発信内容について“先生レベル”にまで詳しくなる必要はない

染谷昌利氏:今日は文章術なので、文章の話をしていかなければなりません。クオリティを決める3つの要素をどんどん深掘りしていきます。 まず、「内容」が重要です。薄いところだと誰も心は動きません。誰が書いているかについては、「僕は〇〇に詳しいです」とか何でもいいんですよ。先生である必要はなくて、部活でいう1年上の先輩みたいなイメージです。

困っている人たちに対しては、何か1つでも「詳しくていい情報がありますよ」くらいの感じで(言えることがあれば)いいんです。「そのくらい詳しい人間ですよ」というキャラクターで専門性を伝えていく(ということです)。

マーケティングではペルソナと言いますが、どんな人に自分の発信を読んでもらいたいかを意識しておくことが重要です。自分より詳しい人に読んでもらおうと思っても、基本的には無理なんです。なので、例えば「半年前のよく知らなかった自分に読んでもらいたい」くらいのイメージをしておくと、伝えやすいと思います。

目の前に教える人がいるのなら、その人に向けてどれだけわかりやすく伝えられるのかを考えてもいいんですけど。(文章で発信する時は)そういう人が目の前にいるわけではありませんから、3ヶ月前、半年前の、「この洗濯機の存在を知らなかった自分に対して伝えたい」というふうに考えてもらえればいいと思います。

次に型(形式)です。文章はある程度かたちがあるので、それを覚えておいて、うまく当てはめていくことによって、分かりやすい、あるいは伝わりやすい文章を作ることもできます。

重要なのは「3つの文章形式」です。今からこちらを伝えていきます。自分に合っているものを見つけてもらって、まずはワンパターンでいいので、そこを使えるようになってもらうことが重要です。いきなり全部やろうと思ってもできません。

そして、色(個性・キャラクター)です。キャラクターは次回話します。僕のセールスレターもそうですが、一生懸命考えて書いた文章って、「なんとなくいいな。わかる」という理解(だけ)なんです。でも、すごく下手くそだけど心がこもっている文章って、人に伝わったりするんです。「『THE FIRST SLAM DUNK』はいいぞ」と(熱を込めて)言うだけで、「ああそうですね」というかたちで(本当に)伝わるといったことです。

単なるレポートにならないためには「主張」が重要

だから、頭でいくのか心でいくのかを目的の1つとして考えていかなければなりません。心の伝え方については僕は説明できないので、この後も頭を使って構成していく話を続けていきます。文章は下手くそでも、少なくとも熱量は伝わります。でも熱量だけだと限界がくるので、「型もちゃんと理解しておくのがいいよね」という話です。

まずは3つの文章形式で、(大事なのは)主張です。最初から言っていますが、「何を伝えたいのか」がない限りは、単なるレポートです。誰かの情報をまとめて、それを提供するだけのものです。そこに自分の考えを入れていかない限り、人は何1つ動かないということです。

僕の今回のテーマは、「文章術を学んだらいいことがあるよ」という、わかりやすいワンテーマです。この「主張」って、すごくわかりづらくて。自分は主張していると言っても、相手にぜんぜん伝わっていないことがあるので、その話はこの後していきます。

主張というのは、要は意見が分かれるものです。僕が今日言ったことによって、聞いてくれたみなさんに、「人生に何かしら影響があるぞ」とちょっとでも感じてもらえたなら、それは主張になっているということです。僕は主張しているつもりだけど伝わっていないのなら、その人にとって僕の主張は伝わっていないというだけです。

できれば議論が巻き起こったほうがいいです。それは、「喧嘩をしろ」と言っているわけではなくて、「そうは言うけど俺はこう思うんだよね」という反論的な意見の交換ができるようなものが出ていると、それはわかりやすい主張になっています。

