リーダーの言葉の影響力の大きさ

中島崇学氏:そして今の時代、どうしてリーダーのひと言のインパクトが強くなってきたかという話をしたいと思います。もちろんリーダーですから、昔からひと言のインパクトはあります。今日のセミナーでは、どうインパクトがあるかをあらためて考えていきたいわけです。

1つは、そうやって何かひと言を言うことで、「そっちに向いているんだな」と、組織の方向性が伝わってしまいます。「この人は今火消しをしたいのか、何か生産的にしたいのか、とにかく早くやめたいのか、諦めたくないのか」という方向性が伝わります。

2つ目は、今言ったような優先順位です。何が重要なのか。会社の仕事で重要じゃないことは、何もないじゃないですか。成功のポイントは優先順位なわけです。

その「どれをやっていくか」と、また「何を大事にしているか」も伝わりますよね。つまり方向性や優先順位、価値観がフォロワー(部下)の行動を規定します。そしてそれは、何気ないひと言から出ます。しかもリーダーの心の状態がわかりますよね。機嫌が良いのか悪いのか、悪かったら何が原因なのか、みんな考えますよね。気持ちよく働きたいから、機嫌が悪かったら困るわけですよ。

そうやって考えながら、もう1回心を立て直してもらうように、あるいはもっと良くするように行動することを忖度と言います。忖度って、悪い言葉じゃなくて、思いやりのことなんですね。

そうやって組織の行動が決まっていて、その行動を決めるポイントは、この3つです。それがひと言から出てくるということですよね。しかも、我々がフォロワー・部下をどう見ているかが伝わります。ここは大事ですよね。

例えば、高齢の部下から「この人は(私に)可能性がないと見ているな」と思われたら、その部下は「わかった。やらないよ」となります。

また、(部下のことを)わかっているかも大事ですね。特に若手であるZ世代においては、「良いリーダーかどうかよりも自分のことをわかっているリーダーかどうかが大事である」とよく言われています。それくらい、相手のこと、あるいは相手の価値観をわからなければなりません。そういったことから、1on1などの重要性も叫ばれていますね。

リモートワークで「ひと言」の力がさらに強大に

そして、フォロワーに共感しているかどうかです。こっち(相手)の身になっているかということですよね。これもとても大事です。こっちの身になることを、「親身になる」といいます。これはもともとセオドア・ルーズベルトが言っています。「あなたがどれだけ親身になってくれるかわかるまで、あなたがどんなに優秀かなど、誰も頓着しない」と。

これもすごくわかります。人間にとって大事なことは、優秀であるか、すばらしいかどうかではありません。自分に親身であるかどうかが非常に大事だということです。そしてモチベーションが決まり、心理的安全性も決まり、関係性の質も決まり、場の雰囲気も決まります。こういう関係性が本来あったんですよね。

それに加えて、こういった時代になり、空間的な「場」を共有しなくなって、部下のコントロールが不能になってきています。これが今のグローバルの状況であり、一番大きな変化です。

それにより、ひと言が職場の雰囲気を作るわけです。以前だったら、例えば植物を植えるとか、窓をきれいに拭くとか、席替えをするとか、椅子を新しくするといった、職場のレイアウトを変えながら場の空気、雰囲気を変えることが総合的にできました。また、とにかくずっと一緒にいるので、いろいろなことでフォローアップをするわけですよ。言葉もその1つでした。

ところが、たまにオンラインで会って、話をするだけになると、そこで交わされる一番重要な要素は言葉になってきます。あらゆるレイアウトや職場環境よりも、言葉で職場環境のすべてが作られる可能性まで出てきたわけです。

言葉の重要さがいっそう脚光を浴びて、クローズアップされてきた時代ですね。そして、クローズアップされるポイントが、今までのような説得する言葉やお願いする言葉ではなく、よりフラットでアジャイルで、ジョブ型になってきているとするならば、短期間で巻き込み、鼓舞していかなければならないということですよね。

リーダーに求められる「じっくり聴いて簡潔に話す」こと

さらに言うと、そうするためには、相手にたくさん話してもらわなければならないわけですよ。ずっと人の話を聞いていても鼓舞される人はいないし、巻き込まれる人もいないわけです。

双方向で話して巻き込まれていくこと、今のリーダーのキーワードは、「じっくり聴いて簡潔に話す」ことですね。簡潔に聴いてじっくり話していてはダメなんですね。

「話が長いリーダーは自信がない証拠だ」と、この間のハーバードビジネスレビューに書いてありましたが、耳が痛いですね。確かにたくさんしゃべっている時って、自信がない時ですね(笑)。そういうことがありますので、どんどんシンプルにやっていこうとなるわけです。

