つい使いがちな「先ほども言ったように......」は何が問題?

中島崇学氏:次にいきます。「先ほども言ったように......」。つい先日、私も使ってしまいました(笑)。どんなことが伝わるか、ちょっと聞いてみます。これを使っている人は、実に多いわけです。「だって、さっきも言ったんだもん」と。丁寧に言っているつもりなんですが、「先ほども言ったように」と言うと何が伝わるか。

「聞いていなかったの? 聞いていなかったよね」。そうです。要するにそういうことが伝わります(笑)。「批判」。本人は(よかれと思って)同じことを繰り返しますと前置きしているのに、不思議ですよね。「何度も言わせるな」。そうそう(笑)。

「聞いていないのか」「いい加減にしろ」「また言わせるのかよ」(笑)。そういうことです。それくらいの受け取り方になるし、実際問題として、自分もそんな気持ちで言っていることがあります。私はせっかちだし、しつこいのが嫌いなので、「また言わせるのかよ」という気持ちになるのよ。人間だから、そうなっちゃうのはいいんです。その時に、何かをレスポンスするかが大事になるわけですね。

この一言を使うと、相手は「聞かなきゃよかった......」という気持ちになります。価値観としては、効率重視で悪いことではありません。ただ、そこに意識を向けると、繰り返すことに対するいらだちの気持ちが湧くわけですね。そうすると、まさに「聞いていなかったの?」とか「何度も言わせるなよ」という批判になってしまうわけです。

悪気がなくて丁寧に言っている、事実を言っているつもりなのに、実はすごい勢いで傷つけているということなんですね。

相手を尊重した、余裕のある言い方に変えるには?

では、どんなコメントが考えられるでしょうか? 思いつく限り、(チャットにコメントを)入れてください。「大事なところです」。なるほどね、「大事なことなので何度でも言いますが」。ちょっといらだっていますね(笑)。意外と難しいんですよ。

「あらためて意味を言います」。この「あらためて」はいいですね。「確かにわかりにくかったかもしれないので一緒に確認します」。やさしいですね。「重ねて言うと」。いいですね。「もう一度確認してみよう」。「レッツ」な感じがいいですね。

ここでの言い方としては、「大事なポイントなので、ここでおさらいしておこう」と。これについては、本でも詳しく解説しています。「おさらい」というのは、いい日本語ですよね。「ありがとう。大事なポイントを指摘してくれたね」と。「我々のチームにとってもおさらいが重要だよね。おさらいしておこう」。

めちゃくちゃ尊重していますよね。仲間の言葉を尊重しようという気持ちと余裕がありますよね。先ほどみたいに、職場に焦りの空気が蔓延しません。人間は余裕があったほうがパフォーマンスもイノベーションも湧くわけですよね。

そして伝わるメッセージが、「ちょうどよかった」ということですね。つまり、どんなこともプラスとして捉えようという“大断定”の生き方が伝わってくるわけです。

起きたことをプラスに捉えていく“大断定”の生き方は、組織に前向きさを呼びますよね。どっちみち起きてしまっているんだから、そこからどちらに“大断定”するかは、あなたの意思次第です。それは、セリフが決めるわけです。そのためにも、「大事なポイントなので、おさらいしておこう」と言うことです。

やる気を低下させる「本日は長丁場になりますが、お付き合いください」

もう1ついきます。これは今日来ていただいた方々のためのおまけで、本には入りきらなかったポイントです。「本日は長丁場になりますが、お付き合いください」。例えば1日がかりの研修や長めの会議の時に、みんな必ずこれを言うじゃないですか。

そんなに悪くないと思いません(笑)? あえて課題があるとすれば、どんなインパクトがあるでしょうか? これも思いつく方は(チャット欄に)入れていただければと思います。だんだん難易度が上がっていますよ。

「眠くなりそう」「面倒だな」。そうそう(笑)。「長引かないように邪魔しないでね」「長いの嫌だな」「もっと(内容を)絞れなかったのかよ」。退屈な気持ちになりますよね。長いと言われて喜ぶ人はいないんだよね。まさに、参加者はこんな感じになるわけです。そもそも、長いことを知って来ていると思うんですけど、リーダーからまた長いと言われてしまったら、ますます嫌になるんですよ。

まさにおっしゃっていただいたように「あ~あ、めんどくさい」と。そもそも面倒くさいと思って会議に来るじゃないですか。それをなんとか鼓舞してモチベーションを上げるのがリーダーなのに、こんなことを言われてしまうと助長されるわけですね。

「我慢しろ。そもそも会議はつまらないんだ」と。つまり、「長くなってしまうとろくなことにならない」というリーダーの恐れが伝わってきますし、「だから我慢してやるしかないでしょ」という、もはや命令ですね。「四の五の言わずにがんばれ」と。思考停止に陥る可能性すらあるわけですね。「そこまで言われるんだったらやりますけど」という感じになりますね。

リーダーの自信が伝わり、メンバーのパフォーマンスを上げる言い方

そこで、どう言えばいいのか。これは難しいので、答えを言ってしまいますね。「今日はあっという間だと思うくらいの価値のある時間にします」。リーダーの気合い(を感じる)でしょ? 

