神奈川県のコロナ対応での成功事例

上村大地氏(以下、上村):神奈川県の上村と申します。本日はデジタル関係や情報システム部門の方が多いかと思います。私は神奈川県の健康医療局の医療危機対策本部室、やわらかく言うとコロナ対策本部で働いている人間ですが、やっと平和が訪れました。

(会場笑)

部署的には3年前、時期で言うと医療機関の従事者にワクチン接種が始まった頃に着任して3年目です。コロナ禍の2年目くらいに来ました。1つだけ断っておくと、トヨクモさんにワクチン接種でご迷惑をかけたのは、うちではありません。うちは他のところでやりました。

(会場笑)

本日は4点ほどお話しさせていただこうと思っています。1つ目はすごくうまくいった事例、2つ目はなんとか乗り切ったけど課題が大きかった事例、3つ目はできなくて歯がゆかった事例、そしてこれらを踏まえた4点目が要望です。

画面に映っているのは、「感染防止対策取組書・LINEコロナお知らせシステム」というものです。こちらはトヨクモさんのホームページに出ている事例を見ていただければ、詳しいことがわかると思います。

簡単に言うと、画面左側の感染防止対策取組書、飲み屋さんや施設の入口に「うちはこんな対策をしています」と貼るものですね。あれをトヨクモ製品とkintone(キントーン)を組み合わせて作りました。

(スライドの)一番下に書いてありますが、コロナ禍が始まった頃、ダイヤモンド・プリンセス号が到着して3ヶ月後くらいだと思いますが、令和2年5月に5日間という短期間で完成させました。

このあと事例発表するワークログさんという会社にご協力いただいて、5日間で完成させました。新型コロナウイルスは令和5年5月に5類感染症に移行しましたが、そこまでずっと使われ続けました。

これは何が良かったかというと、事業者さんが自ら取り組み内容を入れて、マイページで修正作業ができることです。発行作業も自分のところでできるので、僕らは何も手を回さなくてもいいんですね。「マイページを忘れました」というところに対して、マイページを登録されているメールアドレスにマイページのURLをホイっと送るくらいです。

コールセンターでできるということで、作ったらあとはグルグル回ってもらう仕組みです。非常に手がかからなくてうまくいきました。しかも長く活躍しました。

二十数万個の「抗原検査キット」配布での苦労

上村:2点目として、ちょっと課題を感じたところです。(スライドには)ごちゃごちゃ書いてありますが、「抗原検査キットを配布しました」という事業です。向かって左側の画面でいうと、Webフォームで入力した人にクーポンを発券して、薬局さんや医療機関さんの窓口で画面を見せると(抗原検査キットと)交換できるよと。これを、新型コロナウイルスが大爆発して一番大変だった令和4年8月にやりました。

事の成り行きと課題ですが、神奈川県としては「クーポンを配りまくっても交換するものがなかったらいけないよね」ということで、ロジ周りを考慮して、1日あたりの受付数には上限を設けたんですね。

「受付を始めました」と言ったら、新聞報道などもしてくれました。それはありがたかったんですが、申請フォームを公開する時間になったら、トヨクモさんの分間アクセス制限を500アクセスにまで上げていたにもかかわらず、即座に「アクセスが集中しています」という画面が表示されました。

リロードして、やっとアクセスできたと思ったら、「本日分の配布は終了しました」という画面が表示される経験を県民がしました。

これはわりと症状がある方などに配っていたはずなのに、すごく元気な病人がいて、Twitter(現X)に「神奈川県は配布する気あるのか」というお叱りの投稿もありました。でも二十数万個、配りました。それがけっこう課題だったなというところです。

kintoneとトヨクモへの「これさえなんとかなればなぁ」

上村:もう1つ、これは単なる要望で、課題というか特徴です。みなさんもわかると思いますが、役所のExcelの調査って表がやたらと多いんですよね。

(スライドの)左側を見ていただくと、医者のことを聞いています。医者の男性で当直が可能で、県内の医局に派遣している29歳以下は何人ですか? という情報のハコです。表は非常にすぐれていて、なんとかフォームで再現しようとすると、設問1個1個に情報を付与しなければならなくて、難しいところがあります。

医療機関に聞くので2,000とか、クリニックを含めると6,000とかになってしまうので、集計作業が恐ろしくつらいことがあります。これはけっこう課題だと思っています。

