デジタルネイティブは付け焼き刃の対応を見抜く

長田麻衣氏(以下、長田):採用の時の企業のイベントとかにも、けっこうみんなの意見が集まっています。

大熊英司氏(以下、大熊):教えてください。

長田:SDGsは企業のやらなきゃいけないことだし、こういうことに「すごく力を入れています」と言う企業がすごく増えているけど、絶対嘘だなって思うことがある。

(一同笑)

大熊:例えば?

長田:形式的な感じで言っているだけで、実際に具体的なアクションとしては、「そんなにしてないな」とか。企業がその場でよく言っても、SNSで調べると出てくるので、「実はやってないんだ」とか、逆に「こういう問題があるんだ」というのも調べられちゃう。

そこにギャップがあると、「あ、なんか違うんですね」「裏と表があるんですね」みたいな。

大熊:企業は言うだけじゃだめってことですよね。ちゃんと何をやっているか、具体的なところまでしっかり示さないと。

長田:そうなんです。すごく付け焼き刃でやっている感じは商品においても同じなので、けっこう見極められてしまったりする。すごく賢い子たちなので、「いや、やっていますよ」とか「いや、がんばろうと思っていますよ」くらいだと、逆にネガティブな意識になってしまう。

大熊:そうですね。口で言っているだけだとか、表面的だというのがわかっちゃう。

長田:そうなんです。なので、ちゃんと真摯にやっていかないと……。

大澤陽樹氏(以下、大澤):ちょうど昨日、トレンドがいろいろ発表されていたじゃないですか。逆に心をつかんでいる企業や商品の特徴はどんなのだったりするんですか?

長田:言っていることとやっていることがちゃんと合っているものです。例えば社会課題系でいうと、LUSHさんはボディソープとかに関しては、商品もちゃんとアクションにつながっている。

あと、イベントとかでも啓蒙されていて、360度見て全部社会課題にアクションできているところがSNSでも見られるし、企業の説明会でもあって、ギャップを感じないという話を聞いたりします。まあ、社会課題に寄っちゃうのでバイアスはあるんですけど、そういうのがありますね。

「できること・できないこと」をすり合わせる向き合い方

大熊:大澤さん、長田さんの今のお話、どうでした?

大澤:めちゃくちゃおもしろい。いろんな情報を仕入れるチャネルがあるからこそ、透けて見えるんだなと思いました。今まではそのチャネルがすごく限られていたから付け焼き刃でも通じていたのかもしれないんですけど、いろんなところから情報が来ちゃうから、本気でやっていなかったらもう透けて見えるんだなと。厳しい環境ですよね。

髙倉千春氏(以下、髙倉):確かにね。

長田:なので、企業も上司も取り繕わないほうがいいと思っている。

大澤:取り繕わない。

長田:できないことはできないし、わかんないことはわからないでいいと思います。それこそ世代によって仕事のがんばり方も違うし、そこは若者もちゃんと理解する必要がある。がんばってくださった世代がいるから、みんな働きがいがなくても……(笑)。生きていけるんだよとか。

そういう部分の歩み寄りは必要だと思うんですけど、できること・できないことをお互いすり合わせるための向き合い方を、Z世代に限らず、ビジネスパーソンとしてしていくのはすごく大事じゃないかと思います。

大澤:なるほど。おもしろいなぁ。

大熊:そうですね。人と人とちゃんと向き合って。

長田:そう。向き合うことがいろんな面で大事になってきています。

髙倉:ですよねぇ。なかなかね~。

大熊:なかなかねぇ。難しいですよね。

長田:大変だと思います。

髙倉:上にいくほど、会社の偉い人ってそれなりの責任もあるし……。

大澤:そうなんですよねぇ。

髙倉:自負もあるじゃないですか。つい取り繕っちゃうというか、「知っているぞ」とか「なんで君たちは会社をそんなにすぐ辞めるの」となる。そうじゃなくて、寄り添うというか、なんでそう考えているのかとか、こちらの固定概念をちょっと壊さないと、おそらく付き合ってもらえないんじゃないかという気がしましたね。

大熊:選ばれないし……。

髙倉:選ばれない。

大熊:続けてももらえないということなんですね。

髙倉:ですね。

動画での情報収集が多い10代

大熊:せっかくなので、お二人で互いに聞きたいことがあったら聞いていただきたいんですけど、大澤さん、長田さんにどうですか?

