篠田真貴子氏が語る、『まず、ちゃんと聴く。』の特徴

司会者:今日は、挑戦する組織文化作りにおける管理職の聴く力や伝える力の解像度を高めていただきたいと思っております。また組織に展開する上でのヒントを得ていただければ幸いです。登壇者のご紹介です。今日はあらためて櫻井さんにお話しいただきます。また『LISTEN』を監訳されたエール株式会社取締役の篠田さんに、お話の聞き役としてご一緒していただきます。

篠田さん、今日に至る(経緯や)櫻井さんのご紹介も踏まえてお願いしてもよろしいでしょうか?

篠田真貴子氏(以下、篠田):榎本さん、ありがとうございます。みなさん、おはようございます。エールの篠田真貴子です。私は『まず、ちゃんと聴く。 コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比』の前書きで「刊行に寄せて」という言葉を載せているのですが、その部分の紹介とそこでは書かなかったことを2〜3分でお話ししたいと思います。

前書きで書きましたが、この本の特筆すべき特徴が3つあるなと思っているんですね。1つはタイトルの『まず、ちゃんと聴く。』です。「まず」ということは次があるわけで、聴くことと伝えることの両方についてしっかり書かれているのが特徴かなと思います。

ちなみに『まず、ちゃんと聴く。』は、まずちゃんと買う、まずちゃんと読むという大喜利化しやすいタイトルだなと気がついて。(聴くの)次は「伝えるですよね」ということが1つ目です。

2つ目が、内容が概念的なこと。こういう本は下手すると著者の視点で書かれた主張に寄りがちなところがあるんですが、櫻井さんの本は企業の管理職が直面している課題をつぶさに見ながら書かれています。これが2つ目の特徴かなと思います。今日のテーマでもある、組織の変革やチャレンジのように、(みなさんが)リアルに直面している課題にすごく適用しやすいかなと思っています。

3つ目の特徴は、本当に細かくステップに分けて、再現性の高い説明をされていること。聴くことや伝えることはコミュニケーションなので、非常に感覚的になりやすいもの。それを論理的に説明されているのも、大きな特徴かなと思います。

私の周りでも「1on1をもう10年以上やっています。けっこう自分は聴くことができていると思っていたんだけど」というベテラン管理職の方から「いや、これはちょっと考えたことがなかったな」「あらためて自分を振り返ったよ」という感想をいただきました。

1年間で80社もの企業研修を行う、著者の櫻井氏

篠田:あと前書きに書かなかったことで申し上げたいことが2つありまして。1つは、先ほど榎本さんがおっしゃったように、私は『LISTEN』という本を2年半前に監訳しました。おかげさまで多くの方に手に取っていただき、この本を通してエールのことや私のことを知っていただけたかと思います。

でも『LISTEN』はあくまで前座。聴くことに興味を持ってくれる人は増やしたんですけど、本丸は『まず、ちゃんと聴く。』なんです。『LISTEN』は「なんで聞くのが大事なのか?」をふわっと話していて、「じゃ、実際にどうやるのよ?」というところは『まず、ちゃんと聴く。』を読まないとできないんですよね。あくまで本編が『まず、ちゃんと聴く。』だと思っています。

もう1つ、櫻井さんは多くのクライアント企業で、実際にエールを活用するための研修を数多くやっています。去年1年間で80社ぐらいやっていただいているんです。

そこでけっこう厳しい質問も受けるんですよ。今日の講演は、みなさんが自分で聞きたいから聞いていると思うんですけど、企業の研修は必ずしもそうではない。そうではない人たちに聴くことに関心を持ち「やってみよう」と思ってもらう。(櫻井さんには)ここのステップを踏んできた集積があるんですね。

私はそういう現場にはあんまり立ち会えていなくて。でも(櫻井さんが)そこで得た感触や学びが、この本に詰め込まれていると思っています。ぜひ後半は、櫻井さんが見てきた景色がこの本でどう表現されているかという観点でも、お話を聞きたいなと思っています。