以上を踏まえまして要望です。ところで、冨樫義博さんの漫画と言うと何を思いつきますか? 『幽遊白書』を思いつく人は僕ら世代、『HUNTER×HUNTER』を思いつく人は、ちょっと若い方です。この作品の間に『レベルE』という名作がありまして。

(会場笑)

この作品の中で、ゲームにハマる人の兆候として、「〜さえなんとかなればなぁ」と、けっこう楽しそうにシステムの不満を言うと。

これにちなんで、僕もkintone製品とトヨクモ製品にハマった人間として、要望させていただきます。

まず「分間アクセス制限がなんとかなればなぁ。500じゃぜんぜん足りなかった〜」ということです。アクセス上限を超えたら、回答上限数までは「待合室」にして、整理券を配る機能がほしいと思っていたのですが、実は今月解決していたということです。

資料を作ったら解決していました。なので1年半前の8月に、この状態でもう1回戻りたいです。

(会場笑)

APIのリクエスト上限や表の表示が課題に

上村:実は、kintoneのAPIのリクエスト上限も問題になっています。フォームブリッジで回答が溜まりまくっていたんですけど、kintoneに入ってこないんですね。

僕らはそのあと、クーポン発券機になって、クーポンをメールで送らなければならないんですが、作業の開始がなかなかできない状況になりました。なので「リクエスト上限がどうにかならないかなぁ」と思いました。

あとは先ほど出ましたが、「表が表現できるようになればなぁ」と。「線を作って枠をあて込むだけだからすぐにできるんじゃないですかね、(トヨクモ株式会社CTOの)木下さん」みたいな。

(会場笑)

また、LGWAN(Local Government Wide Area Network:地方公共団体が庁内LANを互いに接続するための通信基盤)の接続サービスもけっこう課題です。「金額が安くなればなぁ」と思っています。これは今回の事例紹介とは関係ありませんが。

(会場笑)

以上、手短ではありますが、神奈川県の良かったこと、困ったこと、要望です。ありがとうございました。

(会場拍手)

田里友彦氏(以下、田里):神奈川県さまには、かなり初期の頃から、コロナ対策としてkintoneとフォームブリッジをご利用いただいています。

先ほどおっしゃったように、課題もありつつ、うまくいった事例もすごく存在しています。私たちも事例取材などさせていただきまして、いつも本当にありがとうございます。

神奈川県の「感染防止対策取組書」の立役者

田里:実は今日、神奈川県庁さまをご支援されたパートナーさまがいらっしゃっています。それではワークログの山本さま、お願いいたします。

山本純平氏(以下、山本純平):初めましての人も初めましてじゃない人も、こんにちは。ワークログの山本純平と申します。そもそも私のことを以前から知っているよという方は、どのくらいいらっしゃいますでしょうか?

(会場挙手)

ありがとうございます。パラパラと......。知らないですよね。

(会場笑)

私のことを知らない方が多くいらっしゃると思いますので、まず、なぜ私がここに立っているのか。そこから少しお話ししたいと思います。

私は2020年3月、ダイヤモンド・プリンセス号で陽性者が発生した当初から、神奈川県のコロナ対策本部に関わっていました。「神奈川モデル」と検索すると、パワーポイントの資料のようなものがいくつか出てくると思います。実は、あれは私が作成したものが多いです。

当時は企画から入っていましたが、その企画を具体化しなければならない、実現しなければならない、でも時間を待っていられない、すぐにリリースしなければならない。そこで出てきたのが、kintoneやトヨクモさんのプラグインです。神奈川県は早々に、この導入を決定しました。

先ほど上村さんからご説明がありましたので、概要は少し割愛させていただきますが、私が一番最初に開発にかかわったのが、この感染防止対策取組書になります。

こちらは、事業者さんが感染防止対策(として)どのようなことをやっているかを出力できるものです。たぶん、あまりみなさんに知られていないのではないかと思いますが、実は裏のミッションがありまして。

最初の緊急事態宣言の解除に合わせてリリースしたものですが、当時は感染対策って、いったい何をしたらいいのかが世の中に認知されていなかったんですね。なので、まずどういった対策をすべきかを神奈川県内で検討し、それをチェックリストというかたちで事業者さんに公開しました。

その上で回答していただくと、当然kintoneに各事業者さんのリストが溜まっていきます。そこで、その方々に対して、トヨクモさんのkMailer(ケイメーラー)を使って、最新の感染対策の情報を定期的に発信していました。このように、感染防止対策取組書はコミュニケーション基盤としても活用されていました。