価値観としては、楽しさを大事にしているわけですね。そして心の状態は、腹が座っています。とにかく難題が山積みで、長い時間(会議を)しなければならない状態である事実から逃げずに、我々があっという間だと思うくらい、価値のある時間にしていけばいいじゃないかと。必ずうまくいくという自信が伝わってきますね。

こういうところから出てくることは、まさに「信」です。やはり、信じているということです。リーダーが何を信じているのか。長くなることを信じているのか。だから我慢しろというのを信じているのか。

あっという間になること、「これは絶対価値がある」ということを信じているのが伝わります。このことを「ピグマリオン効果」と言います。結局、人は信頼や期待に影響されて、パフォーマンスを上げますよね。「ああこの時間は価値があるんだ。あっという間になるくらいの時間なんだ」という気持ちになれば、がんばれるわけですね。

今、4つほど事例を差し上げました。ものの考え方、フレームとして、方向性・心の状態・伝わるメッセージから考えて、言葉を先発するということです。このフレームにあてはめて、いくつかご紹介しました。本の中には、それが43個あります。実践の中で、解説も含めて書かれています。我々がいかに反応的に生きているか。それによってパフォーマンスを下げていることに気づける本にしたいと思っています。

ひと言で空気を変える、リーダーのための声かけのポイント

さて、あと10分になりました。最後にちょっとおまけで、また本に書いていない「空気を変えるおすすめのひと言」をご紹介しておきたいと思います。まずはオープニングのひと言です。これは大事ですよ。リーダーは飲み会だって、朝礼だって、会議だって、何にしたって最初にひと言言うじゃないですか。その時に、この3つを意識しておくといいと思いますよ。

「①あいさつ」「②感謝・共感」「③現実直視と意気込み」です。まずしっかりと気合いを入れて、あいさつすることが大事ですよね。ただのあいさつなんですが、心を込めるところですね。これを世阿弥の言葉で「一調・二機・三声」といいます。調子を整えて、機をうかがって、自分の声にちゃんと力を込めるということです。

(けだるそうに)「おはようございま~す」とか、「こんにちは~」「じゃあ始めま~す」じゃなくて、(調子を整えて)「こんにちは!」。これだけで、意味はなくても非常に影響を及ぼします。これは言葉の中身よりも、言葉の調子ですね。

そして感謝・共感と、現実直視と意気込みです。私は先ほど、このセミナーでも使いました。

「①こんにちは」と。「②11月下旬の慌ただしい中、しかも急な案内にも関わらず、お時間を取っていただきありがとうございます」。これは共感が入っていますね。11月下旬で、慌ただしくない人はいませんよね。そして、急な案内でしたよね(笑)。それに対して感謝しています。感謝と共感です。

そして、現実直視と意気込みです。「③マネジメント受難の時代です。忙しさも10年前の10倍とも言われています。この難局を打開する一歩になるように、張り切ってお話しします」。マネジメント受難の時代で、10年前の10倍も忙しいんだと。このあたりが現実直視です。そして、「難局を打開する一歩になるように、張り切ってお話しします」という意気込みです。最後は希望に向かうでしょう? 

この「①あいさつ」「②感謝・共感」「③現実直視と意気込み」をポケットに入れておくと、あいさつのひと言が容易になります。

終わりのひと言で「3つの感情」を作る

そしてもう1つ、終わり(クロージング)です。私はいろいろなセミナーで言っているのですが、3つの感情を最後に作ろうということです。

「達成感」「充実感」「爽快感」と覚えておいてください。いい感情を作ると、それが後味になります。後味になると、それが記憶になります。記憶になると、次にリピートする時のモチベーションになります。「後味」「記憶」「モチベーション」です。それを知ってかどうかはわかりませんが、シェークスピアの戯曲では「終わり良ければすべて良し」と(言っています)。

「はい、時間が来ましたので終わります」とか、「ああそうそう時間か。じゃあ行くか」じゃなくて、そこで気合いを入れます。なので、この時間でどんな成果があったか。私は成果がありました(笑)。そして、次にどうつながるのか。「NEXT ACTION」でもいいし、「AFTER THAT」でもいいわけですよ。

最後は何が何でも良かった、ありがとうで終わるということです。今日は52分聞いていただきましたが、「リーダーのひと言が組織の空気をつくる」という事例および考え方をお伝えしました。ということで、本日は、本当に熱心なお一人おひとりの実践的なやり取りを通じて、おかげさまで、私自身、ひと言への認識がすごく深まりました。

今日いただいたみなさんの知恵は、これからの共創アカデミーのセミナーやセッション、あるいはコンサルテーションにも必ず活かしていけると思います。お一人おひとりもきっとそうでしょう。あらためて今日は、実践家で志の高いみなさんと出会えて、本当に良かったと思います。誠にありがとうございました。