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挑戦する組織文化の土壌をつくる対話によるマネジメント|『まず、ちゃんと聴く。』出版記念セミナー(全4記事)

部下の話を聴きつつ、叱り役も担わなければならない上司の難しさ 1人で背追い込まないための「斜めの関係」の活かし方

『まず、ちゃんと聴く。 コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』の出版を記念して開催された本イベントでは、メンバーの多様性を活かすこれからの管理職に必要な「聴く」ことの重要性について語られました。本記事では、エール株式会社代表取締役の櫻井将氏と同社の取締役・篠田真貴子氏が、社内で「聴く」ことを広めるための役割分担についてお伝えします。

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部下の指導も「聴くこと」も上司任せになっている現状

篠田真貴子氏(以下、篠田):なるほど。これは話す側の視点で言うと、もしかしたらわかりやすいかなと思って言ってみると、人はみんな自分の話をしたいんですよ。

櫻井将氏(以下、櫻井):はい(笑)。本当にそう。

篠田:「うんうん」って、本当に興味を持って、肯定的意図を受け取れる感じで聴いてくれたら、話すんですよね。それでちょっと自分の思考が整理されたり、話すことで初めて「実は何か引っかかっていたんだ」とわかってくるのがまた気持ちいいんですよね。

でも、話したいとか、話して自分の何かが解消されるのが気持ちいいという快感って、相手が誰でもいいんですかね。要はちゃんと聴いてくれる感覚さえあれば、実は誰でもいいんだと言っていません?

櫻井:そうですね。

篠田:むしろ近くない人のほうが話しやすいことはあるよと。

櫻井:言っている。たぶんそれで気づいたこととか、そこで発見したことは現実に落とし込むはずなので、そうなったら……。

篠田:実際に行動したり、言ったりする。

櫻井:そう。実際はキャリアの話は会社の中で扱うものなので、そこまで自分の思考が言語化されたり、自分のことを理解できた上で上司と話すことができると、上司は上司でwithout ジャッジメントで聴いた上で、with ジャッジメントで指導しなきゃいけないとか。

(自分だけでなく相手も)導かなきゃいけない役割ってやはりすごく大変だと思うので、ここの役割分担をもうちょっとデザインできたほうが(いいですよね)。人事の方も、上司に押しつけているって言い方をしていいかわからないけど。

篠田:なんでもかんでも上司になるんですよね。

櫻井:そうそう。だけど、「『聴く』もキャリアも全部上司がやれ」となるのは、あまりデザインとして美しくないんじゃないかなと思っています。

篠田:そうですよね。今Aさんのコメントで「直属でない斜めの上司に話を聴いてもらったほうが良かった経験があります」と。まさにその構造ですよね。

櫻井:はい、まさに。

「聴く」ことは我慢してやるものではない

篠田:あとMさんから「やっぱりその思考や感情、価値観までおもんぱかるのは相当忍耐がいると思いました」と。

「お互いさまと思える相手には聴けるんだけど、聴いてくれない相手に対してそこまで自分ができるかな、そこまで人間ができていないな」と。これはすごく大事なことを言ってくださったなと思うんです。Mさんのこの感覚と今櫻井さんが話したことって、うまくつながると言いますか。

櫻井:まさにです。

篠田:ね。こんなに苦しい思いをして聴きましょうとは言っていないんですよね。ただ「聴く」はつらい修行みたいな、「我慢して聴いているんですけどね」という話を私も時々耳にするんだけど、櫻井さんがこの本で伝えたい「聴く」ってちょっとそういうものではないですよね。

櫻井:そうなんですよね。「聴く」が大事ということをエモく言っているというよりは、もちろん人として「聴く」ことが人生の中にあるといいよねとすごく純粋に感じてはいるんですけど。

「ちょっと遠い人が話を聴くほうがROIは高いんじゃないかな」というのを組織という文脈に当てはめて言うと、たぶんみなさんが一番最初に興味があった、「社内でどう広げていくの?」と考えた時に、会社の人ってROIが最も大事。