ちょっと私がしゃべりすぎましたね。そろそろ櫻井さんにご登場いただきたいと思います。櫻井さん、まずこの本について少しお話しいただけますでしょうか。

エール代表取締役・櫻井将氏が登壇

櫻井将氏(以下、櫻井):はい、ありがとうございます。呼ばれて出てきましたが、篠田さんからバトンをもらう前に、アンケートを取るのを忘れていたというので、ちょっとアンケートを取りながら。

司会者:ありがとうございます。今日のお話を聞く前に、みなさんの今の状態をうかがえるといいなと思っています。今日は出版記念セミナーではございますが、書籍とみなさんの今の関係性について、ちょっとうかがいたいなと思っていて。

『まず、ちゃんと聴く。』について、正直に「しっかり読んだ」「ひととおり目を通しました」「まだ手元にないんだよね」なども踏まえて(教えてください)。一応みなさんのお話やQ&Aを受けながらお話を進めていこうと思っているので、ご投票いただけるとうれしいです。

櫻井:「興味がありません」という選択肢はないんですね? ここに来ていただいているので、興味がある前提のアンケートですね(笑)。

篠田:すごいですね、参加者が250人!? 

司会者:本当にお忙しい中、朝からリアルタイムでご参加いただいて。今日は櫻井さんと篠田さんにとっても、すごくたくさんの気づきがある場になるだろうなと思っています。みなさん、ぜひたくさんのコメントをいただけるとうれしいです。ご参加ありがとうございます。じゃあ、ちょっと投票を終了したいと思います。

篠田:ドキドキ。

司会者:共有していきますね。こんな感じです。

篠田:すばらしい。半分の方は「まだ手元にありません」。

司会者:今日この時間で得られるものが多いといいなと思っております。

櫻井:でもひととおり読んでくださっている方も2割ちょっといて。一部でも読んでいただいた方を合わせると。

篠田:25パーセント、4分の1ぐらいかな。

櫻井:うん、うん。ありがとうございます。だいぶイメージが湧きました。

司会者:ありがとうございます。ではさっそく櫻井さんから、この本を出した背景をおうかがいできれば。

櫻井:そうですね。最初に何を話そうかなと思ったんですが、このあと篠田さんと対談をしていく中での呼び水的なお話をするのがいいのかなと思いまして。冒頭で少しだけ僕からお話できればなと思います。

「聴く」は、あくまでコミュニケーションの1つの手段

櫻井:あらためまして櫻井と申します。よろしくお願いします。最初に、この本を書かせてもらった時、実際に一番悩んだところからお話しするのがいいかなと思っています。特に話を聴く、傾聴は、わりと個人の幸せっぽい話のように個人にフォーカスが当たりがちだなと思っていて。個の幸せと組織の生産性の話とどちらかに寄りすぎるのはなんかいやだなと思っていたんですね。

先ほど篠田さんが言ってくれたんですけど、どっちかに寄りすぎると一番届いてほしい方に届かない感じがして。傾聴に寄りすぎると個人に寄りすぎた話になって、現実に使えなくなるし。でも生産性で1on1や対話に寄りすぎると、組織に寄りすぎた話になって……、というところで悩みました。

前提としては「聴くというテーマで本を書いてほしいんだ」と、違う出版社の2〜3名の編集者の方からお声がけをいただきました。その中で今回、日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)の編集者のカトウさんと(一緒に)やろうとなって。

実は最初、聴くというテーマで6〜7万字ぐらい書いたんですね。本だとだいたい8万字から12万字ぐらいなので、6〜7万字を書いてけっこういけるかなと思ったんです。でも「聴く」だけで書いていったら「なんか違うな」と。個人に寄りすぎた話になる感じがして自分でも気持ち悪さが出てきてしまったんです。

「聴くことを目的にしちゃいかんな」という感じですかね。聴くことは、あくまで1つの選択肢であって、コミュニケーションの中での手段でしかない。聴くことを唯一の答えや目的に置くのはすごく気持ち悪いなと、自分で6〜7万字も書いてからワッてなったんですね。