例えば、シンプルな言葉をメールなどで送らなければならなくなってきます。そういう時に起こる問題は、シンプルであればあるほど、真意が伝わらないことです。

ある会社で、コロナ後にリモートワークが定着してきたころ、会社のトップが「極力出社するように」と言ったら大炎上しました。出社という手段の先にある真意について、しっかり伝わらなければ、その言葉だけが独り歩きします。それくらい重たいわけですね。

重たいのに、メッセージはどんどんシンプルに簡潔になっていく時代ですから、従来以上にひと言に意識を向けなければならないと思うわけです。ということで、ここまでが前段です。ここから事例にいきたいと思います。今、チャットでいくつかコメントをいただいているようです。

これを見ていただくだけでも参考になります。こういう言葉のインパクト、これにまつわる背景のストーリーを、一人ひとり聞きたいところです。このストーリーまで聞くと、わかってきますね。ありがとうございます。

部下が発言を後悔する、「何を言っているのかわからないよ」

では、事例にもとづいてご紹介していきます。こんな言い方をしていませんか? 1つ目は「何を言っているのかわからないよ」です。私も言ってしまいます。部下が何を言っているかわからない時って、「わからない」と言うじゃないですか(笑)。ということで、よくあるわけです。

上司が「何を言っているかわからないよ」と言っていたら、いったいどんなことが伝わってくるでしょうか? これをお聞きしたいと思います。どんなことでもいいですよ。何か伝わってくるものをチャットに書いてみてください。

「お前の話し方が悪い」。責めてしまいますよね。「頭が悪い」(笑)。「お前の発言には意味がない」「頭から否定」「機嫌の悪さ」「理解しようと歩み寄る気持ちがない」「怒られた」。今日の人たち、すごいなぁ。「その人の存在が否定されているようだ」「くだらない話をするな」(笑)。

「上司と距離が離れた」「人格否定」「卑下されている」「最初から理解しようとしていない」「相手を自分よりも下に見ている」「聞いていない」「時間のムダ」「そもそも聞きたくない」。

これを見ていると、すさまじいですね(笑)。目を覆うようなコメントの数々、ありがとうございます。そうなるんですよ。わからないから聞いているんです。悪い人ではないんですよ。わからないんだもん。でも、こういうことが(相手に)伝わるわけです。

まさにおっしゃっていただいたとおりです。私のほうが少しソフトかな。「何を言っているのかわからないよ」と言われるから、「言わなきゃよかった......」と思うわけですよ。どんなことが伝わったかと言うと、(方向性は)とにかくネガティブです。先ほど言ったように、すべてネガティブ、悪いと言っているわけです。

そして、怒りや苛立ちが、心の状態として伝わります。今コメントにもありましたが、伝わるメッセージは批判ですよ。「あなたの意見には価値がない」ということが届いてしまうわけですね。こうなると、まさに「言わなきゃよかった」となります。「言わなきゃよかった」ということは、心理的安全性が失われたということなんですよ。

心理的安全性を生む言い方に変えるには?

逆に言うと、心理的安全性を担保するために、私たちが命懸けで努力しなければならないことは、発言したことを決して後悔させないことです。「Never Never 後悔」です(笑)。わからないことを「わからない」と言っただけで、こういうことが起こるわけです。ついつい言ってしまうじゃないですか。

そこで、どう言えばいいのか。ここでのご提案の1つです。上司目線の場合です。そういう時は、「君が言っていることは〇〇の意味があるね」と。上司だから、部下のことで少しわかるところだけ意味づけするのはできるでしょう? 「より明確に答えたいので、〇〇について説明してくれる?」と言うことです。

つまりここで言っていること(方向性)は、ポジティブですね。わからないのではなくて、意味があるから、それについて明確にコメントするために、さらに説明してもらいます。それは(心の状態として)明るくて前向きじゃないですか。これは大事ですよね。

そして伝わるメッセージは、「あなたを理解したい」ということですよ。あなたが良いとか悪いではなく、「もっと理解したい」というメッセージが伝わります。つまり、明るさです。

変化の時代にリーダーに求められる「明るさ」

明るさとは何か。1つ目は、仲間を思っていることです。そして2つ目が、常に希望や理想とともにいるということです。思いどおりにならない、問題だらけの難関続きの人生であっても、決して失わない希望や理想があるということです。

そして最後は、今回お見せしたように「前向き」に受け止めているということですね。全部前向きです。これは今日のテーマでもありますが、つまりリーダーのひと言は、すべて明るさを示すものだということです。

一橋大学の野中郁次郎名誉教授が、「この変化の時代のリーダーの要諦を一つだけ挙げるなら、明るいということです」と仰いました。仲間思いで、理想とともに歩んでいて、前向きであるという3つが、明るさの重要な要素だと私は思っています。これは大事です。それをひと言で示す意識を持ってやるということだと思います。