万全とは言えなくても、ほかに手段がなかった

山本純平:その後、コロナ対策以外でのkintoneの活用事例が、神奈川県内でも増えています。例えば、神奈川県の政策局が「かながわSDGsパートナー」という制度を作っており、そこで登録すると、SDGsに関して取り組んでいる事業者さんの認定パートナーとして管理できるものを作っています。

さらに、(スライドの)右の図のようなダッシュボードを作っており、情報発信もできるようなプラットフォームとして活用しています。これはフォームブリッジやkMailer、kViewer(ケイビューワー)、プリントクリエイターなど、トヨクモさんのプラグインをがっつり使っています。

ただ、やはり難しかったのは、この抗原検査キットですね。先ほどもお話がありましたが、正直リリースする前も、「本当にこれをフォームブリッジでやるんですか? kintoneでやるんですか?」と散々確認しました。

(会場笑)

でも、それ以外に手段がなかったんですよね。それで、数に限りがある抗原検査キットに対して、約922万人の県民の方が一斉にアクセスしたんですね。これはみなさんも予想できるのではないかと思いますが、アクセス数でかなり課題がありました。

先ほど上村さんもおっしゃっていましたが、分間登録数という上限もそうですし、あとはWebhook(ウェブフック)も、けっこう課題があると思っています。

分間60回の制限があり、かつその上限値を超えてエラーが出ても通知がないので、私のような外部の立場からは、ちょっと提案しづらいというのが正直なところです。

また、抗原検査キットとはちょっと変わるんですが、予約機能の実装が難しいなといつも思っています。簡易的な仕組みであれば、フォームブリッジとkViewerを組み合わせることで可能なんですが、やはりフォームブリッジは一般的なWebフォームと一緒なので、1つの枠に対して同時に登録が入ってしまうと、両方とも受け付けてしまいます。そういった課題があるかなと思います。

あとはこの事例のような、特にアクセス過多が予想される場面においては、サイボウズさんやトヨクモさんの方々を交えて、運用や設計を一緒に検討できたり、またシステムの上限値に対する個別対応も一緒に検討できたりすると、我々としては大変ありがたいと思います。

1円でもお金がかかると予算要求が大変な、自治体の事情

山本純平:そして4つ目に「言いたいことを言ってしまえ」と思って書いたんですが……。

(会場笑)

私は今回、初めて自治体の方々とお仕事をさせていただきました。みなさんも経験されていると思いますが、予算要求のハードルが高いです。1円でもお金がかかってしまうと予算要求が大変なんですよね。

高いとか安いとかの世界じゃなくて、やっぱりお金が発生するものは、予算要求のハードルがめちゃくちゃ高いなと思っています。

それを感じて、先日我々は、無償でアプリを作ってあげるよと発表しました。なので、トヨクモさんにもご協力いただいて、無償でトライアルとして利用できる期間を少し伸ばしていただきたいなと思っています。ありがとうございました。

(会場拍手)

田里:山本さま、ありがとうございました。神奈川県さまの事例と、それをご支援されたパートナーさまのお話でした。

今のお話を挙げると、LINEコロナお知らせシステムをやられたり、抗原検査キットのシステムを構築されたりといったところになると思います。

もちろん、同じシステムを組まれているエンドユーザーさまとパートナーさまなので、課題感としてはけっこう近いんですが、実はちょっとだけ違っています。フォームブリッジの分間アクセス制限の開放や、kintoneへのAPI同時接続数の開放は重なってくるのですが、運用支援やUIの改善は、個別のご要望になるのかなと考えています。

少人数のシステム会社が個別対応をしていく難しさ

田里:まずは3社とお二人と、今回は座談会形式にさせていただきたいと思います。この赤い太字のアクセス集中に関して、サイボウズさんやトヨクモ、トヨクモクラウドコネクトがどのように対応できるのか。ここにフォーカスしてお話ししたいと思います。

先ほど山本(トヨクモ代表の山本裕次氏)が出した表でいうと、情報の機密性とアクセス量という縦軸のお話を少し深堀っていければと思っています。トヨクモとしていろんなご要望や実例、困った例などもありましたけれども。山本さんがお二人いるので、トヨクモの山本さんからコメントをいただけますか。

山本裕次氏(以下、山本裕次):やはりトヨクモとしては、事前に知りたいということなんですよね。事前に知らないと、本当にもうすべてのお客さまにご迷惑をおかけしてしまうので。

やはり知ることができていれば、対策できるのか、許容範囲なのかどうかがわかってきます。実際にはボトルネックなどの調査もしていかないといけないんですけど、そのへんの個別対応がやはり必要になってくる話かなと思います。

ただ、ご存知かどうかわからないんですけど、トヨクモはかなり人数の少ない会社でございまして。プログラマーならプログラマー、カスタマーサポートはカスタマーサポートとかなりやれる人間が分かれていて、分業体制があります。その中で、この個別ヒアリング、個別対応には非常に課題があるというのがトヨクモの実態です。

田里:とはいえ純平さん、実際に「トヨクモの人間が少ないから」って言われても(お客さまは)困っちゃいますよね?