ちょっと表現が正しくありませんが、例えばヘイトスピーチは物議を醸しているだけなので、主張だけどいいことではないと思います。誰も幸せになりません。これを伝えることによって、聞いてくれた人、関わってくれた人が少しでもよくなっていく、何か状態が変わっていくことが生み出せれば、いい主張だと思っています。

反論意見が出るのは悪いことではない

もう少しわかりやすく言います。「カレー論議」というほどでもありませんが、「私はカレーが好きです」と僕がここで言ったとして、基本的には「ああそうですか」で終わりますよね。「それはよかったですね」となるんですけど、先ほど話したように、「僕が思う日本で一番うまいカレー屋は、ここのお店です」と言ったら、たぶん他のお店が好きな人からは反論が起きるんですよ。でもそれは、別に悪いことではないんですよね。

事例として言っているだけで、僕はそこまでカレーに主張があるわけではないんですけど......(笑)。何か自分の好きなことを伝えたことによって、「そうは言うけどこういう考え方もあるんじゃない?」みたいな意見が出ると、主張になっているということです。

これは練習してみなければわからないので、ぜひ(やってみてください)。知り合いだと喧嘩になってしまったら嫌なので、SNSとかで発信してみて、自分の主張に人がどう反応するのかをトレーニングしていくのは、重要なやり方の1つだと思っています。

ここで伝えたいのは、「人の心を動かすためには一歩踏み込んだかたちで何かを伝えることが重要ですよ」ということです。「私はカレーが好きです」というのは、最初にお話しした単なる自分語りです。主張がどこにも入っていません。

例えば僕がブログを書く時に、すごく意識していることがあります。スライドに赤と青で囲っている部分があります。赤で囲っているところは、僕自身が主張だと思っているところです。青で囲っているところは、単なるレポートです。客観的に「こうだった」と言っているだけです。

例えば僕は自作でパソコンを組んだんですけど、「なぜもっと早く買わなかった? 自作パソコンを組んだら動画編集時間が10倍もスピードアップして快適なお話」と。暗に「みんなもパソコンを組んで楽しくなろうよ」と主張しています。

スライド下部に青で囲っている、「自作パソコンの構成」とか「組み立てるよ」とか「Windows10インストール時のエラーとの長い戦い」というのは、単なるレポートですよね。その下に「最高」と書いてあるのは主張です。自分の発信媒体だったら好きにできるので、「おすすめですよ」とか「最高だった」とかはよくやります。今紹介していて、語彙力の少なさが非常に気になるんですけど(笑)。

「主張」と「レポート」を使い分ける

また、「継続とモチベーションは関係ない」というのは、「いや関係あるんじゃないの?」と思っている人からすると、反論が生まれます。これは僕の主張が強い・弱い、正しい・間違っているということではなく、意識的に練習することが重要だという話です。ブログの記事を書くにしても、「ここは主張だぞ」「ここは単なるレポートだぞ」と、分けながら練習しなければ伸びないということです。

メジャーリーガーのダルビッシュ(有)選手がTwitter(現X)で、「練習は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘つくよ」と言っていたんですけど、まさにそれです。ただ反復していても伸びないので意識してやることが重要です。

主張にもパターンがあって、だいたいこの4つです。この主張の型は『東大作文』という本で300ページくらいかけて詳しく解説しているので、もし興味がある人は読んでもらえればと思います。ここは抜粋というか、重要だと思ったところだけ持ってきています。この4つです。1つ目は「感情型」で、まさに主観です。喜怒哀楽、好き嫌いなど、ここはまた後で説明します。

2つ目は「依頼型」で、お願いです。「これやってください」「セミナーに来てください」みたいなことです。願望・頼み事も主観です。3つ目は「共有型(シェア)」で、情報を羅列していくということです。論文だったり、レポートだったり、淡々と「こういうものですよ」と伝えていきます。

4つ目は、『東大作文』では警鐘型と言っていましたが、僕は「注意喚起」のほうが合っていると思って、「喚起型」に変えています。「〇〇するべきだよね」「〇〇したほうがいいよね」「このままだと危ないよね」みたいなかたちで提案していくものです。