篠田:というか我々もちっちゃいベンチャーを経営しているから、基本的に資源が有限な中で成果を出さなきゃいけないから、変な話、もう考えているのはROIのみですよね。

櫻井:ROIという言葉って、わりと「聴く」ということから遠そうですけど、ものすごく近いところにある言葉だよなと思うので、そのへんを説明したりだとか。あとは先ほど言った効果を定量的に出したりすることは、社内の説明という意味では効果的なのかなと。

篠田:そんな修行のように(聴かないと)とか、「そんなに自分は人間ができていない」って、おっしゃるとおりで。たぶん私もぜんぜん人間ができていないし「お前が言うな」って話ですけど、櫻井さんだって別に普通じゃないですか。

櫻井:はい、一番普通です。本当によく怒っています(笑)。

みんなが持っている「誰かのことを純粋に応援したい」という感情

篠田:(笑)。もうね、本当に「笑いごとじゃないんだよ」って思っている社員がいますよ。これが実態です。それはもう会社なので当たり前にあるんですよね。だから「いつも聴かなきゃ」とか「みんなが聴かなきゃ」というのじゃないのがポイントで、むしろエールの事業の運営に関わっている人たちとか、サポーターをやっているみなさんって、「聴く」が楽しいと思ってやっているじゃないですか。

この「聴く」の楽しさがどこからくるのかを話せると、組織の話と同時にいっぱいご質問いただいている、「どうやったら私は聴けるようになりますか」ということに、うまく入れると思うんですよ。

「どうやったら聴けるようになりますか」って、そのままいっちゃうとどんどん修行っぽくなっちゃって、それってこの本で櫻井さんが表現しようとしている意図とずれるなと思ったんですよね。1つは、先ほどの利害関係からの転換のような図が出てきましたけど。

櫻井:僕が今パッと出てきたのは、みんな話したいという気持ちがあると同時に、みんな「誰かのことを純粋に応援したい」って本当は思っている気がしていて。日本代表の試合とかを見ていたら応援したくなるじゃないですか。

篠田:私もラグビーとか恥ずかしいぐらい知らないのに。

櫻井:そう。大して知らないし思い入れもないのに。

篠田:今何が起きているかよくわからない、タッチダウンしかわからないけど応援している(笑)。

櫻井:身近にいる人は、やはりジャッジが入ることも含めて応援しやすいんだと思うんですよね。なぜならその人の背景を知っているし、その人の状況を知っているし、その環境も知っているから「こうしたらいいんじゃない」ってやはり言いたくなるんだと思うんですけど。サポーターの関わり方って、本当に相手のことがわからないんですよ。急に知らない人と一対一でつながって。

篠田:「来月からこの方と6ヶ月間お願いします」みたいな感じで、「はーい」と言ってやるんですけどね。

人によって異なる、「聴く」ことの楽しさ

櫻井:もう普通に応援するしかないんですよね。だってそれ以外の方法はないから、その人は何が見えていて、何を感じていて、どんなことをしたいと思っていて、どんな人生を歩みたいと思っているのかを聴きながら。「あぁ、それはいいですね」と思うしかない関係を作れているというのがすごく……。がんばるものというよりは、人間が本来持っている「誰かのことを応援したい」とか。

誰かが話したいと思っているんだったら話してもらって「いいな」と思うし、「こうなりたい」と思ったら、「いや、そうだよね」と思う、純粋な応援したい気持ちを、フルに発揮できる環境を整えることが、けっこうエールがサポーターの方にやっていることだと思っています。

篠田:すごくたくさんの方々が(コメントを)書いてくれていて、このコメントは、おそらく「『聴く』って楽しい」って感じてらっしゃる方。サポーターの方もそうでない方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんけど、書いてあるんですよね。

本当に人によって違いがあって、自分に気づく(のが楽しい)という方もいらっしゃるし、他の人の価値観に触れることそのものが楽しい(と言う方も)。「へぇ」みたいなおもしろさですよね。それを「いくつもの人生を生きているような経験ができる」って書いてらっしゃる方とか、「そんな考え方もあるんだ」とか。