山本純平:困っちゃいますね。

山本裕次:このままではみなさんにご迷惑をおかけするなということで、トヨクモがもう少しがんばれれば実際こういう問題も回避できた部分はあったと思うんですけど。やはりなかなかその機能だけのサポートに回ってしまって。

あの時に一言二言深掘りしていれば、ひょっとしたらソリューションまでいけたのかもわからないんですけど。なかなかそういう体制にない中では、TCC(トヨクモクラウドコネクト株式会社)という、別会社を作ってやるしかないのかなという現状ですね。

システムは「基本動くもの」という前提

小川昌宏氏(以下、小川):私も準備に当たって8月、9月ぐらいから事前のご挨拶を含めて、いくつかの自治体さんを回らせていただきました。今までトヨクモが届ききれなかった部分のご不満もありながら、新しい取り組みをしようとアナウンスするだけで表情が変わるというか、やはり各自治体さんに非常にご期待いただいているテーマなんだなと感じました。

田里:そうですね。ありがとうございます。

上村:一方で……。いいですか? こういうのって議論したほうが楽しいので(笑)。

(会場笑)

例えば会計の管理システムって…県庁の職員って7,000人、8,000人ぐらいいるのかな。僕自身は文系の人間なんですけど、会計管理システムのシステム更改があった時期とかに入っていたりしています。

なのでシステムについては、そんなにズブの素人じゃないですよ…というか、そこそこ知っているので、要はしきい値や負荷に関してはある程度の感覚は持っていたはずなんですけど。

たぶん「システムってベンダーさんがちゃんと動かすものでしょ」という前提をどこかに持ってしまっていたんです。山本さんは事前に「いや、動くかどうかやばいですよ」と言ってたんですけど、統括官が「やるしかない」と言うので、知らないところで山本さんの会社に開発の検討をお願いしているんですよね。

けれども、「あっ、落ちちゃうのか」というのはちょっとぜんぜん認識がなくて。例えばLINEが落ちたりすると、それこそTwitter(現X)で「今LINEが落ちています」と大きな話題になったりするぐらいなので、「基本動くもの」という前提がどこかにあったなというのが反省ですね。

その反省を踏まえて、今はアンケートをする際には、神奈川県のLINEのコロナ関係のアカウントで160万人のお友だちがいて、実効100万人ぐらいにリーチするので、そこでアンケートを取る時には、今はご相談するようなかたちにしています。

やはりノーコードツールというのは、例えば大手さんが作った強靭なシステムとはちょっと違うんだという認識を持っていなかったのは、すごく反省としてありましたね。

ノーコードツールへの要望に、テクノロジーは必ず追いつく

山本裕次:トヨクモは実際に問題も起こったので、(それ以降は)かなりエンタープライズ対応をしてきたんですけど。サイボウズさん自身もやはりエンタープライズ対応は、あのタイミングからしているんですか?

青野慶久氏(以下、青野):そうですね。僕たちも今回のコロナの1件があって、「あっ、ついにここまで要求が上がってきたか」という実感がありました。ノーコードツールなので、基本的には現場でライブで使うものというところから、だんだん言っても便利だよね、と。

「これもできるんじゃね?」「あれもできるんじゃね?」とだんだんみなさんの要求レベルが上がってきたことを実感して、僕的にはウキウキワクワクしている感じですかね。

僕は子どもの頃からパソコン少年で、これはパソコンが進化してきた歴史とすごく重なるんですよ。パソコンが最初に出てきた時に、大型のコンピュータをやっている人は「あれはおもちゃだ」と言ったんです。

「こんなもので業務システムが作れるはずじゃねぇ」って、「ホビー用だ」って言っていたんですけど、言ってもテクノロジーのレベルが上がってくると、「あれ? なんかぜんぜん早いよ」「あれ? どこまでいくの?」みたいな。