大澤:いや、聞きたかったことはけっこう聞けたんですけど……。

(一同笑)

長田:私もけっこう……。

大熊:聞けたんですか。でも1つだけ。

大澤:ちょっと興味があるなと思ったのが、ちょうど昨日発表されていたもので、例えばメンズの若い子のゲームのトレンドで……。

長田:はい。「メンズトレンド大賞」。

大澤:1位になったあるサービスが僕がイメージしたのとぜんぜん違くて、「あ、やっぱり理解していないんだな」とショックを受けていたんです。

調査された世代が20代前半だけでなく、「OpenWork」があんまり見ていない10代後半とかにもけっこう話を聞いているという時に、20代前半と10代後半でもけっこう価値観の差が生まれてきているのかなと。

Z世代ってひとくくりにしちゃっているけど、その中でも傾向ってあるのかというのはぜひ聞いてみたいなと思います。

長田:そうですね。やっぱり細分化・多様化しているという前提があるのと、年齢によってもちょっと違うことはあるんですけど、消費の価値観とかはだいたい……。

大澤:一緒なんだ。

長田:働き方に対する考え方もそんなに変化はなくて。それこそ理想の上司を社会人に調査して、部活で理想の先輩、高校生にとっての理想の先輩を聞くと、求めている項目としてはほぼ一緒なんですよ。

寄り添ってくれるとか、ちゃんと優しく丁寧に教えてくれるとかが上位に来る。そこは変化ないなって、この世代全体の特徴なんだなというところもあります。

逆に違うところで言うと、10代とか若くなればなるほど動画での情報収集が多い。

大澤:ああ、やっぱり。

長田:マインドではなく、使うデバイスや情報源が変わってくるのが違いじゃないかなと思います。

大澤:確かに。ずっと動画を見ていますよね。

モチベーションの低下につながる「決めつけ」

大熊:ちなみに、メンズが喜ぶ1位は何だったかを教えてもらってもいいですか?

大澤:これ、言っていいですか?

長田:もちろんです。「メンズトレンド大賞2023」というのを今年出しまして。

大熊:なんでしょう。

髙倉:なんなんでしょう。

長田:ゲーム部門の1位は『プロ野球スピリッツ』。

大澤:意外じゃないですか? こういうことを言うと炎上しそうですけど、僕ね、若い男の子、野球に興味ないんじゃないかなと思っていた。

大熊:でも、WBCとかあったから……大谷(翔平)くんがいるからですかね?

長田:そうなんですよ。今年はもう大谷効果で野球コンテンツが盛り上がっていて、ヒト部門でも1位、大谷翔平さん。

髙倉:へぇ~。そうなんだ。

大澤:ありますよね。それは納得だなぁと思っています。

長田:野球のインフルエンサーの子たちがヒト部門でも上位になっていたりするので、スポーツコンテンツはやっぱり男の子は好きですね。女の子にはぜんぜん上がってこないんですけど。

髙倉:へぇ~。

大熊:「今の子は野球が嫌いだ」と決めつけちゃいけないってそういうことですよね。

大澤:そういうことですね。

長田:野球を楽しめるかもしれないし、飲み会も大人からすると「どうせ今の若者って会社の飲み会とか嫌なんだよね」とか思う。私もけっこう誘えない派なんですけど、意外と飲みに行きたい子とかいるらしい。

大澤:多いですよね。

長田:多いですよ。

大熊:人によってですよね。

長田:人によってなので、決めつけずに誘ってみる。がんばってみることとか大事です。お酒を飲まなかったりするので、「じゃあ、ランチとかから行ってみる?」という話とかをする。

実はそういうコミュニケーションもしたいけどできていないというのが、モチベーションが上がるきっかけがなかったりするので、離職につながっていたりする。飲み会やフィードバックの仕方とかは、それぞれとすり合わせするのがいいかなと思います。

社員の士気が高い会社に共通する項目

大熊:今度は長田さんから大澤さんに何か質問はございますか?