櫻井:修行とか我慢とは真逆ですね。

篠田:「なぜか自分が満たされる」ね、なるほど。

櫻井:そりゃこのエネルギーで関わられたら、やはり自分の話をしたくなるし、自分のことをしゃべっていたら整理できていくし、気づきがあると思っていて、だから上司の方がこのマインドで部下の方と関われるのならいいんですけど。

このマインドを僕も持っているつもりですけど、納期どおりに仕事をしなかった翌日に、「いや、僕はこういう夢がありまして」って言われても、「いや、お前やることやってから言えよ」って言いたくなっちゃう自分がいます。

篠田:言いますよね。

部下の話を「聴かなきゃ」と1人で背負わなくていい

櫻井:やはり上司だと(こういう本音が)出ちゃうので、ここをデザインしたほうが、みんなが目指したい世界に近づいていくんじゃないですかということで。みなさん(コメントを)ありがとうございます。

篠田:つまり、この本だと最後のほうで触れている点だと思うんですけど、先ほど見せていただいた、聴く力は「あり方」と「やり方」ですよという話で、あり方のところが肯定的意図だったんだけど。その個人としてのあり方、やり方は理解した上で、環境もすごく大事。

その環境が整っていない中で「聴く」というのを発揮するのは、むしろ大変ですよということがここで言われているメッセージなのかなと今受け取ったんですけど。そういう感じですかね?

櫻井:まさにそう思います。

篠田:ここから話そうと思えばもう1時間いけるんですけど、このイベント自体をあと10分で終わらせる感じなので。ちょっとQ&Aで1個いただいているものに簡単にお答えいただいて終わろうと思うんですけど、よろしいでしょうか?

「判断しないことができる場合でも、組織の中でやっぱり着地しないといけない方向があると、どうしても恣意を入れざるを得ないので、個人の人間性だけではなおさらカバーできない」と。「でも、もう移動は決まっているから『その移動先でがんばろうって自分でモチベーションを上げなきゃ』みたいなことってありますよね」と。

櫻井:ありますよね。

篠田:こういう「私は上司だから聴かなきゃ」という時って「聴く」をうまく発揮できるんだろうかという問いなのかなと思いました。

櫻井:これも先ほどの話とつながっちゃうかもしれないんですけど、やはりコミュニケーションをデザインしたいという意図が強くて。聴くことも、伝えることも、指導することも、なんでもかんでも上司の方が1人で担うことはあまり効率的じゃないなとやはり思うので。例えば「今はこの人には厳しく当たるモード」という時もやっぱりあるじゃないですか。

そういう時に「聴く」という時間が多少ないと(相手が)苦しいだろうなと思ったら、部内の仲のいい人に「ちょっとあいつの話を飲みに行きながら聴いてあげてよ」と言ったりとか。

篠田:役割分担ですね。

「自分はけっこう聴けていない」という気づきが重要

櫻井:そうですね。会社として仕組みを入れられるんだったら、エールじゃなくてもいいんですけど、コーチングのサービスとかキャリアカウンセリングの仕組みで担保したりとか。

やはり斜めの関係を作ってやっていくのが現実的かな。上司は上司で、そこで厳しく当たるのには上司なりの肯定的意図があるので、それを否定するものではぜんぜんないなと思っています。

篠田:この表現で伝わるかわからないんですけど、「自分はけっこう聴けていないな」とか「聴けないことがよくあるな」という自己認知から始めると、結果聴けるようになるみたいなことを言っていません?