それで気づいたら、普通に業務システムを作れるようになっていたと。なのでテクノロジーって進化しますね。僕はこれはノーコードでも同じだと思っているんです。今はおもちゃだと見ている人が多いのはわかるんですけども、どんどん成長します。

しかも成長スピードが早いと思います。なぜかというと、システムを僕たち側で預かっているという、大きなメリットがあるんですね。

「Garoon」という、大規模向けグループウェアのパッケージビジネスがあったんですけど、これは大変です。お客さま側にサーバーがあるので、「パフォーマンスを上げてください」と言われたら、先方に行って、サーバーをごっそり置き換えるようなことをしないとパフォーマンスを上げられないんですよ。

これはお金もかかるし、手間もかかるし、リスクも高いんですけど、このデータセンター側を僕たち側で預かっているので、しきい値を上げていったり、サーバーやリソースを追加できるので、比較的上げていけるだろうというのが僕の読みです。もちろん技術のメンバーは嫌がります。

(会場笑)

「えーっ」て言うんですけど、僕はテクノロジーが必ず追いついていくと確信しています。チャレンジしていきたいなとワクワクしているところです。

カスタマーサポートはどこまで対応すべきか

山本裕次:みんなで(対応レベルを)上げていく中で、この組み合わせのところで、やはり問題点というんですかね。どこにリスクがあるのか。あの時にワークログさんもたくさんのお問い合わせをいただいているんですよね。

後で検索すると「うわぁ、これだけあったんだ」というのがわかるぐらい、すごい量のお問い合わせをいただいているんですが。その中では、うちのシステム制限なども公表していない部分が多かったと思うんですけど、やはり「判断できないものだったのか」というあたりはどう思われますか?

山本純平:私はトヨクモさんのカスタマーサポートが大好きで、もう調べるよりも聞いちゃったほうが早いかなというぐらい、けっこう気軽に聞いています。私は他のサービスなども利用して、よく問い合わせをしますけれども、ここまでクオリティが高いカスタマーサポートはなかなかないと思っています。

ただ、唯一気になっているのが「カスタマイズが入っているとサポート対象外です」という定型文を死ぬほど見ているので。そういう個別対応はだいたいなにかしら入っていることが多いんですけど、本当にちょっとした軽微なものでも対象外って言われちゃうので、個別対応はあんまりしてくれない印象はあります。

基本機能に対する回答はすごくスムーズで早いし丁寧なんですけれども、ちょっとでもカスタムが入っちゃうと「もうわかりません」と。それでも不安な時は駄目もとで聞くんですけど、「回答が難しいです」と返ってきてしまうと「じゃあもうこちらで考えます」というのが正直、今までのスタンスでした。

山本裕次:すみません、本当に申し訳ないです。どこで線引きするかは、やっぱりメーカーとしては、かなり難しいところだな…とは思いますよね。

メーカーにできなかった役割を担い、ハブとなる新会社を設立

田里:ちょっとTCCの小川さんに聞きたいのですが、いろんなパートナーがカオスになっているのは、たぶん開発パートナーだけじゃなくて。プロダクトがいくつか入ってくることでも、「kintone」が少しずつカオスになっていると思うんですよ。

純平さんのように、いろいろ(なプロダクトを)噛ませているから、どこに問い合わせても誰も答えてくれない。こういうものって、TCCはどう対応しようとされていますか?

小川:そうですよね。先ほど自治体さんをいくつか回らせていただいたというお話がありましたけど、当然パートナーさん、パートナー候補さんともお話しさせていただく中で、やはりすごくニーズがたくさんあるなと感じました。

メーカーとしてのトヨクモのジレンマ、今までできなかったつなぎ合わせのサポートも新会社では担っていく。そのために作ったような会社なので、SaaS、サプライチェーンの中でうまくいろんなプレイヤーさんとのハブ役を担えるかなと思っています。

田里:純平さん、これでご安心いただけますでしょうか?