長田:私ももうけっこういろいろ聞けたので、何を聞こうかなと思っていたんですけど、士気や成長環境とかを構成する要素をもう少し聞きたいなと。士気が高い会社、士気が上がるって、どういうことなんでしょう?

大澤:「社員の士気」という項目があって、そこに5段階で評価してくれているだけなんで、そこだけだと構成要素が見えないんです。

でも、社員の士気が高い会社に共通しそうな項目を見ていくと、1つは風土ですね。成長環境だったり、最近よく聞くパーパス。会社が何のために事業をやっているかとかをちゃんと伝えて、自分と仕事が統合されていくというか、仕事が自分のやりがいにつながる。採用の時から気をつけている会社は、わりと社員の士気が高くなりやすい。

長田:なるほど。

大澤:どっちかというと、年収とか条件で採用していたりすると、意外に社員の士気は低くなりやすかったりしている。それだけじゃないと思うんですけど、採用時点で仕事やパーパスがご本人のやりたいこととうまくひもづいていると、わりと社員の士気が高まりやすいと思いました。

長田:確かに。

大熊:そこに年収がくっついてきて。休みもしっかり取れるというのは、もう普通ということですよね。

大澤:そうですね。

大熊:そういうことですよね。

メンバーの主体性を引き出す「糸口」の見つけ方

大熊:高倉さんから何か聞きたいところはありますか?

髙倉:いろいろ刺激的な話を率直にうかがえて、本当にありがとうございました。1つは、権限移譲をしても、トレーニングの機会を与えても、寄り添っても、やっぱり今の自分がどう思うか、その人が何をやりたいのかという骨格がないとなかなか難しい。

私も若い人に寄り添いながらやるんだけど、何がしたいのかが出てこないケースもあるんですよ。そういう人ばっかりじゃないかもしれないけど、「私はこういうことをやりたいです」という主体的な意図みたいなものが出てこない。これ、どう思いますか? みなさんから見て、どうやったら引き出せるかとかありますか。

大熊:長田さん、たぶんぼんやり持っているとは思うんですけど、それを説明したり、具体的にとなると、またちょっと違ってくるということだと思うんですけどね。

長田:そうですね。そこは本当に難しいですよねという共感なんですけど、でも、やっぱりまずはできることからやってみてもらう。

髙倉:なるほどね。

長田:そのかたちにした時に、「何が一番楽しかったのか」「この仕事の中のどこでモチベーション高くやっていたのか」という話を聞いてみると、「ということは、じゃあこういう仕事ももしかしたら好きかも」という提案がしやすくなるなと私は思っています。

まずはやれることをやってみてもらう。私は自分のチームでもよく「今の仕事の中で一番好きな仕事は何?」と聞いていくんですけどね。

髙倉:あぁ~、「好き」ね。

長田:ぜんぜん思いもよらない話が返ってくるので、「それ、なんで好きなの?」という感じで聞いていく。私のインターンの子だったんですけど、「校閲の仕事がめっちゃ好き」と言われて。

大熊:へぇ~。珍しい。

長田:「人の間違えたところを修正していく、見つけていくことがめっちゃ楽しい」という話をしていた。

SNSの画像を作るとか動画を作るのも修正があったりするので、もしかしたら正しく資料を作るみたいな対応もできるかもとか。「やり取りをして修正をしていくのも仕事として向いているかもね。じゃあそれやってみる?」という話につながっていけたりもする。

髙倉:そうですね。

長田:1つの仕事を糸口にしていくのはいいのかなと。

髙倉:多様な好きを見つけてあげるみたいな感じで。

長田:そうですね。もう、好きを広げていくのがたぶん上司の仕事かなと思うので。

大熊:それは、ちゃんと1対1で向き合わないとかなかなかわからないですよね。

髙倉:そうですよ。わかんないですよね。

「名前で選ぶ」から「キャリアで選ぶ」若手の増加

大熊:質問にいきたいと思います。

匿名の方からですが、「Z世代は周りの目を気にするという分析がありましたが、その一方で彼らが働く企業を選ぶ際に『企業のネームバリュー』だけでは選ばないようになっているように感じます。このあたりはいかがでしょうか」。長田さん、いかがでしょうか。

長田:先ほど大澤さんがおっしゃっていたパーパスとか、会社の目指すストーリーみたいなところがけっこう効いている気がします。

月曜日から金曜日まで何の仕事かわかんないけど働くというよりも、「この仕事がこれにつながっている」というのがわかったほうが、時間を費やす理由にもなったりする。そういうストーリーやパーパスはすごく大事になってきているなとは、私も実感していますね。

大熊:大澤さん、この質問に対していかがですか?