今回、僕が書いているセールスレター(案内文)はこの4つ目を使って、注意喚起しています。「みなさんこのままで大丈夫ですか? 文章力をつけたほうがいいですよね」というかたちで書いています。

上(感情型・依頼型)は主観的なんですね。自分の気持ちが全面に出ています。下(共有型・喚起型)はいろいろな情報を取り入れた上で、「世間ではこう言っているんだけど、みなさんはどう思いますか?」と、どちらかといえば客観的な話になります。この主観的と客観的は混ぜないようにしてください。混ぜるとわけがわからなくなります。

人が動きたくなくなるNGな伝え方

「みなさん絶対に文章力をつけたほうがいいと思うから、ぜひ来てください。お願いします」と言うと、来ないですよね(笑)。「うるさいよ」と、動きたくなくなるんです。

だけど、「文章力・プレゼンテーション力を持っていたほうがいいから、学んでおくといいんじゃないですかね」と客観的に言われると、「そうかもね」と思って人は動くんです。そこに主観と客観が混ざると、「それはあなただけですよね」と思われてしまいます。

どれが良い悪いではなくて、「自分が使うんだったらどのパターンを一番うまく使えそうか」を理解した上で、まずは得意なパターンを決めていきます。

感情型は、どちらかと言うと共感させた上で、「あーわかるわかる」と(思ってもらうと)いうものです。僕は感情で来られてもあまり理解できないんですけど、共感から理解する人もいます。お願いされて、そのお願いに共感して、「じゃあ一緒に行ってみようかな。サッカー見に行こうかな。飲みに行こうかな」と変化するパターンです。

共有型は、いろいろデータを並べられて、「なるほど納得した」と言って理解します。そして、僕が今回使っている喚起型は、いろいろな世間の情報を持って行って納得させた上で、行動を促すパターンです。

なので、客観的にいろいろなものを取り入れて、手を変え品を変え人を動かしたいんだったら、4つ目の喚起型が使えるようになると、一番強いです。でもパッションが強い人だと、もしかしたら共感型のほうが人を動かすのに向いているかもしれません。

「一緒にやろうよ」と言われたら、「しょうがないな。じゃあやろうか」と。相手にもよるんですけど、押しに弱い人だと「わかった」と言って、行く人もいるということです。

使い分けは重要だけど、練習してできるようになるのは共有型・喚起型だと思います。感情型・依頼型は、(発信する)人のキャラクターによります。自分の思い・考えを理解させるのにも型があります。先ほども触れましたが、何か言っていても行動に結びつかなければ、単なる独り言・独白です。自分の思いだけなので、何かしらかたちをつけて、きちんと行動にまでつなげていく必要があります。

主張の裏付けをして説得力を出す

今日のセミナーで言えば、「こうだ」という主張・自分の思いを伝えて、「なぜならば」という理由・論証・世間の常識・いろいろな情報を付け加える。結果、「よろしければこの参加ボタンを押してください」というところにつなげられればいいんです。

論証の部分、要は説明の部分はなるべく多いほうが、人は「そうなんだ」と思うということです。1個や2個だと「ふーん」と思いますが、「3個、4個、5個」と出てくると、「そうかもね」と思うんです。

スライドにもざっくり載せていますが、同じような情報ではなくて、「歴史的に/生物学的に/文化的に/科学的に/地域的に/伝統的に」とか、いろいろな視点があります。もっとローカルな、「自分の半径300メートルでは」でもぜんぜんかまいません。いろいろな角度から論証・証拠・説明を持ってきて、メモでも何でもいいのでちゃんとストックしておくことです。

「この業界だったらこれが常識だよね」と、いろいろな角度から調べる癖をつけると、同じパターンで使えます。最初は大変ですが、ある程度集めておくと、手を変え品を変えそれを出していくことによって、人の心は大なり小なりポジティブにも動かせるし、ネガティブにも動かせるということです。