山本裕次:トヨクモ的にちょっとだけ言うと、本当にみなさんにご迷惑をおかけしているのですが、やはりお問い合わせがたくさんあると、ここのしきい値をスケールするように何かできないかとか。

たぶんフォームブリッジであれば、それこそ1年で200回以上のバージョンアップもしているはずなんですね。日々すごい回数の改善をしていって、その制限値もどんどんどんどん変わるというんですかね。

それぐらい努力している中で、他社さんのところまで見ながらやるというのは、なかなか現実ですね...…本当にすみません、言い訳ばっかりで申し訳ないですけど、メーカーとしてそんな気持ちはちょっとあったりします。やはり別会社じゃないと難しいんじゃないかなという気持ちには、そういう背景があります。

サービス提供元への「相談窓口」があることの重要性

山本純平:一開発者としては、私が作ったコードまで、すべて責任を負ってくれとは思わないです。さすがにそこまで求めるつもりはないんけれども、サービスを出されている事業者さんと相談ができるかどうかは1つ、けっこう大きいんです。これができないサービスが世の中には多いんです。

なので、そういう相談窓口を設けていただいて、例えば「他の事例だとここまでアクセスに耐えられました」「それをキャパオーバーした場合はこういう運用をしていました」というお話が聞けるだけでも、こちらはある程度の対策を考えられるかなと思います。

小川:今日のこのイベントを機に、そういったニーズはすべて私どもの新会社にいただければと思います。

田里:純平さんのおっしゃっていた「カスタマイズはサポート外です」という定型文を何回も聞いたって、みなさん「うんうん」とされていて(笑)。

(会場笑)

心苦しいですけど、これからはTCC(トヨクモクラウドコネクト)のほうで……。

小川:一番それを言葉に発していたのは田里さん。

田里:そうですね(笑)。これからはいろいろと対応できるようになっていくと思いますので、よろしくお願いします。

山本裕次:ノウハウを溜めていかないと回答できないので、まずはそこのノウハウを溜めようとしています。なので回答できることと言いますか、お知らせできることは増えていくと思うんですよね。

国内有数のアクセス数にも対応できるシステムを目指す

青野:でも本当に、神奈川県庁さんの抗原検査キット配布って、日本でもそんなにこれ以上の負荷がないレベルですよね。

上村:そうですね。ちょうどトヨクモさんの朝のデータベースの入れ替えがあった日に、事業がぶつかって、ちょっと不安定だったところに僕らがとどめを刺したという(笑)。「あれ? なんか遅くなることはあったけど、動かなくなっちゃった」みたいなところまでやったので。

ワクチンはうちじゃないんですけど、令和4年8月上旬になんかフォームが使えなくなった方がいたら、原因はうちだと思うので、みなさん、本当にすみません。

(会場笑)

青野:もう本当に日本のトップレベルのアクセスのシステムを、これから僕たちがチャレンジしていくということで。もちろんそれは、相談しながらクリアしないといけない課題がいっぱいあると思うんですけど、そこに向かって一緒にやっていこうという体制ができたということで、うれしく思います。

山本裕次:本当におかげさまで、いろんな出来事の中で鍛えられたというかですね。先ほどの青野さんの話でも、中小企業向けだと信じていたのが、急にエンタープライズ向けに変わっていったり。その中でどんどん新しい課題をもらって、気づけば相当なことまでできるような仕組みになってきたので。

やはりちゃんと使ってもらったほうが日本のためにも、みなさんのためにもなるんじゃないかと。そういうところまで、自信を持てる状態までにようやくきたと、うれしいと思っているところなんですよね。

田里:先ほどの木下の話にもありましたように、(アクセス集中時の)待合室やエンタープライズ対応、あとはこういった3社で一緒にやっていけるというご支援の体制など。アクセス量に関しては、これからより安心してご利用いただけるのかなと思っております。これが第1部の座談会でした。みなさまありがとうございました。

(会場拍手)

コロナ禍で自治体や民間企業の運営を代行

田里:では続きまして、また事例のお客さまにお越しいただいています。パートナーの綜合キャリアオプションさまにいらしていただいています。石井さま、よろしくお願いいたします。

石井佑典氏(以下、石井):初めまして、綜合キャリアオプションの石井と申します。よろしくお願いいたします。「トヨクモクラウドコネクト×綜合キャリアオプションの可能性」ということで、私はもともとというか今もなんですけども、営業職でして。

あまりシステムエンジニア畑の出身でもなければ、なにか外部発注みたいなことをしているわけでもなくてですね。すみません、なんだろう……テイストは若干営業資料です。

(会場笑)

みなさんは自治体の方が非常に多いとうかがいましたので、ぜひ弊社にご発注いただけるようにと作ったのですが、今までの流れからちょっとなんか違うなとなっていますので、がんばって話したいと思います。

(会場笑)