これは本に載っていない内容で、本には別の側面で載せています。それはどういう側面かと言うと、会議中に誰かの発言がわからないことがあるじゃないですか。ファシリテーターとして、「あの人の発言ぜんぜんわからないんだけどどうしよう」ということがありますよね。そんな時に、「わからないですね」と言うと、場が凍りつくわけです。

じゃあ、どうすればいいのかは、本に書いてあります。つまり、何を言っているかわからない人がいても、空気を重くしないひと言があります。部下の話がわからないということは先ほど示しましたが、会議で誰か(の発言)がわからない時に、言うべきひと言があります。そちらは説明すると長くなるので、本をご覧ください。

ネガティブが伝染する「緊張していますが、がんばります」

次にいきます。これはけっこう大事なので、本にもしっかり載せていることを、今日はさらに詳しくご説明したいと思います。

「緊張していますが、がんばります」。言うでしょう? だって緊張するんだもん。緊張するけどがんばるって言っているんだから、いいんじゃないですかね。「何も悪くないでしょ。なんで?」という感じですね。このことによって伝わることを、今度はこっちから言ってしまいますよ。何が伝わるのか。それは「こっちも緊張するわ......」ということです。

方向性はネガティブなんですよ。そして心の状態は困惑している感じですよね。「困っちゃったけど来ちゃったからしょうがない」という、やや被害者的な気持ちも伝わってきますね。そして、このことで伝わるメッセージは、「私を助けて(弱音)」です。がんばると言っているけど、弱音を聞いている気持ちになるわけですよ。

つまりこうなると、ネガティブな空気、困惑した空気、そして弱音を吐く空気が伝染していきます。これを感情伝染(Emotional Contagion)と言います。リーダーのひと言が伝染して、組織全体がネガティブで困惑して弱音を吐くようになる可能性があるわけですよ。嫌でしょう?

ではどうすればいいのか。(方向性は)ポジティブにしたいでしょう? 緊張はしているんですが、心の状態は、集中して前向きにしたい。そして伝わるメッセージは、「ともに進もう」としたいじゃないですか。

そこで、どう言えばよかったのでしょうか? つまり(スライドの)この空欄に正解を埋めましょう。これも誰も間違っていないので、100人いれば100通り(の答えが)あると思います。私のも正解だとは限りませんが、みんなの意見を出し合ってみましょう。がんばらなければならない時は、誰しもあるわけですよ。人間は必ず緊張しますよね。

「このドキドキをワクワクにしていきたいと思います」。いいですね(笑)。「この場に立ててワクワクしてきました」。いいですね。ワクワクが流行っていますね。「今のみなさんと一緒に楽しみたいと思います」。今日のメンバー、いいですね。

「いつも以上に気合が入っております」。私のセンスに似ているかも。「とても重要な場に立てて光栄です」「有意義な時間にしてまいりましょう」。みんないいですね。私よりもいい気がしてきたぞ。

無理せず、ネガティブ→ポジティブに変換するには?

これを見ているだけでも、いいセミナーに来たと思うでしょう?(笑) いろいろな知恵が集まるのがいいわけですよ。双方向感です。「私なりに準備してきましたがフォローしてくれると助かります」。これはこれで、すごく心を開いていますね。リーダーとして、前向きに心を開いて弱みを見せるというのは、いいことですね。それは心理的安全性を呼びます。

「このような機会をいただき誇りに思います」。誇りもいいキーワードですね。ここに出していただいたように、誇り・気合い・有意義・楽しむ・ワクワクといったキーワードをポケットに入れておくと、とてもいいと思います。

ポケットに入れておくべきキーワードを、すでにけっこう出していただいたわけですね。では正解です(笑)。もはや正解と言うのがおこがましくなってきましたが、ご用意したものはこちらです。

「引き締まった空気で、私もピリッとしています」。緊張しているので嘘はつきたくないし、そして緊張していることを、「引き締まってピリッとしている」と言い換えているわけですね。何もごまかしていないし、無理もしていません。言い方を変えているだけですね。

「引き締まった空気で、私もピリッとしています」。このことを、リフレームといいます。まさに、みなさんのコメントにもリフレームがあったと思います。「緊張=引き締まる(ピリッと)」という感じです。

「無口なやつだな」とネガティブに言う代わりに、「慎重な人だね」と言うとか。「おしゃべりなやつだな」という代わりに、「ボキャブラリーが豊富だね」と言うとかね。こういう言い方をすべてリフレームと言います。

つまり、自分の心の中のネガティブな表現を、全部ポジティブに言い換える癖をつけようと思うだけで、ぜんぜん違うわけですね。そのボキャブラリーを増やしていきます。つまり、リフレームのボキャブラリーを増やすだけでも、ぜんぜん違います。これが2つ目の事例です。