤:わかる。そこは僕もその理解なんですけど、メンバー間で割れた時はどうなるんですか? そこが説明できないなと思っていたんですね。

武井:確かに、確かに(笑)。でもあんまり割れるってことがそもそもないっていうのもあるし。

安藤:へぇー……。

武井:あとこれは安藤さん的に言うとすげぇロスかもしれないですけど、すごく話し合うっていうのも選択肢の中にはあるし。

安藤:そういうことですよね。だと思います。

武井:もしくは最近だとソース理論という言われ方もしますけど、正解がない世界の話になってくるじゃないですか。「目標、どっちが正しい?」みたいな。

安藤:そうですね。もちろんそうだと思います。

武井:そうなった時は、そこに対して意思を持っている人がイニシアチブを持つみたいな感じで。その意思を持つ人が流動的に動くんですよね。

安藤:なるほどね。それってもう本当にトップがいない状態なんですか? 社長も並列になるようなイメージなんですかね。

武井:社長という権限があると言うよりは、例えば子どもが「かくれんぼする人、この指止まれ」って言った時みたいに、その場の何て言うのかな……。

安藤:場のリーダーが自然に決まると。

武井:そうそう。いわゆる役職みたいなものではないけど、なんとなく場のリーダーはいるみたいな。

安藤:あぁー……なるほどね。

武井:自律分散的な組織でも、場のリーダーがハンドリングしてけっこう強いリーダーシップを発揮するケースもあれば、ぜんぜん表に出ないタイプの場のオーナーもいるし。さまざまなので説明しにくいっていう(笑)。

リーダー的な人が出ないと陥る、“弱い部活”状態

安藤:さっきキーワードとして「仕組みを管理する」みたいに言っていたじゃないですか。どのへんの仕組みを管理していくんですか?

武井:例えばお金とかはめちゃくちゃちゃんと管理するんですよね。管理会計で、例えば事業部採算制みたいな感じをとる。で、勘定科目の整理みたいなものも俺はめちゃくちゃ考えます。月次決算の体制を整えて、たいていの会社を5営業日ぐらいで月次決算を締められるような状態にするし。そしてリアルタイムでみんなが状況を見られるようにするみたいな。

安藤:なるほど。

武井:あとは組織のかたちも、僕らは5つの機能的グループというか部門に分けて、それぞれの部門で大まかに予算を持ちながら、好きに決めてく感じなので。

安藤:予算責任はそのグループごとに全員で持つみたいな。

武井:まあそうですね。ただ、リーダーがいないわけじゃなくて、やはりいるんですよね、リーダー的な人は(笑)。

安藤:まあそうなりますよね、規定されていないだけでってことですよね。

武井:そうそう。でもそれを上司が決めるのではなく、その場の中から自然とぴょこっと出てくるみたいな。だから、出てこない場合もあるからまた困るんですよ、本当に(笑)。

安藤:(笑)。弱い部活みたいになりますよね、たぶん。

武井:そうなんですよ、本当に(笑)。

坂東:弱い部活(笑)。わかりますね。

武井:けっこうアンコントローラブルという意味では、やはり上場を目指す会社とかはやりたくないでしょうね。

安藤:そうでしょうね。PDCAの速度がとてつもなく遅くなりますよね。組織としてのPDCAというか。

武井:そうですね。ケースバイケースですけど、ただムラの幅が広いは広いでしょうね。

安藤:そうですね……あ、誰が来た。ちょっと待ってさいね、この時間まで僕がいることがないので(笑)。

坂東:(笑)。しかし、おもしろいですね。

武井:おもしろい。識学って本当に無駄がないというか……何を無駄と呼ぶかっていう話もありますけど、会社のパフォーマンス・結果・業績の向上よいうものに、とにかく筋肉質に最適化していると思うんですよね。

安藤:すいません、僕が仕組みをわかっていなくて、警備会社が来てしまいました(笑)。

(一同笑)

武井:ルール、ルール!(笑)。

坂東:やばいやばい(笑)。

識学の考え方 = 現代の法治国家の考え方

武井:でもマジで極端なことを言うと、識学の考え方は現代の法治国家の考え方と一緒なんですよね。

安藤:そう、まさにです。(武井さんは)自然経営とおっしゃっていましたけど、要は人が集まった時の最適解だとは思いますね。

武井:そうそう。(哲学者のトマス・)ホッブズは(ジャン=ジャック・)ルソーやジョン・ロックの時代の人ですけど、「国家とは暴力装置である」という名言を残した人です。(ホッブズが書いた)『リヴァイアサン(政治哲学書)』では、誰かがそのルールから逸れた時に国が暴力的にその人の人権を剥奪することで、みんながルールを守るということが書かれています。その権利を持っているのが警察や税金の徴収とか。

ただこの法治国家の考え方は実定法と言って、明示化したルールで整えていくんですね。でも俺が扱いたい領域は実定法じゃなくて自然法なんです。言語化されていないものを自然法と呼びます。

安藤:どっちかというと動物の集合体みたいなとこでしょ?