まず綜合キャリアオプションって、たぶんご存知ない方が多いんじゃないかなと思うので、自己紹介も兼ねてあらためてご説明させていただければと思います。

キャムコムグループというグループ会社の1社で、一番最初にできた会社なんですけれども、今は売上全体としては1,100億円、従業員数2,385人ぐらいの規模感になって、全国で169拠点展開しております。

コロナ禍における弊社の役割なのですが、おそらく今日まだ出ていないキャラクターなんじゃないかなと思っています。30年ぐらい前に長野で生まれた、いわゆる人材会社が発祥です。

例えばワクチン支援事業が起こった時に、ワクチンの申請フォームはトヨクモさまの製品で、その届け先は「kintone」。サイボウズさまの製品で、実際に開発されているシステムベンダーさまがいらっしゃっていたと思うのですが、弊社はその中では、お問い合わせの電話を受け付けるオペレーターというキャラクターです。

なので、一番実務に近いかたちで自治体さまや民間の企業さまの代わりに運営代行をするようなカテゴリーだと思っていただければと思います。

顧客のさまざまな事業課題を解決する「BPOベンダー」

石井:昨年末ぐらいにサイボウズさまに取材していただき、記事にしていただきました。事例の中で、綜合キャリアオプションは「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ベンダー」と名乗らせていただいています。委託事業者ですね。

いろいろ書いていただいていますが、右の図のようなことをやったベンダーです。これはコールセンターと申請審査事務局を同時に受け付けるような事業です。たぶん中小企業さま向けの補助金審査事業などが該当するんですけど。

物価高騰支援事業など、一番下の事業者さまがマイページなどを経由して、Google フォームで申請を上げて、実際に補助金を払っていいのかどうかという審査が行われて払われましたと。使った領収書をちゃんと実績報告して、それもまた審査があって、ということを一気通貫で代行させていただいている委託事業者が弊社です。

ここに「kintone」のロゴマークなどいろいろあるのですが、大きく括って「BENSYS」と書かせていただいています。これが私が率いているチームの名前で、「IT×BPOビジネスのノウハウで、お客さまの事業課題を即解決!」という、ちょっとかっこいい書き方をさせていただいているのですが。

「kintone」というとトヨクモさんの製品が入らないし「フォームブリッジ」というと「いや、でもkViewer使ってるし」と。苦肉の策で、とりあえず全部まるっとまとめて便利なシステム、訳して「BENSYS」という事業をコロナ禍の中で立ち上げました。

綜合キャリアオプションには「BENSYS」という、便利なシステムを提供することができます。なので安心してBPOを弊社におまかせくださいというような営業をさせていただいておりました。

1,000以上のkintoneアプリを作りながら得た、経験値

石井:これは国策事業に絞って列挙させていただいている実績ですが、いろいろ受けさせていただきました。ただ、もしかしたら自治体の職員さまの前に弊社は出ていないかもしれないです。弊社が再委託というかたちで任せていただいて、裏側で働かせていただきました。

逆に今は大手のBPOベンダーさんや、旅行会社さんが入ってらっしゃるケースが非常に多かったですね。あとはワクチン振興支援事業やコールセンター運営、中小企業さまや物価高騰の対策支援補助金制度の委託事業などをやらせていただいておりました。

弊社が語れる事例として、このコロナの間の成長を振り返るんですけれども、2019年に20アカウントから、営業支援システムとして社内導入したのが「kintone」の始まりでした。4年経って、145倍の2,900アカウントまで増えてしまいましたと。けっこう大変でした。

みなさんももしかしたら、サブドメインというかたちで「kintone」の契約をされると思うんですけど、たぶんほぼ1サブドメインしか(使わないと思います)。URLは1個だけだと思うんですけれども、(弊社では)10いくつかみたいなサブドメインを同時に管理しないといけなかったり。

「kintone」は、アプリケーションを1,000個まで作れるんですけれども、弊社はよく1,000個でも足りなくなります。ここまでになってくると、アプリを管理するアプリや組織を管理するアプリが必要になってくるんですね。

全部統一の「kintone」ではなく、お客さまごとにカスタマイズした「kintone」の環境を都度都度立ち上げて、その運用部分を含めて、事業に合わせたアプリをご提供する。そういう運用ノウハウの経験値を、コロナ禍においていろいろ積ませていただいていました。

関係者の利害が一致しないことで起きている問題

石井:ここでぶつかった壁は、やはりシステムベンダー、開発ベンダーという立ち位置、あるいはお客さまという立ち位置、実際に申請をされる市民の方々、弊社のようなオペレーションをする会社の、それぞれの利害関係があまり一致していないというか。