櫻井:めちゃくちゃそう思います。これはまたエールの話になっちゃうんですけど、「聴くトレ」という聴く力を向上させましょうというサービスがあるんですけど。必ずと言っていいほど「あっ、自分は聴けていなかったんだな」という気づきがスタートになっていて。「聴けていなかったんだ」ということに気づいたら、もう管理職の方々は早いんですよね。

なぜかと言うと先ほど言ったwith ジャッジメント、without ジャッジメントという定義を知らなかっただけで、優秀だから。「耳を傾けているから部下の話を聴いていると思っていたけど、めちゃくちゃジャッジしていたな」と思って、「ジャッジしない聴き方があるんだ」と試してみて、PDCAを回したら管理職の方々はすぐできるようになるので。

「(自分は)聴けていないんだな」「『聴く』ってこういうことか」「もうちょっと必要だな」という課題意識さえ生まれてくれば、そこのトレーニングをみなさんされると思うんですよね。かつ、聴いた後に良い体験があると最高ですよね。

先ほどの方がおっしゃっていた、「上司の話を聴いたら、上司が(こちらの話も)聴いてくれるようになりました」という時に、「聴いてくれて良かったです」なんて言われようものなら、上司は「おっ、『聴く』というのをちょっと取り入れてみるか」となっていくと思うので。

「自分は聴けている」という人ほど、実はできていない

篠田:繰り返しご質問があった「上司が聴けるようになるにはどうしたらいいですか」ということの(解決の)一歩目は、「実は聴けていなかった」と、(上司の方自身に)どう気がついていただけるかですね。おそらく多くの上司の方は「自分は聴けている」と思っている。

櫻井:そう思う。そういった方ほど「聴く」に感度がなく「聴く」ことへの解像度も低いと思うので。「『聴く』のが大事というのは管理職研修で習ったし、ちゃんと聴いているよ」みたいな。

それこそ先ほどの肯定的意図の概念も、非言語が大事みたいな話の概念もないので、こういう態度で(椅子の背にもたれながら)「うん、それで? それで? うんうん」とか言っているんですけど。話している側からすると「聴かれていないな」って思っちゃうみたいなのはあると思います。

篠田:「実は聴けていない」ということの認知がどうやったら広まるんだろうと。答えのない問いで終わってしまうよくないパターンではありますが、ここまでもう1時間ぐらい、櫻井さんの話を聴きながら、あらためてその「聴く」ということをまず個人のレベルで(やることが大事だと)。行為と意図を分けて、誰しも良かれと思ってやっているという肯定的意図を持つ。

組織の中だと、いろいろ目標とか課されていることとか、あとは先ほどの、近さが故に「聴く」ということが発動されない、利害関係の話。だからこれは難しい話なんですけど、それをまず踏まえましょうよということですね。

「聴く」を社内に浸透させるコツは「束になって一斉に」

篠田:もう1個出てきたのは、我々は(聴くのが)難しい環境で「聴く」ことをしようとすると、「これができるようにならなきゃいけない」「修行である」「自分はでもそんなに人間ができていないし」となってしまう。でも違う環境だと「めっちゃ楽しいです」というサポーターのみなさんの声があったわけなので、けっこうこれは環境の話だよねと。

櫻井:ちょっと時間がきちゃったんですけど、最後に1点だけさらに補足します。今どちらかと言うと「社内を説得できない」という方々への話をしたんですけど、もうある程度社内で認知ができていて、やろうとしている方へのアドバイス的なものとしては、「組織全体で一斉にやったほうが絶対にいいです」と思っていて。

みんな一人ひとりが「大事だね」って言っていることでも、やはり束になって一斉にやらないと、組織のカルチャー自体を動かすことは難しかったりするので。例えば管理職が全員一斉に「聴く」ことを学び、チャレンジする。

失敗をしてもいい前提で、「お前、練習してんね」とか言うコミュニケーションも含めて、一緒に取り組んでいくことができると、圧倒的に(組織への浸透が)早いと感じています。

篠田:「まずは小さく試して」とかじゃないほうが、結果的に……。

櫻井:結果的に早いですね。

篠田:言われてみればコミュニケーションですからね。こんなかたちで、「聴く」ことを大事にしたいなというみなさまが今日参加してくださって、そこにまつわるイメージが少しずつ解きほぐせる時間になったらいいなと思っております。櫻井さん、ありがとうございました。

櫻井:こちらこそありがとうございました。楽しかったです。

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