武井:自然の摂理ですね(笑)。

安藤:自然ですもんね、なんとなく強い者が上にいるような。でもおそらく自然法は生命を維持するために、「生き残るにはこの人についていったほうがいい」ということを自分で選択するんじゃないですか?

武井:そういうのもあるでしょうし、あとは人間だと「この人と一緒にいたい」とか。例えば結婚するのも、経済的に見たら非合理的でしかないじゃないですか。

安藤:いや、そんなことはないと思います(笑)。

武井:いやいや、でも例えば……。

安藤:うそ、うそ(笑)。そうだと思います。

武井:僕の知り合いのすっごく資本主義的な弁護士さんは、「結婚はリスクしかないです」と言うわけですよ(笑)。だっていきなり自分の財産の半分の権利を持っていかれるし、「子育ては時間とコストだよね」と言えちゃうわけだし。

でも人間には、そうじゃない社会生活がものすごくたくさんあるじゃないですか。文化的生活とか。僕はそこらへんをすごく重視しているので、ビジネスもそういう感じでできねぇかなと。それを理想で追っているんですよね(笑)。

安藤:なるほど、なるほど。それはすごくわかります。完全に分離しようという考え方ですね。そういう意味で言えば、人間に戻るのが家庭というイメージですかね。

(一同笑)

社員と極力会わないようにしている理由

坂東:わかりやすい(笑)。会社にいる時は何になるんですか?

武井:職場だとどんなメンタリティなんですか。

安藤:職場? 僕で言うと、職場は「社長」です(笑)。

武井:ウケる(笑)。そっかそっか。

安藤:だからぜんぜん人間っぽくないですよ。でも人間なので、ある程度人間らしさは出ちゃいますよね。僕らは、それこそ法治国家なので、ルールに一番力を持たせたいわけですよ。ルールが力を失う瞬間は、ルールに感情を見つけた時です。

つまりルールの最終決定者である僕の感情がルールの中に見えた時です。例えばそこにえこひいきや好き嫌いが見えた時に、一気にルールがしらけるんですね。ルールがルールじゃなくなるというか。

国王の思いつきでルールが変わっちゃうようでは、法が法じゃなくなるじゃないですか。組織運営においてトップの奥行きはすごく重要で、だから僕は社員とできるだけ会わないようにしているんですよ。

武井:(笑)。

坂東:すみません、「奥行き」とはどういうことですか?

安藤:なんて言うんですかね、「会えない」。

坂東:ああー、なるほど。

安藤:天皇陛下です。

坂東:はいはい、御簾の向こうという感じですね。

安藤:そこで最終的なルールが決まっている。もちろんそれぞれの現場の責任者にもルールを決定する権限はあるんですけど、要は最後の部分はできる限り無機質な状態をキープするために、僕の人間性は社内で出ないようには心がけています。

坂東:じゃあ本当はこういうところでぶっちゃけトークはしないほうがいい感じですか。

安藤:いやいや、それは大丈夫です。それはまあ別人格というか、別の生き物(笑)。

(一同笑)

武井:今日はもうアフターファイブで社長じゃないから。

安藤:いやまあ、社長なんですけどね(笑)。

坂東:難しいとこですね(笑)。

組織のトップが社員と距離を置くことの価値

安藤:でも組織運営において、会社の中ではそれぐらい遠い存在のほうがいい。遠かったら「社長が最終的に決めたんやったらしょうがないな」にもなりますしね。

坂東:うん、うん。確かに。天皇陛下に物申そうとは思わないですもん。

安藤:そうそう。でもこれを天皇と言うと、また識学のイメージが悪くなるから、ちょっとチョイスミスったな。

(一同笑)

いや、別に悪くならないですよ(笑)。でもちょっと「お前は右翼だな」みたいに捉える方もおられるじゃないですか。

坂東:なるほどね、そっちの方向にいっちゃう(笑)。そういうことじゃないですね。

安藤:組織の仕組みとしては、僕はこれ以上のものはないと思っています。武井さんがおっしゃっていたとおり、こと1人の人間、安藤広大でいつづけたいと思うのであれば、それはちょっと違いますよね。

さっき(武井さんは)「会社の理念はない」とおっしゃっていましたけど、僕らはあくまでも理念達成のために集合している集合体。そこに最短で行くためにどうしたらいいのかというイメージです。だから「人間的な喜びを達成するため」というのは、あとですね。もちろんここで成長できたら喜びがあるけど、そこを優先しない。あくまでも組織の目標達成が最優先という。