「本来これはたぶんアプリを改修したほうがいい。でも、オペレーションの部分で止まってしまっている」とか、「オペレーションで解決したほうがいいのに、システム改修をしてくれという依頼がくる」とか。

「ここのドロップダウンにもう1個、ABCって書いてあるところにDって追加したらいいのに」というオーダーがくるんですけど。「いや、それはそもそも前の手続きで一緒にこの書類を回収していたら、その選択肢は要らないですよね」とか。

こんなかたちで、役割が分担されてしまっているがためのいろいろなことがあるなというのが、このコロナの中での弊社の1つの経験値です。なので、まるっとできる弊社にお任せくださいというところに最後はなってしまうので、営業色が若干出てしまうんですけれども。

とはいえ、この規模でちょっと(ご依頼が)増えてしまいましたので、弊社の中でもかなりリソースが不足しておりまして、いろいろなベンダーさまに外注をお願いしようとしています。なので、おそらくみなさまと同じ立ち位置かと思います。

「こんなアプリを作ってくれませんか?」というご依頼があったとします。その時に一番課題になったのが、100日でアプリを開発するといったら、50日はどんなアプリを作ってほしいかを説明するのに使い、25日はテスト、実際にアプリの開発に使えるのは残りの15日しかないという状況がすごく多いかなと思っています。

“運用の運用”のプロフェッショナル

石井:ですので、トヨクモクラウドコネクトさまのお話を最初に聞いた時、すごくありがたいと言いますか、絶対発注してやろうと思いまして。11月1日付で設立されて、今3〜4案件くらい、ずっと同時進行で相談させていただいている最中なんですけれども。もうこれは、ぜひ弊社から発注させていただければと思います。

綜合キャリアオプションとトヨクモクラウドコネクトさまは、今までは全部綜合キャリアオプションで対応させていただいていました。とはいえ、弊社の専門分野はあくまでオペレーションの部分で、人をどう採用して定着させ、研修をやって運用フロー(を回していくかというところ)。

手続き的に、この書類とこの書類とこの書類はこの机で審査をして、こっちの箱にはこの書類がこの順番で並んでいてという、このあたりの”運用の運用”に、弊社のプロフェッショナルというのが本来あってですね。

でも「kintone」の開発や、フォームブリッジ・kViewer・プリントクリエイターの設定というところは、できる限り専門の会社の知見を弊社も取り入れたいと思っています。

ですので、そういう「kintone」のシステム関連はトヨクモクラウドコネクトさん。その後の運用周りを綜合キャリアオプションが担うことで、手を取り合ってやっていきましょうというご相談を何件もさせていただいているところです。

たぶんこれがそのまま自治体の職員さまや、「kintone」をこれから入れようという民間企業さまの課題にもつながると思っています。先ほどの情シス部門の方と現場の方など、もしエンドユーザーさんがいたら、その方の使い勝手みたいなところで、いろいろと利益相反してしまうと。

「言いたいことが伝わらない」という課題を解決するには

石井:何が一番課題かというと、言いたいことが伝わらないということです。これを毎週、毎日毎日ミーティングを開いて伝えていくところにすごく時間が投資されてしまって、結局作りたいものを作ったり、事業を推進させるという本来進めたいところに力が割けない。

この問題を解決するには、やはりお互いに理解度がある会社や、カバー範囲が広い1社が担当すべきだと考えています。……すいません、事例紹介のつもりが完全に営業してますね、私(笑)。

(会場笑)

ということで「IT×BPOビジネスのノウハウで、お客様の事業課題を即解決!」。この「即解決」を今後10年以上キープするためには、やはりトヨクモクラウドコネクトさまのような会社であったり、あるいはサイボウズさまのkintoneがより便利になっていく中で、弊社がBENSYSというサービスを提供し続ける必要があると思っています。

その中には、先ほどの利益相反するようないろいろな属性の方々の理解度を高めていく部分を弊社が担っていく必要があるかなと思っております。なので、ぜひ弊社にご発注いただければと思います、という結びになってしまうんですが(笑)。

(会場笑)

そういう会社でございました、ありがとうございました。

(会場拍手)

田里:石井さん、ありがとうございました。BPOベンダーとして自治体の方々に製品を提供する際に、私たちの製品もご利用いただいています。今回はご自身で言われていましたけど、もしかしたら営業色が少し強いかもしれませんが(笑)。このあと、課題や感じられたところをもう少し座談会でお話しいただければと思っております。