大澤:同じですよね。僕はよく「ネームバリューからキャリアバリューに変わってきた」という話をしています。

長田:あ~。キャリアバリュー。

髙倉:おもしろい。

大澤:僕も自社の採用で新卒採用の面接をすることもあれば、他の会社さまの採用の相談に乗ることもあるんですけど、最近学生さんが企業を選ぶ際に聞いてくるおもしろい質問が1個あります。これは10年前とかにはなかったんですけど、「あなたの会社に入ると、私は2社目はどこに行けますか?」。

髙倉:(笑)。

長田:あ~。でもわかります。

大澤:聞いてきますよね。

髙倉:いやいや……(笑)。そうなんだ。

長田:そうですね。就活生、めっちゃ聞いてきます。

大澤:そうなんです。「退職した人って、次、どこに転職されているんですか?」。要はその会社に入ると、次にどういうキャリアにつながるかということを気にしている。「名前で選ぶ」から「キャリアで選ぶ」方が増えてきているんですよね。

なので、周囲が気になるという意味でいくと、確かにネームバリューが気になりそうな方はまだいると思うんですけど、近しい面でいくとどういうところに行ったかを知りたいという人が今増えてきているということですね。

髙倉:すごくわかる。

有名企業でも「待っていれば応募者が来る」時代は終わり

大熊:今、「わかる」とおっしゃいましたけど、どうですか?

髙倉:私は外資系が長くて、20年くらい外資にいたんですけど、外資の労働市場ってそれなんですよ。キャリアバリュー。

「どこの会社に勤めましたか?」じゃなくて、「自分のキャリアがどういうストーリーで価値をもたらすか」が最終的に市場価値になる。だから、どこに行ったら自分が輝いて成果が出せるのか。そのストーリーを自分で作っていける企業かどうかというところが大事です。

私は「HRブランド」と言うんだけど、やっぱりそういうことができるか。「うちはこういう会社でこういうことができるんですよ」というのが企業のブランド価値になるべきだとすごく思った。

大澤:まさに。

髙倉:今はそれを出さないとだめなんですよね。人は来ない。

大澤:おっしゃるとおりですね。

髙倉:そんな気がしました。

大熊:ネームバリューのある会社も、これからちょっと考え方を変えるというか、「うちは待っていれば来るでしょう」じゃないってことですね。

大澤:そうなんです。

大熊:はぁ~。

髙倉:おもしろい!

大熊:おもしろいですね。もっとお話を聞きたいんですが、そろそろお時間になってしまったようです。大澤さん、今日、お二人でセッションしていただきましたが、いかがでしたか?

大澤:そうですね。私たちは口コミを集めていますけど、長田さんは生の声を集めていて、僕はなんでそういう精神性になっているかという背景まで今日は知れたので、すごく学びがあったなと思いました。

大熊:今度は、実際に会ってみてお話を聞くということも……。

大澤:やらないといけないですよね。

大熊:考える。また違うかもしれませんね。

大澤:やってみたいなと。同じ渋谷にいるので。

長田:ぜひぜひ。

大熊:渋谷なんですね。

長田:そうなんです。

大熊:ご近所で。長田さんはどうでした?

長田:2023年はいろんな会社さんから、Z世代は、若者は何を考えているのかという相談をされることが増えていて、私もけっこうホットトピックではあったんです。

ちゃんとした大きなデータを見ながら見ていくと、Z世代だけじゃなく、日本全体で働きがいが低いとか、そこの課題をまた1個見つけられたので、すごく勉強になりました。ありがとうございます。

大熊:これをご覧になった方も、今の若い方の考え方や、もっと知っておかなくちゃというのことがわかったかもしれませんね。どうもありがとうございました。

大澤、長田、髙倉:ありがとうございました。