「じゃあ何のために聴くんだろうな?」「なんでビジネスの現場や日常のコミュニケーションの中で自分は使っているんだろうな?」と考えた時に、1つのテーマとして出てきたのが「自律」だったんです。

執筆のテーマになった、「聴く」ことと「自律」

櫻井:今会社にいると、自律やキャリアオーナーシップという言葉をもう散々聞いていらっしゃる方も多いと思います。この自律というものを、聴く先にある1つのものとして捉えたいなと思ったんです。

つらつら話しちゃいますけど、もう1つは自律がテーマになると、逆に聴くことはあくまで1つの手段でしかなかったりする。「ほかにも手段があるな」と思いながら、どこに軸を置いて書けばいいのかをずっと悶々と悩みながら、結局(執筆に)2年半ぐらいかかりました。

自分はずっと聴くことを考えてきているし、何を見ても定食屋に行っても、店員さんの反応を見て聴くことを考えちゃうわけですよね。常に聴くことを考えながら生きてるんで(笑)。やはりここを軸にせざるを得ないなと思いつつ、いかに人が自律的に働くか、自律的に生きるかにすごく意識を置いて書きました。

それから(今は)組織と個人の関係性が変わってきている。会社に所属する感覚から会社に関わる感覚に、少しずつ変わってきていると思うんですよね。例えば副業もそうですし、今の20代の方々だと「一生その会社にいる気持ちはない」という状態で就職されていくと思うんです。つまり個人と組織の関係性が対等になってきている。

会社に所属するというより、関わっていく感覚をどう現実に落とし込むのか。それと聴くことは「どうつながっているんだろう?」と考えたり。

僕が大好きな話で、今日どこかで篠田さんに話してほしいなと思っているブロック塀と石垣の話があって。ブロック塀のように、自分が会社の決まったかたちに合わせて組織にはまっていくんじゃなくて、自分の個性を活かして、それぞれの石の形で石垣のように全体に貢献をしていく。そういうことを会社も個人の方々も求めている。

こんなことを考えながら書いていました。これがこの本を書いた時の自分の思考状態です。まさに今日のテーマをすごく意識して書いたつもりです。まだ本を読んでいない方も半分以上いるようなので、今日は聴くことで「組織と組織で働く人にどんな良いことがあるんだっけ?」ということも扱えたらいいのかなと思っています。

社内で「聴く」ことを浸透させる難しさ

櫻井:あとは「組織の中でどうやって広げていけばいいの?」と思っている方もけっこういらっしゃるんじゃないかなと。「聴くことは、個人にとっても組織にとっても大事な振る舞い」とわかっているのに理解してもらえない、会社の中で(認知を)広げていくのが非常に難しいという悩みを抱えているみなさまが、今日来てくださっているのかなと思うので。

「どうやって組織の中で聴くことを広げていけばいいのか?」という話もありかなと思っています。具体的には「部下との会話に困っています」「組織のチームの中で1on1をやっているんだけど、管理職のメンバーがうまくできません」という話とか。

このあたりがテーマになるかなと思います。今日は、いただいたご質問やQ&Aをもとにみなさんの興味関心に合わせて、あとモデレーターの篠田さん次第で僕は大船に乗ったつもりで楽しみたいと思っています。こんな感じで、最初に少しお話をさせていただきました。

司会者:櫻井さん、ありがとうございます。

櫻井:みなさん、ハートや拍手をありがとうございます、うれしい。

司会者:そうなんですよ。ありがとうございます。

篠田:あたたかい感じをね。うわー、すごい、すごい! あとで録画で見るとこのハートは見えないんですよ。これはリアルタイムで参加された方の特権ですね。

司会者:そうなんですね。たくさんありがとうございます。さて、これから本を読む方もいらっしゃると思いますので、今日ここまで聞いてみて、あらためて「挑戦する組織風土を作る」というところで、みなさんが聞きたいこと、知りたいこと、期待していることなどに応じて、櫻井さんと篠田さんでお話ししていきたいと思っております。

篠田:よろしくお願いします。もう(チャットを)随時入れていただき、それを拾いながらお話をしていこうと思います。